前回は、すべてのカシオ製品のルーツとも言える電卓の歴史について聞きましたが、近年スマートフォンなどのデバイスにあらゆるツールが集約されているなかで、電卓には影響がないのか、そして、カシオが考える電卓の未来について、前回に続きカシオ計算機、尾澤慶子さん、松本 学さんにうかがいます。
【うかがったのはコチラ!】
樫尾俊雄発明記念館
カシオ計算機相談役で発明家の樫尾俊雄さん(故人)の功績、同社の歴史が見学可能。予約制で、見学を受け付けています
電卓で培った技術はやがて、電子辞書にも!
――電卓の薄型化競争と前後しますが、カシオ計算機では複合型電卓もいくつか発売されています。
はい。0.8mmの薄型電卓SL-800以前から並行し、薄型とは別の道も開拓しようと考えていました。電卓への新機能付加によって、電卓の市場をより拡大させようという試みで、まず1975年に、当時話題となっていたバイオリズムを算出できる電卓として、バイオレーターを発売します。
これを皮切りに翌1976年には、時計付き電卓でんクロ、さらに1979年にはメロディーを奏でるカシオメロディーなどを発売。続く1980年にはゲーム電卓のMG-880を発売し、ソフトウェアによる付加価値向上を明確にしました。
また、メモリー容量の増加、そしてドット表示液晶などの登場を背景に、電卓で使った技術をもとに1983年には電子手帳のPF-3000を発売しました。これは今日の電子辞書の礎となった商品でした。
関数電卓は教育にも大きく貢献!
――また、前後しますが、1970年代からカシオ計算機では関数電卓の開発も熱心にされていたようですね。
1959年に発売した、√計算機能を備えた14-Bというリレー計算機を起点に、エンジニア向け計算機というジャンルを確立しました。ですから、電卓の時代になって、当社が関数電卓にも積極的に取り組んでいったのは当然のことでした。
1972年に国産初の関数電卓fx-1を発売し、さらに2年後の1974年にハンディサイズのfx-10を発売。技術計算や統計分析などを関数電卓で行えるようになると、より複雑な計算を処理する機能が望まれるようになり、計算手順をプログラム化できるFX-502Pという関数電卓を手帳サイズで発売しました。
さらに関数への理解促進にはグラフ描画が有効ということで、世界初のグラフ関数電卓fx-7000Gを1985年に発売します。fx-7000Gはアメリカの数学教育に貢献した電卓として教育界で知られた機種で、スミソニアン博物館に収蔵されています。
「誰にどう使ってもらうか」にこだわり抜いた多彩なカシオの電卓
――今日まで紆余曲折や時代ごとの挑戦があり、複合機、関数計算にも派生していったカシオの電卓ですが、現在の電卓にはどんなラインナップがありますか?
一般企業の経理、財務、簿記や金融機関をはじめとするプロのニーズを追求した電卓から、画面の角度を自由に調節できるチルト画面を採用したタイプ、個人のセンスで好きなボディカラーを選べるカラフル電卓など様々です。いずれも、買い替え需要を考慮してキー配置の大幅な変化は行わずに、細部にこだわって進化させています。
弊社は「誰にどう使っていただく電卓か」「誰がどの場面で使う電卓なのか」ということには徹底的にこだわり続けてきたメーカーだと自負しています。「売れている要素と、別の何かを兼ね備えさせれば良い」という考えではなく、あくまでも使う方にどういったメリットがあるかを重視して開発しています。特に経理や簿記など電卓のプロとも言える方のニーズに応える実務電卓の開発にあたっては、従来製品から継承するべき点と、進化させる点を明確にした上で、新製品開発にあたる必要があります。
――実務電卓の定番というと、どのモデルになりますか?
1983年から現在まで、モデルチェンジを繰り返しながら販売し続けているJS-20シリーズは、桁下げ、四捨五入などの実務に役立つ計算機能を初号機から一貫して搭載していて、まさに定番シリーズと言えます。太陽電池が遮られた際には内蔵電池がバックアップする機能、使い込んでも数字が消えない2色成型樹脂キー、指の動きを考えたキー形状の最適化、操作音をできるだけ抑えたキー、早打ち対応など、モデルチェンジを行いながら細部を進化させてきました。
2004年からは、桁数やサイズの異なる機種も含めて、これらの条件を全て満たした電卓を「本格実務電卓」と命名し、同年発売のJS-20WKはその一員となりました。
2015年には、本格実務電卓とは別の新シリーズをたちあげました。新シリーズは、従来機種の継承にこだわらない新デザインへのチャレンジを出発点に「電卓としての正当進化」を追求し、プレミアム電卓S100として発売しました。本格実務電卓がプロの方からご支持いただいている一方、プレミアム電卓は贈答用としても好評を博しております。
ワリカン計算機の需要は減ったものの、根強い電卓支持の理由とは?
――どれだけスマートフォンで様々なことが出来ると言っても、やはり電卓は電卓として持っておきたい人が圧倒的に多いと思います。この理由はなんだと思いますか?
前編でお話した薄型、小型で発売したカードサイズの電卓というのは、わかりやすい用途例で言うと、「ワリカン計算」などで使われていたと思います。財布の中に入れておいて、飲食をした後に取り出して皆さんでワリカンの計算をする……というような。こういったケースではもちろん、スマートフォンで出来ますし、これくらいの機能でしたら、ガラケーの時代から電話にありましたよね。
ワリカン用として電卓を携帯するケースはレアになりましたが、これまで申したプロユースの分野、教育の分野においては、やはり電卓の需要はまだまだ強いですし、特に教育分野は今後も伸長の余地があると見ています。
世界的には、まだ関数電卓ご活用いただいていないエリアもありますので、こういったところを視野に、現場の方々の声を密にお聞きしながら、今後もより一層、電卓開発に力を注いでいきたいと考えています。
リレー式計算機からスタートし、電卓戦争を経て、今日まで電卓市場をリードし続けるカシオ計算機。足早ではありましたが、その深い歴史、本当に学びになりました。読んでくださった方が今使っている電卓に対する思いもまた変わるかも?
撮影/我妻慶一