LINEが6月28日に事業戦略説明会を開催しました。イベントで特に注目されたのは独自のAIアシスタント「Clova(クローバ)」周辺の新しい取り組み。
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今後は自動車でもClovaが使えるようになったり、AIアシスタントの声がカスタマイズできたりするようになるそうです。これって実は、みんなが期待していた”理想的なAIのカタチ“なのでは?LINEがClovaについて発表した新しい戦略を振り返りながら、それぞれの期待値を評価してみましょう。
スタートから1年。着実に成長するClova
説明会の壇上でClovaのプレゼンテーションを担当したのは同社取締役CSMOの舛田淳氏でした。舛田氏は「2017年10月にClova初のデバイスであるスマートスピーカー『WAVE』を発売して以来、ユーザー皆様からのフィードバックを得てAIはますます賢くなっています」と切り出しました。
舛田氏によると、実はClovaの音声認識の「正確さ」についてはもともと高いレベルにあったのだとか。実際に筆者もWAVEを自宅で使っていますが、音声コマンドへの応答のスピード感はイマイチでも、日本語のコマンドに対する返答の精度はGoogleアシスタントに引けを取らないように感じます。反応速度についても舛田氏は「発売時に比べると、ずっと速くなっている」とアピールしています。
「対応するスマートスピーカーや、ソニーの「Xperia Ear Duo」のようなスマートイヤホンも増えて、Clovaのユーザーは昨年10月に比べて、現在は10倍近くにまで増えています。キャラクター性の強いClova Friendsシリーズのおかげで、ユーザー層も女性や高齢者の方やお子様も多く、いわゆるガジェット好きの男性ばかりではありません。Clovaは”家族のパートナー・アシスタント“として成長しています。」(舛田氏)
もしClovaが好きなキャラクターの声で反応してくれたら?
舛田氏は「これからClovaのここを強くしたい」ポイントとして、「音声認識・キャラクター・スキル」の3つを掲げました。スマートスピーカーは呼びかけてもいないのに起動すると、なんだかシラけてしまうどころか不気味ですよね。そんな誤反応が起きないように、音声認識のチューンアップを地道に鍛えてきて、現在は「ウェイクワードの誤認識率が発売時から1/3程度に減っています」と舛田氏は胸を張ります。スマートスピーカーでClovaを起動するときに声をかけるウェイクワードは「クローバ」のほかに「ねえ、クローバ」も追加されています。
LINEではClovaに「キャラクター性」を持たせていくことで、AIアシスタントに対する親しみやすさを高めていくことも戦略のひとつとしています。なぜかといえば「シンプルで無機質、画一的なAIアシスタントがキャラクター性を持てば、よりユーザーの生活に溶け込めるから」だと舛田氏が考えを説いています。
6月にはClova Friends miniのドラえもんコラボモデルが数量限定で発売されて、速攻で売り切れたことがLINEの仮説を証明しています。反響に気を良くしたのか、秋には「ミニオンズ」とのコラボモデルも追加されるそうです。舛田氏はこれからもキャラクターとのコラボ販売は積極的にやっていきたいとしています。
AIアシスタントやスマートスピーカーをキャラクター化できる要素は外観だけではありません。LINEが目をつけたのはAIアシスタントの「声」でした。「もし将来、好きなアイドルや声優、恋人や家族の声がスマートスピーカーにセットできたら愛着が湧いてきませんか?」という舛田氏の問いかけに、筆者も妙に納得させられました。もし自分が好きな声優の潘めぐみや桑島法子の声で話しかけてくれるスマートスピーカーがあったら迷わず買います。
Clovaの声はプロの声優を起用して、生声からの音声合成により膨大な声のデータベースを数百時間以上をかけて制作したそうです。毎度そんな手間がかかるようでは、もう他の声優を使って1から作り直してもきっとビジネス的にも割が合いません。そこでLINEは最新の「DNN TTS(ディープ・ニューラル・ネットワーク テキストtoスピーチ)」という技術を使って、夢を実現しようとしています。
簡単に言うと、今あるClovaに“声まね”をしてもらうための音声合成技術なのだとか。
その成果は、舛田氏が自分の声から「DNN TS」の技術を使って作ったという「マスダ・クローバ(仮称)」のデモンストレーションを撮影した動画をぜひ見て下さい。
AIアシスタントの「声で遊べる」ようになったらと思うと筆者もワクワクしてきました。スマートスピーカーがいよいよブレイクする引き金になると思います。
Clovaに“スキル”と呼ばれるプログラムを追加すると、例えば同じホームネットワークに接続されているスマート家電を声で操作できるようになります。今は連携できるスマート家電も少ないため、Clovaのスキルが目立たないところもありますが、いよいよLINEでは外部パートナーがスキルをつくるためのソフトウェア開発キット「Clova Extensions Kit(CEK)」を公開予定。
ローソンや東急ハンズ、大手証券会社などパートナーはCEKを使った連携サービスの開発を始めています。またパナソニック、東芝にシャープ、三菱など大手家電メーカーもClovaと連携するスマート家電の開発に乗り出しているようです。
Clovaを搭載するデバイスのユーザーは、今年の夏にオープンを予定する「スキルマーケット」から、使いたい機能をWAVEなどスマートスピーカーにインストールして楽しめるようになります。
どうせなら役に立ったり、楽しいスキルの登場に期待したいですよね。LINEではCEKの公開に合わせて、開発者を後押しするためのコンテスト「LINE Boot Awards」を立ち上げます。賞金はなんと1000万円。
LINEはトヨタやフォードなど、大手自動車メーカーがコネクテッドカーのための共通プラットフォームとして立ち上げた「SDL(Smart Device Link)コンソーシアム」のメンバーです。Clovaを搭載するコネクテッドカーのコンセプトは、昨秋の東京モーターショーや今春のMWC2018でも紹介されていましたが、今後は「Clova Auto」と名付けて、冬のローンチに向けて開発を加速させます。
舛田氏は「ハンドルを握る手が離せないクルマの中でこそ、ClovaのようなAIアシスタントや音声入力インターフェースが活きる」と述べています。筆者もそう思います。でも車内にスマートスピーカーやスマホを置いてClovaを立ち上げておく感じだと見栄えもしないし、かえって危ないと思います。車内空間とより一体になったClova対応機器が欲しいですよね。LINEの事業説明会にはトヨタ自動車の常務役員 長田准氏がゲストとして登壇して、今年のクラウン、カローラ スポーツ、プリウスPHVなど新車両に搭載するナビゲーションシステムにClova Autoがビルトインされると発表しました。
さらに「LINE My Car Account」というサービスも立ち上げて、LINEとの連携も高めます。クルマに乗る前に自宅でナビの目的地を検索・設定したり、残燃料のチェックなどがスマホとLINEからできるようになります。
車載通信機(DCM)を搭載していないクルマにも後付けでClova対応にできるナビゲーションシステムも、クラリオンなどSDLコンソーシアムに加盟する専業メーカーから年末以降に出揃いそうです。
舛田氏はプレゼンテーションの結びとして、「家庭から自動車、スマホのLINEアプリまでシームレスにつながる “Clova Everywhere=どこでもクローバ”」というテーマを壇上で掲げました。
スマートスピーカーやコネクテッドカーなど、AIアシスタント搭載のハード機器が充実するだけで普及が進むのだろうかと疑わしく思うかもしれません。実は今回のLINEの事業戦略発表の中には音楽配信サービスのLINE MUSICに音楽ビデオコンテンツを追加することや、LINEショッピングには欲しい商品をAIを使った画像検索で探せる新機能「ショッピングレンズ」などが発表されました。これらの新機能が、同時発表されたディスプレイ付のClova搭載スマートスピーカー「Clova Desk」に連携すれば、視覚的な体験が充実していよいよAIが私たちの生活に浸透してくるかもしれません。
Clovaは日本人の感性に一番マッチするAIアシスタントになれるのでは?という期待がわいてくる発表内容でした。