「週刊GetNavi」Vol.36-1
去る10月8日、中国広東省深圳市に拠点を持つDJIが、手持ち撮影用4K対応動画カメラ「Osmo」を発表した。動画カメラといえば、最初に思い浮かぶのは、ソニーのハンディカムのようなホームビデオ撮影がメインのいわゆる「ビデオカメラ」だろう。その次には、GoProのHEROなど耐久性が高くエクストリームスポーツの撮影も可能で、昨今増えている「アクションカメラ」ではないだろうか。スマートフォンでも4K撮影は可能になっているから、もはや4Kで撮影できることそのものに驚きはない。
だがそれでも、Osmoで撮影された映像を見ると、多くの人が驚きを感じるだろう。映像にほとんど「ブレ」がなく、非常に見やすいからだ。カメラを持って走り回って撮った映像でも、まるでCGのようにブレがない。どのカメラにも手ブレ補正機能はあるが、Osmoの手ブレ補正はそのどれよりも効果が高い。
他のモデルに比べてブレが少ない秘密は、その形状と、カメラ以外の部分にある。Osmoは、4K画質で撮影を行うカメラ部と、それを支えるスティック状の持ち手に分かれる。持ち手の部分からカメラを接続する部分には、俗に「ジンバル」と呼ばれる機構が組み込まれている。ジンバルとは「回転台」の一種で、その上に乗せられたものの向きを一定に保つ効果がある。Osmoには3軸のジンバルが使われているが、センサーと連動してアクティブに動作することで、ジンバルの上のカメラの水平を保つ。結果、手ブレがなくなり、非常に見やすい映像が出来るのだ。
DJIは、これまでもカメラを製品化しているものの、決して“カメラメーカー”ではない。別の商品ジャンルが有名なメーカーである。その商品とはもちろん「ドローン」だ。現状、業務用も含めると、DJIはドローンのトップシェア企業。一説には、金額ベースでは世界市場において7割のシェアになる、との話もある。
ドローンのメーカーであるDJIがジンバルを使ったカメラを展開するのは、ドローンにとってジンバルが極めて重要な技術であるからだ。ドローンの主な用途は空撮。映像のクオリティを上げるには、ブレを取り除く技術と、映像の水平を常に保つ技術が重要になる。だから、業務用ドローンには優れたジンバルが組み込まれる。そのため、DJIもジンバルの技術を磨いてきた。逆の見方として、ドローンは飛行物体ではなく、むしろ「カメラの周辺機器」だったのだ。事実アメリカの家電店では、DJI製のような高級なドローンは、カメラコーナーで「カメラの周辺機器」のような扱いを受けている。
そう考えると、DJIが今後“カメラメーカー”になっていくのも必然に思える。Osmoのジンバルは、同社のドローンで培われた技術を転用したもので、だからこそ精度も高い。
ビデオカメラの市場は大きな変化の時を迎えている。アクションカメラやドローンなどの影響から、メインプレーヤーが大手家電メーカーでなくなりつつあるのだ。
なぜ既存のビデオカメラが弱いのか? ビデオカメラ市場がこれからどういう方向へ向かうのかは、Vol.36-2以降にて解説したい。
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