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2019/7/18 18:00

夏だ! 海だ! タイ音楽だ! モーラム・ルークトゥン〜ルーツ・ミュージック編

夏といえばアローイなタイ料理!「酸味」と「辛さ」と「甘さ」が三位一体でやってくる鮮烈なあの味。冷房がギンギンに効いたお店で、吹き出す汗をぬぐいながら、逃げ道なしのタイ料理をビールで流し込み続けていると、ある瞬間に確実にキマる瞬間がやってくるのです。そのなんともいえない恍惚感に気づいて以来、周期的にタイ料理を欲するようになりました。そこにネイティブなタイの音楽が流れてきたとしたら! 気分はすでにタイランド!

 

ということで、かなり無理やりですが、今回は「タイ音楽」にスポットを当ててみたいと思います。数あるタイ音楽のなかでも、ここ数年前からニッチな辺境音楽好きのあいだで注目を集めているタイの音楽があります。それがタイ東北部のイサーン地方とラオスのラーオ族の伝統音楽である「モーラム」、そして大衆音楽の「ルークトゥン」と呼ばれる音楽です。今回はタイのネイティブさをより感じられるであろう、モーラムやルークトゥンを中心にご紹介していきます。

 

モーラムとは本来「詩や歌を吟じる人」なる意味があるそうですが、いまではタイの伝統音楽の総称とされています。モーは達人、ラムは声に抑揚をつけながら語る芸能。つまり古典芸能的な側面があったそうですが、徐々に大衆向けにアレンジされていき、1960年代後半からさらにポップス化されていったのが、いまのモーラムの源流とされています。

 

音楽的な特徴としては、縦笛の一種であるケーンというイサーン地方の伝統楽器の主旋律に添って、抑揚のある独特のこぶしを効かせたボーカルが乗るスタイルです。もともとイサーン地方の田舎の人たちはモーラムを聴くけど、バンコク都市部の中間層は意識して聴かないというタイ国ならではのヒエラルキーも存在していたそうです。ちなみにケーンという楽器は覚醒作用があるらしく、闘争心を掻き立てる音色なので、昔のラオスではライブでの使用やレコードに吹き込むことが禁止されていた時代があったのだとか!

 

一方で、ルークトゥンとは60年代から人気のタイの大衆音楽で、伝統音楽の要素を含んだ、いわゆる大衆歌謡みたいな位置づけです。こちらはエレクトリック・ピンと呼ばれるイサーン地方の弦楽器(ギター)の音色が特徴で、チャカポコしたリズムにボーカルが乗るスタイルが主流なのですが、演歌調(ミディアムのバラード楽曲)であってもルークトゥンの範疇に入るそうです。

 

そもそもルークトゥンとは「田舎者の歌」とも称され、タイの田舎生活に基づいた幅広いテーマを歌った曲のこと。牧歌的な田舎の風景、宗教観、恋愛などを題材に、それこそ「田舎はいいよねえ」「田舎者だけど都会の女をゲットしたい」みたいな、どうでもいいことを歌っているものも多く、実は音楽性は関係ないとも言われています。つまり田舎のことを歌っていればルークトゥンと括られるということです。そしてこのルークトゥンは現在進行形の音楽ジャンルとして、様々に進化しつつ現代にもヒットを生み続けています。

 

この界隈の音楽がタイを飛び越えて再評価されるようになったきっかけが、2010年頃にリリースされた、バンコクのキング・オブ・ディギンことDJのマフト・サイが監修したコンピレーション盤『Thai Funk Zudrangma(タイ・ファンク・ズドラングマ)』シリーズでした。いわゆるレア・グルーヴ的な視点で、タイ自国の60年代から70年代の大衆歌謡やポップスを掘り起こしたもので、いままで聴いたことのない未知なるグルーヴにゾクゾクさせられたものです。

 

その流れで往年のモーラムやルークトゥンも続々と発掘され、マフト・サイのDJイベント「PARADISE BANGKOK」で様々な古きよきタイ音楽がフロアを揺らすようになります。そしてカルチャー好きのバンコクっ子たちを媒介にして、モーラムやルークトゥンに触れる機会がSNSなどを通じて急増していきます。その後、マフト・サイはモーラムの再発プロジェクトを仕掛けたり、今回セレクトした現在進行系のモーラムバンド、THE PARADISE BANGKOK MOLAM INTERNATIONAL BANDのプロデュースを手掛けたりと、タイのローカルミュージックの普及と進化に大きな貢献を果たしています。

 

情報量が圧倒的に少ないタイ音楽を、積極的に紹介し続ける東京発の人気DJユニット「Soi 48(ソイ48)」の存在も見逃せません。彼らの尽力で、ワールドミュージック好きや辺境音楽好き、そしてクラブ・ミュージック好きを中心に、モーラムやルークトゥンを始めとするタイ音楽の新規ファンを増やしつつあります。彼らはもとは生粋のテクノ・ミュージックフリーク。同じフレーズが延々と「ループ」する音楽的な構成と「低音」という観点で、モーラムやルークトゥンに共通項を見出してハマったというのは大いにうなずけます。

 

Soi 48は自ら現地に赴いて原盤権を正規に獲得し、貴重なモーラム音源を日本で復刻したり、タイの人間国宝でもある伝説のモーラム歌手アンカナーン・クンチャイをライブに招聘。はたまた世界初となるタイ音楽ディスクガイド「旅するタイ・イサーン音楽ディスクガイド TRIP TO ISAN」を発行したりと、数々の面白い試みを仕掛けています。彼らは毎月最終日曜日に新宿「BE-WAVE」という箱で、往年のモーラムに限らずに、ヒップホップを含めた現在進行形のタイ音楽をショーケース的に紹介しているので、興味のある方はぜひ足を運んでみてください。

 

と、長くなりましたが、今回はタイのルーツ・ミュージック的な側面のある(?)往年のモーラムやここ数年のルークトゥンを中心に、モーラムに影響を受けた現在進行形のバンドや、タイ・ファンクに影響を受けたミッドナイト・ファンクを奏でる話題のクルアンビアン、モーラムを演奏する日本初のピン・バンドのMonaural mini plug(モノラル・ミニ・プラグ)など、タイ国以外のバンドもチョイスしています。さらにはルーツ・ミュージック的な観点で同じようなグルーヴを感じる、ここ数年の新世代によるタイ・レゲエなどもセレクトしています。

 

前半はモーラム、中盤はルークトゥン、後半は現在進行形のルーツ・ミュージックというような流れですが、正直、モーラムとルークトゥンがミックスされたような折衷的な音楽が数多く存在するので、これってモーラム? ルークトゥン? と選んでいる自分ですら、まだまだきちんと把握できていないことを正直に告白しておきます。

 

選曲のニュアンスとしては、気の利いたディープなタイ料理屋さんでかかっているようなイメージでしょうか。タイ人がオーナーのところ、これ大事です。タイ料理を食べるときのサウンドトラック、もしくは家でガパオやグリーンカレーを食べるときのお供にぜひってな感じです。

 

「Spotify」アプリをダウンロードすれば有料会員でなくても試聴ができますので、不思議なグルーヴがつまった「タイ音楽」で、新たな音楽の扉を開いてみてください。

 

【グリーンカレーが食べたくなるタイ音楽30】

1.หงษ์ทองตามแฟน/หงษ์ทอง ดาวอุดร  ホントーン・ダーオウドン

2.Uay Porn Tahan Chaydan/Sodsri Rungsang  カナ表記不明

3.Teoy Salap Pamaa/Angkanang Kunchai アンカナーン・クンチャイ

4.Lam Toey Chaweewan/Chaweewan Dumern  チャウィーワン・ダムヌーン

5.Lae Pattana Baan Meuang/Dao Bandon ダオ・バンドン

6.Suai Ching Nong(Truly Beautiful Girl)/Supraphon Sombatcharoen  スラポン・ソムバッチャルーン

7.Mae Kah Som Tam/Onuma Singsiri  オンウマー・シンシリ

8.Sang Naa Laa Nong/Thepporn Petchubon テッポーン・ペッチャウボン

9.Lam Khaen/Phloem Phromdaen  プルーン・プロムデーン

10.Bump Lum Plearn/The Petch Phin Thong Band  カナ表記不明

11.สาวจันทร์กั้งโกบ/พรศักดิ์ ส่องแสง  ポーンサク・ソーンサーン

12.งอนตุ๊ปป่อง/ชาย เมืองสิงห์  チャーイ・ムエーンシン

13.คนขี่หลังควาย/ดาว บ้านดอน  ダオ・バンドン

14.บานเย็นพาเที่ยวอีสาน/BanyenRak Kaen  バーンイェン・ラーケン

15.ขาขาวสาวลำซิ่ง/Yinglee SriJumpol  インリー・シージュムポン

16.จี่หอย/P Saderd  ピーサドゥ

17.ไอ้หนุ่มชุมชน/Sorn Sinchai  ソーン・シンチャイ

18.เต่างอย/Jintara Poonarp  チンタラー・プーンラープ

19.มันต้องถอน/Poi FaiMalai Phon  カナ表記不明

20.ลำแคน..อยากเซาเป็นโสด/Kantong Tungngern  カナ表記不明

21.Studio Lam Plearn/The Paradise Bangkok Molam International Band  パラダイス・バンコク・モーラム・インターナショナル・バンド

22.People Everywhere(Still Alive)/Khruanbin  クルアンビン

23.Lam Phuthai/Monaural miniplug  モノラル・ミニ・プラグ

24.Lam Phu Thai #2/Khun Narin  クン・ナリン

25.Lam San Disco/The Paradise Bangkok Molam International Band  パラダイス・バンコク・モーラム・インターナショナル・バンド

26.พรรณลำพัง(ROLL ALONE)/SRIRAJAH ROCKERS  シーラチャー・ロッカーズ

27.อย่าไห้เด้.(Don’t Cry)/SRIRAJAH ROCKERS, Rasmee  シーラチャー・ロッカーズ、ラスミー

28.Whan/Zom Amara  ゾム・アマラ

29.เจ้าพระยา(ChaoPraYa Lovers)/Kai-jo BROTHERS  カイジョー・ブラザーズ

30.คำหวาน(ที่เธอไม่เอา)/Tossakan, Uma  トサッカン、ウマ

 

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