ゲーム&ホビー
2018/6/14 16:45

これからのモンストが目指すは「カラオケ」!? ミクシィ新社長が語る「成功する遊び場創りのコツ」

スマホゲーム「モンスターストライク」(以下「モンスト」)、子どもの写真・動画共有アプリ「家族アルバム みてね」、SNS「mixi」など幅広い事業を展開するミクシィ。同社は2018年6月に体制を一新し、木村こうきさんが次期社長に決まりました。モンストをヒットに導いた木村さんに、エンターテイメント事業の展望、モンストの今後についてうかがいました。

 

↑株式会社ミクシィ取締役/XFLAGスタジオ総監督・木村こうき氏。電気設備会社、携帯コンテンツ会社等を経て、2008年、株式会社ミクシィに入社。ゲーム事業部にてサンシャイン牧場など多くのコミュニケーションゲームの企画を担当。その後モンスターストライクプロジェクトを立ち上げる。2018年6月、代表取締役社長に就任予定

 

家族や友だちと集まって楽しむものしか作らない!

──木村さんが次期社長に内定されましたが、エンターテイメント事業は今後どのように展開していくのでしょうか。

 

木村こうきさん(以下、木村):本質的なところは変わりません。ミクシィグループのなかで主にエンターテイメントを司っているのは、XFLAGというスタジオです。ロゴにも「B.B.Q」の文字が入っていますが、このスタジオはまるでバーベキューのような空間を作ることを目標としています。家族や親しい友だちと集まって楽しめるものを作ることが、このスタジオのミッションです。モンストもそうですが、私たちが徹底して追求しているのは対面型の遊びです。これまでもこれからも、オンラインゲームやひとりで遊ぶゲームは作るつもりはありません。

 

──インターネットの普及に伴い、オンラインで楽しむゲームが増えています。あえて対面型にこだわるのはなぜでしょう。

 

木村:端的に言うと、ニーズがあるからです。昔からカルタ遊びをしたり、家に集まってファミコンをしたりしましたよね。居酒屋に集まるのも、お腹を満たすことよりもみんなでワイワイ交流することに価値があります。一緒にご飯を食べるのとSkype越しにチャットしながら別々にご飯を食べるのとではまったく別の体験ですよね。その場を共有すれば、視覚、嗅覚、聴覚、触覚、肌の温度まで感じられます。対面することでしか得られないバリューは、必ずあるはずです。私たちは、スマートフォンを使って遊び場を提供したいと考えています。

 

──もともと木村さんご自身も、みんなで遊ぶゲームがお好きだったのでしょうか。

 

木村:友だちの家に夜な夜な集まっては、マルチプレイのゲームで遊んでいました。「実況パワフルプロ野球」、「ウイニングイレブン」、「モンスターハンター」、「マリオカート」……。ボードゲームも好きでした。友だちとじゃれ合って遊ぶことが、原体験になっているのでしょうね。

 

──モンストがここまでヒットしたのも、みんなで遊べるから?

 

木村:そう考えています。やっぱり人間は、集まって遊びたいものなんです。でもテクノロジーの発達により、直接会って遊ぶ機会はどんどん失われていきました。そんななかで、私たちはわざわざ集まって遊ぶという独自性を持ったゲームを提供しました。だからこそゲームの専門家ではない私たちが、圧倒的なポジションを取れたのだと思います。

 

↑スマホアプリのひっぱりハンティングRPG「モンスターストライク」。世界で累計4500万人(2018年3月時点)もの利用者が楽しんでいる

 

──IT企業であるミクシィが、リアルに軸足を置いているというのが面白いですね。

 

木村:ミクシィは、SNSのmixiによって大きく成長しました。そこにカギがあると思っています。mixiは招待制で始めたSNSです。本当に近しい友人、家族とのつながりを大事にする風土がありました。さらに、リアルな人間関係を大事にするというのは、実はずっと前から続けてきたことなんです。ゲームではありませんが、家族限定の写真・動画共有アプリ「家族アルバム みてね」もそうです。例えば私の子どもの写真なんて、知らない人からすれば全部同じに見えると思うんです。ほかのSNSに子どもの写真を大量にアップしたら、ひんしゅくを買ってしまうでしょう(笑)。でも家族からすると、子どものちょっとした表情の違いが重要なんです。このように、リアルな人間関係でのコミュニケーションを私たちは常に重視してきました。

 

 

──2013年にモンストがスタートし、今年5周年を迎えます。これまでの変遷についてお聞かせください。

 

木村:私たちは“滲出(しんしゅつ)”と呼んでいるのですが、戦略的に周辺の産業へとどんどん滲み出しています。例えばグッズは最初にAmazonで販売し、手ごたえがあったため自社で店舗やECサイトを作りました。イベントなら最初は「ニコニコ超会議」などに出展し、ニーズを把握したら独自イベントを開催しました。まずは協業ベースでテストし、その後は自前主義に移行するというやり方です。自前主義にすることで、B.B.Q.というコンセプトを徹底することもできます。

 

↑ゲーム・音楽・スポーツなど、様々なステージやアトラクションが融合したLIVEエンターテインメントイベント「XFLAG PARK」のプロデュースなど、XFLAGはリアルイベントへの取り組みを盛んに行っている

 

──“滲出”というとじわじわ滲み出るイメージですが、展開そのものは非常にスピーディですよね。

 

木村:確かにスピード感は重視しています。というのも、私たちのもうひとつのテーマとして「驚きを世に提供し続けること」をテーマに掲げているからです。私たちの行動指針は、“ユーザーサプライズファースト”です。ユーザーのみなさまに常に熱量高く楽しんでいただくには、驚きが必要だと思います。お客様の声を聞かないというわけではありませんが、声をそのまま反映していたらスピードが遅くなりますし、驚きも薄いでしょう。時には失敗したり、ユーザーの方々からお叱りを受けたりすることもあるかもしれませんが、とにかく驚きを届け続けることを優先したいと考えています。

 

──これまでに打ち出した施策で、成功した例は?

 

木村:印象深いのはアニメですね。アニメを作ろうとなった際、ユーザー調査をしたところ、中高生はテレビを観ずにYouTubeを観ていることがわかりました。なかでも、10分以下の動画の人気が圧倒的に高かったんです。そこでモンストに関しても、YouTubeで1話7分ぐらいのアニメを配信することにしました。これまで本格的にYouTubeでアニメを展開する前例がなかったので不安もありましたが、結果的に1話あたり数百万視聴と成功を収めることができました。アニメに登場したキャラクターも喜んでいただき、グッズの売れ行きも上々。あの意思決定とその後の成功は私たちの糧になりました。すべて自社で手掛けたため、製作費だけで相当な費用がかかりましたからなかなか痺れる意思決定でしたね。

 

↑YouTubeでのオリジナルアニメは2015年より公開された

 

──アニメを配信した頃には、すでにモンストは十分な認知度を得ていましたよね。そこまで大きく育ったコンテンツをアニメ化することで、どのような効果を狙ったのでしょう。

 

木村:ゲーム、アニメ、ショップなど、すべてがモンストというお祭りの場を創るために必要だと考えています。ゲームだけでは表現力も限られますが、友だちと盛り上がってもらうためにはアニメのようにイマジネーションをさらに増幅させる装置が重要だと思うんです。モンストという魔法にかかってもらうためのアプローチのひとつです。

 

──モンストは、今年5周年を迎えます。5年も続くと、ユーザーも社会人になったり、進学したりと状況が変わってくるのではないでしょうか。そこをつなぎとめるための施策は考えていますか?

 

木村:無理に引き留めるのではなく、お客様のライフステージに合った遊び方をしていただければいいと考えています。私たちが目指すのはカラオケです。カラオケは、地元の友だちとも職場の人とも楽しみますよね。モンストも、カラオケのようにコミュニケーションを深める遊び場として楽しんでいただけたらうれしいです。

 

──しばらくモンストから離れている方に向けて、今のモンストをアピールするとしたら?

 

木村:今年は5周年なので、新たな取り組みをたくさん準備しています。ひとつは劇場版アニメ第2弾。ほかにもアニメ新シーズンを予定しています。ゲームの中身も、大胆に変更する予定です。時期についてはまだ発表できませんが、今までの遊び方がガラッと変わるぐらいのことを考えているのでご期待ください。

 

──先日、モンストのカードゲームをプレイしたのですが、カードのようにリアルなモノを使った遊びの提案も続けていくのでしょうか。

 

木村:IT企業はすべてをデジタル化する傾向にありますが、私たちはモノが重要になってくると考えています。IoTもそうですし、通信環境が5Gになればそれぞれがスマホを携えるのではなく、その場にある通信端末を利用することになるかもしれません。手に触れられるモノ、デジタル化されにくいモノをうまく使いながら、世の中を豊かにしていけたらと思います。遊びに関してもスマホを持たないお子様をターゲットに、カードゲームをはじめ新たな展開にチャレンジしたいと考えています。

 

↑モンストの世界観を踏襲しながら、大人から子どもまで楽しめる新しいゲーム性をみせる「モンストカードゲーム」。4人で遊べるスターターセットの価格は1620円

 

──最近はeスポーツも人気ですが、どのようにご覧になっていますか?

 

木村:きちんとやれば、さらに発展するのではないかと思います。私たちが参入するとしたら、チームeスポーツでしょうね。1vs1で闘うものより、複数vs複数で闘うチームeスポーツのほうが盛り上がると信じています。

 

──ミクシィ全体の展望をお聞かせください。

 

木村:ミクシィは“コミュニケーション創出カンパニー”だと考えています。時代の変遷、ITの発達により失われつつあるコミュニケーションを取り戻すことが、私たちのミッションです。モンストのようなゲームはもちろん、スポーツやウェルネスの領域でもこのミッションを果たしていきます。高齢者の生活習慣病の要因として挙げられるのが、社会的孤立です。コミュニケーションが断絶することでモチベーションが低下し、運動しなくなり、身体機能が低下します。高齢者とご家族のコミュニケーションを取り戻すようなアプローチも大切ですし、高齢者のみなさまが一緒に仲良く通えるコンディショニングジムも必要だと考えています。

 

スポーツに関しても、私たちがコミュニケーションの場を提供することができるのではないかと考えています。海外のスタジアムにはバーや飲食スペースがあったり、ショッピングモールが併設していたり、試合の前後も楽しむことができます。しかし日本では、試合が終わったらパッと帰ってしまいますし、奥さんを連れて「スポーツ観戦に行こうよ」という文化もありません。2025年までにスポーツ市場を15兆円規模まで伸ばそうという政策目標もありますし、アメリカや中国のように成長する余地は大いにあります。

 

↑今後さらなる事業拡大を担う、木村氏には期待が募る

コミュニケーションをずっと見つめてきた企業として、今後もさまざまな領域でコミュニケーションを創出することを目指していきたいですね。

 

(撮影:我妻慶一)