いよいよ、東京オリンピックが開催される2020年となりました。開催地である日本・東京は世界中の人々に注目され、訪日観光客がますます増加することが予想されています。
それでなくても、「エコノミスト・インテリジェンス・ユニット(EIU)」による“世界で最も安全な都市ランキング”で東京が3年連続首位を獲得するなど、近年の東京は世界中の旅行者に愛される土地となりつつあります。訪日観光客は、東京にどんな魅力を見出しているのでしょうか? 外国人の目線に立って東京という街を改めて見てみると、意外な魅力に気づけるかもしれません。
今回は、グローバルネットワークを通じて国内外にローカル情報を発信するシティガイド、『タイムアウト東京』でライター・エディターを務めるイリ・サーリネンさんに、訪日観光客に人気のスポットと、ブームの変化について伺いました。
Time Out Tokyo / タイムアウト東京
https://www.timeout.jp/tokyo/ja
1968年にロンドンで創刊されて以来、世界108都市39カ国(13言語)に展開するグローバルメディアとして世界中に認知される「Time Out」。マガジン、ガイドブック、ウェブサイト、スマートフォン・タブレットアプリなど、マルチプラットフォームにシティガイドを発信。「タイムアウト東京」では“日本の優れた ヒト・モノ・コト・コンテンツ・サービス”を取り上げ、国内外に情報を配信中。
———旬のスポットや、ネクストブレイクのスポットの情報をいち早く紹介しているタイムアウト東京さん。訪日観光客の方々に人気のスポットは、どのように調査されているのでしょうか?
イリ・サーリネンさん(以下、サーリネン):弊社では編集中チームがさまざまな形で情報収拾しています。エディターやライターが暮らしている街やその近所で何が起きているかなど、日々の基本的な情報収拾もしていますが、もっとも重視しているのはSNSですね。TwitterやInstagramをはじめとしたSNSの投稿をチェックしたり、モニターしたりしながら、情報をつかむことは多いです。
———SNSの投稿では、具体的にはどのようなところに注目されていますか?
サーリネン:スポットタグや地域のハッシュタグはもちろんですが、外国人に人気のハッシュタグに注目しています。弊社ではさまざまなシステムをつくっていて、そこから流行のタグをつかんだり、投稿数が多いタグや、人気のタグを確認しているんです。あとは弊社の“#TimeOutTokyo”というタグもあって、結構読者さんもそれを使って発信してくれるんです。そこから情報を得られることも多いですね。
訪日観光客から人気を集めるエリアは、少しずつ変化している
———東京都内で、訪日観光客に人気の高いエリアはどちらなのでしょうか?
サーリネン:渋谷・銀座・六本木は、一定して人気を集めるメジャースポットですが、最近では、都会的なスポットであれば下北沢や中目黒を好む人が増えています。古き良き日本らしさを楽しむのなら谷根千エリア。アニメ文化を楽しむのなら、少し前なら秋葉原がメジャーでしたが、最近では中野を訪れる人が多くなっています。
———人気のエリアが変化しているのには、どのような理由があるのでしょう?
サーリネン:ブームの変化にはさまざまな理由がありますが、大きな1つとしてはリピーターの増加があると思います。タイムアウト東京の読者の4割が、6回以上の訪日経験を持つリピーターです。メジャーなスポットは初回の来日で訪れているため、よりディープなエリアへ訪れたいと考える傾向にあるのでしょう。
あとは、日本人の方々が海外を訪れる際に考えるように、“観光客向けに用意されたものよりも、地元の人々が楽しむ場所を体験してみたい”と思う人が多いということもあると思います。2度、3度と日本に訪れる観光客なら、よりリアルな日本を体験したいと考えるはずですから。
日本人も注目すべき、訪日観光客に人気のスポット
———現在訪日観光客の方々に人気の高いスポットを、いくつか教えていただけますか?
サーリネン:渋谷は一定して人気のあるエリアだとお話しましたが、再開発により注目されているスポットも多いです。例えば、昨年11月に再オープンした「渋谷パルコ」。「ポケモンセンター」や「Nintendo Tokyo」などのアニメ・ゲームカルチャーや、横町を再現した「カオスキッチン」など、外国人が大好きな要素が詰まっていて、みんないきいきしています(笑) あとは、「渋谷スクランブルスクエア」の展望台「渋谷スカイ」も人気です。海外にも展望台はたくさんありますが、「東京スカイツリー」も含め、日本の展望台のチケットは海外に比べてすごく安いので、みんな気軽に訪れられるんです。
また、都会にいながら“和”の味わいを楽しめるスポットも人気です。例えば宿泊施設なら、屋上で露天風呂が楽しめる大手町の「星のや東京」や、老舗宿で有名な谷中の「澤の屋」など、“これぞ日本の旅館”というお宿が人気ですね。あとは、青山にある「櫻井焙茶研究所」というお茶のお店。さまざまなお茶をコースで楽しめる、珍しいお店なんです。ただお茶を飲むだけでなく、“日本茶の奥深さを学べる”というところが、人気の理由の1つだと思います。
今回は、サーリネンさんにご紹介いただいた「櫻井焙茶研究所」を実際に訪れました。次のページでは、訪日観光客が魅入られる、“日本茶の奥深さ”に迫ります。
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都会の喧騒を逃れ、おいしいお茶に癒やされる「櫻井焙茶研究所」
表参道駅B1出口を出てすぐ。レストランやショップ、ギャラリーなどで構成される「スパイラルビル」の5階に「櫻井焙茶研究所」はあります。
お店がオープンしたのは今から6年前の2014年。所長の櫻井真也さんは、もともとバーテンダーの経歴を持つお酒のエキスパートでしたが、その後和食店や和菓子店のマネージャー業を経て、お茶の魅力に目覚めたのだそう。以来、“研究所”の名の通りお茶の味わいを研究し続け、その奥深さを提供しています。
店内は、茶葉や茶器の購入のほか、試飲(有料)もできるスペースと、カウンター席でゆっくりとお茶とお酒、和菓子を楽しめる茶房に分かれています。日中は自然光がふんだんに注ぐカウンター席は、夜になると淡い照明に包まれて、バーのような雰囲気に変身。「昼でもおいしいお酒が飲めて、夜でもおいしいお茶が飲める。そんな場所にしたかったんです」と櫻井さんは話します。
お茶の文化を堪能できる「お茶のコース」
メニューは、3種類の「お茶のコース」、お茶と茶酒が楽しめる「お茶とお酒のコース」、お茶とおこわなどの食事が楽しめる「お食事のコース」に加え、好みのお茶とお茶菓子を注文できるアラカルトも用意されています。今回は、「玉露 ブレンド茶 ほうじ茶 お薄 和菓子」のコースをいただきました。
店内では、所長の櫻井さんをはじめ、スタッフの方は白衣に身を包んでいます。そのいでたちは、まさに“お茶の研究者”といったところ。茶器からしっかりあたため、丁寧に一杯ずつ淹れていく様子は、カウンター越しに目の前で眺めることができます。
まずは、35度のお湯から茶葉を蒸らし、ゆっくりと淹れた玉露から。一口飲んでみると、濃厚なうま味と、ほのかな甘みが口の中いっぱいに広がり、豊かな茶葉の香りが鼻に抜けていきます。一煎目と二煎目で、異なる香りと風味を楽しめるのも魅力のひとつ。
櫻井焙茶研究所では、櫻井さん自らが日本各地へ足を運び、茶葉を一つ一つセレクトしているのだそう。ブレンド茶は完全オリジナルで、その季節の旬の果実や花と茶葉をブレンドさせているのだそう。「日本の四季をお茶から感じてもらいたい」と、櫻井さんは話します。今回は、旬のゆずと番茶のブレンドや、旬の金柑を使った冷たいブレンド茶をいただきました。
透き通るような若草色のお茶は、思わず見入ってしまうほどの美しさ。金柑の香りが爽やかで、後味もすっきりとした、飲みやすい一杯です。
淹れ終えた茶葉は、最後はポン酢をかけていただきます。
茶葉の渋みとポン酢の酸味、そして金柑の風味がなんとも美味。ブレンドの茶葉も店頭で販売されているため、自宅で真似してみるのもいいかもしれません。
続いては、ほうじ茶。お茶のコースでは好みの茶葉をセレクトすると、原料の茶葉から焙烙を使って、炒りたての香り高いほうじ茶を淹れてもらえます。
その場で焙煎してもらえるため、浅煎り・中煎り・深煎りと、ローストの加減をリクエストすることも可能。茶葉によって味わいが異なることはもちろん、焙煎の仕方ひとつでも大きく変わります。一杯飲んだら、きっとまた違う一杯を試してみたくなるはずです。
最後は抹茶をいただきます。ここでは、季節に合わせた和菓子も好きなものをセレクトできますが、どれも抹茶の渋みと相性のよい、こだわりのものばかり。思わず目移りしてしまいます。
櫻井さん曰く、お店を訪れる方の約4割は訪日観光客の方。そのほとんどが、初めて本格的な日本茶を体験する方だといいます。間近で見られる点前に、感動を覚える人も多いはず。味そのものだけでなく、その一杯をつくるまでの過程に美しさがあることも、日本茶ならではの魅力なのではないでしょうか。
抹茶から点てられたお薄は、外国人の方や、抹茶にあまり馴染みのない人でも飲みやすい上品な味。香りを楽しみながら、まろやかな味をゆっくりと味わいます。
日本が誇るべきお茶文化の魅力を再確認
種類や茶葉の違いだけではなく、焙煎の加減や、淹れ方ひとつでもまったく違う顔を見せる日本茶の奥深さ。私たち日本人も近年すっかりコーヒー文化に傾倒しつつありますが、古くから愛される日本茶にも、無限の楽しみ方があることを改めて知ることができました。
忙しい毎日の中で“手早く、簡単に楽しめるもの”を求めがちな私たち現代人にこそ、日々の喧騒から逃れ、ゆっくりとお茶を一杯ずつ楽しむ時間が必要なのかもしれません。ぜひ、贅沢な“和”のひと時を体験してみてはいかがでしょうか?
【店舗情報】
櫻井焙茶研究所
所在地:東京都港区南青山5-6-23 スパイラルビル 5F
電話番号:03-6451-1539
営業時間:【茶房】11:00〜23:00(土日祝~20:00) 【茶葉販売】11:00〜20:00
定休日:ビルに準ずる
http://www.sakurai-tea.jp/
【プロフィール】
Time Out Tokyo Commercial & Language Director / Ili Saarinen(イリ・サーリネン)
2009年、語学学校入学を機にフィンランドから来日。卒業後、インターンを経てライターとしてORIGINAL Inc.に入社し、現在はタイムアウト東京をはじめとする媒体や、さまざまな地域プロジェクトのエディター・ディレクターとして活躍中。