ライフスタイル
2022/6/19 20:00

誰よりもTDSではしゃぎ過ぎ、子どもたちに引かれる映画監督の日常

5月21日(土)

朝から編集。疲れて夕方から近所の銭湯のサウナに向かう。土曜だから激混み。全く整わず。

 

5月22日(日)

娘の部活(テニス部)の試合を妻と見に行く。と言っても一昨日ケンカをしてしまい、まだ気まずい状態だから、娘にはバレないようにそっと会場に向かう。行く途中、部活の母親LINEグループに「〇〇ちゃん(娘)と××ちゃんのコンビ、校内唯一の2回戦突破! 3回戦進出したよ!」と引率保護者の方からメッセージがきたので、自転車を漕ぐ足にも力が入り、「早く漕いでよ、おそいな!」と妻に文句を言いつつ、会場に全力疾走で向かった。三回戦を突破すれば目標にしていた都大会進出だ。親バカだが娘は運動能力が高い。野球のクラブチームに入っているので、学校の部活はイラスト部に入っていたのだが(絵もなかなかに上手い)、中学2年進級時にイラスト部が廃部になってしまった為、友人が多かったテニス部に入ったのだが、すぐに頭角を現し、初めての大会のときも3回戦まで進出していた。野球のクラブチームでは人間関係にかなり悩んでいたが(いるが)、学校の部活は楽しくやっている。

 

今日の大会で都大会に進出できなければ引退となるので、コロナ禍で本当は応援禁止ではある上に娘とはケンカ中だが見に来たのだ。

 

だがせっかく会場の中学校に到着しても、学校の周囲にかなり厳重な目隠しの網が張り巡らされていてテニスコートが良く見えない。でも、なんとか3回戦は見たいと思い、妻と校庭の周りをウロウロしてピーピングスポットを探していたところ(妻は帽子、マスク、サングラス、日焼け防止の長袖長ズボンでかなり怪しい見た目)、試合が終わって帰宅最中の娘たちがぞろぞろと歩いてきた。慌てて隠れようとしたが、娘たちはすでに私と妻から5メートルほどしか離れておらず、私と妻は、思わず中学校の壁にへばりついたりと挙動不審な動きをしてしまった。娘はそんな親には一瞥もくれずに私と妻の前を通過していった。どうやら都大会進出はならなかったようだ。

 

夕方、帰宅した娘は機嫌が直っており、3回戦の戦いがいかに惜敗だったのかを悔しそうに語ってくれた。そして「はい」と言って、突然どら焼きをくれた。浅草雷門前の亀十のどら焼きだ。そういえば娘は昨日、部活のあとに友人たちと浅草に行っていた。あんなに大ゲンカした翌日だったにも関わらず私の大好物甘味を買って来てくれたのに、バカな私は素直にありがとうと言えず(ものすごくうれしかったのに)、どら焼きを見ながら「なんだっけこれ?」などとよく分からない言葉を発していた。

 

5月23日(月)

音楽の海田さんのお宅にて打ち合わせ。ラストシーンにつける音楽のデモを海田さんに作っていただいた。とても良い音楽を作っていただけたと思う。

 

音楽家の人は、監督が仮当てしている音楽にいつも悩まされると笑いながらおっしゃっていた。それはそうだろう。こちらは何百年も歴史に残るような音楽を勝手にあてたりもしている。監督や脚本でいえば、つねに黒澤明とか山田太一みたいな作品を「こんなのにしてください」と渡されてもたまったものではない。

 

5月26日(木)

セミオールラッシュを大きなスクリーンで見る。スクリーンで見ると当たり前だがゾクゾク感がぜんぜん違う。スクリーンに映るものを見て、高揚して「鳥肌が立つ」ことはしばしばあるが、これが自分の作品だからということでなければいいが……。しかしその感覚があるから映画や演劇、スポーツ観戦などの非日常系の見世物は「ああ……やっぱりいいなあ……」と思う。

 

5月27日(金)

セミオールで気になった部分や、その他もろもろ問題も出てきて今日も朝から編集作業。

 

20時より娘の塾の三者面談に私が行く。私は妻と比べると子どもと接する時間が短いから、こういう面談など行けるようであれば行くようにしている(※期待値が高く過干渉なだけだと思う BY妻)。

 

娘もようやく少しずつ受験生スイッチが入ってきたのか、都立の高校に関しては自分でいくつかピックアップしている。私立に関してはまだだが、東京は高校の数が尋常でなく多いから、そこから選ぶのも大変だ。私など高校が片手とちょっとで数えるくらいしかない田舎だったから迷いようもなかった。ただ、一期生というものに憧れており、私が高校受験するときに一期生になれる私立高校が県内にできたので、そこが第一志望だったが落ちた。

 

東京は何百とある選択肢の中から選ぶのは本当に大変だろう。私もネットや受験案内の本で高校選びを手伝っているつもりだが、目が行くのは口コミの点数だ。食べログの影響かなにか知らないが、口コミ3.7以上は欲しいと思ってしまう。しかし、こうして在校生や卒業生から口コミ欄になんでも書かれてしまう今は大変だなあと思う。

 

面談ではまだどこを希望しても狙っていける、夢を語っていても大丈夫な時期というようなことだったが、夏期講習費用の払い方、揃えなければならない書類、模試のWEB申込みの話などになると、私はまったく理解できず、妻も連れてくればよかったと思った。コロナの影響で保護者の付き添いは一人までとなっているのだが、そこを何とかお願いできませんかとか言って。

 

5月28日(土)

娘の運動会。中学3年にしてようやく保護者の観戦許可が出た。娘は100メートルと選抜リレーに出た。100メートルはぶっちぎりの1位。選抜リレーも第一走者でぶっちぎりの1位。走るフォームはゴツゴツしているのだが、足は昔からずっと速い。運動会とはいえ我が子が活躍する姿を見るのはとてもうれしいし、他のお母さんたちから「〇〇ちゃん、かっこいい!」などと言われると、自分が言われているかのように嬉しくて、思わず「でしょう」などと言ってしまう。

 

運動会は嫌いな人は大嫌いで、なくなってしまえばいいと言う人もいるが、私は見るのも参加するのも大好きだ。笑って泣けるエンターテイメントだと思っている。だが、きっとその「笑う」という部分が問題なのだろう。ちなみに、私は音楽会が大嫌いで、なくなってしまえばいいと思っていたが、以前に音痴の人たちの合唱大会のようなものをテレビかなにかで見た記憶がある。それは運動会を見るような楽しさがあった。下手な人が一生懸命やる、やらざるを得ないという姿が、笑えて泣けたのだが、そういう笑いはきっと今は厳しいのだろうと思う。

 

夜は先日台無しにしてしまった誕生日の替りに、近くのイタリアンにディナーに行った。娘は運動会の話を興奮気味にしながら前菜からパンをお代わりしまくり、パスタは妻の分も平らげ、メインが来るころには腹はパンパンで、目はトロトロ。帰宅するとバタンキューで寝てしまった。

 

5月30日(月)

午前中、初めての出版社の方とお会いする。小説を書きませんかとお誘いをいただく。私ごときに本当にありがたい。と心から思う。今まで何冊か本を書かせてもらったがロクに売れたこともないのだ。午後から、今日はプロデューサー陣も来て編集作業。大詰めで最後の粘り。

 

5月31日(火)

朝9時から編集。ようやくピクチャーロック(文字通り「画を施錠する」、つまり画に対してこれ以上変更を行わないこと)。最後まで粘ってくれた編集部さんには感謝しかない。

 

午後からとある組織の会議に出る。評議員というものを仰せつかったのだが、そのような立場、会議にはまったく不慣れのため、ただ黙って座っていただけではあったが、極度に緊張し、会議の間中なんだか意識が朦朧とするといのか妙な眩暈と頭痛に覆われていた。慣れていけるといいのだが。

 

何度も何度も試しては換えて、試しては戻して…の作業を、嫌な顔一つせずいつも穏やかに朗らかに編集してくれた堀さん、そしていつも明るくにこやかで礼儀正しく、「クレヨンしんちゃん」や「テルマエ・ロマエ」の靴下を履いていた助手の小野寺さん、本当に有難うございました!!

 

 

【妻の1枚】

 

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【プロフィール】

足立 紳(あだち・しん)

1972年鳥取県生まれ。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書き始め、第1回「松田優作賞」受賞作「百円の恋」が2014年映画化される。同作にて、第17回シナリオ作家協会「菊島隆三賞」、第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。ほか脚本担当作品として第38回創作テレビドラマ大賞受賞作品「佐知とマユ」(第4回「市川森一脚本賞」受賞)「嘘八百」「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」「こどもしょくどう」など多数。『14の夜』で映画監督デビューも果たす。監督、原作、脚本を手がける『喜劇 愛妻物語』が東京国際映画祭最優秀脚本賞。現在、新作の準備中。著書に『喜劇 愛妻物語』『14の夜』『弱虫日記』などがある。最新刊は『したいとか、したくないとかの話じゃない』(双葉社・刊)。

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