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2022/6/19 20:00

誰よりもTDSではしゃぎ過ぎ、子どもたちに引かれる映画監督の日常

「足立 紳 後ろ向きで進む」第26回

 

結婚20年。妻には殴られ罵られ、ふたりの子どもたちに翻弄され、他人の成功に嫉妬する日々——それでも、夫として父として男として生きていかねばならない!

 

『百円の恋』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞、『喜劇 愛妻物語』で東京国際映画祭最優秀脚本賞を受賞。いま、監督・脚本家として大注目の足立 紳の哀しくもおかしい日常。

 

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5月2日(月)

今朝はめちゃくちゃ緊張している。いよいよ編集部さんがつないでくれたラッシュを見るのだ。脚本の第一稿を読んでもらうときよりも百倍緊張する。脚本はこれから書き直しがきくがラッシュはもうほぼ撮り直しはきかない。私だけでなく編集部さんも緊張している(ように見受ける)。どんなふうにつなげたのかスタッフに見せるのだからそれは緊張するだろう。

 

第1回目のラッシュは2時間36分。台本が141ページあったから2時間をゆうに超えることは予想していたので、この尺(長さ)にはさほど驚きはない。問題は面白いかどうかだ。もちろん撮ってるときは面白いと思って撮っているのだが、ある種お祭り気分のようにハイテンションになっている現場から、数週間の時間を置くと冷静さを取り戻している。ラッシュを見て「あの時の俺はどうかしてた……」そんなふうにだけは思いたくない。

 

「……面白いのかどうか分からない」

 

2時間36分後、ラッシュを見終わった私はやっぱりそう思っていた。「やっぱり」というのはいつもそう思うからだ。監督したときも脚本だけのときも、最初のラッシュなどとても冷静に見られないから「……分からない」となる。

 

一緒に見ていたスタッフたちは私から逃げるようトイレに駆け込んでいく。いや別に逃げているわけではないだろうし、初老のスタッフには2時間半超えはおもらしの心配もあるだろうが、私には逃げてしまったように見える。こんなときくらい「最高でした!」と言ってほしいが、誰もそんなことは言わない。と言うか、この業界に入って1回目のラッシュを見て「最高でした!」という言葉は聞いたことがないからそれが普通なのだが、でもやっぱりウソでもいいから言ってほしい。とても不安なのだ。

 

トイレから戻ってきたスタッフたちはポツポツと感想を言い始める。彼らの話を聞きながら、これからひと月の編集でこの映画がどう生まれ変わるか。傑作に生まれ変わらせてほしいと切に思う。自分の力量は棚に上げて。

 

激烈に集中して2時間半超えの映画を見たからか、頭がものすごく痛くなり、夜はマッサージ120分コースに行く。だがものの10分で撃沈。自分の鼾で目が覚めた。せっかくマッサージを受けているのにものすごくもったいないことをした気分になる。

 

5月3日(火)

ウチの2階に編集室を作り、そこに編集部さんに来ていただいて朝から晩までずーっと編集作業。楽しみは飯のみ。近所のちょくちょく行く定食屋さんがお弁当も作ってくれるので、昼飯はそこのものを食べ、夜は中華系にした。ひと月後にどのくらい太ってしまっているだろうか……。

 

5月4日(水)

ジョビジョバの公演を見るために妻と新宿へ行く。

 

復活したシアタートップスに来るのは初めて。20代のころはカクスコをよく見に来ていた。カクスコを初めて見たのは多分20歳くらいだったと思うが衝撃的に面白かった。高校生のころからジョビジョバが好きだった妻も、芝居を見ながら大笑いしていた。私と年が変わらない6人のオッサンが、ワイワイと楽しそうに舞台をやっている姿は羨ましくて眩しかった。

 

舞台が終わると妻の携帯に息子から何度も着信があった(もちろん私の携帯には着信はない)。すぐに私が折り返す。息子は9時から友達と遊んでいたのだが、行きたい公園の食い違い(多分それは原因の一つに過ぎないが)で、友達とケンカしてしまったとのこと。家に帰ってもうまく遊べなかったことを私たちから説教されると思ったようで、図書館で漫画を読み、公園で一人お弁当を食べ、その後ケンカをしてしまった友達を探したが見つからないから、もう帰ってもいいか……? とのことだった。

 

もちろん帰ってきていいに決まっている。聞くまでもないことだ。だがしかし、いままでそういうつもりは全くなかったが、息子が友達とトラブルを起こして家に帰ってきてしまったときに、もしかしたら息子を責めたり怒ったするような口調になっていたのかもしれない。いやきっとなっていたのだろう。なんだか気分が凹み、反省して新宿駅で期間限定販売していた大阪の高級ロールケーキを買って帰った。が、甘味が苦手な息子は結局一切口を付けず、私と娘で貪り食った。

 

5月5日(木)

朝から晩まで編集作業。昼はタイ料理、夜はピザ。

 

5月6日(金)

下北沢で「ケダモノ」鑑賞。アメクミチコさんの独身熟女の熱を帯びたお芝居がとても良かった。

 

斜め前の席に、私が脚本を書いたドラマの原作者の方が座っていらした。ご挨拶し、終演後にその原作者の方と妻と町中華で軽く飲んだ。楽しい時間だった。こういうとき、この日記に原作者の方のお名前を出してしまっていいものかどうか私はよく分からない。もしかしたらその方は、その日その時間にそこにいてはいけないことになっているのかもしれないなどとも思う。私はウソつきだから、よくそういう状況がある。

 

帰宅後、編集ラッシュの確認。

 

5月7日(土)

娘、午前中部活。息子、朝から友達と公園。

 

明日はディズニーシーに行く。本当は今年の1月6日に行く予定だったが大雪でキャンセルしていたのだ。

最近あまりに疲れているし、撮影準備や撮影などで家族と過ごす時間も少なかったから、妻に懇願してディズニーシー近辺のホテルに前泊する許可を得た。子どもたちも大喜びであったが、妻のケチスイッチが入ってしまい(私や子どもがはしゃぎモードになると妻は途端にケチケチモードになる)ホテルは4人で2万円以内の制限が課せられた。だが、私は最近検索能力が爆上がりしているので、朝食ビュッフェ付き・温泉大浴場ありのホテル4人で2万5000円のホテルを難なく発見。なぜか舌打ちする妻の許諾を無事獲得。

 

※妻より

夫は私が舌打ちした理由が分からないようですが、まず、「2万円以内」と言っているのに「2万5000円」で交渉してくる姿勢に呆れます。そして、予算オーバーしているのに「検索能力爆上がり」とはどういうことでしょう? 本当にため息が出ます。

 

14時に我が家を出発し、ホテルへ向かう。途中のイオンで寿司やらピザやらスイカやらハーゲンダッツやらホテルで食べるものを買いあさる。ホテルに到着するなり娘はキレイな部屋にテンションが上がるも、息子は「なんだかゾンビが出そうな気がする。多分出る! 怖い、帰りたい!」と泣きながら連呼し始める。これはまずいパターンになるかも、と思ったが、偶然にも息子の好きな「スポンジボム」がテレビで放送したので、どうにか持ち直した。

 

娘は部屋の風呂をプリティウーマン張りの泡ぶろにしてご機嫌にはいっているので、私は妻を誘い大浴場へ。すると大浴場はまさかの別料金。「なんで大浴場に金払わなきゃならないんだ」と妻は一気に不機嫌になり、入らないと言う。そして私を一瞥し「あんた、どうせ入るんでしょ。お好きにどうぞ」と言い捨てて部屋に戻って行った。数百円なんだからいいじゃないかと思うのだが(※妻からの注:1800円です)、まあ今回は気持ちも分からなくはない。なので妻の分も2時間存分にサウナと温泉にゆっくりつかり、撮影と編集と疲れを癒す。

 

部屋に戻ると、妻は日本酒飲みちらかして爆睡。息子はテレビで「ミッションインポッシブル」を見ていて、娘はスマホ。いつもと変わらない我が家の光景だ。仕事熱心な私は持ってきた資料を読みつつ、5分で寝落ちした。

 

5月8日(日)

多分入場制限されていたはずだが、ディズニーシーは予想外に混んでいた。ファストパス的なものもなくなっていたので、人気アトラクションはどれも1時間は並ぶ。最初はたいして乗りたくない「海底200万マイル」という潜水艦に乗る。加齢で三半規管をすぐやられてしまう私は乗ったそばから気持ち悪くなるのだが、息子がいつも乗りたがるので仕方なく乗っている。次は娘が一番楽しみにしていた「インディ・ジョーンズ」に70分待ちで乗って、こちらも揺れに揺れ、ますます気持ち悪くなる。息子も酔って、船や列車とかで休憩したいと言い始めたが、私はたとえ酔っていても来たからにはどうしても絶叫系に乗りたい。

 

娘も息子も絶叫系が大の苦手なので、私が乗りたいものと意見が一致せず、「センター・オブ・ジ・アース」に乗るか乗らないかで大ゲンカに発展(妻はどちらでもよい)。こういうときに、私はついつい無理に乗せる方向に話を持って行くから、乗りたくない娘が不機嫌になり険悪になってしまうのだ。娘は乗らず嫌いだから、きっと一度乗れば絶対に好きになるはずなのだ。その第一歩を踏み出させるのが本当に難しい。「人生はチャレンジだ」とか「一歩を踏み出す勇気を持て」とかいい加減なことを言っていると、娘は父親のマイペースぶりにどんどん不機嫌になり、妻からも「あんたはなんでもかんでも自分の思いを押し付ける」などと腹の立つことを言われて、私まで不機嫌になり、せっかくの家族でディズニーも最悪の雰囲気になっていく。誰が悪いのかアンケートをとればきっと私がぶっちぎりの1位なのは分かっている。

 

結局息子と娘は妻のスマホを持たせてなんとかという海の中の子ども向けのような場所に行き、私は険悪な妻とともに「センター・オブ・ジ・アース」に80分並ぶ。その間、会話はない。その後、また子どもたちと合流するも私は直下型の「タワー・オブ・テラー」と360度回転型の「レイジングスピリッツ」に乗りたくて頭の中はそれでいっぱいで、「乗ろう乗ろう! 乗ったらお小遣い上げる! 好きなもの買ってあげる!」とあの手この手を使い、物で釣ろうとするが、子どもは断固拒否。子どもたちはやっぱりユルいものばかり乗ると言うから、私も意地になって子どもに説得を試みる。またも雰囲気が悪くなっていく。

 

「お前が我慢すればすべて解決なんだよ!」と、妻がとうとう他のお客の目を気にせずに私を怒鳴り始めたので慌てて私は折れて、「レイジングスピリッツ」のみで我慢した。あとはこんなダメな私も少しは大人になり、ひたすら子どもたちの乗りたいものに付き合った。結果、子どもたちが一番楽しみにしていた2時間並んで乗った「ソアリン・ファンタスティック・フライト」というやつが一番面白かった。

 

朝9時に入って、結局閉園の21時までいた。ものすごく疲れた。おかげで昨日の温泉&サウナ2時間で癒した心身が、元に戻ったどころか疲労3倍増くらいで帰宅。

 

娘が撮ってくれた写真

 

※妻より

「乗りたいものは意地でも乗りたい!でも一人じゃ乗りたくない、皆で乗りたい! 絶対乗ろう! 皆で乗ろう!」という夫の異常な押し付けハイテンションに振り回され、子どもも私も大変疲れました。「ちょっとのんびり系で休憩したい」などと言っても我々の意見には一切耳を傾けず、何が何でも己の欲望は貫き通すので本当に困ります。夫が誰よりもはしゃいで、最後まで帰りたがりませんでした。

 

5月9日(月)

7時20分に出発して児童養護施設のXちゃんの送迎ボランティア。なんと今日はXちゃんの誕生日だった。知っていればカードくらい書いたのに(物をあげるのは禁止だし、なんなら、引いた自転車の後ろに乗せるのもキシリトールガムをあげるのも禁止)。プレゼントは何をもらうの? と聞くとキティちゃんとマイメロちゃんのぬいぐるみとのこと。そのぬいぐるみたちと一緒に寝たいんだと言っていた。Xちゃんは幼いころからずっと一人で寝ているらしい。うちの小4の息子などいまだに妻にしがみついて寝ている。しかもフルチンで。

 

その後、夕方まで編集作業。

 

5月10日(火)

朝10時より編集プレビュー。皆さん、いろいろ意見を言ってくれる。人によって同じシーンをいいと思ったり、ダメだと思ったりするのはもちろんあることなのだが、私も「こっちのほうが絶対によい!」という確信がないから、いろんな人の意見に迷い悩む。

5月11日(水)

音楽打ち合わせ。「14の夜」でも「喜劇愛妻物語」でもお世話になった音楽家の海田庄吾さんに久々に会うと、かなり痩せて若返っていらして驚いた。顔色も良いし、胸板も厚くなっている。なんでも海田さんは夜な夜な5キロのランニングをし、筋トレもしているとのこと。海田さんと私は同い年だ。私もまた走り始める決意が固まった。夏までに5キロ落としてTシャツを堂々と着られる夏を過ごしたい。

 

5月12日(木)

朝から編集作業。今日もいろいろ悩む。悩みながらひたすらにチョコレートとカラムーチョを交互に爆食いしてしまう。昨日、ダイエットを誓ったばかりだというのに……。

 

夜、重くなり過ぎた頭と身体をすっきりさせるために近所の銭湯でサウナ。

 

5月13日(金)

今日もひたすらに編集作業。そしてお菓子だけでなく焼肉弁当ご飯大盛りで爆食い。

 

5月14日(土)

映画とは別件で大阪にて打ち合せ。新幹線内で資料を読もうと思っていたのに、駅弁で満腹になって気絶してしまった。そして頭の中で映画の編集をしていた。

 

喧々諤々打ち合わせをし、また新幹線で帰宅。551の肉まんと焼売を買って帰った。2年前も大阪での仕事が多く、そのときも551の肉まんをよく買って帰ったが、新幹線の棚に置くと85%の確率で忘れて来るから、今は足元に置くようにしている。

 

5月15日(日)

息子の出場するわんぱく相撲を見に行く。

 

去年だったら絶対にこういう大会には出なかったと思われるが、先月、通っている柔術の先生が声をかけてくださり、「出てみる」と息子が言ったのだ。一緒に参加してくれる友達もいたお蔭で、ドタキャンには至らなかった。

 

それにしても同じ4年生だというのに体格差が凄い。小さな子たちから順番に取り組みが始まったが、小柄な息子は二番手だ。すさまじく緊張しているのが分かる。息子は「青木みたいになったら、ボク恥ずかしくて死んだほうがマシだよ!」と朝から喚いていたが、青木とは映画「シコふんじゃった。」で竹中直人さんが演じていた役だ。相撲部員で試合前はいつも緊張のあまり下痢になってしまうというキャラクターだが、息子はこの映画が大好きで、たまに見返しては「アオキー! てめえ根性見せろよ!」と言いながら爆笑しているのだが、まさに今の息子が青木状態でカチコチだ。見ている私も緊張してしまう。

 

「はっけよい」のタイミングも分からず、息子はオロオロしていたが、相手が勝手にこけてくれて「自動的はたき込み」でなんと1回戦勝利。ものすごく喜んでいる。

 

2回戦目も立ち合いは緊張している。相手の子も同じくらい緊張しているようで、二人はゆっくりとぶつかりそのまま静止。行事の掛け声でなんとか動き出す。息子は相手に胸をつけて押していき、土俵際で押し倒したが、最初に息子の足が土俵を割っていたようで負けてしまった。私は熱くなり一瞬物言いをつけそうになった。

 

体勢的には勝っていた息子も納得がいかないようでしばし土俵に残っていた。息子がこういう悔しさを少しでも表に出すのは珍しいのでちょっとばかりの成長を感じ、思わず目頭が熱くなった。

 

ふと妻を見ると、すでに息子の惜敗は頭にないのか夢中で他の試合に声援を送っている。なんで息子の成長を感じないのかと腹立たしくなり、咎めると無言で私を一瞥し席を移っていった。

 

5月17日(火)

10時より編集プレビュー。だいぶ固まってきたが、そうなると細かいことも気になりだして、まだまだ思考錯誤。

 

5月18日(水)

息子の療育。4年生になって、息子のメンタルはとても安定している。この療育のおかげもあるだろうし、やらせていなかった「フォートナイト」をやらせているおかげもあるかもしれないし(「フォートナイト」がきっかけで友達と共通の話ができるようだ)、4年生の担任の先生がとにかく理解があるし、怒らないし無理させない方針だからかもしれない(おまけに何度も書くが、置勉推奨先生なのでランドセルが大変軽い! 冗談抜きで鉛筆一本だけランドセルに入れて通学している。ランドセルが重いだけで行き渋る気持ちが倍増すると思う)。

 

療育の先生と話す息子の様子も明らかに変化した気がする(時間中、親は別部屋でモニタリングしているのだ)。学校であったイヤなことなどをちゃんと会話として話せるようになったし、一方的に自分の話ばかりするのではなく、先生の話もかなり聞けるようになり会話が成立している。コミュニケーション能力が上げっていると思えるのだ。

 

話は少し変わるが、ハラスメント大爆発の映像業過で最近導入されているリスペクトトレーニングというものを(「相手に尊敬の念を持って接しているか」を自問し考えるトレーニングらしい)、私も受けてみたいと思っている。

 

「誰一人、取り残さない」という言葉を近ごろよく聞くが、空気が読めず場から浮いてしまいがちな人、ハラスメントをしてしまう人も当たり前だが取り残さない人に含まれている。ナチュラルボーンなサイコパスの人だって含まれる。むしろそういう人たちのほうが疎まれ取り残されやすい。取り残された結果、悲惨な事件も起きたりする。「誰一人、取り残さない」ことが可能なのかどうかは分からないが、リスペクトトレーニングというものが、そういうものであればいいなとも思う。そしてそれは、おそらくは幼少の頃から受けねばならぬもので、きっと最も大切な教育の一つなのだろうと思う。

 

5月19日(木)

映画の撮影に多大な協力をいただいた飛騨市観光課の方2人と、現場を手伝ってくれたスタッフ(名古屋在住)が我が家まで来てくれ編集ラッシュを見てくれる。リモートにて他のスタッフからも続々と意見が届く。ありがたい。

 

ドラマ「拾われた男」のキャストが発表された。今まで発表されていたのは仲野太賀さん、伊藤沙莉さん、草彅 剛さんの3名だったが、その他の方々も素敵な俳優さんばかりだ。石野真子さん、薬師丸ひろ子さんは子どものころから大ファンだった。6月26日からディズニープラスで配信、NHKBSプレミアムで放送開始なのでご覧いただけたら嬉しいです。

 

5月20日(金)

朝から編集作業。今日は早めに18時くらいに終わる。というのは娘の誕生日なので、夕飯を家族で食べることにしていたのだ。しかも私が腕を奮って料理を作る予定だった。

 

が、スマホと勉強時間のことで大ゲンカになってしまう。挙句の果てに私が「もうスマホのお金は一切払わないから、自分のお金でやるぶんには勝手に何時間でもやれ!」と売り言葉に買い言葉的にそう言ってしまった。

 

が、まったく知らなかったのだが娘のスマホ代は月々3000円くらいらしく(そもそもスマホでないようだが、なんなのかよく知らない。我が家のケータイ電話はすべて妻名義で妻が契約してきている)娘は「じゃあ自分で払って自由に使う」とのこと。

 

※妻より
スマホです。夫はiPhoneしかスマホじゃないと思っているようですが、娘のは子どもの安全見守りスマホです

 

確かに「自分で払うなら勝手にしろ!」とは言ったが、それは先にも書いたように売り言葉に買い言葉だ。本当にそう思っているわけはない。しかも3000円だなんて知らなかったし。私はなんとか撤回しようとしたが、ケンカしたばかりの娘になんと言っていいのか分からない。こちらも頭に血がのぼっているのでうまい言葉など見つかりようもない。というか、ぶっちゃけ振り上げたコブシを納めなければならないのに、幼稚な私は納められない。ここはもう妻にまとめてもらうしかないと思い、「どうするんだ、この状況を!」と言ったら、「過干渉クソ野郎。売り言葉に買い言葉でそういうことを言ったお前が悪いから、(妻は私が妻のことをお前と呼ぶことを絶対に許さないのに私のことは頻繁にお前と言う)スマホをフリーにしたくないのなら自分の失言を潔く認め娘に謝れ」と言う。

 

頭では私もそうするしかないと分かっているのだが、妻のその言い草にも猛然と腹が立ち、でも、返す言葉が見つからず悶絶するしかない。15分後、深呼吸やら鼻呼吸やら横受け身やら前回り受け身でどうにかこうにか心を整えた私は、娘に「さっきの言い方は悪かった」と謝った(でも、かなり高圧的な言い方だった)。それからまたスマホの話をしようと思ったのだが、高圧的に謝っても当然娘は聞く耳など持ってはくれない(きっと低姿勢で謝ってもだが)。自分が娘の年くらいのことを思い出すと、意味不明な理由で怒り狂っている大人ほどヒク存在のものはなかった。

 

「子どもとは薄目で接しろ」とか「距離をとれ」とか他人からアドバイスをもらったり、物の本には書いてあり、もちろんその言葉はよーーく分かるのだが、頭では理解していても行動がまったく伴わない。それができる人ってのは多分……いやこの先はもう言うまい。

 

いずれにせよ誕生日を台無しにしてしまったのは本当に申し訳なかった。

5月21日(土)

朝から編集。疲れて夕方から近所の銭湯のサウナに向かう。土曜だから激混み。全く整わず。

 

5月22日(日)

娘の部活(テニス部)の試合を妻と見に行く。と言っても一昨日ケンカをしてしまい、まだ気まずい状態だから、娘にはバレないようにそっと会場に向かう。行く途中、部活の母親LINEグループに「〇〇ちゃん(娘)と××ちゃんのコンビ、校内唯一の2回戦突破! 3回戦進出したよ!」と引率保護者の方からメッセージがきたので、自転車を漕ぐ足にも力が入り、「早く漕いでよ、おそいな!」と妻に文句を言いつつ、会場に全力疾走で向かった。三回戦を突破すれば目標にしていた都大会進出だ。親バカだが娘は運動能力が高い。野球のクラブチームに入っているので、学校の部活はイラスト部に入っていたのだが(絵もなかなかに上手い)、中学2年進級時にイラスト部が廃部になってしまった為、友人が多かったテニス部に入ったのだが、すぐに頭角を現し、初めての大会のときも3回戦まで進出していた。野球のクラブチームでは人間関係にかなり悩んでいたが(いるが)、学校の部活は楽しくやっている。

 

今日の大会で都大会に進出できなければ引退となるので、コロナ禍で本当は応援禁止ではある上に娘とはケンカ中だが見に来たのだ。

 

だがせっかく会場の中学校に到着しても、学校の周囲にかなり厳重な目隠しの網が張り巡らされていてテニスコートが良く見えない。でも、なんとか3回戦は見たいと思い、妻と校庭の周りをウロウロしてピーピングスポットを探していたところ(妻は帽子、マスク、サングラス、日焼け防止の長袖長ズボンでかなり怪しい見た目)、試合が終わって帰宅最中の娘たちがぞろぞろと歩いてきた。慌てて隠れようとしたが、娘たちはすでに私と妻から5メートルほどしか離れておらず、私と妻は、思わず中学校の壁にへばりついたりと挙動不審な動きをしてしまった。娘はそんな親には一瞥もくれずに私と妻の前を通過していった。どうやら都大会進出はならなかったようだ。

 

夕方、帰宅した娘は機嫌が直っており、3回戦の戦いがいかに惜敗だったのかを悔しそうに語ってくれた。そして「はい」と言って、突然どら焼きをくれた。浅草雷門前の亀十のどら焼きだ。そういえば娘は昨日、部活のあとに友人たちと浅草に行っていた。あんなに大ゲンカした翌日だったにも関わらず私の大好物甘味を買って来てくれたのに、バカな私は素直にありがとうと言えず(ものすごくうれしかったのに)、どら焼きを見ながら「なんだっけこれ?」などとよく分からない言葉を発していた。

 

5月23日(月)

音楽の海田さんのお宅にて打ち合わせ。ラストシーンにつける音楽のデモを海田さんに作っていただいた。とても良い音楽を作っていただけたと思う。

 

音楽家の人は、監督が仮当てしている音楽にいつも悩まされると笑いながらおっしゃっていた。それはそうだろう。こちらは何百年も歴史に残るような音楽を勝手にあてたりもしている。監督や脚本でいえば、つねに黒澤明とか山田太一みたいな作品を「こんなのにしてください」と渡されてもたまったものではない。

 

5月26日(木)

セミオールラッシュを大きなスクリーンで見る。スクリーンで見ると当たり前だがゾクゾク感がぜんぜん違う。スクリーンに映るものを見て、高揚して「鳥肌が立つ」ことはしばしばあるが、これが自分の作品だからということでなければいいが……。しかしその感覚があるから映画や演劇、スポーツ観戦などの非日常系の見世物は「ああ……やっぱりいいなあ……」と思う。

 

5月27日(金)

セミオールで気になった部分や、その他もろもろ問題も出てきて今日も朝から編集作業。

 

20時より娘の塾の三者面談に私が行く。私は妻と比べると子どもと接する時間が短いから、こういう面談など行けるようであれば行くようにしている(※期待値が高く過干渉なだけだと思う BY妻)。

 

娘もようやく少しずつ受験生スイッチが入ってきたのか、都立の高校に関しては自分でいくつかピックアップしている。私立に関してはまだだが、東京は高校の数が尋常でなく多いから、そこから選ぶのも大変だ。私など高校が片手とちょっとで数えるくらいしかない田舎だったから迷いようもなかった。ただ、一期生というものに憧れており、私が高校受験するときに一期生になれる私立高校が県内にできたので、そこが第一志望だったが落ちた。

 

東京は何百とある選択肢の中から選ぶのは本当に大変だろう。私もネットや受験案内の本で高校選びを手伝っているつもりだが、目が行くのは口コミの点数だ。食べログの影響かなにか知らないが、口コミ3.7以上は欲しいと思ってしまう。しかし、こうして在校生や卒業生から口コミ欄になんでも書かれてしまう今は大変だなあと思う。

 

面談ではまだどこを希望しても狙っていける、夢を語っていても大丈夫な時期というようなことだったが、夏期講習費用の払い方、揃えなければならない書類、模試のWEB申込みの話などになると、私はまったく理解できず、妻も連れてくればよかったと思った。コロナの影響で保護者の付き添いは一人までとなっているのだが、そこを何とかお願いできませんかとか言って。

 

5月28日(土)

娘の運動会。中学3年にしてようやく保護者の観戦許可が出た。娘は100メートルと選抜リレーに出た。100メートルはぶっちぎりの1位。選抜リレーも第一走者でぶっちぎりの1位。走るフォームはゴツゴツしているのだが、足は昔からずっと速い。運動会とはいえ我が子が活躍する姿を見るのはとてもうれしいし、他のお母さんたちから「〇〇ちゃん、かっこいい!」などと言われると、自分が言われているかのように嬉しくて、思わず「でしょう」などと言ってしまう。

 

運動会は嫌いな人は大嫌いで、なくなってしまえばいいと言う人もいるが、私は見るのも参加するのも大好きだ。笑って泣けるエンターテイメントだと思っている。だが、きっとその「笑う」という部分が問題なのだろう。ちなみに、私は音楽会が大嫌いで、なくなってしまえばいいと思っていたが、以前に音痴の人たちの合唱大会のようなものをテレビかなにかで見た記憶がある。それは運動会を見るような楽しさがあった。下手な人が一生懸命やる、やらざるを得ないという姿が、笑えて泣けたのだが、そういう笑いはきっと今は厳しいのだろうと思う。

 

夜は先日台無しにしてしまった誕生日の替りに、近くのイタリアンにディナーに行った。娘は運動会の話を興奮気味にしながら前菜からパンをお代わりしまくり、パスタは妻の分も平らげ、メインが来るころには腹はパンパンで、目はトロトロ。帰宅するとバタンキューで寝てしまった。

 

5月30日(月)

午前中、初めての出版社の方とお会いする。小説を書きませんかとお誘いをいただく。私ごときに本当にありがたい。と心から思う。今まで何冊か本を書かせてもらったがロクに売れたこともないのだ。午後から、今日はプロデューサー陣も来て編集作業。大詰めで最後の粘り。

 

5月31日(火)

朝9時から編集。ようやくピクチャーロック(文字通り「画を施錠する」、つまり画に対してこれ以上変更を行わないこと)。最後まで粘ってくれた編集部さんには感謝しかない。

 

午後からとある組織の会議に出る。評議員というものを仰せつかったのだが、そのような立場、会議にはまったく不慣れのため、ただ黙って座っていただけではあったが、極度に緊張し、会議の間中なんだか意識が朦朧とするといのか妙な眩暈と頭痛に覆われていた。慣れていけるといいのだが。

 

何度も何度も試しては換えて、試しては戻して…の作業を、嫌な顔一つせずいつも穏やかに朗らかに編集してくれた堀さん、そしていつも明るくにこやかで礼儀正しく、「クレヨンしんちゃん」や「テルマエ・ロマエ」の靴下を履いていた助手の小野寺さん、本当に有難うございました!!

 

 

【妻の1枚】

 

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【プロフィール】

足立 紳(あだち・しん)

1972年鳥取県生まれ。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書き始め、第1回「松田優作賞」受賞作「百円の恋」が2014年映画化される。同作にて、第17回シナリオ作家協会「菊島隆三賞」、第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。ほか脚本担当作品として第38回創作テレビドラマ大賞受賞作品「佐知とマユ」(第4回「市川森一脚本賞」受賞)「嘘八百」「志乃ちゃんは自分の名前が言えない」「こどもしょくどう」など多数。『14の夜』で映画監督デビューも果たす。監督、原作、脚本を手がける『喜劇 愛妻物語』が東京国際映画祭最優秀脚本賞。現在、新作の準備中。著書に『喜劇 愛妻物語』『14の夜』『弱虫日記』などがある。最新刊は『したいとか、したくないとかの話じゃない』(双葉社・刊)。