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2023/11/29 21:00

住宅火災は乾燥する冬に要注意! リスクとなる4つの死角と対策、万が一にとるべき対応は?

空気が乾燥し始める時期から特に気を付けたい火災。火災のリスクが潜んでいるのは火の元だけではありません。電気製品の使い方や火を扱うときの衣服などにも注意が必要です。

 

防災アドバイザーの岡部梨恵子さんに、日常に潜む火災のリスクと対策、万が一出火した場合にはどうすればいいのかを教えていただきました。

 

住宅火災のリスクや対策は、
住環境によって異なる

大前提として、「住宅火災」とひとことで言っても、そもそも住んでいる家によってリスクや対策の仕方は大きく異なります。そのため防災の方法においても「『これが正解』と一概に言えないことも多い」と岡部さん。まずは自分の家のつくりや設備について知り、その上で備えることが大切なんだそう。

 

「最近の住宅は、壁や壁紙が燃えにくい素材でできていたり、燃えても有害な物質が出ないようになっていたりと、さまざまな形で火災への対策がなされています。また、住宅火災の原因をデータで見たときに上位に挙がるのがコンロの火です。しかし最近のコンロも、大きな揺れが来たり高熱を検知したりすると自動で火が消えるようになっています。

 

このように考えると、設備が古い住宅と、最新設備が整った新築とでは、火災への備え方は違ってくることが分かると思います。火災に限ったことではありませんが防災を考えるときには、昔から言われている防災の方法やメディアからの情報を鵜呑みにすることなく、まず『自分の家はどうなのか』を知ることが大切です。それを知ることで、むやみに怖がることなく、適切な防災ができたり、災害時の行動も変わってくると思います」(防災アドバイザー・岡部梨恵子さん、以下同)

 

「例えば皆さん、高熱の油を使って料理をしているときに大地震が来たらまず何をしますか? おそらく『急いで火を止める』と答える人が多く、実際にそう言われることも多いのですが、防災の世界では最近この考えを疑問視する声も上がっています。なぜなら、コンロの火が自動で消えるなら、固定されていない鍋に近づくほうが危険とも言えるからです。どちらが正解とは一概に言えません。

 

しかし『自宅のコンロに自動で火が止まる機能がある』と知っていれば、万が一のことがあっても衝動的に動くのではなく、命を守るための最善の行動を自分で考え、選択することができるのではないでしょうか」

 

火災を起こさないために、
日々の生活で気を付けることは?

自分の住む家のつくりや設備が最新だったとしても、もちろんそれだけで火災への対策が万全というわけではありません。では、火災を起こさないために日常生活でどのようなことに気を付ければいいのでしょうか? 具体的に教えていただきました。

 

1.キャンドルやタバコなどの“裸火”の扱いに気を付ける

「火災の原因として少なくないのがタバコの火です。火を消したつもりでも完全に消火できていないことがあるため、吸殻を片付けようと安易にゴミ箱に入れるのはとても危険。ゴミ箱の中に油を吸った紙などが入っていると火災を引き起こすことがあります。そのためタバコの火は、灰皿で消してからしばらく置いておき、半日~1日くらい経ってから捨てるようにしてください。捨てる前にさらに水に浸すとより安心です。寝たばこはとても危険なので絶対にNG!

 

タバコだけでなくキャンドルも、覆いがないむき出しの火(=裸火)なので、使用するときには注意が必要です。例えば、寝る前のリラックスタイムにアロマキャンドルをつけて、そのまま眠ってしまう……というのはとても危険。特に夜は疲れていて注意力が散漫になっていることも多いので、使用するときは『火災になるリスクがある』と意識した上で、確実に火を消してから就寝するようにしてください」

 

2.壊れた家電や古い家電は使わず、必ず使用方法を守る

「住宅火災が起こる原因は、火の元だけではありません。コンセントとプラグの間にホコリや塵がたまり、そこに湿気が加わることで発火につながる『トラッキング現象』による火災もあります。

 

トラッキング現象は、洗濯機、冷蔵庫、電子レンジ、テレビといった普段あまりプラグを抜き差ししない場所や、結露がたまりやすい場所や水槽の裏などの湿気がある場所で特に注意が必要です。また、コンロの近くにあるコンセントも、油が跳ねてべとつきやすくなっているとホコリがくっつきやすくなるので気を付けましょう。

 

対策としては、ホコリや塵がたまらないように定期的に掃除をすること。とはいえ、家にあるコンセントを毎日掃除するのは難しいので、大掃除の時期などに定期的にきれいにするのが良いと思います。そのほか、あらかじめコンセントにカバーをつけておくのもおすすめ。数百円の手頃な価格で買えるので、ぜひ活用してみてください。

 

また、電気火災でもう一つ気を付けたいのが、古い家電や劣化した家電を『もったいないから』と使い続けてしまうこと。今の時代、ものを長く使うことが良しとされる価値観がありますが、電気製品に関してはおすすめできません。説明書を読んで使用方法を守ることはもちろん、異音がしたり煙が出たり、少しでもおかしいと感じたらすぐに使用をやめてください。自宅で火災が起こると、自分だけでなく他人にも被害を及ぼす可能性があります。常にそのことを念頭に置いて、電気製品に関しては『もったいない』という考えは捨て、常に安全なものを使うようにしましょう」

 

3.意外と見落としがち? リチウムイオン電池と衣類乾燥機の使い方に注意

「近年、増加傾向にあるのが『リチウムイオン電池』が原因の火災。特にスマートフォンやモバイルバッテリーは使う機会も多いと思いますが、内蔵されているリチウムイオン電池が劣化すると発火につながる可能性があるので注意が必要です。バッテリーが異様に熱くなったり、落として中身が見える状態や壊れた状態のまま使用し続けるのはやめましょう。

 

また火災のリスクとして意外と知られていないのが衣類乾燥機です。洗濯後の服やタオルなどに残っている油分が乾燥による熱風で酸化して発熱し、自然発火する可能性があります。特にアロマオイルなどを日常的に使っている方は注意してください。油分が付いた服やタオルは自然乾燥させる、または乾燥機に入れる前に油分をしっかり落とすようにしましょう」

 

4.身に付ける衣服の素材にも注意を払う

「電気代が高騰している昨今、暖房代の節約のために室内でもダウンジャケットを着たりマフラーをしたりして過ごしている人もいるかもしれません。しかし、とくにナイロン製の服は火が付くと一瞬で燃え広がってしまうため、台所などではとくに注意が必要です。マフラーや袖口が広がっている服なども、無意識のうちにコンロの火に触れてしまいかねません。台所は作業場だと考え、『調理をするときには割烹着に着替える』など自分でルールを決めたりして、服装にも注意を払うことが大切です。

 

また室内以外でも、ポリエステル素材の浴衣で花火をしたり、ナイロン製のダウンジャケットを着てキャンプで火を起こしたりするときには注意。もちろん『着てはいけない』というわけではなく、燃えやすい素材であることをきちんと理解した上で、火を扱うようにしましょう」

 

 

どれだけ気を付けていても、100%起こらないとは言い切れない住宅火災。もしも自宅で出火してしまったときにはどうすればいい? 次の項目で、対処法や常備しておくグッズなどを解説していただきます。

万が一、火災を起こしてしまったら?

どれだけ気を付けていても、100%起こらないとは言い切れない住宅火災。そのため、万が一自宅で出火してしまったときにはどうすればいいのかを知っておくことも必要です。おすすめの防災グッズとあわせて、岡部さんに教えていただきました。

 

「まず知っておいてもらいたいのが、自宅で火災が起こったときには、パニックになってしまう可能性が高いということ。火災のような災害や大きな事故などを目の当たりにしたときに思考力や判断力を失ってしまうことは、『凍り付き症候群』と呼ばれています。対策するのはなかなか難しいですが、『自宅で突然火が上がったらパニックになるかも』という心構えをもっておくことがまずは大切です。

 

そして、消火するときのアイテムとしてまず思い浮かぶのは消火器だと思います。しかし個人的にはあまりおすすめできません。なぜなら、消火器の扱いは慣れていない人にとっては難しく、その上パニック状態の中で使うのはさらにハードルが高いからです。そこでおすすめなのがワンアクションで簡単に初期消火ができるグッズ。さまざまな種類のものが販売されているので、用途に合わせて備えておくと良いと思います。ただし火災には下記の3種類があり、火災のタイプによって使える消火剤が異なるので、購入前に必ずチェックしておきましょう」

・普通火災(A火災)=木材、紙、繊維などが燃える火災
・油火災(B火災)=ガソリン、灯油、天ぷら油などが燃える火災
・電気火災(C火災)=通電中のコンセントが燃える火災

 

・火元に投げる消火用具「消える魔球」

メディプラン「消える魔球」
2,000円(税抜)
適応火災:普通火災、油火災(ただし天ぷら油火災は使用NG)

「火元に向かって投げるタイプの消火用具です。野球の硬式ボールと同じ大きさで約230gと軽いため、扱いやすいのも特徴。各部屋に備えておくと良いと思います。ただし天ぷら油火災には使用できないので注意! 使えるのは初期消火のみですが、炎が広がった時に足元の火を消して、逃げ道を確保するなどの使い方もできます」

 

・天ぷら油火災の消火に役立つ「火の用心棒」「消せる魔法の杖」

メディプラン「天ぷら油火災用 初期消火用具『火の用心棒』『消せる魔法の杖』」
各1,000円(税抜)
適応火災:天ぷら油火災

※どちらも用途・薬剤・容量は同じで、パッケージの素材のみ異なります。

「こちらは天ぷら油の火災のみに使える消火剤です。使い方も簡単で、燃えている鍋の中に袋のままそっと入れるだけでOK。台所に備えておくと良いでしょう」

 

「そのほか、片手で使える消火スプレーなどもおすすめです。ただしこれらが有効なのはあくまでも初期消火の段階。炎が天井くらいまで上がってしまったら、身を守るために諦めて避難しましょう。また、せっかく用意した消火剤も、取り出しにくい場所に置いてしまったら意味がありません。買って終わりではなく、設置場所をよく考えることも重要です」

 

 

最後に岡部さんはこう話してくださいました。「技術の進歩により、火災に対する備え方が変わってきています。昔から言われている防災の方法や古い情報にとらわれず、まずは『今、自分の家ではどのようなことに気を付けるべきなのか』を知ることが大切です。それから、日常生活の中で少し意識を変えたり、最新のグッズを活用したりしながら、火災を起こさないためにできることを始めてみましょう」

 

Profile

防災アドバイザー・防災士 / 岡部梨恵子

合同会社 BOUSAI LIFE MAP代表。防災士、ファイナンシャルプランナー、整理収納アドバイザーなど、多様な資格を活かして、防災グッズや備蓄品、被災後の食やお金の知識に関するセミナーや講演会を開催。メディアへの出演も多数。
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