スポーツ
2023/5/31 20:30

水泳で期待できる筋トレの効果とは? 筋力アップのコツとともにプロが教えます!

分厚い胸板に広い肩幅による逆三角形の体型。トップスイマーはまさに理想の体型ですが、水泳をすればその体型に近付くことができるのでしょうか。そんな素朴な疑問から、水泳をすることで得られる筋肉への効果について、日本初のプロスイムコーチに聞いてみました。

 

<識者紹介>

プロスイムコーチ 前田康輔さん

3歳で水泳を始め、競泳界の名門中央大学では全国大会インカレで優勝。社会人スイマーとしても活躍後、25歳で現役引退。2017年より、日本初のプロスイムコーチとしてスポンサー契約を受けながら企業でのコーチングやトライアスロンチームの指導など、泳ぎの魅力を伝えるために幅広く活躍している。競泳マスターズでは現在、日本記録4個、世界記録1個を保持。アスリートの引退後のキャリアを支援するアスリートプランニング所属。

 

水泳で期待できる筋トレの効果

まず気になるのは、水泳をするとどれほど筋トレに効果があるのか?また、水泳をすれば選手のような逆三角形の理想の体型に近付けるのか?ということ。

 

「水泳は『浮力・密度・水圧』を利用しながら身体を移動させるため、全身の筋肉をバランス良く鍛えることに向いています。特に腹筋や背筋、腕のインナーマッスル、そして体幹が鍛えられる効果があります。ただし、毎日ハードに泳がないと、トップスイマーのように肩の骨格自体は広くなりません」(前田さん)

 

ただ単純に泳いでいるだけだと逆三角形のような体型を作ることは難しいが、全身の筋肉のバランスを鍛えるには水泳は効果的とのこと。

 

また水泳はランニングと同じ有酸素運動なので、実は汗をかきます。水の中にいるだけで汗をかいているのを実感することがないという。

 

「水泳は全身運動で、実はすごく汗をかきます。水の中に入っているので意外かもしれませんが、泳ぐ前と泳いだ後では、かなり体重が変わる方もいるほど。身体の水分が奪われているわけなので、『練習中は水分補給をしてください』とアドバイスをしています」(前田さん)

 

鍛えられる筋肉と泳ぎ方のポイントについて

基本の4泳法について、それぞれどの部分にどのような効果があるのかも伺いました。

 

「水泳の4泳法と言われるのが『クロール』『平泳ぎ』『背泳ぎ』『バタフライ』です。どの泳ぎにも共通しているのが身体の軸が鍛えられること。これにより、姿勢を良くする効果があります」(前田さん)

 

■クロール

4泳法のなかで一番スピードの速い種目で、全身をバランス良く動かしながら泳ぐことができます。

 

「クロールは、全身の筋力アップに効果的。広背筋・肩関節周辺・体幹・お尻・大腿四頭筋などの大きい筋肉からインナーマッスルまで動かします」(前田さん)

 

■背泳ぎ

仰向けの状態で泳ぐ泳法で、ストロークの腕を真っ直ぐ伸ばし、手のひらで水をかくことによって推進力を生み出します。

 

「背泳ぎはクロールと同様の動きがあるため、同等の効果があります。上向きか下向きの違いですね」(前田さん)

 

■平泳ぎ

キック動作がメインとなる泳法。

 

「平泳ぎとバタフライは上下動があるので、水をすくい上げる三角筋と広背筋が共通項。足のキックも特殊で、ももとももの裏(ハムストリング)が鍛えられます」(前田さん)

 

■バタフライ

両手両足の動きを左右対称かつ、同時に行う難易度の高い泳法。

 

「背中の僧帽筋・三角筋・広背筋などが鍛えられ、『ドルフィンキック』という独特のキックが主軸になり、大腿部分にも効果があります」(前田さん)

 

なお、上半身の筋肉を鍛えたいときはストローク(腕のかき・速さ・強弱など)を意識しながら泳ぎ、下半身を鍛えたいときには、キック動作をいつもより重視しながら泳ぐと効果的です。

 

水泳で筋トレの効果をアップさせるコツとは?

続いて、水泳で筋トレの効果を上げるためのコツについて聞いてみました。

 

■全力で泳ぐ

「25mを全力で泳ぐ練習メニューがあります。これは呼吸を一切しないので、実は無酸素運動のカテゴリーに入りますが、泳ぎのスピードアップを図ります。ハードに泳ぐと強度が増し、より多くのカロリーを消費します」(前田さん)

 

■水泳の前後にストレッチをする

「泳ぐ前に動的ストレッチで筋肉を温めましょう。プールの外で腕を回すなどのストレッチをします。そして泳いだ後は水中で静的ストレッチを行い、使った筋肉をゆっくり伸ばします。水中ウォーキングを1往復ぐらいして、前腕を伸ばしましょう。プールからすぐに上がらずにクールダウンの時間を作るのが最優先。身体が熱を持ったまま終わると疲労感が残ります」(前田さん)

 

■定期的に泳ぐことが大切

「毎日泳ぐのが理想ですが、なかなか難しいと思うので週2〜3回泳げれば良いですね。例えば週1回だけで長い距離、1時間30分泳ぐよりも、週3回にして30分ずつ泳いだほうが良い。そうすることで、水に対する感覚も変わりますし、身体の動かし方も変わってきます。ルーティーン化し、定期的に泳ぐことが大事なんです」(前田さん)

 

水泳と筋トレを両方する必要はある?

より筋肉をつけたいのであれば、水泳だけでなく陸上での筋トレも取り入れましょう。陸上での筋トレと水泳をいっしょに行うと多くのメリットがあります。しかし、その順番には注意が必要です。

 

「順番としては、無酸素運動をしてから有酸素運動をしたほうが良いです。例えば、ジムでマシンを使った筋トレの後、プールで泳ぐことで脂肪燃焼に良い結果が期待できます。筋トレでしっかりカロリーを消耗しているのでダイエット効果も高まりますし、筋トレの後は成長ホルモンが出ていて、筋肉が大きくなるタイミングなので、筋トレ効果も高まります。すぐにプールで有酸素運動をして乳酸を流すのが理想ですね」(前田さん)

 

なお、陸上での筋トレはケガのリスクがある一方、プールはリスクの少ない運動ができるのが特徴。また、水泳は、筋肉の回復を早めることで筋トレ後に生じる痛みを軽減することができ、ケガのリスクも減らせます。泳がなくても、水中に入るだけでも効果は期待できます。

 

「ちなみに、栄養バランスが取れていないと、筋肉はなかなかつきません。栄養補給は大切なので、プールに入る前はバナナやゼリー飲料、プロテインでも良いので摂取しましょう。筋トレ→栄養補給→水泳が、筋肉づくりの黄金メニューです」(前田さん)

 

有酸素運動の水泳だけでは高い筋トレ効果は望めませんが、無酸素運動の陸上筋トレを並行して行うことで、理想の身体に近付けます。しかも、泳ぎも上達できて一石二鳥。筋トレからの水泳は、まさにボディメイクの黄金メドレーと言えるのです。

 

撮影/大田浩樹 文/マイヒーロー