「ジャパンモビリティショー ビズウィーク2024」が10月に開催され、その会場でひときわ注目されたのがLean Mobility(リーンモビリティ)の「Lean3(リーン3)」です。25年中に台湾と日本での発売を予定しているというこのLean3に、いち早く試乗する機会が与えられました。ここではその試乗レポートをお届けします。
CEOは在籍中にトヨタ「i-ROAD」の開発にも携わった経験の持ち主
まず、このリーンモビリティという会社ですが、2022年6月にトヨタ自動車出身の谷中壯弘氏が愛知県で立ち上げました。谷中氏はトヨタ在籍中に「C+pod」や「C+walk」などを手がけた他、Lean3のたたき台ともなった「i-ROAD」の開発にも携わった経験の持ち主。いわばマイクロモビリティのスペシャリストとして谷中氏はたしかな実績を積んできた方でもあるのです。
トヨタ自動車出身者が立ち上げた会社となれば、トヨタとの関係がある会社と考えがちですが、リーンモビリティはトヨタ自動車とは資本関係もまったくない完全独立という立場。それでも最初の資金調達額は28億円に達し、その後も目指す企業理念や開発中の製品に対する評価は高く、2024年10月時点で46億円もの資金を獲得できているそうです。
いかに世間の期待値の高いかが、ここからもうかがい知れます。そんなリーンモビリティが新たに手掛けたのがリーン3なのです。
そのボディサイズは全長2470mm×全幅970mm×全高1570mmで、ホイールベースは1800mm。最小回転半径は3.6mとなっています。車体を正面から見ると、丸目のヘッドライトに左右に延びたウィンカーライトとつながるY字のグリルが印象的。サイドには複数のキャラクターラインが施され、これがスタイリッシュかつスポーティさを盛り立ててくれます。その印象はクルマというよりも、キャノピーが付いたバイクに近いといえるのではないでしょうか。
Lean3で要となる技術が「アクティブ・リーン・システム」
ドアは左側のみ。これは右側通行のエリアを意識したものと思われますが、日本では歩道側から乗り込むことになるので、むしろ都合がよいのではないかと思いました。ドアを開けると、試乗車は2人乗りでしたので、前後1つずつ計2つのシートが装備されていました。これはカテゴリーL5となる台湾や欧州での2人乗りに対応するために用意されたものです。日本では当面、原付ミニカーとして扱われるため、乗車定員は1名になります。
ただ、リーンモビリティによれば、日本でも今後、カテゴリーを超小型モビリティ(型式指定車)として、2人乗り仕様も販売を計画中とのことでした。その場合、原付ミニカーでは不要となっている車検と車庫証明は必要になりますが、個人的には2人用の方が市場では受け入れやすいのではないかと思っています。
駆動系はフロント2輪+リア1輪の3輪車となっています。そのパワートレインは、後輪にインホイールモーターを採用し、その最高出力は8.1kWで最高速度は60km/hです。駆動用バッテリーはリン酸鉄リチウムイオン電池を使い、満充電での航続距離は約100km。ご近所を走るためのマイクロモビリティとして十分な性能と航続距離といえるでしょう。
なお、充電に要する時間はAC200Vで約5時間となっていますが、AC100Vでも充電は可能。その場合の充電時間は7時間になるとのこと。※数値はいずれも暫定値
そのリーン3で見逃せない技術がフロントの2輪に採用された「アクティブ・リーン・システム」と呼ばれる新技術です。これはGジャイロセンサーによって、車両姿勢を常に把握推定しながら最適なリーン(傾く)姿勢で曲がることを可能にしたサスペンション。ハンドルを切るとセンサーが操舵角と車速を計測して適切な姿勢を計算し、これを元に車体が傾いて前進していきます。これがコーナーでもスムーズに曲がれるポイントとなっています。
マイクロモビリティでありながら冷暖房エアコンを装備する快適さ
さて、試乗は羽田空港近くのショッピングモールの敷地内に特設されたクローズドコースで行われました。ここを周回して体験するというイメージです。
シートに座って周辺を見回すと、その装備は実にシンプル。ステアリングはダッシュボードのほぼ中央に配置され、左側にスタートボタンとハザードボタン、右側にはBluetooth接続が可能な5インチのタッチディスプレイメーター、モバイルデバイス充電(USB Type-C)を装備。また、Lean3ではうれしいことに冷暖房のエアコンまでも装備されています。バイクに近いスタイルながら、一方でバイクでは得られない快適性も装備しているというわけですね。
運転ポジションは、シートを立ち気味にしてハンドルを抱えるイメージでセットします。アクセルを上から踏み込むスタイルなので、Lean3ではこの方が運転しやすいと感じました。後席は大人が座ると少々窮屈な印象ですが、日常の移動ではそれほど負担にはならないと思います。閉塞感もほとんど感じません。その理由は左右ウインドウと天井のサンルーフによって周囲が見通せるからなんです。このデザインは良く考えられているなぁと思いました。
ただ、リアシートの背後にはエアコン用システムなどが搭載されている関係もあり、運転席から後方視界はまったくなし。現状ではモニター上への表示もありません。左右のミラーで確認しながらバックすることになります。市販までにバックカメラの装備はぜひ欲しいところですね。
車体を傾けて曲がるハンドル操作はオートバイ感覚に近い
走行するには右側にあるシフトボタンを押して、ニュートラル(N)とドライブ(D)、そして後退時はリバース(R)に切り替える方式です。四輪車で一般的なパーキング(P)はなく、駐車用としては足踏み式パーキングブレーキが備えられています。また、ウインカーは左側となり、このレバーにはワイパーなどのスイッチも備えられていました。
ハンドル操作は、4輪車での操舵というよりも2輪の感覚に近いです。というのも、4輪ではハンドルを回して操舵しますが、Lean3では2輪のように左右に傾けて操舵するからです。この時に機能するのが「アクティブ・リーン・システム」。走行中にハンドルを傾けるとLean3は曲がる方向に少しずつ車体を傾けていき、これによってスムーズに曲がっていけるというわけです。この感覚はまさにオートバイに近いのかもしれませんね。
ただ、この走り方に当初は戸惑ったというのが正直なところです。ハンドルを曲げて速度を上げていくと、想像していた以上に車体が傾くのです。そのため、ついハンドルを戻してしまうことになり、うまく曲がれません。これに戸惑ってしまったのです。
ただ、周回を繰り返して徐々にこの感覚に慣れてくると、思い通りの方向へクイクイッと気持ちよく曲がれるようになりました。コツとしては、曲がる方向に視線を移し、その方向に向かってハンドルを切っていくとスムーズに行けるように思います。また、試しに旋回中にブレーキをかけてみましたが、車体は自動的に傾きを止めるので不安はありませんでした。
価格は90万円前後を想定し、2025年中にも発売を予定
それと、Lean3を見て実感したのが、想像していた以上に車体がスリムなことです。これは例えばLean3を2台並べても一般の車両の枠内に収まることになるわけで、これは都市での駐車問題の解決に間違いなくプラスとなるでしょう。よく言われることではありますが、道路上を走行しているクルマに乗っている人は大半が1人か2人。ということは、Lean3のようなモビリティがあれば、都市内の移動には十分なのです。
航続距離は100km、最高速度が60km/hというスペックも十分で、バッテリー容量が小さいから、自宅や仕事場で待ち時間に充電しておくことだってできます。むしろ普段はほとんど使わない大容量バッテリーを搭載するB(バッテリー)EVよりも無駄が少なく、製造工程を踏まえてもエコとなるのは間違いありません。
このLean3はまず台湾と日本で2025年中にも発売される予定です。リーンモビリティによれば2030年には欧州も含め、トータル10万台の販売目標を掲げているとのこと。また、リーンモビリティは台湾企業との合弁ベンチャーであることから、生産も台湾で行われることが決定しています。特にオートバイ大国でありながら雨が多い台湾では、雨に濡れなくて済むLean3はすでに相当に支持されているようです。
日本での価格は90万円前後を予定し、日本国内の販売目標は2030年には年間1万~2万台を想定。日本では今、多くの小型モビリティが誕生し、玉石混交の状態にあるといっても過言ではありません。そうした中で、Lean3はコンセプトが明確で、荷物を載せやすいといった高い実用性も伴っています。Lean3はもっとも身近なマイクロモビリティとして、今後も目が離せそうにありません。
撮影/松川 忍
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