2013年9月にワールドプレミアされたプジョー308は、翌年3月には欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞したほどの秀作。世界販売ではPSA(プジョー・シトロエン)の計画を上回る50万台を2016年春の時点で早くも達成したほど、好調な売れ行きを見せている。
そんなプジョー308に、パフォーマンスフラッグシップの「308 GTi by PEUGEOT SPORT」が加わった。270PS仕様と250PS仕様の2タイプがあり、価格はそれぞれ385万円と436万円。この2台に、ツインリンクもてぎ内で試乗することができた。あいにくの大雨ではあったが、雨だからこそわかることもあった。
栄光のブランドがついに市販車の世界にやってきた!
「PEUGEOT SPORT=プジョー スポール」というのは、もともとはWRCのために1981年に創設されたプジョーのモータースポーツ部門である。以降ラリーだけでなく、93年には1-2-3フィニッシュで飾るなど金字塔を打ち立てたル・マン24時間レースに加え、F1にまでも挑戦。2016年、初のダカールラリーでは見事に優勝するなど、素晴らしい戦績の数々を残してきた。
これまでプジョーは、プジョー スポールの名を与えた市販車をラインナップしてこなかったところ、こうして発売にいたったわけだが、似たような話を思い出さずにいられない。同じフランスのルノーも、同様にモータースポーツ集団であるルノー スポールが手がけた「RS」をいち早くラインナップの多くに設定して人気を博しているからだ。プジョーだって、そんな栄誉あるブランドをビジネスに生かさない手はない。
クルマのスペックも、プジョー スポールを名乗るにふさわしく、量販モデルに対して走りに特化した差別化が図られている。270PS仕様、250PS仕様ともエンジンは1.6リッター直列4気筒ターボで、6速MTを組み合わせるのは同じ。ともに量販モデルから15mmローダウンとなる専用チューニングのサスペンションが装着されている。さらに、270PS仕様には、駆動力をより着実に路面に伝えるためのトルセンLSDや、大径の19インチホイール、容量の大きなブレーキが与えられる。インテリアも専用のバケットシートやアルミペダルを装備。
エクステリアも量販モデルに対して、ルノーのRSほどではないが、いくつかの部分で差別化。270PSモデルでは印象的なツートーンのボディカラーをプラス30万円のオプションで選択することができるのも面白い。
右ハンドルのみになってしまったルノー スポール
そしてなにより、左ハンドルのみの設定とされたことも特筆できる。
最近では輸入車も日本向けには右ハンドルを積極的に導入するケースが多いが、コアなホットハッチファンにとって、「左ハン+MT」というのは、そのこと自体に魅力を感じる人が少なくない。その層の期待に応えるため、プジョー・シトロエン・ジャポンとしては、右ハンドルでもよかったところ、あえて左ハンドルを日本に導入することにしたのだという。ちなみにルノーのメガーヌRSは、日本導入当初は左ハンだったが現在は右ハンとされている。
そのことを残念に感じている人も少なくないようで、メガーヌRSの日本導入からほぼ5年が経過し、乗り替えを検討しているオーナーで、左ハンであるこのクルマに興味を持っている人もいるとか(ルノーの販売サイドは戦々恐々としているという話も伝え聞いている)。
ただ実際の話、右ハンドルでもウインカーレバーが左側にある輸入車は、MTになるとシフトレバーもクラッチペダルも左側にあって、運転の動作が左側に集中して煩雑な思いをさせられることが多々ある。シフトワークだって、Hパターンというのは左側からのほうが操作しやすいつくりになっているし、多くの人にとって利き腕である右手のほうが操作しやすい。
また、左ハンのほうが、フットペダルのレイアウトもより自然になる。MTは左ハンドルのほうがいいというのは、単なるこだわりや好きモノのタワゴトではなく、実は非常に理にかなった話。筆者もそれには同感する。一度、左ハン+MTを味わうと、MTは左ハンで乗りたくなる気持ちはよくわかる。
そんなプジョー スポールを拝借。さっそくツインリンクもてぎの本コースではなく広場の南コースに設定された特設コースと、一般道に状況の近い構内路でドライブした。
エンジンは期待どおりパワフルだがルノー スポールとの違いも明確
270PS仕様で0-100km/h加速が6秒ジャストというと、前輪駆動でシフトチェンジを自力で行なうクルマとしてはかなりのもので、実際も相当に速く感じる。270PS仕様のほうが中~高回転域にかけての吹け上がりが痛快な印象。一方の250PS仕様でも十分に速さを味わえるし、低~中速域で扱いやすい。
締め上げられた足まわりも、このクルマの醍醐味だが、あくまでプジョーらしい。引き締まったなかにもしなやかさを感じさせる。ここは、FFの市販車最速を目標に開発されたルノー メガーヌRSとはやや性格が異なる部分といえるだろう。また、メガーヌRSは、目標を達成すべく、前輪のトラクションをより高めるためにフロントサスペンションを量販モデルからまるごと作り変えているのに対し、308 GTi by PEUGEOT SPORTはそのまま。これは、現行308の新型プラットフォームの実力が十分に高いので、作り分けなくても大丈夫という判断があったようだ。
トルセンLSDを持つ270PS仕様は、コーナリングの立ち上がりでアクセルを踏み込むと、ご覧のような滑りやすい路面でもあまりスリップせず前に進む。動きにはややクセがあり、それを掴むまでは予想外の方向に進むことも多いFFのLSD付き車だが、コツをつかむとFFでもこんなに楽しく走れるのかと思うほどだ。そしてやはり、左ハン+MTの楽しさをあらためて実感した次第である。
価格に対してのコストパフォーマンスはどちらも高い
270PS仕様と250PS仕様の間には約50万円の価格差があり、これほど違って50万円なら270PS仕様を選んで当然という見方もできるし、250PS仕様でもこのクルマの醍醐味は十分に味わえるという見方もできるが、いずれにしても楽しいクルマであることには違いない。
そんなプジョー 308GTi by PEUGEOT SPORT、維持費も高くないことだし、こんなクルマと過ごす休日、きっと楽しいはず。コアなホットハッチファンはもちろん、MTで左ハンとなれば、家族持ちの人が所有するのはかなりハードルが高いだろうから、独身のクルマ好きの人は、乗れるのはいましかないと思って、検討してみてはいかがだろうか?
【URL】
プジョー http://www.peugeot.co.jp/
308 GTi by PEUGEOT SPORT http://www.peugeot.co.jp/showroom/308/gti-by-peugeot-sport/
撮影/宮門秀行