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2019/2/17 19:30

西武の新型特急 001系「ラビュー」に様々な角度から迫る

新型車両おもしろレポート 〜〜西武鉄道001系Laview〜〜

 

3月16日から西武鉄道の新型特急001系が走り始める。レッドアローの名で親しまれてきた西武特急が「Laview(ラビュー)」と愛称を一新。大胆なスタイルを採用、新しい時代へ進む西武鉄道の“意欲”を強くアピールするかのようだ。

 

車両基地内で接し、短時間ながら試乗する機会を得た。001系とはどのような車両なのだろう? さまざまな角度から新型特急の個性的な姿に迫ってみたい。

↑新型「Laview」の車内から車窓を写す。座席に使われる黄色ベースといえば、西武鉄道の伝統的な車体カラー、イエローに近い。それにしても、この広々したガラス窓は鉄道好き、旅好きにはたまらない大きさだ

 

【西武特急の歴史】受け継がれてきたレッドアロー号の系譜

新しい特急電車を紹介する前に、西武鉄道がこれまで走らせてきた特急電車を簡単に紹介しておこう。

 

◇西武鉄道5000系レッドアロー 1969(昭和44)年10月14日誕生

5000系は西武鉄道が初めて走らせた特急形車両で、レッドアロー(Red Arrow)という愛称が付けられた。1970年度には鉄道友の会のブルーリボン賞も授賞している。西武秩父線の開業に合わせて誕生した特急だった。

 

同時期に誕生した101系という高性能電車とともに、西武鉄道の新たな時代の到来を予感させた。

↑西武鉄道5000系(写真左)は1995(平成7)年に引退した。現在は2両が保存され、そのうち1両が、横瀬車両基地で行われるイベントなどで公開されている。5000系は、一部車両が富山地方鉄道に移籍し、現在も特急アルプス号などの列車に使われている

 

◇西武鉄道10000系ニューレッドアロー 1993(平成5)年12月6日誕生

2代目の西武特急として誕生したのが現行の10000系電車だ。「ニューレッドアロー」の愛称が付けられた。大半の編成がグレー系で塗装されているが、10105編成は「レッドアロー・クラシック」として5000系でおなじみだった車体カラーに変更されている。

↑西武秩父線を走る10000系ニューレッドアロー。西武池袋線・西武秩父線では特急「ちちぶ」や「むさし」。西武新宿線では「小江戸(こえど)」として活躍している

 

5000系が生まれて24年たち、後継車両の10000系が登場した。さらに10000系が登場してから、昨年で25年たった。ほぼ四半世紀ごとに西武特急の代替わりが行われてきた。

 

そしてこの春、満を持して登場しようとしているのが001系である。ちなみに10000系が7両編成(編成定員406人)なのに対して新型の001系は8両編成(編成定員422人)として定員数を増やす役割もある。車両編成を増やしたことに合わせて、一部の駅ではホームの延長工事も行われた。

 

【新特急の誕生①】昨年の秋に愛称と車両の一部姿が公開された

西武鉄道の新型特急001系をデビューさせるにあたり、早くから慎重に準備が行われていった。新型特急は次の100年に向けて西武鉄道のフラッグシップトレインと位置づけられ、プランニング、デザイン、そして車両製作が進められていった。

 

通常、新車の発表といえば、車両ができ上がり、走り始める前に車両基地などでお披露目をする例が多い。ところが、今回は2016年3月に新型特急の導入を発表。さらに昨年秋には報道陣向けに、新型特急の発表会見を開いている。西武鉄道の力の入れようが並みではないことが窺えた。

↑2018年10月29日、東京プリンスホテルで「新型特急車両発表会見」が開かれた。登壇したのは右から後藤高志西武鉄道取締役会長(右から)、女優の土屋太鳳さん、建築家の妹島和世氏、若林久西武鉄道代用取締役社長

 

新型特急の基本デザインを監修したのは建築家の妹島和世(せじまかずよ)氏。多くの建築デザインを担当し、内外の賞を数多く受賞している。とはいえ、鉄道車両をデザインしたは初めてのことだった。

 

鉄道車両のデザインといえば、男性デザイナーの作が多い。女性のデザイナーが中心となってプランニングされた例はほとんどない。革命的なできごとと言っていいだろう。

 

愛称は西武特急の代名詞ともなっていた「レッドアロー」の名は引き継がず、「Laview(ラビュー)」と一新された。Laviewの「L」は贅沢(Luxery)なリビング(Living)のような空間を指す、さらに「a」は矢(arrow)のような速達性。「view」は大きな窓から移りゆく眺望(view)を指す。

 

昨秋の会見時には、新型特急のデザインもわずかながら発表された。ただ、車両の一部のみだったこともあり、「実際にはどのような電車なのだろう?」と興味を持つ人が増え、注目度が高まっていった。

 

【新特急の誕生②】年末からは車両の試運転も始められた

秋の会見があった1日前の10月28日に、最初の編成が山口県の日立製作所笠戸事業所から西武鉄道の小手指(こてさし)車両基地に運ばれている。西武沿線には少しでも早く車両を一目見たいという鉄道ファンが集った。

↑車両工場からはこのように車両の形が見えないようにカバーで覆われた姿で送られてくる。写真は2019年の2月3日にあった001系2編成目の輸送シーン

 

昨年10月に新型車両が輸送され、整備が重ねられた。2018年の暮れからは西武の路線で001系の試運転が始められた。もちろん多くの鉄道ファンが沿線に集まったのは言うまでもない。

↑西武池袋線を走る001系試運転列車。写真は2018年12月28日のもの。年末ぎりぎりまで試運転が続けられた

 

↑年明けからは西武豊島線や西武狭山線、そして西武新宿線(写真)といった路線の試運転も盛んに行われている。なお西武新宿線での特急運行はしばらくの間、これまでどおり10000系で続けられる予定だ

 

物珍しさもあって筆者も何回か沿線を走る試運転電車の撮影に出かけた。電車を待つうち、多くの人から話しかけられた。沿線に住む人たちの新型特急への関心の高さが感じられた。

 

「新しい特急、どうですか?」と聞いてみる。すると反応は多様そのものだった。

 

女性や若い世代からは好意的な意見が聞かれた。一方で西武沿線に長年住むという50歳代〜70歳代らしき男性数人からは、「うーん、微妙」「ちょっとなあ」といった声がちらほら出てきた。

 

レッドアローに長年、親しんできたこともあるのだろう。ユニークなスタイルにまだ馴染めないという層があるのかもしれない。筆者も西武沿線で育ったこともあり、「どうかなあ?」と思う1人であった。

 

 

【新特急の誕生③】見る角度で大きく変る新特急の“顔の印象”

「西武グループの象徴となる、世界に通じる『洗練』されたデザイン」。「西武沿線の自然の持つやさしさだけでなく、都会的なスタイリッシュさをあわせもつデザイン」。

 

これが001系の新デザインに対して、西武鉄道が求めたポイントだった。試運転されていた時に撮影した001系の写真を整理していて薄々感じていたこと。それは、この新型特急が見る角度で大きく印象が異なることだった。

 

通常の鉄道車両は、見る角度で印象が大きく変わる車両は少ないように感じる。一目みればイメージがつかめるという車両が多いなか、001系の“顔”はこれまでの車両とは一線を画している。ここからは写真を中心に紹介していく。読者に最終的な判断はお任せしたい。

 

2月14日に小手指車両基地で行われた報道公開および試乗会の写真を中心にお届け。また車両の細部の特徴は、写真解説として加えることにした。

↑まずはプロフィール写真用の角度から撮った001系。車体はアルミ素材で、シルバーの塗装が施されている。正面窓は楕円形で国内初の三次元、曲面ガラスが採用された

 

上記は、車両のプロフィール写真として使われるごく一般的な角度から写したものだ。角度を変えて撮ると、この車両の印象が大きく変わっていく。

 

↑上の写真と同位置でやや下側から撮影する。スピード感がより感じられるようになった。正面のガラス窓がよりカッコ良く写り、また車体側面のガラス窓の大きさも際立って見えた

 

↑さらに下側から見上げて先頭をクローズアップ。ちょっとドヤ顔になったイメージ? 楕円型をした正面のガラス窓と対して運転室横のガラス窓は正方形。デザインの対比がおもしろい

 

↑正面からも対比してみた。これまでの西武特急には貫通扉がなかったが、001系は西武特急で初の貫通扉装着車となった。将来、地下鉄路線への乗り入れを考慮した布石かと思われる。やや角度を振って見上げると、印象が様変わりした

 

ここまで見てくると、やはり001系は楕円形をした正面のガラス窓が印象的で、インパクトが強いことがわかる。さらにこだわって見ていくと。

 

↑横から正面のガラス窓をアップで写す。この曲面ガラス。そのまま広げると直径3mの真円になるそうだ。ガラス窓の右下には特急名を表示するLED表示器が付く。なお表示器は640分の1のシャッター速度で撮影が可能だった

 

↑この角度から写すと運転室の先が丸く出ていることがわかる。車体にはわすかにだが、隣に停められていた10000系レッドアロー・クラシック車両の色が写り込んでいる。西武秩父線のように緑が多いところではどのような色の反射が見られるか興味深い

 

↑ガラス窓の上部には前照灯が付く。通常は使われないが写真のように「スマイルモード」での点灯も可能に。スマイルモードでは前照灯の上に“まつげ”のような上部のみが点灯される。いわば前照灯に“遊びモード”も隠されているわけだ

 

走り始めてからは、車両基地で撮影する時に車両に密着しての写真はもちろん難しいだろう。とはいうものの、写真を撮られる時には角度でこれほど変わるということを頭において、チャレンジしていただいてもよろしいかと思う。

 

 

【新特急の誕生④】愛称「Laview」や車両番号はさりげなく

次は車体の側面に注目、さらに乗車することにしよう。まずは車体の側面のポイントから。

 

側面の第一印象はとにかくガラス窓が大きいことだった。ガラス窓の標準サイズはタテ1.35m、ヨコ1.58m。車体を横から見ると、外からも家庭のリビングのような印象がある。「Laview」という001系の愛称の中で大きなウェートを占める「リビング(Living)」の意味がここで結びつくように感じた。

↑001系の車体側面を見る。写真のようにとにかくガラス窓が大きい。ガラス窓の上と下の天地スペースがほぼ同じだ。このような車両はたぶん001系が初めてではないだろうか

 

ところで001系の車両番号はどこに付いているのだろう。通常、多くの車両が車両の側面のほぼ中央、そして下に記されている例が多いのだが、001系の車両番号は車両端の上部にさりげなく記されている。

 

上の写真の3号車ならば「001-A3」。下の写真の1号車ならば「001-A1」という具合だ。加えて「Labiew」という愛称も小さめにさりげなく付けられている。

 

車両番号の「A」はどのような意味を持つのだろう? このAとは001系のA編成、つまり第1編成を意味する。以降の001系はB編成、C編成といった編成名が付けられていく。西武鉄道で編成名をアルファベットにしたのは始めてだそうだ。何から何まで新しい、それが001系だった。

 

↑車体側面に付く「Laview」の愛称と、車両番号「001-A1」の文字。001-A1とは001系のA編成の1号車を意味する。さりげない表示の仕方も001系の特徴となっている

【新特急の誕生⑤】座席カラーの黄色は決して派手ではなかった

さて、001系に乗車する。すぐに驚いてしまった。

 

乗降口から入ったエントランスのカラーは黄色。さらに座席の色は黄色がベース。昨秋に行われた記者会見で座席は黄色ということを見聞きして知ってはいたものの、華やか過ぎるのではと、筆者はふと思うのだった。

 

だが、思い起こすと半世紀前にすでに似たような“変化”が西武鉄道にはあった。

↑車内の壁と天井はホワイト。黄色をベースとした4列シートが並ぶ。黄色という座席のカラーを採り入れたことが活き、車内は明るいイメージとなっている

 

↑座席は腰を包み込むようなつくり。全席がコンセント付き、また折り畳み式の小テーブルが用意される。テーブル上にカップも置けるが、前の座席にも飲み物入れが付く。可動枕は座席上までスライドできる。シート横にリクライニング用の操作ボタンが付く

 

↑1号車には車椅子スペースが設けられる。大きく余裕をもって造られたスペースで、左下写真のように反対側から見るとロビーのような広々、寛げる空間となっている

 

1969(昭和44)年に西武鉄道は車両カラーの大変革を行った。それまでの西武鉄道の電車は“赤電塗装”と呼ばれる赤とベージュの2色だった。今で言えば“地味め”な色だった。そこに黄色にベージュという当時としてはざん新な車体カラーの新型101系を投入した。

 

その後の西武鉄道の車両は新101系、2000系、3000系、9000系と黄色の車体カラーで統一されていく。近年の西武鉄道には多彩な車体カラーの車両が走っているが、赤電から変わる当初は、かなりの驚きをもって迎えられた。幼い時の筆者が思ったように。

 

でも、慣れるにしたがって、明るくていいな、となっていった。明るい鉄道会社のイメージを造り出すため黄色い車体カラーが一役かっていたように思える。

 

↑小手指車両基地には黄色い2000系や9000系にはさまれ001系の2番目の車両・B編成が停まっていた。西武鉄道の通勤形車両には今も黄色い車体を持つ車両が多く残る

 

 

【新特急の誕生⑥】エントランスの丸みなどおもしろ発見が続々と

このほかにも車内での“おもしろ発見”は尽きない。いくつかの例を写真で見ていこう。

 

↑エントランス部分から連結器部分に向けてのデザイン。天井を含め丸みを帯びた構造で、ここが列車の中とは思えないほどだった。エントランスも黄色を基調としている

 

↑左はベビーチェアやベビーベッドを用意した多目的トイレ、右はパウダールーム。パウダールームには人目を気にしなくとも良いように、仕切り用のカーテンが付けられる

 

思わず1号車から8号車まで探険したくなるような造り。短い時間ではとても巡りきれなかった、そんな新型特急だった。

 

ところで試乗してみて乗り心地はどうだろう?

 

小手指車両基地から池袋駅までの30分ほどだったこともあり、また設計最高速度の120km/hに近いスピードで走る区間がなく、本来の性能に接する機会は残念ながらなかった。とはいうものの、現在の10000系に比べてモーター音は抑えられ、非常に静か。乗り心地も穏やかという印象だった。

↑車両端に設けられたLCD画面表示器。行先案内や沿線の駅案内などは日・英・中・韓の4カ国語に対応。車内の案内なども細かい表示が行われる

 

 

【新特急の誕生⑦】3月16日以降、どのような運用となるのか?

3月16日の西武鉄道のダイヤ改正に合わせて登場する新型特急001系。まずはどのような運用が行われるのだろう。A編成8両のみが運用に入る予定だ。

 

平日下り5本、上り6本(池袋〜西武秩父間3往復、池袋〜飯能間2.5往復)
休日下り5本、上り5本(池袋〜西武秩父3往復、池袋〜飯能2往復)

 

詳しい時間は下記のダイヤを参照していただきたい。なお新型特急の導入以降もありがたいことに特急料金の変更はない。

 

また運行される前に3月2日(土曜)・3日(日曜)は西武球場前でお披露目イベントを開催の予定。また2月19日(火曜)〜3月18日(月曜)は所沢駅構内コンコースに「Laview」特設ブースが設置される予定だ。

↑客席最前部から運転室の内部を見る。客席との間を仕切るガラス窓が広々していて、最前部の席からは車両最前部を見ることが可能だ。夜間やトンネル内に入ると、自動的に光をシャットアウト。列車の運転に支障が出ないような仕様となっている

 

なお2019年度中には西武池袋線・西武秩父線での運行される特急はすべてが001系に変更される予定となっている。10000系が残るのは西武新宿線のみとなる。同路線では本川越駅のホームが現状の10000系7両のみに対応できる長さとなっていて、同駅のホームの改良工事をされるのを待って001系の導入されることになりそうだ。

 

これまでとは大きく異なる新型特急001系「Laview」。ぜひとも新時代の特急の姿を自らの目で確かめ、そのおもしろさを体感していただけたらと思う。

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