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2021/4/1 18:30

歴代ロマンスカーが揃う小田急新ミュージアムの名車たちに迫る!!【前編】

〜〜4月19日、海老名にロマンスカーミュージアムが開業【前編】〜〜

2021年4月19日、海老名駅前に歴代のロマンスカーを展示保存した「ロマンスカーミュージアム」がオープンする。お披露目となる前に訪れたが、小田急電鉄の“ロマンスカー愛”が強く感じられる施設だった。2回にわたって、こだわりの展示内容と、個々の保存車両について迫っていく。

 

【はじめに】なぜ4月19日(月)にオープンとなったのだろう?

4月19日(月)、小田急電鉄の「ロマンスカーミュージアム」が開業する。場所は神奈川県・海老名駅。駅のほぼ構内にあり、エントランスは東口と西口を結ぶ海老名駅自由通路に面している。小田急電鉄としては初めての鉄道ミュージアムで、構想およそ10年の歳月を経てのオープンとなる。

 

週末ではなく月曜日にオープンするのは、新型コロナウイルスの感染症対策として、入場者が殺到しないようにとの配慮だ。さらに当面の間は、日時指定、完全予約制での入館システムとなる。予約開始は4月1日12時から。予約方法はロマンスカーミュージアムのWEBサイトで紹介されているので、そちらを参照していただきたい。

 

【ロマンスカーミュージアム公式HPはこちら

 

↑海老名駅自由通路に面してエントランス(2階)が。入口にはミュージアムカフェが設けられ電車を見ながら、ひと休みできる

 

さて、4月19日という日程にした理由を担当者に聞いてみたところ、「ビナウォーク(ViNAWALK)の開業記念日に合わせました」とのこと。ビナウォークとは、東口駅前に広がる複合商業施設で、小田急電鉄の関連会社が2002(平成14)年4月19日に開業させた。公園を取り巻くように複数の店舗棟が建ち、多くの人で賑わっている。同施設の開業後に、海老名駅の西口側も大規模開発されるなど、駅前開発の起爆剤になった施設だ。

 

ビナウォークの記念日に合わせて誕生する「ロマンスカーミュージアム」も、新たな海老名の人気スポットとなりそうである。

↑ロマンスカーギャラリー(1階)に並ぶ歴代ロマンスカー。細部まで含め見てまわれば多くの発見があり、見ごたえたっぷりだ(詳細後述)

 

「ロマンスカーミュージアム」はおよそ4つの展示ゾーンに分かれる。1階は「ヒストリーシアター」と「ロマンスカーギャラリー」、2階には「ジオラマパーク」と「キッズロマンスカーパーク」がある。

 

それぞれの展示内容はよく練られていて、非常に奥深い。鉄道好きが訪れたとしたら、もう時間を忘れて、見入ってしまうだろう。それぐらい、中身の濃いミュージアムに仕上げられている。前編では、ミュージアムの骨格となる「ロマンスカーギャラリー」に保存される車両の紹介と、展示の魅力を探ってみたい。

 

【展示車両その①】日本の高速列車の草分けとなった名車両

ロマンスカーミュージアムのメインとなる展示がロマンスカーギャラリーだ。まるで美術館のように趣ある造りで、間接照明により展示された車両が光り輝く。ここには歴代のロマンスカー5車種、10両が展示される。すでに小田急路線を走らない引退車両のみ。かつて、小田急の路線を華やかに彩った名車両に対面でき、しかも至近で見ることができる。

 

大半の車両は、車内へ入ることができる(入れる箇所に一部制限あり)。車両内外を見ると、それぞれのロマンスカーが生まれた背景が透けてくるかのようだ。まさにロマンスカーを通して、時代そのものが見えてくる。保存される1車両ずつ、誕生したころの時代背景と、展示される車両の気になった特徴を見ていこう。まずはSE(3000形)から。

 

◆小田急電鉄SE(3000形)◆

↑SE(3000形)はロマンスカー最初の車両。登場時の姿を殘す正面には「乙女」のヘッドマークが付く。右下は海老名駅構内で保存していた時の姿

 

まずはSE(3000形)。丸みを帯びた正面デザインの車両が3両編成で展示される。こちらのSE(3000形)は、小田急初のロマンスカーとして登場した。ちなみにSEとは「Super Express」を略した愛称だ。

 

生まれたのは1957(昭和32)年のこと。太平洋戦争の痛手も癒え、レジャーにも関心を持つ余裕が生まれてきたころに誕生した。このころから鉄道各社も、観光用の車両作りを本格化し始める。SE車は小田急と国鉄が共同開発して誕生させた特急用車両で、当時としては画期的な技術が盛り込まれていた。

 

国鉄の技術協力を得たこともあり、誕生した1957年には東海道本線で運転試験が行われた。そして、当時の狭軌世界記録・最高時速145kmを達成している。SE(3000形)の誕生は、小田急の電車開発だけではなく、日本の鉄道車両技術を高めることにも結びついた。その後、東京と大阪を結んだ特急「こだま」に使われた特急形電車20系(その後の151系・181系)の製造や、新幹線0系にも、SE(3000形)の技術が活かされている。そのためSE車は「新幹線のルーツ」、または「超高速鉄道のパイオニア」とまで呼ばれた。鉄道友の会が設けたブルーリボン賞の、第1回受賞車両でもある。

 

◇表と裏の顔が違うがさて?

ロマンスカーギャラリーに展示されるSE(3000形)は、表と裏の顔が異なる。表は、なめらかな正面デザインが誕生したころの姿だ(1993年に復元)。一方、反対側の正面には、大きな前照灯があり、連結器用の大きなカバー、そして「あさぎり」というヘッドマークが付けられている。こちらは1968(昭和43)年、国鉄の御殿場線の電化に合わせ、乗り入れ用に改造された姿だ。それまで8両で運行されていたが、改造され5両と短くされた。愛称もSSE(Short Super Express)と小改訂されている。

↑国鉄御殿場線への乗り入れ用に改造された正面デザイン。車体側面には「新宿←→御殿場」というサボ(行先標)が付けられている

 

その一方で、2編成が連結して走れるように連結器がつけられた。形は変わったものの、こちらの正面デザインもなかなか味わいがある。ちなみにSE(3000形)は1992年に引退したが、その後に、海老名駅の構内に設けられた専用保存庫により、30年にわたり保存されていたが、今回、晴れて公開となった。

 

車内の特徴は写真を見ていただきたい。連結器部分などの造りなど、なかなかおもしろい。

↑入場できるのは一部通路のみ。写真は通路からみたSE(3000形)の車内。エンジ色の座席で、窓の造りやカーテンなどに時代を感じさせる

 

↑連結器部分の造り。3000形は連接車のため、この下に台車がある。丸い渡り板部分の構造が面白い。他の小田急連接車とは異なる造りだ

 

【展示車両その②】ロマンスカー初!最前部に展望席を設けた車両

◆小田急電鉄NSE(3100形)◆

↑丸みを帯びたデザインのNSE(3100形)。小田急初の先頭部分に展望席を設けたロマンスカーとして大人気となった

 

ロマンスカーの2世代目として生まれたのがNSE(3100形)だ。NSEとは「New Super Express」という意味を持つ。SE車が非常な人気となり、週末には乗り切れない状態が続いた。そのために、新たに造られたロマンスカーだった。

 

外観から見てもわかるように、この車両から先頭部分に展望席、2階に運転席を設けている。SE車が、軽量化に主眼をおかれて開発されたのに対し、NSE車は、デラックス、快適、安全、高速走行といった要素を重視して開発された。1963(昭和38)年に登場すると、たちまち人気列車となった。展望席を設けた“ロマンスカーらしさ”は、この車両によって生み出された。また、現在では多くの鉄道会社に取り入れられている着席通勤特急の先駆けとして運用されたのも、この車両からだった。

 

その後の展望席を設けたロマンスカーの伝統の礎になった車両であり、現在のVSE(50000形)やGSE(70000形)にもその伝統が活かされている。

 

ちなみに先頭車に展望席を設け、運転台を2階に設置した車両は、名古屋鉄道(以下「名鉄」)の7000系パノラマカーが国内初だった。現在、名鉄ではこうした形状の車両は用意しておらず、先頭車に展望席があり、運転席は2階という形状は、いまや小田急ロマンスカーの定番スタイルともなっている。

 

◇連結器部分の渡り板の違いや、車掌室の造りが興味深い

↑NSE車はより照明の明るさが増している。保存されるSE車は更新した車内のため、違いは明確でないが、SE車誕生時はより暗めだったとされる

 

↑NSE車の連結器部分。SE車と異なり台形の渡り板が使われる。同部分の左には車掌室(左囲み)がある。半透明の扉が時代を感じさせる

 

ロマンスカーミュージアムに保存されるNSE(3100形)は3両。前のヘッドマークは「えのしま」、後ろには「さようなら3100形(NSE)」という、さよなら運転が行われた時のヘッドマークが装着されている。同車両も、SE車と同じく、一部通路に入ることができる。入ると、目の前に車掌室があり、扉は半透明で中がよく見える。

 

今回、展示される車両のほとんどが、現役時の装備そのままで保存されていることが興味深い。車掌室内の機器類も残されていて、思わず見入ってしまう。SE車もNSE車も連接車ながら、SE車は連結器部分に丸い渡り板が使われているのに対して、NSE車は台形の渡り板が使われている。このあたり、使いやすさを考慮した結果の、進化した姿なのだろう。

 

【展示車両その③】ごく最近まで走ったロマンスカー3世代目

◆小田急電鉄LSE(7000形)◆

↑1両のみ保存されるLSE(7000形)。横に並ぶNSE(3100形)に比べるとデザインがより滑らかになったことがわかる

 

ロマンスカーギャラリーではSE(3000形)、NSE(3100形)と並んで展示されるのがLSE(7000形)だ。LSEは「Luxury Super Express」の略。居住性の良さが追求され、デザインも、その愛称のように、より洗練されたイメージとなった。誕生は1980(昭和55)年のこと、SE(3000形)の置き換え用として投入された。ロマンスカーとしては3世代目にあたる。先輩にあたるSE車や、NSE車に比べて勾配の登坂能力が向上し、箱根登山鉄道の急勾配もラクに走れるように改善されている。

 

このLSEは最近まで走っていたこともあり、乗った、また見たという方が多いのではないだろうか。じつはLSE車のあとに、2形式のロマンスカーが生まれている。この2形式に比べて“長生き”したロマンスカーであり、引退したのはごく最近の2018年7月のことだった。

 

◇この車両のみは車内は非公開に

LSE車の保存は先頭1両のみ。展示される5車種のうち、LSE車のみ車両内が非公開とされた。ちょっと残念なところだ。ちなみに同車両は11両編成。計44両が長年にわたり走り続けた、ロマンスカーの中でもご長寿車両である。

 

【展示車両その④】ハイデッカー車らしい景色の良さが魅力だった

◆小田急電鉄HiSE(10000形)◆

↑ワインレッドの塗装で人気だったHiSE(10000形)。人気だったものの、四半世紀で引退となった、ちょっと残念な車両でもあった

 

オレンジベースだったロマンスカーのイメージを大きく変えたのが、このHiSE(10000形)である。新しい時代を走るロマンスカーとして、ワインレッドを基調にしたカラーで登場した。登場したのは1987(昭和62)年のこと。床の高さを上げて景色がよく見えるようにと、ハイデッカー構造とした。

 

登場時には、他社でもハイデッカー構造にした観光列車が多く現れている。当時の観光列車の多くに採用されたスタイルだった。愛称のHiSEは「High Super Express」の略。この愛称のように展望席や、連接構造、運転制御など、車両技術も成熟した構造だったこともあり、その完成度の高さから、運転士にも人気の車両だったとされる。1987(昭和62)年に登場し、11両×4編成が製造された。

 

人気だったのにもかかわらず、引退は早く2012(平成24)年3月のこと。2000(平成12)年に交通バリアフリー法が施行され、車両更新する際にはバリアフリー化が義務化された。HiSE(10000形)は高床構造を採用したため、更新時のバリアフリー化が難しいと判断され、引退を余儀なくされた。その後、一部の車両が長野電鉄に引き取られ、長野電鉄1000系「ゆけむり」となり、今もワインレッドの登場時の姿で信濃路を走り続けている。

 

◇目の前で連接台車が見ることができる展示方法が何とも楽しい

↑HiSEの展望席スペース。赤青異なる座席が配置されていた。上にある運転室の写真も展示。運転室は意外に広かったことがわかる

 

↑通路側に階段がある高床構造だった。この階段があることでバリアフリー化が適わず、早めの引退となってしまったわけだ

 

ミュージアムでHiSEは先頭車1両のみの展示となる。車内には入ることが可能で、着席もできる。2000年当時に取り入れられた交通バリアフリー法は、今ならば、このぐらいの階段は大丈夫なのではと思われるが、厳密に可否が判断されたようだ。今も2階建て車両などが走る路線があるわけで、なぜHiSEが早めの引退を余儀なくされたのか、少し不思議に感じた。

 

今回の展示では、1両のみということもあり、連接車ならではの特徴を見ることができる。連結器部分の下にある台車を覆うものもなく、直に見ることができるのだ。連接台車が、こうやって一般の人の目に触れるということも希少なことであろう。メカニカルな台車でなかなか味わいがある。

↑HiSEの連接台車。住友金属製のFS533Aという台車で、その構造がよくわかる

 

【展示車両その⑤】御殿場線乗り入れ用の車両として生まれた

◆小田急電鉄RSE(20000形)◆

↑RSE(20000形)は先頭車と2階建て車両の2両を保存。先頭車はトップナンバーの20001(右下)が展示保存される

 

展示される5車両目はRSE(20000形)。愛称のRSEは「Resort Super Express」の略である。RSEは御殿場線乗り入れ用として1991(平成3)年に造られた。JR東海では同じ仕様の371系を製造し、相互乗り入れを行う形がとられた。371系と同じ仕様としたこともあり、ロマンスカーとしては初めて、連接構造をやめて通常の台車2つの姿に、また展望席を設けない構造とした。一方で、初の2階建て車両を連結し、テレビ付きシートや、グループ利用を念頭にした個室などの特別席を設けた。富士山の麓を走る列車ということで、愛称にもリゾートという名前を付けた車両だった。

 

このRSE(20000形)も登場当初は人気だったものの、引退は予想外に早く2012(平成24)年3月に最終運転が行われている。走った期間は21年と、鉄道車両としては“短命”だった。その理由としてはHiSE(10000形)とともに、バリアフリー化に不向きだったこと。また、登場当時はバブル期だったため、個室の造りなどが豪華で、その後の利用者増に結びつかなかったためとも言われている。

 

短命に終わったRSE(20000形)だが、引退後に、一部の車両が富士急行に引き継がれ、8000系「フジサン特急」として走り続けている。小田急での現役当時は静岡県側から富士山を見て走ったが、小田急引退後の今は、山梨県側から富士山を眺めて走り続けている。

 

◇サービスコーナーのレンジや冷蔵庫もそのままで

↑広々したRSE(20000形)の運転室。運転室内は入れないが客室からの見学が可能。一番前の座席が展望に優れていたことが分かる

 

RSE(20000形)の展示車両は先頭車に加えて2階建て車両の2両で、この2両は運転室や、2階建て車両の客室などを除き、車内へ入ることができる。1991年の製造ということもあり、それほど古さは感じさせない。先頭車の車内は運転室の後ろまで入ることができ、運転室の中がよく見渡せる。

 

さらに車内には、飲み物などを用意するためサービスコーナーがある。このコーナーは現役時代のままの姿で残されている。そこには電子レンジや、業務用の冷蔵庫も残る。また、カウンターの後ろには「焼酎お湯割り始めました!!」というPR用ポスターが貼ったままだ。ミュージアムの車両というと、こうした運転に関係ない機器類は、外されている場合が多い。ましてやPR用のポスターともなると普通ははがすのではないだろうか。

 

しかし、今回開業する「ロマンスカーミュージアム」では、こうしたロマンスカーが走った時代を感じさせるいろいろな品々まで、そのまま残して見せている。これまでの鉄道ミュージアムにはなかった、時代背景そのものを、ロマンスカーを通して見せようという姿勢に、とても好感が持てた。

↑2階建て車両のグリーン席は横3列の座席配置。豪華さが感じられる。足元の幅、シートピッチも1000mmと格段に広い造りだった

 

↑車内販売のベースだったサービスコーナー。業務用の冷蔵庫やレンジなど現役当時そのまま。PR用のポスターもあり今にも走り出しそう

 

 

※【後編】ではヒストリーシアターなど「ロマンスカーミュージアム」でのその他の見どころ満載でお届けする予定です。お楽しみに。

 

【ロマンスカーミュージアム】

◆営業概要◆

○営業時間:10〜18時(最終入館17時30分)※季節により変動の可能性あり

○料金: 大人(中学生以上)900円、子ども(小学生)400円、幼児(3歳以上)100円
※3歳未満は無料
※一部別途料金のかかるコンテンツがあり

○休館日:第2・第4火曜日
※別途休館日を設ける場合あり

○問い合わせ:TEL046-233-0909(受付時間10〜18時)
※開業前は平日のみ

○予約受付:公式HPで受付
※1か月先まで予約可能

【公式HPはこちら