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2022/9/10 21:00

アドベンチャー気分を満喫!「青梅線」ワイルドな旅〈後編〉

【青梅線はワイルド⑤】駅から徒歩3分でカヌーが楽しめる

軍畑駅の一つ先が沢井駅。こちらはお酒好きにお勧めの駅だ。駅の南側を多摩川方面に降りて行くと、小澤酒造という蔵元がある。創業300年以上の歴史がある酒蔵で、生酛造りという伝統的な製法で日本酒を製造している。代表的な銘柄「澤乃井」は東京の地酒としても良く知られている。「澤乃井園」という多摩川を見下ろす軽食・売店コーナー、きき酒処もあり、土産購入にも最適な施設だ。

 

沢井駅の次の駅が御嶽駅(みたけえき)だ。この駅で下車する観光客やハイカーも多い。御岳山へ登るケーブルカー・御岳登山鉄道の山麓駅近く、ケーブル下行のバスが発車するほか、駅近くに玉堂(ぎょくどう)美術館などの観光施設がある。

↑唐破風(からはふ)の玄関屋根が特長の御嶽駅。ホームの屋根の骨組みには1900年代初頭の古いレールが使われる(左下)

 

御嶽駅をおりて、駅前を散歩してみる。ちょうど駅を降りた下の交差点がT字路になっていて、青梅街道と都道201号線が合流する。この都道側を行くとすぐのところに多摩川が流れ、御岳橋が架かる。

 

橋の上から川面を見下ろすと、カヌーを楽しむ人たちが複数人いた。駅のすぐそばにカヌー、カヤック、ラフティング、SUP(ハワイ生まれのStand Up Paddle boardの略)が楽しめる「コンセプト・リバーハウス」という施設があり、そちらで楽しんでいる人たちだった。駅から徒歩3分で、アウトドアスポーツが楽しめるというのだから、東京都内とは思えない。橋の上から見るだけだったが、すっかり涼味をいただいた。

↑御嶽駅から徒歩3分の多摩川のポイントでカヌーに興じる人たち。スクール指導も行われ、安全に楽しむことができる

 

御嶽駅で忘れてはいけないのは御岳山であろう。駅前を通る青梅街道沿いに西東京バスの御岳駅バス停があり、そこから10分でケーブル下停留所へ。そこから徒歩で5分ほど歩けば山麓駅にあたる御岳登山鉄道の滝本駅がある。ケーブルカーに乗車して6分で御岳山駅に到着する。

 

御岳山は山岳信仰の対象となっている山で標高は929m。山上には武蔵御嶽神社がある。御岳登山鉄道の終点、御岳山駅から神社までは徒歩で25分ほどかかる。御岳山を起点にして、周りの大岳山などを巡るハイカーも多い。ちなみに御岳山の中を都道201号線が通っているが、こちらの道は許可を受けた人のみしか通行ができない。

 

東京都内では高尾山とならぶ山岳信仰の霊場とされ、中心となる武蔵御嶽神社の創建は紀元前とされる。ちなみに、御岳登山鉄道も高尾山でケーブルカーやリフトを運行する高尾登山電鉄も京王グループの一員である。都内でケーブルカーはこの2社のみだが、両社とも京王の関連会社というところも興味深い。

↑青梅街道沿いにある西東京バスの御岳駅バス停(左上)。バスが着くケーブル下から御岳登山鉄道の滝本駅まで5分ほど歩く

 

多くのスポットがある御嶽駅だが、筆者が訪れた時には、駅近くで地元の農家が山葵(わさび)の販売をしていた。御岳付近は山葵栽培が盛んな地域。筆者が訪れたのは7月だったが、1本100円から大きさいろいろの山葵を何本か購入できた。

 

清流で育てられた風味豊かな御岳の山葵。御嶽駅のそばで収穫体験もできるスポットもある。旬は初夏だが、山の中での山葵収穫も楽しそうだ。

 

【青梅線はワイルド⑥】川井駅近くのワイルドなアーチ橋

御嶽駅からさらに奥を目指そう。御嶽駅から先の開業は1944(昭和19)年7月1日と戦時中のことだった。物資が乏しい時代に開業となったわけは、前回に触れたように、沿線で産出される石灰石の輸送を早急に進めたかったからである。こうした時期に開業した路線だけに、施設にも資源の節約傾向が見て取れる。

 

例えば、御嶽駅の次の駅の川井駅(かわいえき)。駅のすぐそばに青梅線のアーチ橋が架かる。アーチ橋は、橋梁の建設方法として古くから用いられてきた構造の一つで、アーチ構造により荷重を上手く支えることができるとされる。昭和10年代になると鋼材を節約するために、全国でコンクリートアーチ橋(鉄筋コンクリート構造)が普及した。

↑川井駅(中上)近くの大丹波川橋梁。左上はその西側に架かる川井沢橋と呼ばれるアーチ橋。こちらは補強工事が完了していた

 

青梅線でも御嶽駅から先に架かる橋の大半がコンクリートアーチ構造の橋が用いられている。中でも川井駅の西側に架かる大丹波川(おおたばがわ)橋梁75.4mは並走する青梅街道(国道411号)から見上げると迫力がある。橋の構造は電車の中から見ることができないため、興味のある方はぜひ降りて上空を眺めていただきたい。それこそワイルドな姿を拝むことができる。

 

大丹波川橋梁は、開業したころの姿を残しているが、その西隣の川井沢橋(または川井沢ガード)と呼ばれるアーチ橋を見上げると、橋の下部の曲線部分の補修工事が行われていることが見て取れた。竣工(1941年)してから81年たち、こうした補強も徐々に進められているのだろう。

 

川井駅から先、古里駅(こりえき)〜鳩ノ巣駅(はとのすえき)間には入川橋梁が架かる。さらに鳩ノ巣駅〜白丸駅(しろまるえき)間には西川橋梁がかかる。大半がアーチ一つ(一連)で下から見ると美しく感じる構造物である。

 

下からはアーチ橋の構造が見て取れるが、上空高い位置に架けられたアーチ橋を渡る電車の車窓からは、多摩川の景観が楽しめる。特にアーチ橋が連続する川井駅付近では、並行して走る青梅街道よりもかなり上を走るため多摩川の渓谷のパノラマがしっかりと楽しめる。これが青梅線「東京アドベンチャーライン」最大の魅力と言っても良いだろう。

 

【青梅線はワイルド⑦】都内で最も標高が高い駅・奥多摩駅

白丸駅の先には青梅線最長の氷川トンネル1270mがあり、抜けると終点の奥多摩駅がもうすぐだ。

↑ロッジ風山小屋がシンボルの奥多摩駅。駅前から奥多摩湖方面などへ路線バスが多く発車する。写真はコロナ禍前の賑わっていたころ

 

青梅駅から約35分で、終点の奥多摩駅に到着した。この駅は都内で最西端の鉄道駅で、標高は都内の鉄道駅でトップだ。といっても海抜343mで、東京タワー(海抜高351m)よりも低いのだが。

 

奥多摩駅は開業当時、氷川駅と呼ばれた。当時は駅があったのが氷川町だったからである。その後に1955(昭和30)年に氷川町はじめ3町村が合併して奥多摩町となった。駅名の変更はそれから遅れること16年、1971(昭和46)年に現在の奥多摩駅に改称している。駅舎は「ロッジ風の山小屋駅」で、この駅舎が「自然ゆたかな奥多摩に似合っている」として関東の駅百選にも選ばれている。

 

駅舎の1階には奥多摩観光協会が運営する売店、そして2階にはカフェがある。また駅前には飲食店が数軒あり、山中の終点駅ながら開けたイメージだ。奥多摩駅のおもしろいのはトイレに登山靴やトレッキングシューズを洗うためのシャワーが設置されているところ。ここで靴を洗ってからお帰りくださいということなのだ。ハイカーの利用者が多いことをうかがわせる施設である。

 

駅のすぐ近くには奥多摩工業氷川工場がある。この奥多摩工業こそ、実は御嶽駅〜氷川駅(現・奥多摩駅)の鉄道敷設免許を出願し、工事を進めていた「奥多摩電気鉄道」の今の会社名である。結局、自社での鉄道開業は適わず、鉄道敷設免許および建設中の路線は1944(昭和19)年4月に国有化され、この年の12月に会社名を奥多摩工業と変更した。当時、同社の社員は悔しくやるせない思いをしたに違いない。

↑奥多摩駅の北隣りにある奥多摩工業氷川工場。コンクリートの粉体を積んだ大型バルク車の出入りが見られた

 

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