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2022/10/13 20:45

シトロエン「C5 X」はステキなフランス車。しかし走りには“シトロエンらしさ”を感じられなかった

これまで世界を驚愕させるようなデザインやサスペンションシステムを生み出してきたフランスのシトロエン。同ブランドの新たなフラッグシップモデルは、流行りのクロスオーバーSUV風デザインで登場した。今年ついに日本へ上陸してきたこのアバンギャルドなニューモデルの魅力とは?

 

【今回紹介するクルマ】

シトロエン/C5 X

※試乗グレード:SHINE PACK

価格:484万円~636万円(税込)

 

C5 X初対面の感想は「げえっ、カッコいい!」

シトロエンの新たなフラッグシップ、「C5 X」。私は、2015年に生産を終了したシトロエン「C5」のオーナーだっただけに、その後継とも言うべきモデルの復活には、ひとかたならぬ思いがある。しかも私はつい最近、C5 Xの兄弟車にあたるプジョー「508」(現行型の中古車)を買ったばかりだ。つまりC5 Xは、ダブルで注目せざるをえない新型車だったのだ!

 

まずそのスタイルを見て、「げえっ、カッコいい!」と思った。「げえっ」というのは、プジョー508を買ったばかりの自分にとって、「げえっ」だったということ。

 

C5 Xのデザインは、5ドアハッチバックとSUVの融合ともいうべきクロスオーバースタイル。スポーティでエレガントな5ドアハッチバックの車高を少しだけ持ち上げ、フェンダーガードで武装してSUV風味を加えると、伝統的なヨーロピアンなカッコよさに、今どきっぽいイケイケ感が付け加えられる。われら中高年は基本的に保守的だが、微妙に今どき感を漂わせたいという思いもある。C5 Xのエクステリアは、そこにドンピシャだ。

↑10月1日に登場したばかりのC5 X。フロントフェイスには、新世代シトロエンを象徴するV字型シグネチャーライトを採用

 

この手法は、新型「クラウン クロスオーバー」でも用いられている。いま話題のクラウン クロスオーバーは、C5 Xにかなりソックリ。ちなみにC5 Xは約1年前に本国で発表されているので、クラウン クロスオーバーより少しだけ先に出ている。

 

対する我がプジョー508は、完全なる5ドアハッチバック。完全に伝統的な、ある意味昔っぽいスカし感に満ちていて、中高年の美意識のど真ん中を突いているが、今どき感はあまりない。じゃ、C5 Xと508のデザイン対決、どっちが勝ちなのか? と問われれば、客観的にはC5 Xの僅差勝ち、主観的には508の僅差勝ちだ。とにかくどっちもカッコいいし、正体不明の高級感がある。

 

本邦ではフランス車は絶対的に少数派。車種を認識できる人が限られるぶん、レア感やツウ感のある正体不明感を満喫できるのだ。これは、国産車やドイツ車では味わえない感覚で、クセになる。フランス車を買う人は、なによりもスタイリングを優先する。国産車を買う人は信頼性を、ドイツ車を買う人はメカニズムを優先するが、フランス車の購入層にとって最も重要なのはスタイリングだ。正直、メカなんかどうでもいいというくらい、スタイリングを重視する。C5 Xのデザインは、いかにもシトロエンらしいオシャレさやアバンギャルドさが漂っていて、それだけで「買い」だ。

↑4色のボディカラーをラインナップ。写真のカラーは大人の渋さ漂う「グリ アマゾニトゥ」

 

フランス車を買う人は、インテリアも重視する。シートに座っているだけでオシャレ感を味わえなければ、フランス車を買った意味が薄くなる。ただし、高級感にはこだわらない。TシャツにGパンでひと味違うオシャレさを演出するパリジャンの世界を好むのだ(?)。

 

その点で言うと、C5 Xのインテリアは実にちょうどいい。シブい色調の車内は、それほど質感の高くないオシャレ感に満ちている。かつてシトロエンと言えば、1本スポークステアリングなど奇抜な演出が定番だったが、近年のシトロエンは奇抜さよりも、親しみやすさを重視している。シトロエンファンとしては、まずまず納得の仕上がりだ。

↑木目調デコラティブパネルを採用した水平基調のコックピット。センターコンソール上部にはそのデザインと鮮やかなコントラストをなす12インチデジタルタッチスクリーンを配置。Apple CarPlay/Google Android Autoに対応するスマホと連携し、スマホアプリやコンテンツをシームレスに楽しむこともできる

 

↑ラゲッジルームの積載容量は通常時で545L。リアバックレストを倒せば、最大1640Lの広大なスペースが生まれる

 

エンジンは常に脇役で、ある意味、普通に走ればそれでいい

試乗したのは、ガソリンエンジンの1.6Lターボ仕様。もはやPSAグループの超定番エンジンで、可もなく不可もなく加速する。私が乗っていたC5と基本的には同じエンジンで、パワーは156psから180psに強化されているものの、加速感にほとんど差はなく、「ごく普通に走る」と言うしかない。シトロエンにとってエンジンは常に脇役で、ある意味、普通に走ればそれでいいのである。

 

それより重要なのは乗り心地だ。シトロエンと言えば、オイルとガスを使って魔法のじゅうたんのような乗り心地を実現していた「ハイドロニューマチックサスペンション」の伝統がある。先代型C5は、その最後のハイドロシトロエンだったが、コストが合わなくなり絶滅。このC5 Xには、その伝統を受け継ぐ形で「プログレッシブ・ハイドローリック・クッション(PHC)」なるダンパーシステムが搭載されている。

 

その乗り心地はというと、まだ新車で機械的なアタリが付いていないのか、あまりフンワリ感はなく、ごく普通のサスペンションという印象だった。どちらかというとスポーティで引き締まった印象で、コーナリングが得意。シトロエンらしさは感じられない。むしろ私のプジョー508のほうが、フワッと当たりがソフトなくらいだ。

↑リアコンビネーションランプはサイドまで回り込むような大胆なV字型デザインで、その存在を鮮烈に印象づける。SHINE PACKには、スライディングガラスサンルーフを装備

 

↑車速やナビゲーションのルート、ドライバーアシスト機能の作動状況など、運転に必要な情報をメーター上部のフロントウィンドウに投影する

 

ちなみにだが、C5 Xのリアサスはトーションビーム方式なのに対して、508はより高価なマルチリンク方式+電子制御ダンパーを採用している。兄弟車とはいっても、サスペンション的には微妙に508のほうが上位なのだ(軽い勝利感)。

 

ただ、同じPHCを積んだSUVのシトロエン「C5エアクロスSUV」は、フワッフワの綿アメのような乗り心地だったので、C5 Xも、車体の走行距離が延びれば、もうちょっとフワフワしてくる可能性もあるだろう。それに期待したい。

 

クラウン クロスオーバーが話題の今、そのソックリさんとも言うべきシトロエンC5 Xは、「似てるけど違うんだぜ」と主張できる、実にステキなフランス車だ。これに乗れば、周囲のクルマ好きから一目置かれることは間違いない。

 

SPEC【SHINE PACK】●全長×全幅×全高:4805×1865×1490㎜●車両重量:1520㎏●パワーユニット:1598㏄直列4気筒ターボエンジン●最高出力:180PS/5500rpm●最大トルク:250Nm/1650rpm●WLTCモード燃費:─㎞/L

 

 

撮影/池之平昌信

 

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