日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)に協力いただき、その活動の一端をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回はフィリピンにおける鉄道事業支援の取り組みを紹介します。
「利用者の安全に目を配っているのが印象的でした」「混み合っているホームで乗客を手際よく誘導している駅員の姿が参考になりました」。フィリピン運輸省の職員は、東京メトロ丸の内線の駅ホームや運転事務室での研修で、日本の鉄道ノウハウに目を見張ります。
JICAは、フィリピンの鉄道人材育成を目的とした公的機関「フィリピン鉄道訓練センター」の設立・運営を担う行政官を対象に、2019年7月と9月、東京地下鉄株式会社(東京メトロ)の総合研修訓練センターで視察研修を実施しました。
マニラ首都圏の交通渋滞緩和に向け、交通インフラの核となる鉄道分野で、鉄道路線の整備などハード面とともに、人材育成が急務となっています。JICAは世界トップクラスの日本の鉄道ノウハウを活用し、その両面でサポートしています。
現場に即した研修を実施
今年7月に実施された東京メトロ総合研修センターでの研修には13名のフィリピン運輸省職員が参加。自動改札機がある模擬駅や車両が置かれた模擬ホームの視察のほか、地震発生も再現できる最新運転シミュレーターの体験、超音波などを使用した車両の緻密な検査・点検といった技術の紹介といった研修が行われました。
9月の研修に参加したのはフィリピン鉄道訓練センターで実際に指導にあたる講師陣など計11名。東京メトロの実際の運転事務室での乗務員点呼の見学や運行列車の運転室添乗、さらに車両や電気、工務などの分野別研修など、より現場に即した研修を受けました。
鉄道訓練センターは2019年10月から稼働
JICAは2018年5月から東京メトロやオリエンタルコンサルタンツグローバル・アルメックVPIと共同で「フィリピン鉄道訓練センター設立・運営能力強化支援プロジェクト」に取り組んでいます。訓練センターは2019年10月から研修を開始しています。
9月の研修に同行参加したアネリ・ロントック運輸省次官は「フィリピンでは現在、約77kmにとどまっている営業路線を2022年までに約1,900kmまで拡大・延伸する計画が進んでおり、これに伴い鉄道従事者を現在の約4,000人から20,000人規模まで増やす必要がある」と語ります。研修を振り返り、「東京メトロの駅員の皆さんの安全への意識の高さや利用者に対するきめ細かな対応などを目の当たりにして感銘を受けました。日本の鉄道事業者の安全・安心と定時性・高効率を重視している点などを参考にしていきたい」と述べました。
訓練センターの構想段階から携わっている東京メトロの谷坂隆博さんは「この研修プログラムは、東京メトロの長年の知見を生かして作成しています。訓練センターで指導者となる職員の皆さんに有益な研修を行うことができたと思います」と述べます。2020年後半には「総仕上げ」となる駅務、電気、工務、車両など東京メトロのそれぞれの現場で職務を通じた実地訓練(OJT)を2、3か月間行う計画です。
フィリピン初の地下鉄整備を支える
経済発展が著しいフィリピンでは、人口の集中と鉄道整備の遅れがマニラ首都圏の道路渋滞や環境悪化の一因となり、長年にわたり大きな社会問題となっています。こうしたなか、フィリピン政府は「Build・Build・Build」のスローガンの下、大規模インフラの整備計画を進めています。
「JICAは、フィリピン初の地下鉄整備や、南北通勤鉄道事業(マロロス-ツツバン)とその延伸事業、さらには既存路線の首都圏鉄道(MRT)3号線の改修事業など複数の案件に協力しています」と話すのは、 社会基盤・平和構築部の柿本恭志職員です。
マニラ首都圏の長期的ビジョンを見据えた計画づくりに向けて、渋滞解消など新たな都市コンセプトを提案するための調査をJICAは2012年に実施しました。南北通勤鉄道や地下鉄を整備する事業は、南北に広がる首都圏の地形的特徴と将来的な拡張を見据えて、本調査の中で提案されたものです。
2019年2月に着工式が行われた地下鉄の整備事業では、最新の日本の施工技術やさまざまなノウハウを導入。全線開通時には、マニラ首都圏ケソン市のキリノ・ハイウェイからビジネス街のオルティガス、巨大ショッピングモールがあり、世界的に知られた企業がオフィスを構えるボニファシオ・グローバル・シティなどをつなぎ、人口密度の高い都心部を南北に縦断する、首都マニラの新たな大動脈になると期待されています。
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