日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)に協力いただき、その活動の一端をシリーズで紹介していく「JICA通信」。
マレーシア日本国際工科院(※1)がマレーシア市民の新型コロナウイルス感染防止に立ち向かっています。 JICAは2011年の開校以前より、同工科院の研究能力の向上などに協力。修了生や在校生たちは、JICAの協力で学んだ知識を活かして感染者対応の最前線で奮闘するほか、感染防止に向けた医療支援ツールの開発も進めるなど、新型コロナウイルスから市民を守るため、精力的に活動しています。
防災リスク管理の知識を活かす
マレーシアは、累計感染者数4817名、死者数77名に達し(4月13日現在、保健省HP)、東南アジア諸国の中でもフィリピンに次いで二番目に多くの累計感染者が確認されています。この状況から政府は3月18日に活動制限令を発令しました。正当な理由のない外出を禁止するロックダウンが続くなか、同工科院の「防災リスクマネジメント修士プログラム」専攻の修了生と在校生が現場で活躍しています。
マレーシア・イスラム科学大学の救急医であるシャルル・ニザム・ビン・アハマド・ザムザリ氏は、「プログラムで学んだ現場指揮システムや公衆衛生に関する知識を応用しています」と語ります。市民防衛局の医療対策本部の立ち上げに加え、前線で対応にあたる初動対応者の健康モニタリングや医療マスクの配布を行ったほか、ラジオ番組に出演し、一般向けの新型コロナウイルスへの対応方法の啓発にも取り組んでいます。
マレーシア日本国際工科院でこの3名の指導を担当した松浦象平専門家は、「プログラムで学んだ分析手法や各種ツールの使用方法、また、在学中に築かれた修了生間のネットワークが今般の新型コロナウイルス対策に役に立っていると感じます」と述べます。そして、「活動制限令を受け、プログラム修了生と在校生が新型コロナウイルス対策の前線で活躍しており、習得した防災の知識とスキルが各自の業務上の自信に繋がると確信しています。今回の経験の教訓を認識し、マレーシアの防災対策のさらなる強化に貢献してもらいたいです」と一層の活躍にエールを送りました。
感染防止に向けた医療支援ツールの開発と生産
マレーシア日本国際工科院の教員や技術者、そして学生たちは、日本からの協力によって設立された精密機械工作ラボを活用し、新型コロナ対策に向けた医療支援ツールの開発を進めています。
その一つが、医療従事者への飛沫感染を防ぎながら呼吸器の挿管等の処置ができるシールド装置です。病院での実証実験も行われ、病院関係者よりその効果が確認されており、すでに12台が病院へ寄贈されています。今後も病院からのリクエストに応じて増産していく予定です。
また、3Dプリンターを活用してデザインされた飛沫防御シールドの生産も始まっています。このシールドは感染患者を受け入れている市内の病院に順次寄贈され、一般に向けて販売も検討されています。
新型コロナウイルス拡散のメカニズムを研究
マレーシア日本国際工科院があるマレーシア工科大学は今年3月、オランダの 研究所と連携し、下水に生息する新型コロナウイルスの研究を実施すると発表しました(※2)。
(※2):https://news.utm.my/2020/03/utm-offers-expertise-to-investigate-coronavirus-in-wastewater/
現状、新型コロナウイルスの感染経路は濃厚接触における飛沫感染が主ですが、排水での生存可能性も指摘されています。本研究では、家庭や病院から排出される下水中にウイルスが存在するかどうか、また存在しているのであればどの程度かを把握し、まだ不明点の多い新型コロナウイルスの拡散メカニズムの解明を目指します。
この研究グループのメンバーで同工科院の原啓文准教授は、マレーシアで研究を行う優位性について、次のように述べます。「インフルエンザウイルス等は季節性ですが、新型コロナウイルスは熱帯でも爆発的な感染が見られ、季節に依存した伝播性は示さないと考えられています。熱帯地域に属するマレーシアで、新型コロナウイルスの排水中における生存に関するデータや知見を集めることは、これから夏に向かう北半球の状況を予測する一つの情報になり得ると考えています。また、国土も広く幅広い環境条件が揃うマレーシアで本研究を行うことは、都会における伝播性よりもむしろ都市郊外における伝播を予測する上で重要な知見となる可能性があります」
マレーシア日本国際工科院へのJICAの協力プロジェクトのリーダーを務める岡野貴誠専門家は、「同工科院の研究者や修了生たちが、世界的規模の社会課題となっている新型コロナウイルスに対して、関係機関と協力して戦っている姿に、このプロジェクトの意義を再確認しました」と語ります。2023年のプロジェクト終了後も同工科院の自立した運営を見据え、今後もさらなる協力を続けたいと岡野専門家は言葉に力を込めます。
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