日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)に協力いただき、その活動の一端をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は世界のオンライン学習の話題をお届けします。
新型コロナウイルスの影響で、日本のみならず世界中の学校が休校を余儀なくされています。子どもたちの在宅学習を支えること、学びを止めないことは世界共通の課題。そんななか、JICAが協力したオンラインを通じた学びのシステムやツールが、世界の子どもたちに活用されています。カンボジア、ウズベキスタン、そして日本の例を通して、子どもたちの学びを守るために導入されたオンライン学習を紹介します。
カンボジア:小学校低学年向けに思考力向上を図るアプリ教材「Think!Think!」を無償提供
カンボジアでは3月中旬から学校での授業が中止となり、教育省のWebサイトでオンライン授業が配信されています。その授業の一つとして使われているのが、ワンダーラボ(東京都)が作成したアプリ教材「Think!Think!」です。
「Think!Think!」は、幼稚園から小学校低学年児童向けの教材で、空間認識や平面図形など、思考力の基礎となる要素を楽しみながら身に付けられる点が特徴です。カンボジアでは教育環境の整備、学力の向上が国家的な課題とされるなか、幼少期教育の充実を図るため、JICAの受託事業としてワンダーラボが2018年からこの「Think!Think!」の活用を進めてきました。
カンボジアではアプリで学習する機会が少ないことから、教育省のWebページや国営テレビを通じて、授業動画を見ながら学習できるように工夫。現在は配信ごとに毎回2万人以上の子どもたちがオンライン授業を視聴しています。
「カンボジア教育省の関係者と、新型コロナで学習が困難な生徒のために一致団結して、最初の会議から数日でオンライン授業を公開することができました」と渡邉さんはこれまでの信頼関係があったからこそ短期間で実現できたと語ります。「Think!Think! 」の無償提供は6月中旬まで予定されています。
ウズベキスタン:中学生の数学学習をeラーニングシステムでサポート
「全国の教育機関が3月半ばから一斉休校になった際、 ウズベキスタン国民教育省から日本の学習教材を配信したいとの強い要請がありました。それに応じて、これまでウズベキスタンで構築してきた遠隔学習支援システムを使い、中学生用の数学映像講座の配信を始めました」と言うのはデジタル・ナレッジ(東京都)の齋藤陽亮さんです。
デジタル・ナレッジは、JICAの受託事業として、2019年8月から、ウズベキスタンでeラーニングによる研修、学力試験、放課後教室などの実証事業を実施。教員研修をはじめ、日本の教育企業のノウハウを使った数学、英語、暗算教室などで成果をあげていました。
今回、ウズベキスタン国内の学校が一斉休校になったことから、構築済みのeラーニングシステムを活用し、教材開発の学書(名古屋市)と協力して6年生から8年生(日本の中学生相当)に対し数学映像講座「基本のキ」を無償提供しています。
今回、ウズベキスタン国内の学校が一斉休校になったことから、構築済みのeラーニングシステムを活用し、教材開発の学書(名古屋市)と協力して6年生から8年生(日本の中学生相当)に対し数学映像講座「基本のキ」を無償提供しています。
「当初、4月30日まで中学生用の数学の映像講座を在宅学習支援として配信してきましたが、学習の速度は個々によって異なるため、配信期間を延長し、進捗の遅れている生徒へのフォローアップをしていきます」と齋藤さんは話します。
タシケント州ザンギダオ市で数学の映像講座を受講した生徒は「授業はおもしろくてわかりやすかったです。外出制限中の時間を有効に過ごすのにちょうど良かった。理科や科学の授業もあったら、ぜひ参加したいです」と受講の感想を述べます。また、保護者からは「オンライン授業は初めてですが、とてもわかりやすいです。息子は楽しんでいて、授業を見終わってすぐに全部のテストに取り組みました」との声が届いています。
約500万人のウズベキスタンの中学生たちの学びを守るため、日本企業の取り組みが大きな力となっています。
滋賀県草津市:スマホアプリで「儲かる農業」を体験 子どもたちが世界に目を向けるきっかけに
学校の休校が続いた日本国内でも、各自治体が自宅学習を支援するツールを提供するケースが増えました。
滋賀県の草津市教育委員会は、自宅で過ごす時間の多い児童や生徒に向け、独自の「おすすめ時間割表」を配布して、子どもたち自身による時間割表の作成を提案。そのコンテンツの一つとして、JICAが監修したスマートフォンアプリ「SHEP Game Fun Fun Farming!」を使ったゲーム学習を取り入れました。
この「Fun Fun Farming!」は、JICAがアフリカの小規模農家支援として進めているSHEP(市場志向型農業振興)アプローチをモチーフに製作されたもので、プレイヤーはゲームを通して「作って売る農業」から売るために作る「儲かる農業」を体感できる仕組みです。
このアプリを時間割に取り入れることを思いついたのは、コスタリカのサンホセ日本人学校での勤務経験がある草津市教育委員会事務局の辻大吾さんです。現地で海外協力隊員と交流し、国際協力や開発教育に興味を持ったことがきっかけです。
「中学生の『総合的な学習の時間』の1項目に、アプリを活用した学びとして『SHEP game Fun Fun Farming!』を紹介しています。ESD(持続可能な開発のための教育)分野の学習ツールとして、とても有効で楽しいアプリだと思います。ゲームを楽しみながら世界への探究心を育むツールとして、子どもたちにぜひ活用してほしいです」と、途上国の農業開発を体験しながら、子どもたちが世界に目を向けてくれることへの期待を語りました。
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JICAの新型コロナウイルスへの対応を紹介した特設ページ→【より強靭な社会へ、信頼で共に創る】