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2020/12/15 16:00

高専生のモノづくり力を途上国の課題解決と日本の地方創生に活用【JICA通信】

日本の政府開発援助(ODA)を実施する機関として、開発途上国への国際協力を行っているJICA(独立行政法人国際協力機構)の活動をシリーズで紹介していく「JICA通信」。今回は、高専生のモノづくりの力を活用して途上国の課題解決を図り、さらには地方創生も進めていく、そんな取り組みについて取り上げます。

 

2020年7月、JICAと長岡工業高等専門学校(長岡高専)は、「長岡モノづくりエコシステムとアフリカを繋ぐリバース・イノベーションによるアフリカと地方の課題解決」に関する覚書を締結しました。この「リバース・イノベーション」とは、先進国企業が新興・途上国に開発拠点を設け、途上国のニーズをもとに開発した製品を先進国市場に展開すること。先進国で開発された製品を途上国市場に流通させる従来のグローバリゼーションとは逆の流れになるのが特徴です。

 

長岡のモノづくりによるアフリカの課題解決と、アフリカのニーズをもとに開発した製品を先進国市場に逆転展開するリバース・イノベーションによって、日本国内の地方創生や社会課題解決を目指すという野心的で新たな試みが動き出しました。

↑2020年7月に長岡市で行われた調印式に参加した長岡高専の学生たち

 

長岡の技術力をアフリカの課題解決に活用する

「参加している学生たちは、関連諸国の取り組みやアフリカの社会背景を知るために文献を取り寄せて読み、専攻科目の垣根を越えて協力しながら、想像以上に高いレベルの試作品を作り上げています」とこの事業に参加する学生の様子を語るのは長岡高専の村上祐貴教授です。

 

長岡高専の学生たちは「循環型社会実現に向けた持続可能な食糧生産・供給システムのアイデア」や「モノづくりの力で新型コロナウイルスの感染拡大を防止するアイデア」などといったこの事業に託された課題についてチームで取り組み、解決策を検討。長岡技術科学大学が試作品の製作支援をしていくほか、長岡産業活性化協会NAZEも協力し、その製品化を目指します。

 

JICAは、この長岡高専での取り組みを皮切りに、次年度は参加校を増やし、3年後には全国の高専に展開されることを想定しています。

↑この事業の発表記者会見では、「長岡市のモノづくりの技術が世界に展開されることに期待しています」と磯田長岡市長(右端)が期待のコメントを寄せました

 

↑長岡市内での連携だけでなく、ケニアのジョモ・ケニヤッタ農工大学や現地企業とも連携して事業を進めます

 

始まりは全国の高専生が途上国の課題解決に挑んだ一大イベント

この事業が始まった背景には、高専生を対象としたJICAによる先行の取組みとなる「KOSEN Open Innovation Challenge」がありました。これは、高専生の技術とアイデアで、開発途上国の社会課題解決と国際協力の現場を教育の場として活用していくことを目的にしたコンテストです。第1回目(2019年4月開催)は、長岡、北九州、佐世保、宇部、都城、有明の6校の高専が参加しました。

 

なかでも長岡高専は、ケニアのスタートアップ企業のEcodudu社と連携して家畜の飼料を効率よく分別する装置の試作品を制作し、高専生はケニアで実証実験も行いました。試作品は現地で高い評価を受け、2019年8月に横浜で開催されたアフリカ開発会議(TICAD7)で報告された際、多くのメディアにも取り上げられました。

↑チームで開発した家畜飼料分別装置の実証実験をケニアの大学生たちと行う長岡高専の学生たち(2019年ケニアにて)

 

今年8月~9月には、第2回目のコンテストがオンラインで開催され、長岡、北九州、佐世保、徳山の4校の高専から、計20チーム・101名と第1回目を上回る数の高専生が参加しました。

 

「学生の関心度も参加意欲も高く、教員たちの想像をはるかに超える試作品が制作されています。今後、参加する高専が全国に広がることで『全国高等専門学校ロボットコンテスト』規模の一大イベントになっていくかもしれません」と、長岡高専の村上教授も今後の可能性について語ります。

↑「KOSEN Open Innovation Challenge」(第1回)の参加者と審査員たち

 

若い力による日本の地域創生にも期待

現在、JICAと長岡高専が進める「長岡モノづくりエコシステムとアフリカをつなぐリバース・イノベーションによるアフリカと地方の課題解決」では、アフリカの高専生や大学生の参画も計画されており、日本とアフリカの学生が柔軟な発想で日本の地方創生、課題解決に取り組みます。

 

「今回のリバース・イノベーションでは、第1回KOSEN Open Innovation Challengeで選ばれたケニアの技術を長岡の産業廃棄事業に生かす取り組みも進んでいます。学生たちはアフリカと日本の文化の違いなどを考慮しながら地元長岡を活性化すべく意欲を燃やしています」と長岡高専の村上教授は今後の抱負を述べます。

 

国際協力の枠組みで、日本の地方創生問題を日本とアフリカの学生が考え、解決策を探るというこの取り組みは、日本の高専生たちにとっても知見も広げる貴重な経験になっていくことが期待されています。

 

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