デジタル
2016/7/15 7:30

【西田宗千佳連載】「空間立体把握」がスマホを変える

「週刊GetNavi」Vol.44-4

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前回までの記事で、「近い将来、スマホにはいまよりも多くのカメラが搭載される」との予測をご紹介した。それらのカメラ・センサーは、人間の目では捉えられない光をデータ化するために使われ、小さなレンズでも画質の良いカメラを実現するための助けになるだろう。

 

そして、より本質的な変化をもたらすのが「空間把握」の能力である。カメラ・センサーが多いほど風景を立体としてデータ化しやすくなるので、それを使った用途が広がっていくと見られる。

 

例えば「自撮り」。単に顔を撮影するだけではなく、顔の上にCG映像をかぶせる機能が必須になっていくはずだ。現在、日本でも若い層から人気に火が付きつつある写真共有/チャットアプリ「Snapchat」には、顔を認識したうえで、ヒゲや目などをかぶせたり、ゾンビっぽい顔に変えたりする「レンズ」という機能がある。もし一度も使ったことがなければ、ぜひ試してみてもらいたい。自分の顔に自然にCGが被さり、ちょっとしたSFX気分を味わえる。またPC用のアプリである「FaceRig」を使うと、顔の表情をリアルタイムに認識し、別のCGキャラクターに置き換えることもできる。映画やテレビ番組のなかでは時々見掛ける表現だが、いまや個人用のPCを使い、低価格なソフトとカメラだけで、こうした機能が実現できる。

 

いまは、この種の顔認識もシンプルな画像をベースとして実現されているが、マルチカメラや赤外線撮影の技術が入ってくると、より高い精度で実現できるようになる。自撮りで顔を加工する、くらいならちょっとした遊びだが、自分の素顔を見せずに、「映りがいいときの自分の顔」で毎回ビデオチャットができる、としたらどうだろう? ビデオチャットの際に、自分の顔に合わせて手ぶれやフォーカスを調整し、見やすくすることもできるだろう。

 

メインカメラだったら、目の前の風景を二次元の写真ではなく立体空間として他人に送ることもできるだろう。現実空間の中にCGキャラクターを重ねる「拡張現実(Augmented Reality、AR)」を実用的なものにするには、3Dデータとして実世界を把握し、そこに矛盾なく物体を配置することが必須であり、カメラの進化が絶対に必要だ。Googleはこのジャンルに「Project Tango」というテクノロジーを開発中で、レノボはこの技術を今年9月に「Phab2 Pro」というスマホに導入する。ARだけでなく、バーチャルリアリティの世界でも、こうしたカメラの存在は重要になる。自分がどこを向いているのか、どこを移動しているのか、というデータを取得できるようになるため、地下街のナビゲーションシステムや、店舗内のナビゲーションシステムにも応用が期待されている。

 

もちろん、立体感把握はとても難しいしパワーのいるものだ。スマホのマルチカメラセンサーでは、非常に粗い解像度でしか立体を取り込めない。ノイズの影響もまだ多い。しかし、二次元の世界が三次元の世界になると、できることは格段に増える。

 

スマホは差別化が難しくなっている。これらの機能をユーザーが喜ぶかもまだわからない。しかし、「PCの小型版」でも「携帯電話の進化版」でもないスマホが独自の進化をさらに追求するには、こうした発想での技術開発が必須になるのは間違いなく、次の競争軸はここにある。

 

●Vol.45-1は7月23日(土)発売の「GetNavi」9月号に掲載予定です。

 

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