「憑物(つきもの)」と聞いて、みなさんはどんなものを思い浮かべますか? 疫病神などといった目に見えないナニカが私たちの日常で悪さをしたり、天気などの自然災害で災いをもたらしたり、不思議な現象にいつのまにか巻き込まれている…と、一言では説明できないような時に思い浮かべられますよね。
この憑物をライフワークとして研究し続けていたのが、『ゲゲゲの鬼太郎』の作者で2015年11月にこの世を去られた妖怪のスペシャリストこと水木しげるさんでした。水木さんは「私はいつも憑物というものが不思議でしょうがない」とも語っていたと言います。では、どんな憑物がこの日本にはいるのでしょうか? オールカラーで141の憑物が紹介されている『愛蔵版 水木しげるの憑物百怪』(水木しげる・著/学研プラス・刊)より、あなたが取り憑かれているかもしれない憑物をご紹介します。
なんだか不気味で、寒気がする…それは「震々(ぶるぶる)」です!
「震々」は「ぶるぶる」と読み、ホラー映画によく出てくる心霊スポットで「寒くなってきた…」とガタガタ震えだしたり、ゾゾゾ! と気配を感じてしまうような時に近くにいる憑物なんだそうです。
しかもこの憑物には雄雌の区別があり、雄の震々は女性に抱きつき気絶させますが、雌はちょっとカワイイいたずらを仕掛けるようです。
”雌の「震々」は臆病そうな男を見定めて、その体に入って驚かすともいわれる。”
(『愛蔵版 水木しげるの憑物百怪』より引用)
見定めてから驚かすって人間らしい(笑)。
この「震々」は、日中には姿を見せず夜や暗い場所を好んでいるそうです。なかなか目に見えない憑物ですが、会ってみたいという方は、夜にお墓へ行ってみると会えるかもしれませんよ…!
こわいこわいっ!
なぜか常に忙しい。そんな時は、「いそがし」の仕業かも?
セカセカしている方が落ち着く…なんて人はいませんか?
”「いそがし」に取り憑かれると、やたらとあくせくし、じっとしていると何か悪いことをしているような気分になる。逆にあくせくしていると奇妙な安心感に包まれる。”
(『愛蔵版 水木しげるの憑物百怪』より引用)
この「いそがし」は江戸時代頃からいる憑物なんだとか。
犬のような顔をしているのですが、現代人はほとんどの人がこの「いそがし」に取り憑かれているかもしれません。実は、この「いそがし」の正体はまだしっかりと解明されていないため、どうやったら憑物が取れるのかハッキリしていないそうなんです。水木さんも「ゆったりした心、ゆったりした気持ちが大切なことだろう」とも語っていますので、最近はセカセカしすぎているなと感じるあなたは、「いそがし」を癒してあげるためにもゆったりとした心を意識してみてはいかがでしょうか?
お腹が空いたら要注意! 気力がなくなるのは「餓鬼憑き」のせい?
お腹が空くと泣いて訴えてくるのは赤ちゃんですが、たまに大人でも機嫌を悪くしてしまう人がいますよね。実は私も、お腹が空くとすこぶる機嫌が悪くなるのです。「なんでだろう?」と思っていたのですが、実はこれ「餓鬼憑き」かもしれなかったのです!
”「餓鬼というのは目には見えません。この道にかぎらず、物乞いなどが餓死したときの怨念がその場に残り、それが餓鬼となって人に取り憑くのです。これに取り憑かれると、空腹になって気力がなくなり、歩くこともできなくなってしまうのです。実は私が餓鬼に取り憑かれたのは今日が初めてではないのです」”
(『愛蔵版 水木しげるの憑物百怪』より引用)
餓鬼に取り憑かれたら、何か食べ物を一口食べれば解決されるんだとか。昔はコンビニなんてなかったので、山を越えて隣町へ行く時などは餓鬼に憑かれないよう、ご飯を少し持ち歩いたりしていたそうです。
他にも『愛蔵版 水木しげるの憑物百怪』には、海などに現れる「濡れ女子」という笑いかえすと憑かれてしまう奇妙な憑物や、「狸憑き」という最終的には命を落としてしまう憑物など、水木さんの解説と共に紹介されています。そもそも形のないものを描いている時点で本当に素晴らしいのですが、普段何も気にしないで生きている時間や自然の大切さを憑物を通して教えてくれているようにも思えました。
自然の中で起きる不可思議な現象や、どうもうまくいかない人間関係など、すべてを解決して理解するよりも「どうしてだろう?」と考えたり、「しっかりしないと!」と日頃の態度を改めることなどが、現代には大切なのかもしれないなと感じました。あなたの近くにはどんな憑物が潜んでいるか見えていますか?!
(文:つるたちかこ)
【参考文献】
愛蔵版 水木しげるの憑物百怪著者:水木しげる
出版社:学研プラス
ムーで1991~95年にかけて掲載され、1995年に書籍化された『水木しげるの憑物百怪』に未収録作品を加えた完全版。前回は、巻頭の数作品のみカラーで掲載したが、今回は、すべての作品をカラーとして掲載する。