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音楽
2017/8/14 19:00

突き抜けたものが多い「馬鹿レコード」の世界ーー自由すぎた日本の音楽史を振り返る

「音楽不況」が叫ばれて久しい昨今だが、かつては老若男女の傍らにあったもので、レコードやCDが飛ぶように売れた時代があった。特に1980年代は、音楽表現そのものが多彩だった一方、さらに自由を追い求めてリリースされた作品群がある。いわゆる“馬鹿レコード”の世界だ。

 

命名は、かのみうらじゅん氏によるとされているが、ツイッターではこれらを定期的に更新・紹介する「馬鹿レコードbot」というものがあり、フォロワー数は1万8000人オーバーとまずまずの人気ぶり。バカレコード関連書も刊行予定で、同アカウントを運営するSさん自身もメディアに取り上げられ、おおいに注目を浴びている。

 

しかし、そもそもその「馬鹿レコード」とはいったいなんなのか? 本稿では「馬鹿レコードbot」のSさんに詳しく解説してもらった。

 

<Sさん・プロフィール>

地方都市在住。一般企業に勤め平凡な生活をおくっていたが、ふと「馬鹿レコードbot」を始めたところ、コアな人気を誇るようになる。フォロワーたちからのアツい支持への使命感から、現在も定期的に更新中。ツイッターアカウント @jyake_ten_bot

 

馬鹿レコードの人気の理由は“ダサかわいい”にあった!?

ーーここ最近でなにかと著名人やクリエイターたちの間で話題になっている馬鹿レコードですが、ウケている理由はどこにあると思いますか?

Sさん 一般的には、カッコ良いレコードをSNS上にアップしたりアナログレコードを持っていること自体がおシャレという風潮ですが、そのおシャレさとは無縁で対極なものが“馬鹿レコード”だと思っています。おシャレじゃないからこその近寄りやすさとか親しみやすさが“ダサかわいい”、というような感じで受けてるのかなぁ? という印象です。

 

ーーSさんが考える馬鹿レコードの概念と、セレクトする基準とはどういったものですか?

Sさん 馬鹿レコードの概念としては、そのレコードを見た瞬間や聴いた瞬間、「?」と疑問を持ち、その疑問が大きければ大きいほど良い馬鹿レコードなのではないかなぁと思いながら選んでいます。

↑Sさんは、パッと見で疑問を抱くようなレコードを選ぶようにしているとのこと(※画像はイメージです)
↑パッと見で疑問を抱くようなレコード選びを大切にしているとのこと ※画像はイメージです

 

Sさん 私個人では、アバンギャルド、非日常的、大真面目だけど間抜け、なものが好みです。アカウントでは、曲の内容よりもTwitterの特性を考慮して、ジャケットや曲名といった、目に入ってきた瞬間に衝撃を受けやすい作品を重点的に選んでいます。

 

ーーこういった作品群ですが、音楽的に共通するものは何だと思いますか?

Sさん 充分に考え練られた作品よりも、短期間で割と雑に安易に企画され、そのときどきの「ノリとか流行に乗っかれ」といった感じで作られた作品に多いような気がします。音楽的には音数が多く複雑なものではなく、シンプルでわかりやすいものが多い印象です。和モノでいえば、特に音頭ものにはその傾向は強く感じます。

 

「馬鹿真面目に振り切ったもの」=馬鹿レコード

ーーSさんが、一番最初にいわゆる馬鹿レコードに触れたきっかけを教えてください。

Sさん 私は昔から人を笑わせることが好きだったのですが、「オッサン」といわれる世代になり、特にここ10年くらいは「人を笑わせる」機会がなくなったことに気付いた時期がありました。「人を笑わせる」という意味での充実感がなくなったころ、ツイッターで何かできないかと思いついたのが「馬鹿レコードbot」でした。

 

もともと、みうらじゅんさんが昔の「宝島」という雑誌の「VOW」というコーナーで変わったレコードばかりを紹介されていたことがあり、私も大好きでよく読んでいたんです。それに似せて「やってみよう」と始めたのがきっかけです。

 

「馬鹿レコード」というと、聞こえが悪いようにも感じてしまいますが、基本的に針が振り切っちゃってるレコードを紹介しようと思いました。「馬鹿」といっても「馬鹿正直」とか「馬鹿真面目」とか、そういう好意的な使い方もされますよね。私が考える馬鹿レコードとは、「馬鹿にする」というより、後者の「馬鹿真面目に振り切ったもの」をコンセプトに考えています。

 

ーーただ、ツイッターという性格上、更新頻度からいって、より多くの馬鹿レコードを紹介することになるわけですから大変そうですね。

Sさん フォロワーの方に飽きないで見ていただくことを考えると、定期的な更新が必要かなぁ、と思います。日々、時間のあるときにネタ拾いをして、だいたい月に一回程度で更新をするといった感じです。

 

やはり馬鹿レコードは昭和が中心

ーー確かに突き抜けたものばかりですが、主に昭和の作品が多いですね?

Sさん 「昭和の時代」の音楽業界はいまと違って、規制が緩くて「なんでもあり」という感覚があったのかもしれません。歌手、アーティスト側にしても、あまり疑問を持たずに作られていたんじゃないかと思います。

↑昭和を想わせるレトロなジャケ写も馬鹿レコードの特徴といえる(※画像はイメージです)
↑昭和を想わせるレトロなジャケ写も馬鹿レコードの特徴といえる ※画像はイメージです

 

ただ、これが平成に入り、CD全盛になってゆくにつれて突き抜けた作品がなくなっていくんですよ。特に最近は規制が多い印象で、突き抜けたジャケット、曲というのがあまりにも少ない。これは私にとっても残念なことです。「馬鹿レコードbot」では特に時代の縛りはないですが、そういうことで、どうしても昭和の作品が多くなるんです。

 

ーーこれから先、Sさんは「馬鹿レコードbot」をどのように運営されていきたいと考えていますか?

Sさん 「フォロワーをもっと増やそう」「もっと更新していこう」ということは特に考えていないですし、私のほうから大々的に宣伝することもないですけど、ただ現状でフォローしてくれている方を飽きさせないようにしていきたいと思います。細々とでよいので、いままでのスタンスを崩さずにいければいいなといった感じです。

 

あとは、これからもっと馬鹿レコードについて調べていきたいと思います。これまでは主に、自分が過去に体験したり、見聞きした作品を、自分の記憶を掘り起こして紹介していましたが、新しい馬鹿レコードもどんどん知りたいですし、紹介していきたいです。規制を飛び抜けた、振り切ってる馬鹿レコードにもっと出会いたいですね。

 

ーー今後、登場に期待するような馬鹿レコード、音楽媒体を使った面白い作品はどういったものですか?

Sさん ジャケット、曲名、歌手、内容、4拍子すべてが揃った馬鹿レコードの登場を期待したいし、それを発見して紹介する最初の人になりたいとは常に思っています。観る側、聴く側として、もっと色々な種類の馬鹿なものを観たり聞いたりしたいですね。

 

馬鹿レコードの数々の振り切りくらいを見ると、もはや清々しささえ感じるほど。何かイヤなことがあったり、悩みがあるときに、これら馬鹿レコードの作品群を見る、聴くだけで元気が湧いてくるかも?