“神の子イエス”と“仏の悟りを開いたブッダ”が東京・立川にあるアパートで二人暮らしをしながら下界でバカンスを満喫する日常を描いた、ギャグ漫画「聖☆おにいさん」を福田雄一監督が実写映画化。イエス役を演じた松山ケンイチさんとブッダ役を演じた染谷将太さんが、豪華ゲストとの共演エピソードやほかの現場ではありえない撮影について語ってくれました。
【松山ケンイチさん&染谷将太さん写真一覧】
想定外の演技だけでなく、必ず何かが起こる現場
──『聖☆おにいさん』初の長編映画化の話を聞いたときの率直な感想は?
松山 基本的に、アパートの部屋の中で起こる話なので、2人で長編映画って尺が持つのだろうかと不安になりました。それで10分程度の短いエピソードをいくつか撮る感じなのかなと思ったのですが、「屋外に出ます」「いっぱい神様が出ます」って言われてビックリしました。その神様を演じるのが、本当にすごいキャストで、現場にただただ、笑わせに来るんですよ。何の意味もなく(笑)。ある意味、僕らが一番の観客になっていました。
染谷 なぜか分からないですけど、他の現場にいる方から「ひょっとしたら、映画化するかも?」って噂を聞いていました。そのときは「えっ、そうなんですか?」という感じだったんですか、正式に聞いたときは、やっぱりドキドキワクワクでしたね。しかも、中村光先生が映画化のための原作を書いてくださって、台本を読んだら、「これぞ長編映画の話だ!」と実感が湧いてきました。ただ、ゲストキャラの相関図みたいなものを見せてもらったときは、さすがに「嘘でしょ?」と(笑)。
松山 僕らは正式にオファーをもらってから、1か月もたたないうちに撮影が始まったんですけれど、他のキャストさんの方はもっと近々に、この映画に出ることを知らされたと思うんですよ。このすごいキャストをよくねじ込めたと思うし、どうやって出演OKをもらったのか、個人的に知りたいです。
──イエスとブッダの絶妙な掛け合いを生み出すため、意識されていることは?
染谷 これまでは、できるだけ自然体にやってきたんですけれど、今回初めて、いろいろな神様を演じる役者さんと掛け合いをしたとき、これまで我々が築いてきたものが一度崩壊したといいますか、見失いました。台本にないことが次々起こるアドリブ合戦で、それに対して「いや、自分たちはこれまで通りにいこう!」って、話し合ったことを覚えています。
松山 想定外の演技だけでなく、必ず何かが起こる現場だったので、僕たちだけじゃなく、その場にいたスタッフ・キャスト全員が衝撃を受けていたと思うんです。(佐藤)二朗さんのシーンでは面白すぎて、カメラが若干揺れていたし、スタッフさんが吹いちゃっている音も現場でよく聞こえるんです。みんなが笑いを耐えられなくなっているメイキングとか残っていたら、見たくなりますね。
──そんな佐藤二朗さん演じる、戦いの仙人とシーンはいかがでしたか?
染谷 これといった段取りもリハーサルもなく、本当にぶっつけ本番で撮り始めたんです。それが福田(雄一)監督なりの、二朗さんシーンの撮影スタイルらしいんです。
松山 笑うことをギリギリまで耐えているのって、『ワンピース』でルフィとキッドとローがチキンレースやっていたときの心境に似ていたかもしれません。僕らはずっと被弾していましたけど(笑)。カメラが回っているなか、何を言われるか分からないし、どの部分を使われるのかも分からない恐怖があるなんて、他の現場ではありえないことですよ!
染谷 そうしたら、完成版では、ほぼほぼ全部使われていたという(笑)。これもありえないことです。
まさか、この年齢になって、ヒーローになるとは!
──佐藤さん以外にもすごいゲストの方々が名を連ねています。
松山 僕らと直接共演している方は、皆さんつめ痕どころじゃない、何かをしっかり残されて帰られています。神木(隆之介)くんは「初めての福田組で緊張します」って言っていたのに、めちゃくちゃ爆発していました。
染谷 神木くんと(仲野)太賀くんは、めちゃくちゃバチバチなライバル関係という設定を決めてから、阿吽の呼吸でやっていましたね。でも、初日の岩田(剛典)さんと白石(麻衣)さんから、相当すごかったです。
松山 ムロ(ツヨシ)さん、山田(孝之)さん、(藤原)竜也さんたちとは、直接の絡みはなかったのですが、完成した作品を観たら、皆さんヤバいんですよ! 正直、このメンツが集められるのなら、もっとシリアスな『SHOGUN 将軍』並の作品が作れたと思うんですよ。でも、ただ笑わせるだけ(笑)。
染谷 ムロさんから直接聞いたんですけど、台本も何も渡されないまま、朝早く現場に行ったら、めちゃくちゃ長いカンペが置いてあって、福田さんから「それを読んでくれ」って言われたらしいんですよ。完成したシーンでは、その長いカンペがすごく生かされているので、お客さんにはそこもチェックしてほしいです。
──イエスとブッダは戦隊ヒーロー“ホーリーメン”に変身し、戦隊モノではおなじみの採石場で怪人と戦います。
松山 小さい頃からよく見ていましたし、『仮面ライダーBLACK RX』はおもちゃも買いましたし、やっぱ憧れの対象ですよね。でも、実際ホーリーメンをやってみて、やっぱり見ている側の方がいいなと思いました(笑)。しかも、あのベルトって何か意味ありましたっけ? ボタンを押して、何か出るとかありませんでした。
染谷 でも、お互い一生懸命頑張りましたよ! 子供の頃、日曜日の朝、眠いけれど、番組を見たいから、頑張って起きた記憶はあるので、衣装合わせで、ホーリーメンの衣装を着たときは、ちょっとうれしかったです。まさか、この年齢になって、ヒーローになるとは(笑)。しかも、あの採石場で、リアルな怪人と戦うなんて、少年心をくすぐられました。修業シーンのアクションなど、一連の流れも楽しかったです。
──今回の映画を通じて、福田監督の演出はいかがでしたか?
松山 僕は福田さんとお話することは、あまりありませんでしたが、福田さんは、いつも笑っていました。福田さんの現場って、何が起こるか分からない怖さがありつつ、新しいものが生まれる瞬間があるんですよ。「この俳優さんは、こんな演技をする」というイメージがすべて壊れる。それで、新しい引き出しみたいなものが出てくるので、そういう空間を作るのがうまいんです。どの作品にも学びや反省はあるのですが、福田さんの現場は自分の新たな一面を知り、気づかされることが、毎日のようにあるんです。
染谷 ここまで豪華なキャストが集まって、皆さんが台本以上のものに膨らませて、「福田さんを笑わせたい」というベクトルに向かっていく。そんなことをさせてしまう福田さんの人間力のすごさを感じました。それから「この人に、この役をやらせたら、絶対に面白い」っていうセンスもすごい。完成した作品を観たら、確かに面白いですし、ゲストの皆さんの今まで見たことない芝居に注目してもらいたいです。
──今後、続編が作られることになったら、イエスとブッダとしてやってみたいことは?
松山 タイムスリップしたりしたら、面白そうじゃない?
染谷 今回も漫才やったり、ヒーローになったり、2人でいろいろやっていますが、バンドはまだ組んでないですね。もし神々のバンドを組むなら、ブッダは木魚というか、ドラムになるのかなぁ(笑)。
あの姿で街中を歩いても、誰も反応しないぐらいなじんでいる
──俳優としてのキャリアのなかで、本作もしくはイエスとブッダというキャラはどのような位置づけになりますか?
松山 特異点ですね。監督もキャストもスタッフもそうだと思うんですが、皆さん若干壊れていると思うんです。まともじゃない人たちが真剣に作っているのが、お客さんにただただ笑ってもらうための映画。だから、子どもからお年寄りまで、家族全員で観ていただき、「あぁ、笑った」と、劇場を後にできる作品になったと思います。
染谷 自分が演じてきた役で、子供から大人まで、みんなが楽しめるキャラはありませんでした。ブッダを演じていると、とても楽しいし、幸せな気分になれる現場なので、宝物のような大事な場所のようにも思えます。不思議なことに、あの姿で商店街やいろんな街中で撮影したり、撮影の合間に歩いていても、誰も反応せず、自然に通り過ぎていくんです。松山さんも普通に中野で買い物していましたし、これは皆さんになじんでいるキャラなのかなと勝手に思っています。
──お二人が現場に必ず持っていくものがあれば、教えてください。
染谷 タイではポピュラーな鼻をスースーさせるスティック状の「ヤードム」です。ちょっと疲れてきたときや眠くなってきたときに、あれを使うとスッキリして、集中力が出ますね。
松山 現場にはカフェラテを入れたマイボトルを持参しています。現場中の癒しのひとつでもあるので、欠かせないです。
聖☆おにいさん THE MOVIE~ホーリーメンVS悪魔軍団~
12月20日(金)より全国公開
【映画「聖☆おにいさん THE MOVIE~ホーリーメンVS悪魔軍団~」よりシーン写真】
(STAFF&CAST)
監督・脚本:福田雄一
原作:中村光「聖おにいさん」(講談社「モーニング・ツー」連載)
主題歌:「ビターバカンス」Mrs. GREEN APPLE(ユニバーサル ミュージック/EMI Records)
配給:東宝
出演:松山ケンイチ、染谷将太、賀来賢人、岩田剛典、勝地涼、白石麻衣、仲野太賀、神木隆之介、山本美月、桜井日奈子、川口春奈、中田青渚、吉柳咲良、田中美久、森日菜美、安斉星来、山田孝之、ムロツヨシ、佐藤二朗、窪田正孝、藤原竜也
(STORY)
世紀末を無事に乗り越えたイエス(松山)とブッダ(染谷)は、日本の四季折々を感じながら、福引を楽しんだり、お笑いコンビ「パンチとロン毛」を結成したりと、ゆるい日常を過ごしていた。そんなある日、2人のもとに招かれざる客が現れ、衝撃の事実を伝える。やがてそれは、神と仏と天使と悪魔が入り乱れる予測不能な戦いへと展開していく。
(C)中村光/講談社 (C)2024映画「聖☆おにいさん」製作委員会
取材・文/くれい響