昨年11月、ダイハツからトール、トヨタからタンクとルーミー、スバルからはジャスティというクルマが発売されたのをご存じだろうか? この4兄弟、いや、スタイリッシュ装備を搭載する「トール カスタム」「ルーミー カスタム」「タンク カスタム」「ジャスティ カスタム」を加えると8兄弟――実はダイハツが企画・開発と生産を行っているコンパクトカーなのだ。
なぜこのようなクルマが生まれたのか? なぜ親会社のトヨタでなくダイハツが作ることになったのか?という素朴な疑問は「ダイハツの小型車は地球を救えるか?」の記事に譲るとして、本稿ではトールのクルマとしての完成度の高さに触れていきたい。
軽のモノづくりのノウハウをコンパクトカーに見事に融合させた
さてトールは、トヨタから昨年7月まで販売されていた「bB」という2BOXカー(その名のとおり2つの箱を組み合わせたような形状のモデル)の後継モデルのように、ボディサイズは小型ながら室内高が高くて広々。生活に密着した使い勝手の良さを備えているのが大きな魅力だ。それは、ダイハツ主導で開発されたことにも関連しており、タントやウェイクといったトールワゴンタイプの軽自動車でヒットモデルを生み出してきた同社のノウハウが、コンパクトカーでも巧みに生かされていることを示している。つまり、昨年フルモデルチェンジしたブーン/パッソ同様、軽自動車とコンパクトカーの“いいとこどり”をしたモデルなのだ。
デザインは一見、若者向けだが、若者といっても免許取り立てのフレッシュマンというよりは、ヤングファミリーに向けたモデルであることはクルマの造りをみればわかってくる。たとえば、後席の使い勝手の良さ。まず、地面からステップまでの高さやシートの高さが低めに設定されており、小柄な女性でも乗り降りがしやすい。さらに室内高は1355ミリとなっており、子どもであれば車内で立ったまま移動できる高さ。前席と後席の間のスペースも広く取られているので、後席の乗員がゆったり乗れるだけでなく、後席での子どもの世話や荷物の整理などもしやすい。
ワンクラス上の2ℓクラスのミニバンでは当たり前となっている両側パワースライドドアも採用されているので、子どもの乗り降りも容易。さらに、電動ドア開閉時、その間に何か物が挟まったら自動で動作が止まる挟み込み防止機能なども搭載されているから安心だ。
また、フロントシート左右間にはスペースがあり、大人が後席まで移動できるウォークスルー機構も備えているのも、ヤングファミリーにはうれしいだろう。もちろん、足を伸ばして車内で寝ることができるシートアレンジも実現可能だ。
荷室はコンパクトカーカテゴリでトップクラスに劣らない広さを実現。さらに後席は床下へのダイブイン収納が可能なので、平らな床面で積載性の優れた広大な荷室を生み出すことが可能。防汚シート付きの多機能デッキボードも搭載されているので、同ボードを反転することで自転車など汚れたり濡れたりしたものでも問題なく積載できる。ちなみにバックドアは開口部が低く、重いものでも出し入れしやすい設計になっている。
使いやすさという部分では、とにかく小物の収納スペースが多いこともファミリーユーザーには嬉しいポイント。ポケットやボックスのたぐいはもちろん、ちょっとしたものをかけられるフックなども備えられている。ドリンクホルダーは開閉サイズを調節することで、紙パックの飲み物からスマホまでさまざまなサイズのものがピッタリ収納可能。このあたりは、限られたスペースのなかで有効的に収納を生み出すよう考えられてきた軽自動車造りのノウハウが生かされているといえる。
見た目のスタイリッシュさに比べて、中身は人にやさしく、そしてパワフル
実際に運転席に乗り込んでみると、クールな外観デザインのわりに視界がいいことに気がつく。ガラスの面積が大きいだけでなく、Aピラー(フロントガラスとサイドガラスの間の柱)も運転者の視界を妨げないよう上手く設計されているからだろう。さらに、全長が短いだけでなく、軽自動車と同等の最小回転半径4.6メートルを実現しているため、小回りが利き、狭い道の運転もラクラク。運転にそれほど自信がないという人でも、軽自動車に乗る感覚で容易に運転できそうだ。
搭載されるエンジンは1.0リッター直列3気筒のターボとノンターボの2種類。荷物を大量に乗せたり、高速道路などを利用したりする機会が多い人ならターボエンジンがオススメだが、どちらも街中の運転ではストレスを感じないほどにパワフルで、なおかつ優れた燃費性能を実現している。ノンターボの2WD車であれば、カタログ燃費はリッター24.6キロ。コンパクトハッチバックより車高が高くボディが重いにも関わらず、それほど遜色のない数値を記録している。
現代のクルマに必須となっている安全装備についても充実。トールもルーミー/タンク、ジャスティも、衝突回避支援ブレーキや衝突警報機能はもちろん、車線逸脱警報機能や、アクセルとブレーキの踏み間違いで起きる事故を防ぐ誤発進抑制制御機能などもまるっと搭載している。それでいて価格は140万円台から用意されるなど、ちょっと高い軽自動車クラスと同じ価格帯で、お財布にも優しい設定だ。
室内の広さ、使い勝手、低燃費、安全性と、家族のために必要な要件をほとんど完璧に備えていながら、自分らしさを主張できるポップなデザインを自由に選ぶことができる(ボディカラーも豊富!)。まさに、現代のファミリーカーに望まれるあらゆる要素をその箱型ボディに詰め込んだ、大人のおもちゃ箱のようなモデルである。
取材・文/安藤修也(フォッケウルフ)、撮影/木村博道