昨年11月に開催された、日本最大級のメディア総合イベント「Inter BEE 2024」。音響、映像、放送、ライブエンターテインメント、ライティング、通信・配信関連などの最新情報が発信される場で、一般ユーザーに届く少し先の技術を体感できる展示イベントです。昨年取材した中で、今年以降の新しい配信ソリューションとなるのではと感じられる内容を「パナソニック コネクト」のブースで体験できました。本記事ではその詳細をレポートしたいと思います。
映像制作現場の課題を解決するソリューションを提供
パナソニック コネクトが展示ブースのコンセプトとして掲げたのは「現場がつながる・変わる」です。いま、放送局など映像制作の現場においては、映像クオリティの向上、コスト削減、慢性的な人手不足が課題とされています。そのため、これらの課題解消に向けた業務効率化などの取り組みを実現することが求められています。
その具体的な解決策の1つとして、パナソニック コネクトが提案するのが映像制作ソリューション「KAIROS クラウドソリューション」。
これは、同社が長年培ってきた映像技術のノウハウを集約したライブ映像制作ソリューション「KAIROS」をクラウド化したもの。そのメリットは、映像制作ワークフローをクラウド化することで、スイッチングや音声のミキシングなど、リモートでの業務を実現できることが1つ。さらに、パソコンやスマホなど最小限の機材で撮影や制作が行えるため、機材の搬入・搬出などの負担が軽減し、作業時間が短縮化できることも挙げられます。
加えて、複数カメラの映像やテロップを重ねたマルチレイヤー構成などの作画効果を、比較的シンプルな操作で実現できることから、従来よりもクオリティの高い映像制作が行えることが期待されます。
会場ではこのKAIROSを活用したデモンストレーションとして、幕張メッセのブースと青海にあるスタジオを生中継し、それぞれの会場で行われるダンスの模様をリアルタイムで演出するという、「ブレイキン」の遠隔対決が実践されました。
幕張メッセのブースにはKOSÉ 8ROCKSのRyo-spin選手やYU-KI選手ら、青海スタジオではFOUND NATIONのZENON選手がダンサーとして出演。各選手がダンスする様子にあわせて、その場でダンス映像を盛り上げる効果がつけられていきました。
撮影にはリモートカメラが使用され、幕張メッセのブースからライブでカメラ操作を実施。照明もKAIROSから制御していて、リモートで明かりの色などを切り替えられるとのこと。幕張メッセと青海スタジオに各3台のリモートカメラが使われており、この規模の中継では通常なら20名ほどのスタッフが必要なところ、今回は7名のスタッフで実現できているそうです。
その映像については、「ダイナミックな映像で、パワームーブにプラスで効果がついていて見惚れちゃいました」(ZENON選手)、「映像なのに本当にラグがなくて、画面越しでもバトルができる時代がきたんだな、とびっくりしました」(Ryo-spin選手)、「中継でも迫力があって、まるで同じ会場でバトルしているみたいに楽しくダンスできました」(YU-KI選手)と見事なダンスを披露した選手も絶賛。
そんなクオリティの高い映像も、従来であれば必要だった人的コストを抑えつつ、同時に熟練の技術を要さずに制作できるため、「今までになかったスイッチングができるのでは」と担当者はアピールしていました。
すでにこのKAIROSはパリ五輪でも採用実績があり、同会場で行われたブレイキンとバスケットボール 3×3、そしてスケートボード、BMXフリースタイルの3会場の現場をつなぎました。これはリソースシェアという、1台のKAIROS COREを複数人で共有し複数ユーザーでオペレーションを行うという活用方法で、環境負荷低減や運用場所のスペース有効活用、設置時間/コストの削減といったメリットが見込めます。
パリ五輪での活用にあたっては、オペレーターが2週間ほどでKAIROSの操作方法を習得できたそうで、このことからも直感的な操作ができるKAIROSの導入しやすさが伝わります。
こうしたソリューションはサブスク形式で提供されていることも多いですが、KAIROUSは1案件単位/1日12時間ごとのレンタル方式を採用。スポーツ中継や屋外イベントなどでも活用しやすく、リピーターも多いとのこと。
NetflixやDisney+などのサービスがオリジナル作品に注力するなか、コンテンツへのニーズが高まっており、視聴者を獲得するには映像クオリティの向上が欠かせません。そんな業界の現状に向けて、ブース担当者は「KAIROSはソフトウェアベースのため、拡張性と発展性があります。5〜10年先の放送や会場演出の形は、KAIROSがキーになると考えています」と展望を語りました。
ハイブリットワークで問題になりがちなオンライン会議に向けても提案
このほかにも、ブースでは同社の技術を活用したソリューションの提案が行われていました。「Media Production Suite(メディアプロダクションスイート)」コーナーでは、パナソニック製のリモートカメラを一括で管理・制御するソフトウェアプラットフォームに関する展示を実施。新たな拡張プラグインとして2025年度第1四半期の発売を予定する「Advanced Auto Framing(オートフレーミング)」などが注目を集めていました。
オートフレーミング機能は、ユーザーが自由に設定した構図をプリセットとして登録すると、そのアングルになるようにカメラが自動でフレーミングするというもの。高度な人体検出/カメラ制御によって、プロのカメラマンがリアルタイムで操作しているようなクオリティの高いカメラワークが実現できるそうで、これも現場の業務効率化、および高品位なコンテンツ制作に寄与する技術となります。
さらに顔認証と人体検出による追尾を可能とする「Auto Tracking(自動追尾)」や、複数台のリモートカメラの撮影ポイントをワンクリックで一括切り替えできる「Visual Preset(ビジュアルプリセット」、グリーンバックなしで簡単に被写体のキーイングが可能な「Video Mixer(映像合成)」といったプラグインも用意。これらは独立した映像制作をサポートするソリューションとして提案されていますが、KAIROSとの組み合わせも考えられるそうです。
出社勤務とテレワークのハイブリットワークが広がる昨今、一般企業の困りごととして、オンライン会議をいかに円滑に行えるかという課題があります。その解決に向けて提案されるのが、シーリングマイクやリモートカメラを用いたAVソリューションです。
複数名が会議室に集まり、テレワークの相手とオンライン会議を行う場合、発話者の声が聞き取りづらいなどの問題が発生します。同社が提供するソリューションでは、シーリングマイクがビームフォーミング技術によって発話者を特定し、その声を的確に収音。さらにリモートカメラと連携し、その発話者の位置へとカメラが自動で向きを切り替えることができます。
来年発売予定だというAVプロセッサーとの組み合わせにより、シーリングマイクを最大4台、リモートカメラを最大8台まで連携でき、広い空間でも対応可能。カメラには自動追尾機能などのモードが用意されており、ソフトウェアから複雑な設定なしで管理できることも強みとなっています。
また会場では、ミストを空中に噴射してプロジェクターの映像を投写する、「通り抜け可能なスクリーン」の展示が目を引きました。
これは極微細なシルキーファインミストを用いた「MORPHIC」というソリューションで、すでに多くのイベントで採用実績があるもの。水道水を使用して、触れても濡れないドライミストとして噴射するため、従来のスモークマシンにあったような吸気による健康リスクや機材などへの汚れがほぼない演出手法とされています。
ドライミストを噴射する噴霧器は、もともと暑さ対策のために発売されたものですが、この2〜3年の間にエンターテインメントでの活用事例が急増したとのこと。この噴射機は令和5年度補正予算の省エネルギー投資促進・需要構造転換支援事業費補助金の先進設備・システムにも採択されており、SDGsの観点から採用しやすいことも人気の理由の1つです。
このように、現場の課題を捉え、遠い未来ではなく近い未来に必要となるソリューションを提示することを目的とした展示が、ブース全体を通じて行われていました。