デジタル
スマートフォン
2025/3/13 19:15

グローバル発売の「三つ折りスマホ」が見せた、ファーウェイの「世界再挑戦」への決意

2025年2月18日、マレーシア・クアラルンプールで、ファーウェイのグローバル向け発表会「HUAWEI Innovative Product Launch」が開催された。発表会のメインコンテンツは、世界初の三つ折りスマートフォン「Mate XT ULTIMATE DESIGN」(以下、Mate XT)の世界発売だ。

↑Mate XT ULTIMATE DESIGN

 

中国国内で2024年9月に先行発売された本機は、下位モデルが1万9999元(約40万円)、上位モデルなら2万3999元(約48万円)という高値にもかかわらず、予約台数が600万台を超えるなど、一大センセーションを巻き起こした。その機種が、ついに海外市場へ挑戦することとなる。

↑発表会会場には、Mate XTの巨大な看板があった

 

三つ折りなだけじゃない。性能とデザインを極めた究極のスマホ

Mate XTの最大の特徴は、なんといっても「三つ折り」であること。サムスンのGalaxy Z Foldや、GoogleのPixel Foldなど、他社の折りたたみスマホが二つ折りなのに対して、本機は三つ折りの機構を採用している。

↑本機を屏風の形状に折り曲げると、自立する

 

Mate XTは屏風のように折りたためる有機ELディスプレイを搭載し、6.4インチ(アスペクト比約20:9)、7.9インチ(アスペクト比約16:15)、10.2インチ(アスペクト比約16:11)の3つの画面サイズを一台のデバイスで使い分けられる。6.4インチは一般的なスマートフォンと同等のサイズ感だが、10.2インチにもなれば小型のタブレットと変わらない大きさだ。スマホとタブレットを使い分けていたユーザーでも、本機を持てば一台で事足りるようになる。

↑折りたたんだ状態では、一般的なスマホのサイズと変わらない

 

画面の解像度は、6.4インチなら2232×1008、7.9インチなら2232×2048、10.2インチなら2232×3184。本機を完全に開き、10.2インチで使用した場合の画質は、QHDを超えており、4Kにも迫る。

↑画面を一つだけ開いた7.9インチ仕様。従来の二つ折りの折りたたみスマホはこのサイズが限界だったが、縦横比が中途半端で活用の幅が狭まっていた。読書などには向いているが、動画視聴ではムダが多くなってしまう

 

↑Mate XTを完全に開き、iPhone 16 Pro(右、画面サイズ6.3インチ)と並べたところ。大きさの差は歴然だ

 

そして特筆すべきはその薄さ。画面をすべて開いたときの厚みは、最薄部で3.6mm。折りたたんで一般的なスマホ形状にしたときの厚みは単純計算で10.8mmである。筆者が所持しているiPhone 16 Proの8.25mmと比べれば流石に分厚いのだが、並べて見てみるとそこまで変わらないようにも感じる。実際に本機を持ってみても、「厚すぎる」というほどの感覚はなかった。ただし重量は298gで、ずっしり感はある。↑開いた状態のMate XTの下辺。見るからに薄い。また右側にはスピーカーが見える。発表会では「史上最も薄く、大きい折りたたみスマホ」だと説明された

 

↑折りたたんだMate XT(右)とiPhone 16 Pro。前者の方がさすがに厚いものの、三つ折りであることを考えれば薄いといえるだろう

 

画面の薄さを支えているのが、安定性の高いヒンジだ。折りたたむ際には適度な抵抗感があり、グラつきは全くない。3つの画面の内部には、バッテリーが分散して内蔵されており、容量は5600mAh。有線で66W、非接触で50Wの急速充電に対応する。

↑ヒンジ部を構成する数多の部品。非常に細かく、複雑な構造であることがわかる

 

↑画面の内部。3つに分かれたバッテリーが内蔵されている。背面ボードの素材には極薄のカーボンを使用

 

背面のカメラは、F1.4〜F4.0の可変絞りに対応した広角(5000万画素)に加え、超広角(1200万画素)、5.5倍望遠(1200万画素)の3基。加えて800万画素のフロントカメラも装備している。背面カメラ周辺の構造にはかなりのこだわりがあるそうで、カメラ周囲のリングを作るだけでも78の工程を経る必要があり、完成までに22日間を要するという。

↑背面のカメラ。左下が可変絞りの広角カメラ

 

↑本機の画面を一つ折りたたんで自立させ、カメラを起動。三脚がなくとも自立するのは大きな強みだ

 

表面の素材には極薄レザーが採用されている。Mate XTの外観には、既存のスマホにはないような高級感がある。

↑背面にレザー素材を採用しているスマホは珍しい。Mate XTは、三つ折りだけにとどまらない新しさを感じさせる

 

グローバル向けMate XTは、メモリ16GB・ストレージ1TBの最上位モデルのみで、価格は3499ユーロ。日本円に換算すると約55万円だ。中国では50万円弱で売られていルモデルなので、やや高い値付けとなっている。ファーウェイのスタッフによると、中国国外で発売される同社のデバイスは、中国国内向けのものと比べてやや高い値付けになる傾向があり、本機もその例だという。

 

↑発表会で価格が画面に映し出されると、大きな歓声が起こった。カラーは、レッドとブラックの2色展開

 

本機は世界初の三つ折りスマホというだけでなく、単純なスマホとして見ても最上級のスペックを誇っている。価格が高くなってしまうのは承知のうえで、三つ折りの市場を開拓すると同時に確固たるリードを築こうというファーウェイの意図が垣間見える。グローバル向けの発売機種を最上位のみに限定した背景にも、“究極”にこだわる同社の考え方があるのだろう。

 

ファーウェイのスマホが世界へ再挑戦する試金石に

冒頭に書いた通り、今回の発表会はマレーシアで行われた。その理由は、ファーウェイのアジア方面を統括する本部が同国にあることが大きい。

↑HUAWEI Inovative Product Launch会場のロビー看板

 

だがMate XTの価格発表では、マレーシアの通貨であるリンギット建ての表記はなく、ユーロ建てのもののみが示された。また発表会には日本を含む各国のメディアが招待されていたが、欧州のメディアそのなかに含まれていた。これが意味するところは、本機を欧州向けに展開したいというファーウェイの狙いだ。現時点でMate XTの発売が決まっている国は、マレーシア、タイ、フィリピン、インドネシアなどの東南アジア諸国に限られている。だが今回の発表会の内容は、その先を明らかに見据えたものであった。

↑発表会開始前の様子。会が始まる頃には用意されていた多数の座席が全て埋まっていた

 

ファーウェイは米国の制裁によってGMS(GooglePlayストアを含むGoogle系のアプリを、スマホやタブレットにプリインストールしておけるサービス)が利用できなくなり、世界のスマホ市場におけるシェアを大きく低下させた。だが今回の発表会からは、端末の革新性を武器に、グローバル市場へ再挑戦しようという同社の本気がはっきりと見える。

↑ファーウェイでHead of Productを務めるAndreas Zimmer氏は、「Inovation」という言葉を何度も繰り返し、Mate XTの革新性を強調した

 

発表会では、プレゼンターが新たな話題を提供するたびに歓声が起き、興奮が渦巻いていた。Mate XTはその価格の高さゆえ、大きなシェアを獲得する機種になるとは考えにくい。だが、コアなユーザーに絶大な興奮をもたらす製品であろうことは、発表会の様子からも明らかであった。あとはそれが世界に広がるかどうか。Mate XTは、ファーウェイのスマホが再度世界に受け入れられるかを占う試金石になるだろう。

↑発表会にあわせ、クアラルンプールの街にはMate XTの広告が多数掲出された。高級ショッピングモール・PAVILION入口にある大型ビジョンにも、その3D映像が映し出された

 

↑PAVILIONのホールには、Mate XTの革新性をアピールする特設の展示ブースが設けられた(写真奥)。手前の両サイドに並んでいるフォトパネルは、Mate XTのカメラで撮影されたものだ