「足立 紳 後ろ向きで進む」最終回
結婚22年。妻には殴られ罵られ、2人の子どもたちに翻弄され、他人の成功に嫉妬する日々──それでも、夫として父として男として生きていかねばならない!
『百円の恋』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞、『喜劇 愛妻物語』で東京国際映画祭最優秀脚本賞を受賞。2023年のNHK連続テレビ小説『ブギウギ』の脚本も担当。いま、監督・脚本家として大注目の足立 紳の哀しくもおかしい日常。
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12月1日(日)
山口県から戻ってくる。東京駅からそのままいつもの喫茶店へ行き、ひたすら演劇の台本を書く。
1月22日から坂田聡さんと「6回の表を終わって7-0と苦しい展開が続いております(仮)」という題名の芝居をやるのだが、題名は決まっているものの、まだ台本は1文字も書けていない。本当に1文字もだ。今月16日から稽古が始まるというのに……。恐怖でしかない。
12月2日(月)
ドラマの編集。我が家で撮影しただけあって、リアリティがハンパない。これを狙っていたのだが、「このリアリティというか、我が家の再現度の高さに何か意味があるのですか?」と聞かれると、「そのほうが面白くなるような気がしたから……」と自信なさげに答えるしかない。自信なさげに答えるが、いい感じのロケセットで撮るよりははるかに面白くなっている自信はある。
妻からLINEがあり、息子が喧嘩した子と仲直りしたとのこと。先生が入って解決してくれてよかった。娘は今日から期末テスト。嫌だ嫌だと言いながら、根が真面目なので勉強をして毎日お腹が痛いと言っている。
夜、ファミレスに舞台の台本を書きに行く。夜に書き物をするのは何年ぶりだろうか。子どもが生まれてからは夜に仕事をしなくなったが、今回はそうもいかない。先月、韓国にシナハンに行っていた映画の台本も1月中には上げねばならない。
12月3日(火)
息子、家庭教師で来てくれている大学生のお兄ちゃん先生と和気あいあいで勉強。帰宅前には校庭解放で野球もしてきた様子。転校して元気な時間が増えてよかったと心底思う。
夜、ファミレスに舞台の台本を書きに行く。家から遠いがデニーズに行く。他のファミレスだとWi-Fiがつながってしまい仕事にならないのだ。もちろんスマホも家に置いていく。しかし、なかなか台本が進まず、憂鬱になる。
12月4日(水)
ドラマの編集の合間に「シコウヒンTV」に出演させていただいた。以前、NHKのラジオでご一緒した小宮山雄飛さんに呼んでいただいたのだ。
NHKのラジオのときはややよそ行きの会話だったのだが、その後に小宮山さんが『それでも俺は、妻としたい』を読んでくださって、私の正体を見抜き、呼んでいただいたのだ。「あの野郎、とんでもねえバカだったのか!?」と思ってくださったようでうれしかった。NHKのラジオではひたすら猫をかぶっていたのだ。お気に入りのぬいぐるみとフィギュアを紹介した。
12月5日(木)
終日、アフレコやMAなどドラマの仕上げ作業。その合間に舞台の台本を書く。しかし、なかなか書けずに悶々とする。間に合うのだろうか。不安で不安でしかたがない。夜、動悸が激しくなり眠れなくなる。
こういうプレッシャーを今まで感じたことがなかった。結局、朝まで眠れず、妻に不安や動悸を和らげる漢方薬を買ってきてもらうようお願いする。風邪気味で体調も良くない。ユンケルを3本飲むが、これは致死量かもなと思う。
12月6日(金)
昼から息子の学校で担任と面談。転校してひと月ちょっと。今のところは馴染んでいる様子とのこと。あと数か月、穏やかに卒業できればと願う。
夕方からグレーディング。終了後、本当は台本を書かねばならないのに、現実逃避でスタッフの方と飲みに行ってしまう。現実逃避が楽しいはずもなく、帰ってからまた眠れなくなる。妻が買ってきてくれた漢方薬を飲む。台本が書けない不安から薬を飲むのは初めてなので、このまま自分が壊れなければいいと思う。しかし、他人には仕事上の苦しみは伝わりづらい。私だって他人の仕事の苦しみは理解できないからだ。
12月7日(土)
午前中からデニーズに行き、台本に向かう。なかなか進まない。苦しい。昨晩、酒を飲んでしまったために体調もさらに悪化。
昼から『それでも俺は、妻としたい』の編集へ。ドラマの中の主人公を見ていると癒される。自分がモデルのドラマに癒されるってどういうことなんだろうか?私はバカなのだろうか?
妻は終日、娘の高校のPTA。40人×8クラスある高校で、すごい確率でPTAの本部の仕事のくじを引いてしまったとのこと。11時集合で、来年の合格者への書類作成、梱包、来年度の理事会、役員の選抜など、やることが山積みらしい。それを無報酬でやるってすごいな。
夜、またデニーズに舞台の台本を書きに行くも、美男美女(という書き方は今では問題があるのだろうが、見たままを書く)のカップルがとても楽しそうな会話をしていて、心の底から羨ましくなり、自分があの男だったらという妄想ばかりしていた。
12月8日(日)
【妻の日記】朝から夫がグロッキーを猛烈アピールしてくる。が、私は息子の体験入試会があるのでそんなアピールはスルーして、8時前には家を出る。寒すぎる。寒い朝は息子は動かなくなることが多いのだが、今日は学校の帰りに「藤子・F・不二雄ミュージアム」に行く約束をしているので、スムーズに出発できた。スムーズに家を出ることができるだけで、本当に助かる。
体験入試のあと、個人面談。この学校は教室の椅子と机の脚にテニスボールが付いていて、「これ、音がうるさくなくて良いですね。息子は聴覚過敏があって時々イヤーマフをするのですが、こうやってテニスボールがついていると助かります」などと話していたら、先生の顔つきが少し変わり、「あの、イヤーマフはどんな時に使うのですか? 当校はイヤーマフは許可制なんです。ヘッドホンと似ているので」と言われた。もちろん許可制でも全然良いのだが、イヤーマフに関してウェルカムではないようで、今の時代、インクルーシブ教育の必要性があるなか、自由な校風だけど全然インクルーシブじゃなさそう、と思う。
前にもこの学校で個人面談をしたときに、「息子がLD傾向があって、読めたり話せるんですけど、書くのは苦手なんです。端末活用などの配慮はありますか?」と聞いたら、「時代に逆行しているのかもしれませんが、当校は基本プリント学習で、とにかく書いて書いて書かせる授業です。かなり書かせます」と言われたこともあった。もし入学できても、苦労するかもしれないな。でも、生徒主体の自由な校風は息子に向いていそうだしな……とここにきてまた悩む。
終了後、藤子・F・不二雄ミュージアムで3時間ほど過ごし、お土産に『21エモン』愛蔵版を買って帰宅。
時おり夫から「もうダメかもしれない」「今回は書けない気がする」「風邪がつらい」などとLINEが入るがガン無視。台本の出来はどうなるか知らないが、ヤツはどうにか力づくで書くと思う。
12月11日(水)
大阪に行き、メッセンジャーの黒田さんがやってらっしゃる『おっさんぽ』という番組に出していただくためだ。しかし、体調が悪いにもほどがある。タイホドだ。黒田さんや近藤芳正さんと久しぶりにお会いできるというのに、ほとんど記憶もなく番組収録が終わってしまった。
12月12日(木)
【妻の日記】息子、本日の英語のスピーキングテストがどうしても嫌だ、ということで、朝、石のように動かず。こうなるともうどうやってもダメなので、家じゅうの電子機器を隠し、お弁当とお手紙を書いて家を出る。
「朝突然、君が動けなくなるのが、私はキツイです。君のテストの点が悪くっても私は全然平気です。でも、君はテストの点が悪いのが辛いんだよね。でも、そこを逃げても、違う辛さがあると思う。テストなんて『ま、いっか』の精神でうまく受け流せるようになって欲しい。この先の人生いろいろあるから、うまくかわしながら生きて行って欲しいです」
午前中、喫茶店で仕事して、13時に大阪帰りの夫と下北沢で待ち合わせして、城山羊の会『平和によるうしろめたさの為の』を鑑賞。中島歩の小嘘ばかりつく男も、岡部たかしのモラハラマザコン男も、古館寛治の優柔不断で常にその場しのぎの鈍感な男も妙にリアルだったから、なんか腹が立っておかしかった。あまりの面白さからか、劇が終わるころには夫の体調が戻っていた。
帰宅すると、私が息子に書いた手紙がびりびりに破かれていた。そして、習い事のキックボクシングも行っていなかった。反抗期、来やがったか……。ああ、面倒くせぇ。
後々聞くと、そのスピーキングテストが班ごとに動物になりきって英語で発表するやつだったらしく、テストの点というよりも、どう発表してよいかわからなすぎて皆の前で恥をかくのが嫌だったのかなと察した。多分テスト内容も聞いていなかったから不安だったのだろうと思う。
12月13日(金)
【妻の日記】朝から頭と関節が痛い、と息子が主張。夫も私も今、かなり風邪気味なので、息子も体調が本当に悪いのかもしれない。本日もお休み。娘が息子に「お前、終わってる。いい加減、仮病やめろ!」と怒鳴って出て行った。娘も少々体調が悪いようだが、小テストがあるから踏ん張って行くようだ。娘からしたら息子が甘ったれすぎに見えるのだろう……。娘は学校のあと、バイトもある。あいつは怠け者!と思い、弟に冷たく当たる気持ちもわかるが、それはそっとしておいてほしいなと思う。
私も調子がよくないので、一日中家で仕事。息子は『まんが道』愛蔵版を全巻読破。「あー面白かった」とのこと。体調は悪いんだか、大丈夫なんだかわからない。悪いといえば悪いし、まぁなんとかと言えばまぁなんとかなんだろう。将来働くようになったら、いろいろしんどくならない勤務体制で働いてほしいなと思う。
明後日から演劇の稽古が始まる夫はフラフラしながら台本を書きに出て行ったが、どうもあの絵に描いたようなフラフラ歩きが芝居じみていてイラッとしてしまい、優しくできない。
12月15日(日)
明日から稽古が始まるので、とにかく進められるだけ舞台の台本を書く。肩、肩甲骨だけでなく腕もものすごく痛い。どんなにマッサージに行っても治らない。
妻と娘は近所のシネコンに『正体』(監督:藤木道人)を観に行った。私はもうずいぶん映画館に行けていないが、芝居が終わるまできっと行けないだろう。先月、韓国にシナハンに行った映画のシナリオも来月半ばまでに書かねばならない。
すでに初稿に関しての締め切りを含めた契約書も結んでいる。契約書がないことを普段は嘆くのに、こういうときに日本の杜撰なシナリオの仕事もいいかも……なんて思ってしまうのがダメなんだろうな。契約書を結んで、その期日を守れなかったらどうなるのだろうか? それは契約書に書いてあるのかな? 妻がやっているからわからない。罰金100万円みたいなことだったらどうしよう。
夕方、家に帰ると、息子と保育園友達がワイワイ興奮しながらスタンディングでゲームをしていた。座ればいいのにと思ったけど、2人とも至極楽しそうだからそのままに。夜になって、息子が「頭痛い、関節が痛い」と、また始まった。明日休みたいことへの伏線なのだろうか……。どこまで本気の痛みなのかわからない。
12月16日(月)
起きると、息子、37.2度。微熱。仕方がない、お休みだ。頭が痛いのは本当だったのだな。疑ってごめん。娘がまた「お前、またズル休みかよ!」と叫んで学校に行った。私も体調があまりよくないが、稽古へ行かねばならない。どうなってしまうのだろうか? こんなことを書くと仕事を失ってしまいそうだが、演出プランはまだ何も決まっていない。
とりあえず、なんとなく書いてある第1場を読んでみた。皆さん不安そうだが、最初の本読みだから私も特に言うことは何もない。が、何か言わなければと思って何か言ったが、そんな感じで言った言葉だから何を言ったのかまったく覚えていない。
数日稽古を休んで台本に専念してくださいと、制作の佐々木さんに言われる。本当に申し訳ない気持ちでいっぱいで、その気持ちを皆さんで分け合いたいくらいだが、そんなもの犬の糞よりいらないだろう。
12月17日(火)
朝、息子の熱を測ると38.5度。近所の病院は外まで列ができるほど混んでいるし、処方されても息子は頑なに薬を飲まないし、どうせ寝ているしかないなか、息子に病院へ行く必要性を納得させる気力も体力もない(息子は大の病院嫌い)。妻も私も体調が良くないが、息子の看病を妻に頼んで私は舞台の台本を書きにデニーズへ行く。もはや書けないとかどうとかではなく、書くしかない。
12月18日(水)
今日も稽古を休ませてもらって台本書き。もう本当に申し訳ない。息子、36.8度まで下がる。具合が悪くないのは娘だけ。なんとかもらわないでほしい。
12月19日(木)
息子、36.8度だが、まだ関節が痛いというので、今日も学校を休む。でも午後は元気すぎて妻とキャッチボールをしていた。本日は稽古に参加。書いたところまでを、皆さんに読んでいただく。それをボケっと私は見ているのだが、次から次にくだらないギャグとも呼べない冗談だけは思い浮かぶので、それを足していく。ああ、早く書かなければ……。
12月20日(金)
息子、熱は完全に下がったが、めでたく登校渋り。あと4日で学校も終わるのだから行きなさい!ということで、無理やり遅刻して登校させる。朝の動けない感じが鬱っぽくて、こちらも落ち込んでしまうが、行った方が午後から元気になるので、よほどのことがない限り行かせたい。
夜、『百円の恋』の10周年上映があるため、娘とテアトル新宿へ。娘は小学6年生のときに湯布院映画祭で『百円の恋』を初めて観たが、そのときはあまりピンときていなかったようだ。高校2年になった今はかなり響いたようで、立ち見だったが食い入るように見つめていた。編集と映像が素晴らしいと言っていた。上映後に妻と塾帰りの息子が合流してトークイベントだけ聞いていた。皆さんと一緒に飲みに行きたかったが、娘以外の家族全員体調が良くないのでおとなしく帰宅。
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12月21日(土)
【妻の日記】夫は演劇の稽古。先日、台本の第1場だけを読ませてもらったが、「これはちょっとひどいと思う」と言って大喧嘩になってしまった。批判を受け止められないなら読ませないでほしい。それにしても、野球についてずっと無駄話だけしている台本で、私のように野球を知らない人間が楽しめるのか、とても不安。
私と息子は『それでも俺は、妻としたい』の撮影現場で仲良くなった子役の鉄太君とカイラちゃんと遊ぶ約束の日。撮影中は鉄太君とあんなに頻繁に会っていたのに、撮影が終わったら全然会えなくなってしまったので、カイラちゃんのいる横須賀の基地に遊びに行こう!ということで計画。
初めての基地に子どもだけでなく大人も興奮。アメリカンなフードコートで「Popeyes」というフライドチキンとピザを食べ、ボウリングをし、アメリカのスーパーで買い物をして帰ってくる。あっという間に時間が経過。夫と娘にもライム味のチップスやほうれん草のクリームディップ、シナモンロール、チキンをお土産に。楽しかった。
12月22日(日)
本日は稽古が休みのため、午前中から夕方までひたすら舞台の台本を書く。夕方から映画学校の同期の友人・高橋(青森在住)が飲みに来る。彼は今、青森でリンゴを作りながらいろいろと楽しそうなことをしている、いわゆる青年実業家という怪しい肩書きのやつだ。『百円の恋』の青森上映のイベントも仕切ってくれた。会うのは数年ぶりなので、積もる話で盛り上がった。
12月23日(月)
【妻の日記】夫は朝から喫茶店に台本を書きに行き、夕方からそのまま稽古に行くという。子どもたちは学校へ。私は粛々と仕事。息子、早退して2か月に1回の30分の療育へ。ソーシャルスキルトレーニングの時間だが、廊下には息子の大きな声でAmazonで配信中の『龍が如く』の解説が響き渡っている。先生から「説明が上手ですね!」とお褒めの言葉。それでも行かないよりはましか。
12月24日(火)
どうにかこうにか舞台の台本をラストまで書く。もう腕力で書いた。右腕の筋肉痛が激しすぎる。クリスマスイブだが今日も稽古だ。家族に申し訳ないが、本番が1月22日で年末年始に稽古ができないからやむを得ない。
【妻の日記】夫は朝から仕事。娘、身体がだるいとのことで学校を休む。高校でインフルエンザがすさまじく流行っているから無理しないほうがよいと判断。息子はもう復活し、「1か月に1日の休みは使えない」とブツブツ言いながら登校。帰宅後、大学生のレンタル先生が来る。勉強よりも今日もまた『龍が如く』の解説が始まった。
夕飯は鶏の丸焼きを作ったので食す。子どもたちがたくさんお代わりをして1匹ぺろりとなくなる。うれしい。最近は夫がいないのが当たり前になってきて、息子が「今日、父ちゃんは帰ってくるの?」と聞かなくなった。娘も何も言わないが、寂しいのかもしれない。
これだけずっと不在だと、子どもとの距離感ができるし、夫の家での居場所がなくなるから良くないとは思う。せっかくのクリスマスイブなので、夕飯後はケーキを食べながら娘と息子と昔のM-1を観る。パンクブーブーとミキが私は好きでした。
12月25日(水)
【妻の日記】夫、朝から仕事。舞台の台本はなんとか最後まで書ききったようだが、韓国にシナハンに行っていた脚本も年明けには書き上げねばならず、横から見ていてゲロが出そうになるが、こうしてたまたまいろんなものが重なってしまうこともあるのだろう。韓国のものは第1稿までの契約書もきちんと結んでしまったので、死んでも書いてもらわなければならない。
娘、本日もだるいということで学校を休む。息子は「今日で終わりだー!」と足取り軽く学校に向かう。私は洗濯、食器洗い、掃除機掛けなど朝のうちに済ませて粛々と仕事。11時からオンライン打ち合わせ。12時半に息子を迎えに行き、タブレット、習字鞄、給食当番の割烹着、体操着、図工バッグなど大量の荷物を自転車に入れて一緒に帰宅する。
以前の学校より成績表が爆上がりしていたため、息子のテンションが高い。なぜこんなに評価が違うのだろう……。そもそも小学校は絶対評価(子ども自身の成長を評価)なのだから、もっと緩くして自己評価を上げさせればよいのではないかと思う。そうすると、慢心して勉強しなくなる懸念があるのかもしれないが、LD(学習障害)のある子は、相対評価(学年全体から見た評価)だとオール1になって自己嫌悪に陥ってしまうだろうな……。
とりあえず、2学期お疲れ様ということでオムライスを作る。娘も食欲はかなりあるようで、家で作る焼き芋にバターを乗せて鬼のように食べている。
夕飯は昨日と違うバージョンのチキン。よく食べる。夕食後、娘と息子とお笑いを見て、大笑いする。年末感があり、のんびりとした時間を過ごせた。
12月26日(木)
年内の稽古は昨日で終わったが、妻が前日に書いているように韓国を舞台にしたホラー映画のシナリオを昨日から書き始めた。実はこれは私が15年くらい前に書いていたプロットが元になっている。それを妻が釜山映画祭で出会った人に読ませて、企画開発してみましょうかとなったものなので、正直この先どうなるのか全然わからない。
ただ、初稿のギャラの良さが日本映画とは比べ物にならない。これは面白いものを書かないとまずいぞというプレッシャーを感じるレベルだ。日本だと、まあ、安いしつまらなくてもいいやと思えるからプレッシャーはない。どちらが良いのだろうか? なんて言っていること自体、私の頭の中はおかしいのだと思う。
夜、妻が忘年会でいなかったので、遅い時間まで息子と『イカゲーム』を観てしまった。シーズン2への復習で。
12月27日(金)
娘と息子、朝から居間で『イカゲーム』シーズン2。その横で私はひたすらにホラー映画の台本を書きまくる。 昼過ぎ、息子を中野のまんだらけに連れて行く約束をしていたので連れて行く。息子へのプレゼントという名目で1万5000円のレザーフェイスのマスクを購入。そして帰りに地下で大量の刺身を購入。妻に怒られるだろうなと思ったらやはり怒られた。
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夜、デニーズへ行き深夜2時くらいまで脚本を書く。こんな時間にファミレスで書くのはいつ以来だろうか。かつて友人と住んでいた20代のころなど23時くらいにファミレスに行って夜明けまでだったが、そんなことをしていたのが信じられない。今なら3日はパーにしてしまうだろう。
12月28日(土)
昨夜、2時過ぎまで書いていたが、午前中から再びデニーズへ。夜に忘年会があるためだ。右腕の手首がちぎれそうなくらい痛いが、書きまくった。
夜の忘年会は高そうな焼き肉屋さんへ。プロデューサーと原作者の作家さんと私の3人だけのささやかで短い時間の忘年会。
12月29日(日)
家族で池袋のボーリング場とバッティングセンターをはしご。家族4人で出かけるのは久しぶりだ。ボーリングではすべての試合で私がダントツの1位で、久しぶりに娘と息子から尊敬の眼差しをもらった。「パパ、ボウリングうまいんだね!」と。つっても120点くらいなのだが……。
バッティングセンターで3ゲームほど打ち、自然食のブッフェを食べ散らかして帰宅。今日はこの日記にもちょくちょく登場する、長野在住の映画学校時代の友人の槇原が泊まりに来ているので、皆で一緒に銭湯へ行った。100度越えの高温サウナと38度の炭酸泉が心地よい。
12月30日(月)
『それでも俺は、妻としたい』の支度部屋として借りていた部屋が、今は編集室となっているが、そこで忘年会。『それ妻』のスタッフ以外にも様々な人が集まって賑やかだった。
12月31日(火)
午前中、脚本を書き、午後から妻の実家へ。寿司を食い散らかす。今年は大分県で映画を1本撮り、深夜連ドラを全話監督した。両作品とも自由度が高く、とても楽しい撮影だった。が、お金は儲けられなかった。これだけ自由度の高い作品で、あと少し儲けられたら言うことはないのだが……。
そしてこの日記の連載も今年で終わりです。2020年、コロナの3月から始まった日記ですが、皆さん、読んでくださってありがとうございました。日記は終わりますが、人生は続きます。2Fの難民申請中のSさんも、猫も、亀も、バカでかくなった金魚もみんな元気です。どうか我が家に良いことがたくさんありますように。もちろん皆さまにも。長い間、ありがとうございました。 サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ。
【妻の1枚】
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【プロフィール】
足立 紳(あだち・しん)
1972年鳥取県生まれ。日本映画学校卒業後、相米慎二監督に師事。助監督、演劇活動を経てシナリオを書き始め、第1回「松田優作賞」受賞作『百円の恋』が2014年映画化される。同作にて、第17回シナリオ作家協会「菊島隆三賞」、第39回日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。ほか脚本担当作品として第38回創作テレビドラマ大賞受賞作品『佐知とマユ』(第4回「市川森一脚本賞」受賞)『嘘八百』『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』『こどもしょくどう』など多数。『14の夜』で映画監督デビューも果たす。監督、原作、脚本を手がける『喜劇 愛妻物語』が東京国際映画祭最優秀脚本賞。最新作は『雑魚どもよ、大志を抱け!』。著書に『喜劇 愛妻物語』『14の夜』『弱虫日記』などがある。最新刊は『春よ来い、マジで来い』(双葉社・刊)。