Vol.147-3
本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回はCESで発表された新規格「HDMI2.2」とテレビの超大型化の話題。価格面だけでなく設置の課題もあるが、今後も大型化は進むのか。
今月の注目アイテム
TVS REGZA
REGZA 85E350N
実売価格28万6000円

今年1月のCESで、テレビなどで使われる新しい接続規格である「HDMI 2.2」が発表された。製品化は今年後半からの予定で、家電などで使われていくのは今年末から2026年はじめにかけて、ということになりそうだ。
HDMIはもう、多くの人がご存じかと思う。最初の「HDMI 1.0」が策定されたのは2002年12月のことなので、もう20年以上も使われている。ディスプレイと機器の間をつなぐデジタル接続用の規格だ。
コネクターやケーブルは一見変わっていないように見える。ただケーブルの方は規格に合わせて「より広い帯域のデータ」を扱えるものを使うことが定められており、対応のものでないと正常に使えない場合がある。現行の規格は「HDMI 2.1」であり、最大48Gbpsのデータを流せるケーブルであることが求められる。
新規格の「HDMI 2.2」ではこれが「最大96Gbps」に拡張され、より良い品質のケーブルが必要になる。認証を受けたケーブルには、パッケージに規格名と伝送帯域(96Gbps)が明記される予定なので、2025年後半以降に発売された場合には、それを目印にしてほしい。
一方正直なところ、HDMI 2.2は一般消費者向けにはかなりオーバースペックではある。
この先のテレビのトレンドを見ても、解像度は4Kが中心。8Kは放送を含めたコンテンツ供給が増える目処が立っておらず、ゲームも4Kまでが主軸になるだろう。ゲームではフレームレートが増えていくが、240Hzまでいけば十分だろうと想定される。ゲームでの高フレームレート以外は“現在のテレビでもカバーできている範囲”であり、HDMI 2.2でないとできない、ということは少ない。
ではHDMI 2.2はなんのために作られたかというと、“テレビ以外に新しい用途がある”ためだ。
現在、市街地のビルなどに大きなサイネージ・ディスプレイが置かれることは当たり前になってきている。イベントなどの背景に使われるのも、同じく大型のディスプレイだ。これらは4Kよりもはるかに高い解像度であり、5K・10Kといったレベルになる。
また、CTスキャンのデータなどを見る医療用ディスプレイも、4Kを超える解像度のものが求められている。
裸眼で立体を見るディスプレイは、どこから見ても立体に見える「ライトフィールド記録」を採用するものもある。そうしたディスプレイでは「32視点分」のような大量の視点の映像を同時に表示するので、解像度を高めるには「1視点の解像度×視点の量」だけの映像を表示可能なデバイスが必要になる。
どれも基本的には個人向けではなく産業向けで、いままではDisplayPort規格が使われてきた。そこにHDMIが割って入るには、規格の大幅アップデートが必要になる。すなわちHDMI 2.2については、家電メーカーの要請ではなく「産業機器メーカー」の意向が強く働いている、ということだ。
だから“HDMI 2.2がテレビの未来を示している”わけではなく、機能の一部が未来のテレビにも使われていく……と考えるべきだろう。
では未来のテレビはどちらに向かうのか? それは次回のウェブ版で解説してみたい。
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