幼少期に夢中になったおもちゃの数々。子どもから大人になる途中で「思い出の品」となるのは誰もが通る道かもしれないが、還暦を過ぎても変わらずに愛おしむ稀有な存在も一定数いる。タレントの山田邦子さんは3歳の頃に買ってもらった1人目を皮切りに半世紀以上も「お人形遊び」をエンジョイしている。なんと、リカちゃん人形だけで所有数は1000体以上! それでも、自らをコレクターではなく“プレイヤー”だと断言する。その真髄や思い出を大いに語ってもらった。

【山田邦子さん撮り下ろし写真】
コレクターではない“プレイヤー”は箱から出して遊ぶ!
──お人形を好きになったきっかけを教えてください。
山田 単純に目で見て「かわいい~♡」と感じたからだと思います。それこそ、物心がつく前から家にあった大きな「ミルク飲み人形」で遊んでいたそうです。女の子はお母さんごっこみたいな“ごっこ遊び”の中でもお世話する遊びが大好きじゃないですか? おんぶしたり抱っこしたりしていた記憶をかすかながらに残っています。
──最初に買ってもらった人形のことは覚えていますか?
山田 もちろん! 3歳の頃にお父さんに買ってもらった「ペッパーちゃん」が1人目。ちょうどその頃はビニール製の人形が店頭に並び始めた時期で、私もおもちゃ屋さんの前を通るたびに「なんて小さくてかわいい人形があるんだ!」と食い入るように見ていました。もう欲しくて欲しくてしょうがなかったの。とある日曜日に「ママごとの道具が足りなくなった」と居間でゴロゴロしていた父親に嘘ついておもちゃ屋さんに連れて行ってもらって……。
──どうして、わざわざ嘘をついたんですか?(笑)
山田 当時は何をするにも「お前にはまだ早い」と周囲に言われがちでした。2歳年上の兄と同い年の女の子たちが遊び相手になってくれていたんですが、ママごとをするにしても年下の私の配役は赤ちゃんばかり。みんながお母さんやお姉さんの役に収まるのに……。特に兄がお父さん役になってしまうと確実に赤ちゃんの役でした。それだけに、この時も「まだ早い」と言われるのが頭の中によぎったのでしょう。でも、おもちゃ屋さんに行ってしまえばこっちのもんです。一目散に陳列棚までダッシュして、「絶対に大切にするから!」と懇願して買ってもらいました(笑)。ちゃんと有言実行で遊び終わるたびにクッキーの缶に保管していましたよ。そこからは誕生日やクリスマスはもとより、お年玉や月のお小遣いを全て人形に捧げています。
──愛好家歴60年以上とは恐るべし……。
山田 長いでしょ(笑)。次に夢中になったのがファッションドールで有名な「バービー」。発売当時は「外国産のお人形はオシャレだな~」と感動した記憶があります。お母さんでも見たことがないハイヒールやマニキュアをしていたのが幼心に刺さりました。とにかくスタイルが絶品です。ボンキュッボンですからね。夢のようなスタイルにときめいていました。今回は風邪をひいたと嘘をついてお父さんに買ってもらいました。仮病で寝込んでいる私に「会社の帰りにメロンでも買ってこようか?」とお父さんが聞いてくれるんです。それで、「メロンはいらない! バービーがあれば元気になる」とお願いして買ってもらいました。
──優しいお父さんだったんですね。
山田 振り返れば、お父さんはチョロかった(笑)。お母さんから「絶対嘘なんだから甘やかしちゃダメよ」と言われても関係ありませんでした。でも、バービーが手に入る喜びと同時に一抹の不安もありました。というのも、お父さんは女の子のわびさびを理解できるような感性の持ち主ではありませんからね。特に吟味せずに最初に目についたものを買ってきがちでした。案の定、一番目立つとこに陳列されていたウエディングドレスを着たのを買ってきた。本当は水着やかっこいい系のドレスを着たのが欲しかったのに……。ペッパーちゃんを買うと他の人形のファッションブックみたいな冊子が付録で付いていたので予習だけは万全だったんです。これが幼稚園の頃でした。
──「ペッパーちゃん」「バービー」と女子人気が変遷する中でリカちゃんが登場しました。
山田 それは衝撃的な出会いでした。小学1年生の夏になるかならないかの頃に、近所のおもちゃ屋さんの前を歩いているとリカちゃんのポスターが貼られていたんです。近日発売予定と書かれていたと記憶していますが、とにかく小さくてかわいい! これが初代リカちゃんでした。親しみやすい主人公の顔をしているんですよ。一方でリカちゃんの登場によってバービーは恋敵などのヒール役に回されることが増えました。美人過ぎるゆえのジレンマなのでしょう。
──初代リカちゃんはどのような存在なのですか?
山田 最初に手にしたリカちゃん人形だけに「一生の大親友」です。もう、50年以上一緒にいます。子どもの頃は食事や寝るたびに一緒にいました。もちろん、お風呂にも一緒に入りましたよ。リカちゃんは頭髪を手入れできるんですよ。みんなお風呂でキレイに洗ってヘアアレンジをしていましたね。個人的には生活の中に溶け込ませるのが楽しみ方の1つ。自宅の階段やキッチンにもいてほしいんです。それなのに、「片づけろ!」と夫に言われまして……。結婚はつまらんものですよ!
──なんてことを……。ちなみにリカちゃんシリーズにはたくさんの友だちや家族も発売されています。こちらも購入されるのですか?
山田 もちろんです。まんまとメーカーの販売戦略にハマってしまいました(笑)。初代リカちゃんが発売した翌年に発売された「リカちゃんトリオ」と呼ばれるいづみちゃんとわたるくんもすぐに購入しました。その後にも友だちの兄弟や家族も発売されて、ボーイフレンドなんて今になって思えばいったい何人いるのか把握できません。どれだけ遊び人なんだとツッコミを入れたくなります。いずれにせよ、どんどん新商品が発売されるたびに気に入ったものを買い足していくので、現在までにリカちゃん人形だけで1000体以上を保有しています。ただし、断っておきますが私はコレクターではなく“プレイヤー”。今も昔も、箱から出して髪の毛をといたりお洋服を着替えさせたりして遊んでいます。
──お人形遊びにおいて“プレイヤー”という言葉を初めて耳にしました。どういう意味なのでしょうか?
山田 コレクターの方は購入したものを箱から出さずにそのまま保管されると思います。一方で私のようなプレイヤーは箱から出して遊ぶことが一番の目的なんです。結果的にコレクションになっていますが、そのほとんどの箱を潰して捨てています。よほど貴重なものであれば話は別ですが……。
──なんという徹底ぶり!
山田 遊べなきゃ意味がありませんから。そもそも、最近は購入時点で箱に入っていないリカちゃんもあります。「オリジナルデザインオーダーサービス リカちゃん」という商品で、その名の通りヘアスタイルからお洋服に至るまでを全てオーダーメイドできるんです。私の子どもの頃に黒髪や茶髪が主だったヘアカラーも青色、ピンク色、紫色などのたくさんの選択肢から選べるようになりました。お洋服もオリジナルのものを着させることもできるんですよ。もちろん、コレクター向けにオリンピックとタイアップした商品や十二単のような日本の伝統をモチーフにした商品もパッケージ版として発売されています。それらもかわいいと思えば購入するようにしています。もちろん、ほとんど箱から出して遊んでいます。
──購入するしないのジャッジはどのように下されるのでしょうか?
山田 完全に出会った時のインスピレーション。というより、箱の中から目が合うんですよ。「一緒に遊ぼう!」とテレパシーなのか、人形の思いが伝わってきます。リカちゃんにしても何でもかんでも買っているわけではありません。ちなみに、今日は私なりに選ばせていただいたスタメン5体を連れてきました! 本当に苦渋のセレクトでした。選ばれなかった子たちが「どうして、連れて行ってくれないの?」と棚の中から訴えかけてくるんですから……。
こだわりのオーダーメイド、貴重な初代、自らの分身までを一挙紹介
──それでは、1人ずつ紹介してください。この子は女学生ですか?
山田 そうです。私の女学校時代を投影したリカちゃんになります。先ほども申しましたが、現在のリカちゃん人形はオーダーメイドができます。私が通っていた中高一貫校の三本線の制服を再現していただいて、髪の毛は三つ編みにしてもらっています。
──かなり細かい注文ができるんですね。
山田 当時の写真やヒアリングしてもらった情報を元に再現してくれるんです。ストッキングや靴の色、カフスやタイの細かいデザインも全く同じ。強いて違うところを言うならば、髪の毛を結っているゴムの色が白色な点。実際は黒色でないと校則違反で怒られていました。髪の毛が茶髪なのも本当はアウト(笑)。それでも、すごくお気に入りの1体です。
──いつでも中高生の若かりし日を思い出せますね。
山田 そうなんです。私だけでなくそれぞれのリカちゃん人形のファンが、自分たちの通っていた学校の制服を作って着せているみたいです。特に女子高出身者。やっぱり、自分の小さい分身を作ってアレコレ語りかけたいんじゃないかな?私もこの子を見ていると青春時代の切ない思い出が蘇ってきます。「あの先生に怒られたな‥‥」「あの友だちと交換日記をしたな‥‥」という具合に。
──あれ? よく見るとお化粧もしているような……。
山田 これも校則ではアウトです。目や唇の色も選べるので、理想を追求させてもらいました。確かに眉毛も少し細いかも……。
──隣の子のドレスは華やかですね。
山田 こちらはわりと最近購入したものです。とにかくピンク色のドレスがかわいくて! 髪の毛もクリクリパーマでゴージャスでしょ? 靴下を含めて全部ピンク色でコーディネートされています。
──これもオーダーメイド?
山田 いえ、既製品になります。オーダーメイドでなくてもバリエーション豊富なんですよ。サラサラヘアから前髪パッツンのおかっぱヘアなど何でもござれ。この子の設定は結婚式の新婦さんだと思います。手袋や靴下などの細かいアクセサリーを含めてハレの日が表現されています。ちなみに、耳に付いてあるイヤリングはどのリカちゃん人形にもデフォルトで付いているの。最初に紹介した制服のリカちゃんにも付いていましたが、流石に校則違反を重ねすぎると退学になっちゃうので私が外しました。ほら、ピアスの穴が空いているでしょ?
──仕事が細かい! さらに隣にいる子は年季の入った印象ですがまさか……。
山田 この赤いお洋服の子こそが初代のリカちゃんです。私が遊んでいる中でも初代中の初代。紛れもなく小学1年生の時におもちゃ屋さんで買ってもらったもの。もう髪の毛をイジリ過ぎて最初とは全く違うヘアスタイルになっています。実は初代は2パターンに分かれているんです。
──と言いますと?
山田 この最初に発売された初代パート1だと、片側の腕を動かそうとすると両腕が一緒に動いてしまいます。これは両腕を針金でつないだ構造だから起こる仕様です。腕を曲げるポージングも取れるんですけど、何回も変えているとポキッと折れてしまう可能性があるのでなるべく無理のないように遊んでいます。お腹から下肢を握って遊ぶことが多いだけに、この箇所に手垢が付くからよく洗わないといけません。服をめくってみるとちゃんとおへそがあって、この腰の部分に境目がないでしょ? 初代パート2だと腰部分が動かせる仕様に変更されています。
──それにしても、保存状態が良すぎます。人形をキレイに保つ秘訣はあるのでしょうか?
山田 ずっと遊び続けるのに尽きると思います。何でも使わないと劣化しちゃうんです。輪ゴムでも使わずに棚にしまったままだと、いざ使う時になってバチンと切れてダメになりますよね。それと同じです。
──4人目は洋風スタイルの印象です。
山田 71年にハワイ生まれで日焼けした「ピチピチリカちゃん」が発売されました。今日も持ってこようか迷ったんですけど、代わりにリカちゃんの友だちの「さわやかリーナちゃん」を持ってきました。肌が小麦色なのが特徴です。ちなみに、ピチピチリカちゃんは少し顔が傾いていたのが不味かったのかすぐに発売中止になります。ほどなくして、リーナも肌の色が問題視されて発売中止になっているんです。
──では、かなり貴重な1点なんですね。これは水着を着ているんですか?
山田 そうです。でも、私が勝手に着せているものなので純正のものではありません。頭に載せてあるサングラスもバービーのものですね。リカちゃんはかわいい、いづみちゃんは美人、そしてリーナはどこか憂いを帯びた雰囲気が魅力。すぐに心を奪われました。実はリーナだけで3~4体持っています。だって、かわいいじゃないですか?
──ところで、人形たちの前に配置したのは小さいリカちゃんハウスですか?
山田 気づいちゃいました? 私は人形が人形で遊んでいるような世界観が大好きなんです。こういう人形たちの小道具も自宅にはたくさんあります。今回、持ってきたのはリカちゃんハウスのミニチュアバージョン。つまり、リカちゃんの所有するリカちゃんハウス。ちゃんと付いて来られていますか?
──……はい。
山田 今日もリカちゃんハウスに入れてきましたよ。よく出来ているでしょ? 最初はクッキーの缶に入れて保管していたんだけど、リカちゃんハウスを購入してからはそこに入れて持ち歩くようになりました。この子たちもミニチュア版を持ち歩けるだけに、全く私と同じ行動をとれるわけです。少し気持ち悪いでしょ?(笑)
──いえいえ、当時の女の子たちの夢が叶ったんです。ただ、悩ましいのが少女時代にリカちゃんハウスを買ってしまうと肝心のリカちゃん人形が買えなくなってしまいます。
山田 幸いなことに、優しいお父さんの会社の部下や親せきのおじさんたちに恵まれました。家に来るたびにお土産を持ってきてくれて、毎回「人形を持ってきて!」と答えていました。兄は鉄道模型を買ってもらって、部屋中にレールを組み立てていましたが、私の場合は兎にも角にも人形! 中でも、お父さんの会社の後輩で海外出張から帰ってくるたびにお土産をくれた方は最高でした。いつもは外国のお菓子を買ってくれていたんですけど、ある日「外国ならお菓子よりバービーがいい」と正直に伝えたら「わかった。買ってくるよ」と良い返事があったんです。でも、先ほども話したようにお父さんをはじめ男の人の人形選びのセンスって怪しいじゃないですか。何も考えずに一番目立つとこにあるやつを買ってくると思ったから、「私に選ばせてほしい‥‥」とさらに伝えたんです、。そうしたらお小遣いをもらえるようになって(笑)。これで味をしめて、お父さんの会社の部下や親戚を金額で呼ぶようになりました。「5千円さん」や「1万円おじさん」よいうように(笑)。
──文字通りの「現金な人」ですね(笑)。
山田 それでも、全部を買えていたわけじゃありません。初代リカちゃんは600円でしたが、それがすぐに700円、1000円と値上げされますし。お洋服も買ったり作ったりしなきゃだし……。
──自分でリカちゃん人形の洋服を作ることもあったんですか?
山田 一応、ハンカチで人形を包んで簡単なワンピースを作っていました。そんな私を見かねて母がいろいろなものを作ってくれたっけな。リカちゃんのために残り布で作ってくれたお布団は今でも残っています。私が欲しかったのは布団じゃなくてベッドだったんですけどね。あと、焼鳥の串を2本使ってセーターも編んでくれました。振り返れば、お母さんは裁縫が上手でしたね。
──とても愛情深いお母さんですね。
山田 感謝しています。でも、人形の付録で付いてくるファッションブックに掲載された純正のドレスや着物の方が欲しかった。とにかく物欲に天井がありません!
──そして、最後に紹介いただくのが「クニちゃん人形」ですか!
山田 これが発売された時は言葉では表せないレベルで感激しました。単なる私のソックリさん人形ではなく、リカちゃんのお友だちの1人としてストーリーに登場したのがうれしかった。私のような愛好家にとって死んでもいいと思えるぐらいの誉でした。リカちゃんと同じ小学5年生で子役タレントをやっている設定。クニちゃんが地方ロケで衣装が足りなくて困っているところにたまたまファッションデザイナーをしているリカちゃんのママが通りかかって助けてあげるの。そこからリカちゃんにも繋がって2人は仲良しになります。クニちゃんとリカちゃんは体の大きさも一緒。それだけに同じお洋服が着られるんです。だから同じ服を2着買うようになりました。まさにペアルックで「やまかつWink」も可能になるんです(笑)。
──あれ? よくよく見てみたら今日の山田さんの服装と同じ気が……。
山田 私のお気に入りと同じ衣装を作ってもらいました。お揃いの服は他にもあります。今日私が着ている羽織ものまで再現されています。
物持ちの良さのルーツは爪切りにあり。同級生にドン引きされた収集品とは!?
──プレイヤーとはいえ、貴重なコレクションも多数保有していると聞きます。還暦を過ぎて「終活」について考えることもあると思います。人形たちはどうする予定?
山田 リカちゃん人形は福島にある「リカちゃんキャッスル」に寄贈するように遺書に書いています。さすがに棺桶に一緒に入れて燃やすにはもったいないものもあるんです。キャッスルや他の人形館にも所蔵されていないような代物もありますからね。
──全部の人形と遊べているわけではない?
山田 50体ぐらいは箱からも出していないものがあります。一応、遊ぶ前提で購入しているんですけどね。やはり、遊んでない人形があるのはダメですね。死んでも死にきれなくなります。ただ、一度遊ぶとなると8時間は欲しい。
──え、そんなに長時間遊ぶもんなんですか?
山田 人形を着替えさせるだけでも一苦労なんですよ。というのも、物語に出演する十数体を着替えさせなきゃならないの。
──1人で何役も演じちゃうんですか?
山田 そこは人形に任せています。みんながアドリブでなんとかしてくれますから(笑)。8時間でも足りません。全部と一斉に遊ぼうと思ったら、一週間徹夜しても足りないと思います。今日もスタメン争いにギリギリで敗れたのが4体ほど自宅で横になっているので、帰ったらちゃんとフォローしてあげないといけません。
──リカちゃん人形以外にも人形をお持ちなんですよね?
山田 ウルトラ怪獣のソフビ、MCハマー、マリリン・モンロー、ハリーポッターなどあらゆるジャンルのものを購入しています。最近は長州力や丸藤正道などのプロレスラーの人形もお気に入り。よくリカちゃんたちと合コンをさせています。なぜかオカダカズチカとジャイアント馬場の人形が小さいから、それぞれの持ち物という設定にして「俺は馬場の人形を持っているんだ」と長州が自慢すれば、「私なんてカズチカを持っているのよ」とリカちゃんがレスポンスするような掛け合いを生み出しています。
──脚本は無限大ですね。
山田 私のような「夢見る夢子」にとってはおちゃのこさいさい(笑)。2歳上の兄が病気で大変な時期があって、家族も付きっきりだったから、私は1人で過ごす時間も長く、よく1人で妄想の世界に浸っていました。兄が良くなったら今度は弟も体調を崩しちゃって。体質改善のために隔離されたり、親がワンワン泣いたりで大変でした。そんな状況だけに「なんか大変なことが起きているわね」と人形同士でしゃべらせて紛らわせていたっけな。
──ライフステージの変化で卒業のタイミングもあったと思います。
山田 しつこい性格なのかもしれません。もう捨てちゃったんですけど、中学2年生くらいまで自分で切った爪をクッキー缶の中に保管していました。たぶん、自分で爪を切るようになった小学校に入る前ぐらいからかな。なんか捨てられなかったんですよね。
──へその緒や乳歯を取っておくのと同じ感覚なのでしょうか?
山田 近いかもしれません。女学校で出会ったお友だちを家に招いたときに缶の中を見せたらドン引きされました。「気持ち悪いから捨てなさい」と。それで捨てちゃった。
──実にもったいない! 今となってはどれほどの価値のあるものなのか計り知れません。爪の垢を煎じて飲むと言いますし。
山田 我ながらお宝だったと思います。たぶん、腐ってなかったし(笑)。将来、芸能の仕事をすると知っていたら残していたと思います。捨てたことを伊東四朗さんに話したら「お前バカなことしたな……」とすごく残念がってくれました。果たして、どっちの行為に対してのバカなのか……。
──最後に今後の夢を教えてください。
山田 リカちゃん人形の愛好家を集めたパーティーを開催したいです。17年に50周年をお祝いしたパーティーがありました。25周年の時に届いた「50周年で会いましょう」と書かれた招待状を参加者全員が持参していたんです。25周年当時は「もう25年も経つのか」と感慨にふけっていましたが、無事に50周年を迎えることができました。流石に100周年の頃にはお墓の中に入っているでしょうから、もうちょっと刻んで周年イベントを企画したいです。「リカちゃんキャッスル」のアンバサダーでもあるので、一度メーカーさんを交えてミーティングをしたい。あとは、死ぬまでリカちゃんと一緒にいたい。何度だって言いますけど、半世紀以上一緒にいる大親友なんだから!
構成・撮影/丸山剛史 執筆/多嶋正大