毎年5月30日はごみゼロ(5=ご、3=み、0=ぜろ)の日と定められており、5月30日~6月5日(環境の日)に実施される「ごみ減量・リサイクル推進週間」の初日にあたります。
日本は「焼却大国」「プラスチックごみ大国」と呼ばれており、リサイクル率は19.5%と高くありません。現代の日本のごみ問題や、各自治体や企業の取り組み、個人が取り組めることについて、環境研究者の浅利美鈴先生にうかがいました。
この記事でわかること
散乱ごみが少ない日本は
世界の国々と比べると美しい国
日本の1人あたりのごみ排出量は年間約311㎏、1日に換算すると約851gです。この値は世界のごみ排出量の平均値に近いとされています。
この日本のごみ問題の現状について、浅利先生は次のように語ります。
「日本では、高度経済成長期(1950年代〜70年代)に公害が多発し、ごみの量が格段に増え、ごみの質も悪化しました。この時代に日本が直面した問題は、現在、だいぶ解決に向かっています。そしていま世界の人口が増加するなか、これまでごみ問題と向き合ってきた日本の課題解決力は、海外でも活用できる場面が多いと感じています。
その一方で、現在の日本は大量生産・大量消費・大量廃棄が当たり前の社会へと移行しています。“安くていいものが当たり前に手に入り、ものを簡単に処分しやすい”という文化から、いかに脱却していくかがいまの課題だと思います」(環境研究者・浅利美鈴先生、以下同)
現在、世界中で散乱ごみや川を埋め尽くすプラスチックごみが問題となっています。それに対し日本は、過去に同じ経験をしたものの、今は世界中の人が驚くほどきれいになってきていると浅利先生は話します。
日本は、発展途上国と比較しごみの散乱が少なく、他の先進国とくらべても個々人のマナーに対する感覚の差が少ないため、非常に美しい国だと感じるそうです。
「焼却大国」日本が取り組む
「サーマルリサイクル」は国際的に低評価
日本にあるごみ焼却施設は1004施設(2023年度末現在)。日本は世界にある焼却施設の半分を有しており、「焼却大国」と呼ばれています。日本人にごみの主な処分方法を尋ねると「燃やす」と答える人が多いでしょう。それに対し、埋め立て処理が一般的である海外では、「燃やす」と答える人はほぼゼロに等しいと浅利先生は言います。
「ごみ焼却が一般的になった大きなきっかけは、1970年に制定された廃棄物処理法の施行です。1977年から廃棄物処理施設に対する国の補助金制度が始まり、国が焼却炉の建設を支援してきました。日本は外国にくらべ、土地が狭くごみ処分場に使える土地の確保が難しいこと、高温多湿な日本において焼却が衛生的な処理方法であること、などが主な理由です」
しかし、「日本の高いごみ焼却率に対する海外からの評価は、高くない」と浅利先生は続けます。
「現在、日本で新しい焼却炉を建設する場合、燃やしたときに出る熱をエネルギーに変えて再利用する必要があります。これを『サーマルリサイクル』と呼びますが、実際に再利用できるエネルギーは、元のエネルギー量の2割程度。
日本ではこのエネルギーの再利用を『サーマルリサイクル』としてリサイクルに含めることがありますが、世界ではあくまで焼却と捉えられており、リサイクルに含まないという考え方が主流です。私は、日本も、他のリサイクル手法にさらに取り組んで、ごみ焼却率を下げる時代がやってきたと考えています」
独自のごみ処理サイクルを
取り入れた自治体も
日本では一般的に、自治体が税金を使ってごみを処理しています。そのため、維持費がかかるごみ焼却炉を持ち続けるのが難しい自治体もあるそうです。そのような状況のなか、ほかとは異なるごみの処理システムを取り入れている自治体を教えていただきました。
バイオマス産業都市構想を策定した佐賀県佐賀市
佐賀県佐賀市は、回収されたごみや排水をエネルギーや資源として循環させる取り組みを行っています。
たとえば清掃工場では、排ガスから二酸化炭素を分離回収し、高濃度の二酸化炭素を藻類培養施設や農業施設に供給。下水浄化センターでは地域のバイオマス(動植物由来の資源)を集約し、電力自給率100%の下水処理施設を実現しています。
ごみ収集車が走らない、徳島県勝浦郡上勝町
徳島県勝浦郡上勝町では、町内の焼却炉から有害物質が発生したことを契機に、2001年より、リユースやリサイクル中心のごみ処理体制に移行。町民が町内唯一のごみステーションまでごみや資源を持ち込み、13種類43分別に取り組んでいます。
町民が持ち込んだ不要品が並ぶ「くるくるショップ」から、欲しいものを無料で持ち帰る仕組みもあるそう。この取り組みが高じて、近年ではリサイクル率が約80%まで伸びています。
他国にくらべて圧倒的に
“過剰包装”が多い日本は「プラスチックごみ大国」
ごみ問題を考える時、多くの人が思いうかべるのは「プラスチックごみ」でしょう。日本人1人あたりのプラスチック容器包装廃棄量は年間約32㎏と、アメリカに次いで世界第2位。日本は「プラスチックごみ大国」と呼ばれています。
「日本でよく見られる“過剰包装”が、その理由であることは間違いない」と浅利先生は話します。
「仕事でヨーロッパを訪れて帰国すると、日本の店舗に置かれる商品に、いかにプラスチックが使われているかを改めて実感します。日本のメーカーもプラスチックの軽量化やリサイクルを推進しているため評価すべき点もあります。しかし企業努力を差し引いても過剰包装が多いと感じますね。
日本の消費者にプラスチック製品に関するアンケート調査をすると、ほとんどの方が『プラスチックを用いるのが当たり前だけど、なくても差し障りないものが多い』と答えます。そのため私たちは、多くの消費者がプラスチックの製品や包装を過剰に感じていることを、メーカーや流通業の方々に理解してもらうような研究を進めています」
過剰包装が発展した背景には、日本人の文化や気質も影響しているといいます。
「日本人は、古来よりものを贈るときに包むことを大切にしてきました。そうした文化に加え、日本人は外国の方にくらべ潔癖主義であると同時に、日本自体がクレーマーに非常に弱い国でもあると思います。『過剰包装は消費者が求めるもの』として取り入れられているとも解釈できますが、実際は、潔癖主義で過剰に反応するクレーマーに対して必要以上に配慮しすぎているている結果なのかもしれません」
加えて、お惣菜やスイーツなどを買って食事をする家庭が増えたことも、プラスチックごみの増加と無関係ではありません。
「コンビニエンスストアやスーパーでおなじみの一人用の食品には、多くのプラスチック容器が使われています。高齢化や少子化が進むなか、小分けパックで食品ロスが減っているという研究結果があるのも事実ですが、ごみになる小分けパックを使わなくても支障のない人まで使っているのは問題だと思います」
海外では、脱プラスチックを推進する動きが多く見られ、たとえばフランスでは、2020年に循環経済法が制定されています。この法律は、資源を再循環する「循環型ライフスタイル」への段階的な移行を目的としており、2040年には使い捨てプラスチック包装の市場投入が全面禁止に。
すでに1.5㎏未満の果物や野菜のプラスチック包装、飲食店における使い捨て食器の使用は禁止されています。
「これに加えてフランス政府は、2021年にAGEC法を施行。2030年までにスーパーマーケットの販売面積の20%を、量り売り商品に充てることが義務付けられました。
私が知るかぎりですが、フランスで見かける量り売りの商品は、使い捨てのプラスチック包装を使った商品よりも安価です。日本で見かける量り売り店はやや割高で、日本とフランスの社会システムの違いを感じます」
世界のなかでリサイクル率が低い日本で、
日々リサイクルできるものは?
日本の一般廃棄物のリサイクル率は19.5%と決して高くありません。しかし浅利先生によると、消費者や製造事業者、小売事業者などの各々に責任を定めた家電リサイクル法など、日本のリサイクルに関する法律は、世界トップレベルで整ってきているとのこと。さらに日本におけるリサイクル状況は、ここ数年で劇的に変わる可能性があると話します。
「環境省は2024年に第五次循環型社会形成推進基本計画を策定。2018年に策定された第四次計画が見直され、『循環経済への転換』に重点が置かれました。
第五次計画では、従来の3R(リデュース、リユース、リサイクル)に加えて、製品計画段階から廃棄までの全過程において、資源の有効利用が促進されることに。製品計画段階からリサイクルのしやすさや再生材の利用が求められるようになりました。このように新たな政策も生まれ始めています」
諸外国もリサイクルの課題に対して、厳しい眼差しを向けています。
「EUは2023年にELV規則案を発表。新車製造時に使用されるプラスチックの最低25%に、再生プラスチックの使用を義務付けようとしています。正式に採択・施行されると、規則を遵守しなければヨーロッパ市場で自動車を販売できなくなります。自動車産業は日本の産業の根幹を支えているため、今後日本でもさまざまな対応が必要とされそうです」
リサイクルの概念が各国に浸透し、当たり前と考えられるようになった現在。日本に住む個人が、とくに取り組みやすいリサイクルについて教えていただきました。
リサイクルの優等生「ペットボトル」
「ペットボトルは、リサイクルの優等生と呼ばれています。日本のペットボトルの回収率は85%で、アメリカの回収率33%、欧州の回収率60%と比べても素晴らしい成果をあげており、多くの日本企業がペットボトル回収機を設置したり、再原料化に努めたりしています」
ちなみに使用済みのペットボトルを可燃ごみとして出すと、その後は分別される機会がなく、そのまま燃やされてしまうとのこと。家庭でごみを分別する際は、ペットボトルは資源ごみとして出すことが大切です。
「ペットボトルを資源ごみとして出す際は、キャップとラベルをはがすひと手間が、その後のリサイクル品の品質を上げたり、リサイクルの負荷を下げたりすることにつながるので、ぜひ協力していただきたいです」と、浅利先生は言います。
日本独自のリサイクル事例「食品トレー」
「スーパーマーケットで、使用済み食品トレーの回収ボックスを見かけることがあると思います。これらは容器包装の製造会社エフピコが回収しており、世界的にも珍しく、日本独自ともいえるリサイクル事例です。個別回収の取り組みにより、トレーは再びトレーに生まれ変わることができます。これは水平リサイクルと言われていて、他のプラスチックと一緒に分別して出したときには実現できない価値の高いリサイクルと言えます」
リサイクル時は、製造会社や消費者などの排出元から分類するほうが、リサイクル率や品質が高くなるとのこと。スーパーマーケットでの買い物ついでに、食品トレーのリサイクルを始めてみませんか。
可燃ごみにするのはもったいない「生ごみ」
「家庭から排出されるごみの半分は生ごみです。焼却大国である日本では、これらを可燃ごみとして燃やしているので、もったいないと感じています。生ごみを飼料化して家畜のえさにしたり、生ごみを発酵させてバイオガスや堆肥にしたりと、さまざまな活用方法があります」
“リサイクル率日本一”に15回選ばれた鹿児島県大崎町では、生ごみをバケツで回収し、町内の有機工場で堆肥化しています。堆肥は大崎町の農地で使われており、堆肥の販売も行われています。におい対策には、発酵を促進する効果のあるヨモギの乳酸菌を使っているそうです。
ごみゼロに向けて
個人が日々意識できる3つのこと
最後に、ごみゼロを実現するうえで、私たち個人ができることをうかがったところ、「リデュース・リユース・リサイクルの順に優先順位が高いので、意識して暮らしてみてほしい」とのこと。個人で取り組めることをご紹介します。
1.ごみの発生を少なくする「リデュース」
リデュースとは、使う資源の量を減らしたり、ごみの発生を少なくしたりすること。足ることを知り、余分なものを買わないことが大切です。
[リデュースの例]
・食事の献立を考えて計画的に買い物をし、食べ物を無駄にしない
・マイバッグやマイふろしき、マイボトル、マイ箸を繰り返し使う
・蛍光灯ではなくLEDを、乾電池ではなく充電池を選ぶ
・衝動買いをせず、長持ちするものを選び、ていねいに扱う
2.使用する人を変えて使う「リユース」
リユースとは、使用済みの製品を、使用する人を変えて繰り返し使うこと。自分にとって不要なものは、誰かに譲りましょう。
[リユースの例]
・メルカリなどのフリマアプリサービスで、不要なものを売る
・フリーマーケットに出店したり、バザーに出品したりする
・古本屋、古着屋、中古品販売店などに、ものを買い取ってもらう
・イベントでリユース食器を使い、使い終わったら返却する
3.原材料に戻して使う「リサイクル」
リサイクルとは、ごみを原材料やエネルギーに戻して、繰り返し使うこと。ごみは、各自治体の分別に従って分類しましょう。
[リサイクルの例]
・ペットボトルを、資源ごみとして出す
・食品トレーや紙パックなどは、スーパーマーケットの回収ボックスへ持ち込む
・生ごみから堆肥をつくって活用する
「上記のような取り組みに加えて、清掃活動にも参加するとごみゼロライフの達人です!」と、浅利先生。ぜひ、今年のごみゼロの日から、さっそく始めてみましょう。
Profile
環境研究者 / 浅利美鈴
総合地球環境学研究所 副所長 教授。研究テーマはごみや環境・SDGs教育。学生時代に京大ゴミ部を立ち上げ、環境啓発・教育活動に取り組み始める。京都におけるSDGs実装を目指す「京都超SDGsコンソーシアム」などを展開し、廃棄物資源循環学会の理事を務める。著書に「里山“超”SDGsことはじめ」「ごみゼロ大作戦!」がある。
HP