角田裕毅選手がF1のトップチーム「オラクル・レッドブル・レーシング」に緊急昇格するなど、多くの話題を集めた今年のF1日本グランプリ(5月4日〜6日開催)。その鈴鹿サーキットでのレースを、昨年までウェザーニュースLiVEのキャスターを務めていた大島璃音さんが観戦。GetNavi本誌では現地でのトークショーの模様などを中心にお伝えしましたが、ここでは特別編としてレース観戦のこぼれ話をお届け。また、最近はドライブが趣味だという彼女にクルマにまつわるお話しもたっぷりとうかがいました。

【大島璃音さん撮り下ろし写真】
幼少期に父と観ていたF1ドライバーの名前は今も覚えています
──大島さんは以前からF1好きを公言されていましたが、そもそも興味を持つようになったきっかけは何だったのでしょう?
大島 私の父が大好きだったんです。それで、子どもの頃からよく一緒にテレビで観ていたのが始まりでした。一番古い記憶は小学生低学年の頃だと思います。最初はレースのことがよく分かっていなかったのですが、テレビからジェンソン・バトン選手やキミ・ライコネン選手の名前を連呼する実況アナウンサーの声が耳に残り、自然とドライバーたちの名前も覚えるようになっていったんです。
──それからはずっと観戦を?
大島 本当の意味で夢中になったのはずっとあとでした。ただ、気にはなっていて、ときどき観たりしていて。熱が再燃したのは2021年頃です。ホンダとタッグを組むレッドブルチームの快進撃があり、角田裕毅選手が7年ぶりに日本人ドライバーとしてフル参戦したりと、いろんな話題を耳にするようになり、沸々と自分の中に湧き上がるものを感じて(笑)。それに、角田選手もそうですが、気づいたら自分よりも歳下のドライバーがたくさん活躍していることに驚き、一方で、フェルナンド・アロンソ選手やセバスチャン・ベッテル選手などベテランドライバーが現役で力強い走りをしていることにも惹かれたんですね。オートスポーツはマシンの実力差がそのまま結果に結びつくことも多いのですが、百戦錬磨のドライバーだからこそのドライビングテクニックやチーム戦略で上位に食い込むことができる。そこに面白さを感じたんです。
──なるほど。チーム戦略といえば、4月2日の東京お台場で開催されていた「Red Bull Showrun ✕ Powered by Honda」もご覧になり、そこでピットストップチャレンジも体験されていましたね。
大島 楽しかったです! ピット作業でタイヤを外すときに使うホイールガンを初めて持ったのですが、想像以上の重さにびっくりしました。
──テレビでレースを観ていると、ピットクルーたちが簡単にタイヤを外してるように見えますもんね。
大島 そうなんです。イメージとしてはノートパソコンくらいの重さなのかなって思っていたんです。でも、持ち上げるだけでも大変で、片手では到底無理でした。しかも、実際の作業中は振動が強く、うまくタイヤのナットに合わせることすら難しくて。あれをF1のクルーたちはわずか2秒ちょっとでやるわけですから、本当に神業です。
──0.1秒の差が勝負を分ける可能性もあるため、プレッシャーも相当だと思います。
大島 間違いなく練習の賜物なんだろうなと思います。それを強く実感したのが、鈴鹿サーキットで見たピット作業の練習風景でした。夕方になると各チームからクルーたちが出てきて、それぞれのガレージ前で何度も何度もピット作業を繰り返しやっていたんです。
──なかには20〜30分ほどやっているチームもありました。
大島 きっと、あの数の練習をどのサーキットでもレース毎にやっているからこその速さなんだと感じました。また、レース中に起こり得るイレギュラーのタイヤ交換も想定し、あえてガレージの中からピットレーンに走って練習をしているチームもいて。今まではレースを見ていても作業にかかるタイムしか目に入っていなかったのですが、以来、見方が大きく変わりましたね。
コースを間近で見たことで、F1のすごさをあらためて実感
──大島さんが鈴鹿サーキットを訪れたのは4月3日の木曜日からでした。木曜の午前中には一般の方も参加できるピットウォークを体験されていました。
大島 各チームのピットの目の前まで行けて、しかもホームストレートも実際に自分の足で歩けたので、それだけで興奮しました! マシンがコースを走るのは金曜日からなので、「えっ、私たちが先に歩いちゃっていいの!?」って思ったりもして(笑)。また、私がF1を現地で観戦したのは昨年(2024年)が初めてだったのですが、そのときもテレビでは分からない鈴鹿サーキットのコースの高低差に驚いたんですね。それが、実際にコースに立ってみると、よりアップダウンを体感できて。それもすごく貴重な体験でしたね。
──ホームストレートが想像していた以上に下り坂になっていたことに驚かれていましたね。
大島 あれほど勾配があるとは思いませんでした。それに、目の錯覚だと思うのですが、1コーナーの飛び込みがものすごくタイトに見えたんです。鈴鹿サーキットの数少ない抜きどころの一つでもあるので、そこをとんでもない速さで突っ込んでいくのを想像するだけで恐ろしく思いました。また、F1だと数秒で通り抜けてしまうホームストレートも、自分で歩いてみると思っていた以上に長く、あらためてF1の速さを実感して。本当にいろんな体験ができるのでピットウォークはおすすめです!
──また、レースウィークはパドックにも。どんなことが印象的でしたか?
大島 ドライバーたちの姿を近くで見ることができたのですが、木曜から日曜にかけてどんどんと顔つきが変わっていったのが印象に残っていますね。木曜は「マックスって、こんなに優しい笑顔を見せるんだ!?」と驚きましたが(笑)、曜日を追うごとに集中していくのが感じられたり。ただ、そうやって周りを寄せ付けないような集中の仕方をするドライバーもいれば、マシンに乗り込む数分前までスタッフたちと談笑している方もいて、それぞれにスタイルが異なる。その姿も人間っぽくていいなぁって思いました。
──ちなみに、大島さんが集中するときはどちらのタイプですか?
大島 私は後者ですね。お仕事で3時間の生放送をしていたときは、いかに本番までに普段通りのテンションに持っていくかが、私にとっては大事だったんです。準備を万端にし、“あとは自信を持って挑むだけ”というふうに気持ちを作っていく。逆に、集中することばかりを考えて、直前まであれこれと考えすぎると調子が狂ってしまったり、想定外のことが起きたときに焦ってしまうことが多かったんです。なので、“いつもの自分でいる”ことを常に心がけていましたね。
──あらためて、今回の約5日間に渡るF1体験を通じてどのような感想をお持ちになりましたか?
大島 やはりF1もスポーツなんだと強く実感しました。「モータースポーツ」と聞くと、どうしても機械が介在してしまうため、マシンの性能差に左右されることが多く、“スポーツ感”が薄い印象を持たれることも多いと思うんです。でも、先ほどの集中力の話もそうですが、当然ながらほかのスポーツアスリートと同じように、フィジカルもメンタルもとても重要なんだとあらためて感じました。それに、ドライバーだけじゃなく、チームを勝たせるために数え切れないほどのスタッフが自分の仕事を全うし、誰一人として欠かすことができないという裏側の人間ドラマを知れたのも、私の中では大きな経験になりましたね。今回は木曜と金曜にトークショーにも参加させてもらえるという貴重な機会をいただき、やるからには一つでも多くいろんなF1の魅力を学ぼうと考えていたのですが、想像以上のこと体験させていただけたんです。ですから、そこで得たものを無駄にせず、また次のF1のお仕事が来た際に活かせていけたらなと思っています。
ギアチェンジに憧れて、今はマニュアルの免許取得が目標です
──話は変わりますが、大島さんとクルマの関係といえば、およそ一年前に運転免許を取得されたとSNSでも公表していました。その後、運転はされていますか?
大島 しています! 運転に慣れるためにはたくさん乗ったほうがいいだろうなと思って。実際にドライブするのが本当に楽しいですし、どんどんと運転する面白さを感じているので、私の中でクルマはすでに欠かせない存在になっています。それどころか、実はマニュアルの免許も取りに行こうかな……なんて考えているんです。
──それはいいチャレンジですね。でも、なぜマニュアルを?
大島 かっこよくギアチェンジがしたいんです! ほんと、憧れちゃう!(笑) それに私、人生で一番楽しかった時間が教習所に通っていた日々だったんですね。
──えっ!?
大島 誰にこの話しをしても、そういう同じリアクションをされます(笑)。
──結構珍しいタイプだと思います。それは運転するのが楽しかったということですか?
大島 座学も実車もどちらもですね。新しいことに挑戦しているという時間がとにかく幸せで。教習所に通う前は、自分が運転するなんて絶対に無理だと思っていたんです。でも、それができるようになっていくのも面白くて。正直、今はマニュアルを運転できる自信がないです(笑)。でもやってみなければ分からないですし、きっと免許が取れたら運転がより楽しくなるんだろうなと思うんです。
──昨年教習所に通っていたときは、意外とすぐに運転できるようになったんでしょうか?
大島 いえ、かなり苦戦しました(苦笑)。教習所内を走りながら、“これ、絶対にハンコもらえないなぁ”と何度も思いましたし。最初の頃は感覚が分からなすぎて、家にあるミニカーを使って父に教えてもらっていたんです。「ハンドルをこっちに切ってバックすれば、クルマはこっちに動くだろ?」って(笑)。それでも分かんなくて、頭の中が若干パニックになってました。
──でも、そこでよく心が折れなかったですね。
大島 折れることもありました。けど、むしろあまりにも出来なさすぎたから楽しかったんだと思います。ちょっとずつできるようになると、“おっ! 私成長してる!?”って思えて。
──となると、マニュアルの免許取得の夢もなんとか叶いそうですね。
大島 どうなんでしょう(笑)。それに、もう一つ心配なことがあって。ギアチェンジを左手で操作しなければいけないというのが怖いんです。私、利き手が右なので、左手で動かせる自信がないんですね。きっと多くの方が同じだと思うのですが、みんなどうやって操作しているのかほんとに分からないんです。
──それは慣れだと思いますよ。もしそれでも不安が拭えないなら、いっそのこと左ハンドルのクルマに乗るという手もありますよね。
大島 確かに! でも、そうするとハンドルを左手で固定しなければいけないわけですよね。それはそれでフラフラしてしまわないかという怖さがあります。……ほんと、悩ましい(笑)。けど、なんとか夢を叶えるために頑張ってみますので、無事に取得できた暁には皆さんに報告しますね。
※こちらは「GetNavi」2025年6月号に掲載された記事を再編集したものです。
撮影/中村 功 取材・文/倉田モトキ