「週刊GetNavi」Vol.51-1
先日、例年通り米・ラスベガスでは、テクノロジー関連展示会の「CES」が開催された。「今年売られる家電」の目玉は、やはり有機EL(OLED)を使ったテレビだ。すでに製品を発売中のLGエレクトロニクスはもちろん、ソニーやパナソニックといった日本企業も「本気モデル」を発表し、そう遠くないうちに、日本でも手に入るようになる。
有機ELは「次世代テレビの本命」とされて久しいが、パネルの技術開発が難しい、量産工場の建設費用が巨額であるなどの理由でなかなか実用化に至らなかった。それがついに、我々の手に届くところまでやってくる。
有機ELテレビの最大の特徴は「コントラスト」だ。ステンドグラスを明かり(バックライト)で照らすような構造である液晶と違い、自発光型である有機ELでは、より黒が締まった映像になる。だから、HDR映像とは特に相性がいい。
さらに、液晶と大きく違うのが「薄さ」だ。有機ELはバックライトが不要なので、大幅な薄型化ができる。事実、LGエレクトロニクスの新型「W」は、厚さが2.57mmしかない。液晶では到達し得ない領域である。そこまでの薄さはないが、ソニーの「ブラビア A1E」もかなり薄い。そして、有機ELのディスプレイの裏にツイーターをつけ、ディスプレイそのものがスピーカーとなって振動する仕組みを採用した。これは、バックライトのない有機ELだから採用できたものである。
有機ELテレビ市場が急速に活気づいたワケ
急に有機ELテレビが増えた理由は単純だ。パネルを製造するLGディスプレイが、積極的にテレビ用有機ELパネルを他社に供給し始めたからである。LGディスプレイとしては、工場の操業率を上げ、販売量を増やさないとビジネスが回らない。巨大なディスプレイ工場は、半年操業率が落ちるだけで経営に深刻な影響が出る。技術が安定したら、できる限り速やかに大量販売に打って出たい。だから、日本のテレビメーカーへとどんどん供給するわけだ。
ライバルのサムスンは、テレビ用の有機ELパネルからは一歩引いた。各画素が独立して光る構造の、理想的な有機ELパネルの開発を目指していたのだが、テレビのサイズでは歩留まりが安定しなかったのだ。一方、LGディスプレイは、白1色の有機ELの上にカラーフィルターをつけて色を出す「WRGB方式」を使った。発色では一歩譲るものの、生産性や難易度ではずっと有利である。ここでLGは一気に賭けに出て、結果的に先行できた、というわけだ。
日本や中国など、ほとんどのテレビメーカーが、最上位機種のひとつに有機ELテレビを用意する一方、サムスンは液晶のバックライトフィルターを改善した「QLED」を打ち出した。とはいえ、結局液晶に変わりはなく、有機ELテレビに比べると、文字通り色あせて見える。
このことから、今年のハイエンドテレビは有機EL一色になるのは間違いない。一方で、有機ELは、画質面で意外な弱点を抱えていて、液晶のほうが優れる面もある。ただ有機ELなだけでは高画質にならない。有機ELの弱点とその改善については、次回のVol.51-2以降で解説する。
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