「文房具屋さん大賞」をご存じでしょうか? 人気文房具屋さんで働いている文房具のプロたちが、「これは自腹で買いたい!」と思った価値ある文房具を発表するイベントです。
2013年の大賞は「フリクションボールスリム」という消えるボールペン。そして、2014年の大賞は「ハリナックス」という金属針を使わないステープラーでした。はたして、2015年の大賞に輝いた文房具とは?
折れないシャープペンシル「デルガード」
スマホやLINEが普及したことで、十代の若者が手紙やハガキを書くことが少なくなりました。でも、若者たちは毎日のように手書きしています。学校でシャープペンシルを使っているからです。ゼブラ株式会社の「デルガード」は、シャープペンシルの「芯折れ」と「芯詰まり」を徹底的に克服した文房具です。2015年の「文房具屋さん大賞」を受賞しています。
『文房具屋さん大賞2015』(文房具屋さん大賞2015・著/扶桑社・刊)では、デルガードの開発秘話やくわしい仕組みを読むことができます。「芯折れ」を防止しているのは、先端部に内蔵されているスプリングです。シャープペンシルの芯が折れそうになると、スプリングが筆圧を吸収してくれるというわけです。縦方向からの筆圧だけでなく、シャープペンシルを寝かせて書いたときの横方向からの筆圧も吸収します。
文房具売り場で試せばわかりますが、わざとペン芯を折ろうとしても、なかなか折れてくれません。キャッチコピーである「もう、折れない」は本当でした。芯が短くなっても出る。折れるのをガードする。まさに「デルガード」です。
「折れにくい消しゴム」の仕組み
意外に折れやすいのが「消しゴム」です。強く消しすぎると「ゴシゴシ……メキメキッ」というふうに断裂することがあります。文房具会社の研究によって、消しゴムが折れてしまうのは、消しゴム本体ではなく、消しゴムが収まっている「スリーブ(巻き紙)」に原因があることがわかりました。
株式会社サクラクレパスの「Arch(アーチ)消しゴム」は、名前のとおり、スリーブ(巻き紙)と消しゴムの接触面をアーチ状(曲線形)にデザインしたものです。従来品にくらべて3倍も折れにくくなりました。
折れにくいだけでなく、消しゴムをスマートに使いきるための工夫もあります。Arch消しゴムのスリーブ(巻き紙)には、4ヶ所にミシン目があるのです。使っているうちに消しゴムが短くなったら、ミシン目を切り取れば、スリーブの余りが気になりません。ハサミ不要です。
進化するフリクションシリーズ
こすると消えるボールペン「フリクションボール」が日本で発売されたのが2007年。PILOTのフリクションシリーズは発売以来、インク性能が向上しているだけでなく、ボールペン以外にもラインナップが増えています。「フリクションいろえんぴつ」は、「文房具屋さん大賞2014」の新人賞を受賞しています。
「文房具屋さん大賞2015」では、「フリクションスタンプ」がコスパ賞を受賞しました。
なるほど。フリクションシリーズの本質は「こすると消えるインク」なので、ペンや鉛筆にこだわる必要はないわけです。フリクションスタンプの特徴は、こすると消えるのは当然として、インクが裏写りしません。スケジュール帳のカレンダーにも気にせず使えます。コスパ賞に選ばれた理由としては、1本129円で30種類のラインナップをそろえたことが評価されたようです。
日本の文房具は「良いガラパゴス」
スマートフォン全盛の現代において、日本のガラケー(ガラパゴスケータイの略称。おもに二つ折りの携帯電話)には、ワンセグや着うた着メロなどの独自進化をからかうニュアンスが含まれています。
しかし、おなじように独自進化をとげてきた日本の文房具をバカにする声はありません。それは、日本の文房具メーカーが、文房具の本質を「優れた単機能である」と理解しているからです。百徳ナイフのような「多機能すぎるがゆえに不便なもの」を作るという愚を犯さないからです。かつて、スティーブ・ジョブズは「電話を再発明する」と宣言したあと、iPhoneによってガラケーを駆逐して見せました。
しかし、iPhoneのようにデザインや機能を洗練させることにかけては、日本人も負けていないはずです。なぜなら、日本の文房具業界では、毎年のようにイノベーションが起こっているからです。
日本のジョブズやジョナサン・アイブは、もしかすると文房具業界にいるのかもしれませんね。
(文:忌川タツヤ)
【参考書籍】
文房具屋さん大賞2015
著者:文房具屋さん大賞2015
出版社:扶桑社
今年の「大賞」は? 「新人賞」は? 有名文房具店の売り場の目利きが『自腹で買いたい』逸品はコレです!2013年にスタートし、今年で3回目を迎える「文房具屋さん大賞」。有名文房具店10社から、“文房具のプロ”である売り場の店員さんを審査員として迎え、彼らが「自腹でも買いたい!」という文具を厳正に審査。その声をもとに、最高の逸品を決めるのがこの「文房具屋さん大賞」です。本書では、「大賞」「新人賞」、そして「コスパ賞」「デザイン賞」といった各賞から、「書く」「消す」「切る」「つける」などの「部門賞」を設け発表します。あまたある文房具の中で、誰よりも真剣に現場で文房具と向き合う「文房具屋さん」が認めたアイテムはいったいなんなのか……?ちなみに、2014年の「大賞」に輝いたのは針なしステープラ「ハリナックス」、「新人賞」に輝いたのは「フリクションいろえんぴつ」でした。果たして今年、その栄冠に輝いたのは……ぜひ、本書で結果をご確認ください!
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