「あぶない刑事」シリーズが、今月封切りの映画「さらば あぶない刑事」をもってついに完結だそうです。タカ(舘ひろし)とユージ(柴田恭兵)が定年退職のため(泣)!
「さらば あぶない刑事」予告編
「相棒」の30年前に始まったバディもの
「あぶない刑事」シリーズは、現在も絶賛オンエア中の刑事ドラマ「相棒」より30年も早いバディものでした。特に第1シーズンであるテレビドラマ「あぶない刑事」は、男臭さを競っていた当時の刑事・探偵ドラマに「スタイリッシュ」という概念を持ち込み、珍しく女性ファンが多かったのが特徴です。
それまで刑事ドラマにおいてはせいぜい交通課の婦警兼お茶くみでしかなかった女性を、上司(厳密には課が違いますが)に持ってきたという”女性活躍”設定が賛同を得たのも大きいと思いますが、あまたある刑事ドラマのなかで、アベレージで視聴率20%超えの大人気を博していたのはやはり自由な感じが画面にあふれていて斬新だったからだと思うのです。
ハードボイルドなシナリオに、洒脱なキャラクターたち……。アメリカの人気刑事ドラマ「マイアミバイス」にインスパイアされたという説が強いですが、それを日本にローカライズして成立させてしまった奇跡! というか当時のテレビマンたちの手腕に脱帽です。
容疑者を取り押さえるために格闘するユージに加勢するどころか、クールに眺めながら、傍らでうろたえる美女を「いいのいいの、あいつ最近運動不足なんだから」とナンパ口調で落ち着かせるタカなど、「キザ」スレスレのやりとりに最初はお尻のあたりがムズムズしますが、慣れてくるとこんなやりとりがたまらなくなってくるので不思議です。
「公務中になんで真っ黒なサングラスかけてるの?」とか、「公務員だから高給取りじゃないはずなのに、タカとユージだけイタリアンスーツ(バブル期には流行っていたのです)なのはなぜ?」とかいった無粋な疑問も見続けていれば雲散霧消! 関係ないね!
横浜の護岸壁、雑居ビルがいい味を醸す
そしてこのシリーズのもう1人の主役は「横浜」。アナログフィルムに映された横浜の街がとてもいい味わいを醸し出しています。海はあるけれど、広がっているのは砂浜ではなくコンクリートで固めたられた護岸壁、雑居ビルの合間を流れるドブ川のような運河、労働者が溜まる木賃宿や路地裏の安っぽいバー、廃墟になった倉庫、そして暗躍する広域暴力団「銀星会」……。
みなとみらい以前の、猥雑でセンチメンタルな横浜がしっかり写り込んでいます。ショッピングセンターに再開発される前のやさぐれていた(?)赤レンガ倉庫なんてとてもハードボイルド。4Kとか8Kとか撮影機材のスペックは高くなってもフィルムの、あのざらついているのに渋みのある画はもう撮れないのでしょうね。そのあたりの味わいもぜひご堪能ください。
第1シーズンから公開待機中の最終作まで全編に関わった村川 透は、映画「蘇る金狼」やドラマ「探偵物語」などを監督、松田優作のあのスタイルを作り上げた立役者でもあります。バブル期ではあったけれど、どこからか漂ってくるストイックさは松田優作出演作と同じ匂いが……。こういうアクの強い作品を日曜日の21時というゴールデンタイムにお茶の間で見られた幸せな時代でもあったんですね。
時代が1周して「あぶない刑事」に追いついた!?
アクが強いといえば登場人物! 主役の2人以外にも、トレンディドラマの女王・浅野温子や、警部というよりスナックのママにしか見えないド派手なファッションの木の実ナナなど、バブル期をほうふつとさせるテイストは、のちのお笑い番組ではギャグにされてしまったほどですが、そんなメタないじりをさんざん見せられたあとに改めて本作を見ると「ベタも貫き通すとカッコいいじゃん」と思ってしまうのでした。時代が1周して、「あぶない刑事」に追いついたのかも!?
物語は1話完結なので、基本的にはどこから見てもOKですが、まず「あぶない刑事」第1話を見たら、ファンの間で評価が高い同第9話「迎撃」、同第20話「奪還」、同第50話「狙撃」、「もっとあぶない刑事」第6話「波乱」あたりをどうぞ。
© セントラル・アーツ
文/上杉久代:イラストレーターなどとして活躍。最近の日本エンタメ界には山城新伍成分が足りないのではないかと危機感を抱いている中年女子。
【関連リンク】
U-NEXTの楽しみ方はこちら!