買えない本の意味ない(!?)書評
~国会図書館デジタルコレクションで見つけた素晴らしき一冊~ 第3回
忘年会&新年会が終わったと思いきや、もう春先には歓送迎会にお花見……。単に桜を愛でて酒を飲むだけならいいが、そこは日本式宴会。何か一発芸や余興をして場を盛り上げないと肩身が狭い。どのネタをやるか、早くも頭が痛いという人も多いのではないか。
そこで今回は、約100年前の宴会芸にスポットを当ててみたい。とにかく明るいあの人も、リズムネタのあの人たちもいなかった明治期の宴会では、どんな余興が行われていたのか?
お座敷芸のプロ?が書いた余興指南書
さっそく著作権切れの本が集まる国会図書館デジタルコレクションの検索窓に、「宴会」「余興」「隠し芸」といったワードを入れてみた。ヒットした数は意外と少なかったが、その中から今回は「素人に出来る余興種本」(明治44年)を紹介してみたい。
「素人に出来る余興種本」
すみれ小史 著
著者は「すみれ小史」。調べてみたものの職業・経歴などはわからずじまい。実はこのコレクションにはすみれ小史名義の著作が6冊あって、どれも余興や正月の遊び・福引きのアイデア本ばかり。想像に過ぎないが、もしかしたらすみれ小史はお座敷芸のプロ、太鼓持ち経験者かもしれない。
ちなみに版元は「大学館」。まるで小学館のパロディのようだが、大学館は明治期に多くの本を刊行していた出版社。日本書籍出版協会の「日本出版百年史年表」によれば、明治41年に本の委託販売制を初めて行ったのが大学館だとか。そんな逸話もある。
100年前から宴会芸は頭痛のタネだった?
さて、本題に戻ろう。まずは冒頭の「はしがき」から。
「親睦を結ぶの、懇親を厚うするために会を開くのだと口にそう云いますが、その実人を呼ぶのは余興にあるのですが、それを選ぶのが、非常に難しいので、いつも催主や幹事が頭を痛めます」(一部仮名遣いなどを修正)
ヘンなとこ真面目というか、ストイックというか、100年前から変わらず宴会芸に悩み続ける日本人! これはGoogleがすべての余興・宴会芸を網羅し、サジェストしてくれるサービスを始めるまで解決しそうにない。
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宴会芸に悩むすべての日本人に贈る古典余興の数々
目次には全11項目が並ぶ。先生と生徒に扮するコント芸あり、簡単な手品あり、急におとぎ話ありと多種多様。
1 滑稽大学
2 天下一品万国古物 大博覧会
3 種明し手品
4 椅子取
5 座敷劇
6 小供の余興
7 お伽はなし
8 失恋行列
9 活人画
10 人造蓄音機
11 蓬莱土産 宝の福引
2番目の「天下一品万国古物 大博覧会」は、個人の余興というよりは、会を主催する人のためのアイデア。家にあるガラクタやゴミを会場に持ち込んで展示し、それにデタラメの説明をつける博覧会のパロディ。ご丁寧にも用意するべきガラクタも指示されている。
一、ワシントンのネクタイ:汚れたネクタイ
一、牛若の足駄:小型なる足駄=女物か小児のものがよし
一、ペルリのかさ:壊れて骨のバラバラになりたるこうもり傘を立てかけておくべし
一、ロビンソンクルソーのマッチ:火打ち石と釘
一、モセス神授の十戒:苔むした石に十戒をかいておくのです。何でも文字であればかまいません
米初代大統領ワシントンのネクタイに、モーゼの十戒の石板!? これがそこらの宴会場にあったら大変だ(笑)。明治期は、東京・上野などで盛大に開催された「内国勧業博覧会」を筆頭に、博覧会熱が高まっていた時代。
これを今そのまま宴会でやっても受けないとは思うが、結婚式やパーティの余興で、主役のどうでもいい持ち物であったり、昔の恥ずかしい作文や自作ポエムを博物館・美術館風に仰々しく展示するといった企画はアリかもしれない。
続いて4番目の「椅子取」は、何かと思えばまさしくそのままイス取りゲーム。音楽の演奏はオルガンで行う。イス取りゲームはいまだにTV番組でも見かける定番企画。何が日本人をそんなに夢中にさせるのか。
そして8番目の「失恋行列」は、かなり斬新な企画だ。歌舞伎や小説に登場する失恋した有名キャラの扮装を集団でして、神様役の人が失恋の理由を聞いてまわるという内容。話題の人物全員集合記者会見! といったノリでもはやコント。いまなら不倫したタレントとミュージシャン、不祥事を起こした元スポーツ選手や政治家が顔を合わせ、芸能リポーター役がガンガン追及する、そんな感じのネタか。これは盛り上がりそうだ。
宴会芸で悩むところまでが伝統行事!
最後になるが、9番目の「活人画」にも触れたい。字面からはイラスト芸に思えるが、これは明治~大正期に流行った、有名な絵画や歴史上の場面をマネしてポーズを取るという余興。海外から伝わってブームになったものだが、日本人のコスプレ好きのルーツとして語られることもある。この間の忘年会でも、ドラマの一場面を再現したり、人気スポーツ選手の仕草をマネたり……といった余興が定番だったが、それも活人画の発展形と言える!?
間近に控えた歓送迎会やお花見。宴会芸を言いつけられて気が重いという人も、ある意味、明治の人も頭を悩ませていた伝統行事と思うと少しは気が楽になるのでは、と。