ハイレゾ対応ポータブルオーディオプレーヤーの歴史を切り開いてきたAstell&Kernから、最新モデルの「KANN」(直販価格12万9980円)が発売されました。これまではアルファベットと数字のコンビネーションだった型番を一新したニューフェイスは、どんな方にオススメできるプレーヤーなのか検証してみたいと思います。
限界を超えて様々なことが「できる」
「KANN(カン)」の製品名は、「~できる」という意味のドイツ語の助動詞に由来しています。英語で言うところの「can」ですね。「色んな楽しみ方ができるプレーヤーをつくりたい」という開発者の思いが込めらた名前だといいます。元もとAstell&Kernはハイレゾ対応ポータブルオーディオプレーヤーは、元祖とも称される「AK100」から現行フラグシップモデルの「AK380」まで順当に進化を続ける間に、色んなことが「できる」ようになった多機能プレーヤーです。にもかかわらず、既存のラインナップと比べてKANNではどんな新しいことにチャレンジしたのでしょうか。
まずはヘッドホンアンプの出力パフォーマンスが大幅に向上して、プレーヤー単体でハイインピーダンスの高級ヘッドホンをガンガン鳴らすことが「できる」ようになりました。既存のAKシリーズも組み合わせるヘッドホンやイヤホンを選ばないパワフルなプレーヤーですが、KANNの底力はケタ違いです。わかりやすい例を挙げるとすれば、AK300シリーズ専用の外付けアンプとして発売されている「AK380AMP」に匹敵するほど出力実効値が得られるそうです。
もうひとつは、これまでヘッドホン出力と共用としてきたライン出力を独立させて、より純度の高い信号を外部オーディオ機器に送り出すことが「できる」ようになっています。据え置きタイプのホームオーディオシステムや、アンプを内蔵するアクティブスピーカーにつないでHi-Fiクラスのサウンドが楽しめます。さらにライン出力もヘッドホン出力と同様に、3.5mm/3極アンバランス出力端子のほかに2.5mm/4極のバランス出力端子も設けて、組み合わせる機器によって接続方法を変えたり、音の違いが探求できるよう自由度も高まっています。
プレーヤーとしての使い勝手を高める要素はUSB端子を2種類搭載したこと。USBオーディオ出力やUSB-DAC入力用のmicroUSB端子のほか、充電専用のUSB Type-Cを搭載したことで、KANNをチャージしながらUSBオーディオ再生環境が構築「できる」のも本機の特徴です。なおKANN本体に内蔵するバッテリーは6,200mAhと大容量なので、アウトドアに音楽を持ち出して聴くときのスタミナも心配無用。1時間の充電で約6.5時間の音楽再生を楽しめるぶんのバッテリーをチャージする急速充電にも対応しています。
ジッターノイズを極限まで低く抑えた電圧制御水晶発振器の搭載と合わせて、DACにはAK380などAK300シリーズで使いこなしを心得た旭化成エレクトロニクスのDAC ICチップ「VERITA AK4490」をシングルで搭載。安定したHi-Fiサウンドを再現します。ハイレゾの音楽ファイルはDSD形式で最大11.2MHz、リニアPCM形式は最大384kHz/32bitまで変換せずにプレーヤー単体でネイティブ再生が「できる」のも、現行フラグシップ「AK380」と肩を並べる魅力です。
その脅威の音を聴いてみた
それではKANNのサウンドを聴いてみましょう。まずはAstell&KernとJH Audioがコラボしたイヤホン「Michelle」を、2.5mm/4極のバランス接続端子につないで聴いてみました。
ノラ・ジョーンズの「The Nearness of You」では、歌い手の声の輪郭がとても鮮明に浮かび上がってきます。音色が色鮮やかなピアノ、ウッドベースの生々しさと相俟ってとてもリアルな演奏が目の前に浮かび上がります。一つひとつの音が鋭く立ち上がってくるのに、エッジが立ってトゲトゲしく感じられるところがありません。ボーカルの声には女性らしいふくよかさと潤いが含まれていて、長く聴いていても耳を疲れさせることがありません。ビブラートのきめ細かさや、余韻がすっと消えた後に訪れる静寂の透明感も極上です。
ベイヤーダイナミックの「T1p 2nd Generation」はインピーダンスが600Ωと高めに設計されているハイエンドヘッドホンです。KANNが内蔵するヘッドホンアンプのパワーを「AK300」を用意して同じボリューム値で聴き比べてみると、やはりKANNの底力はひと味違います。大編成のオーケストラでは細かい音の粒立ちがより鮮やかで、ピアニッシモの小音量で展開される演奏の解像感がグンと引き立ってきます。ジャズのピアノトリオでは楽器の定位感がとても明快で、前に迫ってくるような活き活きとした演奏を描きます。ヘッドホン出力のゲインはハイとノーマルから選択できますが、ノーマルでも「T1p 2nd」を十分に力強く鳴らせました。
スピーカーリスニングもフォステクスのアンプ内蔵スピーカー「FS-4AS」につないで試してみました。ケーブルを接続するとKANNが自動でライン出力にモードを切り替えて、音量の微調整はスピーカー側で行うようになります。
スピーカーも軽快にドライブするKANN。マイケル・ジャクソンの「I Can’t Help It」では肉厚なベースラインと、電子ピアノの甘い余韻、澄み切ったボーカルのハイトーンが立体的に描かれて、部屋いっぱいに満たされた音楽に心地よく包まれまれました。ヘッドホン出力とライン出力を切り分けた効果はスピーカー再生でとてもよくわかるので、従来のAKシリーズをお持ちの方はぜひ聴き比べてみて欲しいポイントです。
便利な機能「AK Connect」とは
KANNは64GBの内蔵メモリーを持っていますが、microSDと通常サイズのSDカードも外付けストレージとして使えるので、最大で576GBという途方もない容量のデータを持ち歩くことができます。1件のファイルサイズが大きくなりがちなハイレゾ楽曲を中心に聴く場合も安心ですね。「AK Connect」の機能も、室内でゆったりと音楽に浸りたいときに便利な機能としておすすめです。KANNをWi-Fiにつなげば、同じホームネットワーク内のパソコンやNASに保存した音楽ファイルをストリーミング再生できるようになり、さらに「AK Connect」アプリをインストールしたスマホやタブレットから楽曲再生がリモコン操作できるからです。
色んなスタイルで音楽を楽しめるプレーヤー
KANNはAK380と比べてみても、本体サイズが奥行き方向に大きくなっています。ところが実際、手に持ってみると軽量・強固なアルミニウムを本体のメインフレームに採用しているため、意外に重さは感じませんでした。
右側面のボリュームホイールは片手で持ちながら軽快に操作できるので満足です。GUIで今までのAKシリーズと違うところは、ソフトウェア画面にあった再生・一時停止、曲送りのアイコンが物理ボタンとして本体のボトム側に切り出されたことです。ふだんAK300を使っていると最初は戸惑う感じもしましたが、慣れてくると前面のボタンをクリックしながら操作できる安心感が音楽プレーヤーならではのものであることが思い出されてきました。これって今どきのスマホではあんまりないなあと。
KANNは音質はAKシリーズ最新モデルならではの高い解像感とナチュラルなバランスを備えながら、「ヘッドホンアンプを合体したプレーヤー」ならではの力強いサウンドが満喫できます。拡張性がとても豊かなので、色んな用途に長く使えてコスパも良好と言えそうです。ヘッドホン・イヤホンによるポータブルリスニングだけでなく、PCやスピーカーを組み合わせながら様々な音楽再生のスタイルに挑戦してみたいという好奇心旺盛な音楽ファンに最適なプレーヤーではないでしょうか。