長年、慣れ親しんできた私鉄の多くの車両が、静かに“舞台”から去ろうとしている。特にここ数年は各鉄道会社とも新型車の導入が増えたこともあって、古い車両との入れ換えが激しい。ということで今回は、首都圏を走る大手私鉄の「絶滅危機が迫る車両」の情報をお届けしよう。
その1)東京メトロ千代田線6000系
絶滅危機度 ★★★★★
最初に絶滅が危惧される車両として紹介したいのは東京メトロ千代田線の6000系だ。1968(昭和43)年に登場した当時、画期的だった回生ブレーキ付き電機子チョッパ制御方式を採用、36編成356両が造られた。鉄道友の会が選定する1972年度「ローレル賞」にも輝いている。
高性能、そして耐用年数40年以上を売りにした車両だったが、すでに製造当初から50年近く。2010年から廃車が始まり、新型の16000系の増備が急速に進んでいることもあり、2017年度中には消えていく運命と見られる。
6月8日現在、4編成の残存が確認されているが、朝夕の代々木上原〜綾瀬間での運用が主流。また一部編成が常磐線へ乗り入れてはいる様子が見られるものの、小田急線内への乗り入れはすでに終了している模様だ。
その2)東武鉄道350型
絶滅危機度 ★★★★☆
350型は1991(平成3)年、急行「きりふり」・「ゆのさと」用に1800型を改造して造られた。4両編成の急行列車用車両で、「きりふり」が特急に格上げされたことから、現在は特急用電車として利用されている。
同タイプで6両編成の300型も造られたが、500系リバティの新造で2017年の4月20日のダイヤ改正時に姿を消した。350型のみ残されたかたちになるが、2017年6月上旬現在では、宇都宮朝7時発→浅草行き「しもつけ282号」などの運用に細々と使われている。主力車両としての役目は終えたものの、今後しばらくは、多客期の臨時特急などに使われると予想される。
その3)東武鉄道1800型
絶滅危機度 ★★★★☆
特急用電車の300型と350型の元となった急行用車両で、1964(昭和44)年から1987(昭和62)年にかけて製造された。大半が廃車および300型、350型に改造されたが、6両1819編成のみ現存。主に週末の臨時列車および団体専用列車として使われている。
鮮やかな赤が印象的な1800型は、東武鉄道の電車の中で目立つ存在だが1編成のみ。改造された300型がすでに姿を消しているだけに、次の全般検査を機会に引退となる可能性が極めて高い。
その4)東武鉄道8000系
絶滅危機度 ★★☆☆☆
東武8000系といえば東武鉄道を代表する通勤型電車。1963(昭和38)年から1983(昭和58)年にかけて712両もの車両が造られた。これはJRグループを除く私鉄の中で最多車両数となる。それほどの“大所帯”を誇った8000系も、徐々に終焉の時を迎えつつあるようだ。
すでに正面窓が小さめの初期タイプは消え(東武博物館の動態保存車を除く)、東武伊勢崎線、東武東上本線などの本線での運用はなくなっている。これらの路線では亀戸線、大師線、越生線などの支線の運用に限られてしまった。
主力車としての活躍が見られるのが東武アーバンパークライン(野田線)。6両編成、青と水色の帯を巻く長年親しまれた姿で路線を走っている。とはいえ、新型の60000系の編成数が増え、10030系も走るため、8000系の運用が減りつつあることは確か。8000系が見られるのは、ここ数年で支線のみとなってしまうと予想される。
その5)小田急電鉄7000形LSE
絶滅危機度 ★★★★☆
私鉄の観光特急として60年の歴史を誇る小田急ロマンスカー。伝統のオレンジ色をまとう電車として唯一、いまも走り続けるのが小田急電鉄7000形LSEだ。1980(昭和55)年に登場し、翌年に鉄道友の会が選定する「ブルーリボン賞」を受賞した名車である。
ロマンスカーとしては、7000形LSEが生まれたあとに10000形HiSE(1987年登場)や20000形RSE (1991年登場)が造られた。しかし、どちらも床に段差のあるハイデッキ(高床)構造だったため、バリアフリー化の波に乗ることができず、すでに引退。先輩格の7000形LSEのほうが長生きするという現象になってしまった。
この7000形LSEも登場してすでに35年以上。11両2編成のみが残存しているが、2018年3月に新ロマンスカー70000系が登場することもあって、近いうちに消えて行く運命のようだ。
その6)東急電鉄田園都市線2000系・8590系
絶滅危機度 ★★★★☆
東急田園都市線といえば、東急電鉄の8500系や5000系、また東京メトロや東武鉄道の電車も乗り入れ、さまざまな電車が走る変化に富む通勤路線といった印象が強い。一方で、東急電鉄の希少車も少ないながら走っていることをご存知だろうか。
それが2000系や8590系といった車両。正面のスタイルが特徴で、運転席の窓周りがつや消しの黒色で塗られている。両編成とも現在、2編成ずつしか残っていない。しかも土曜・休日の運用はほぼなく、平日の運用が主体。東武鉄道への乗り入れにも対応しておらず、さらに8590系の運用にいたっては、朝夕のラッシュ時に限られている。
2018年春には新型の2020系が10両×3編成が導入予定。大所帯の8500系よりも希少車の2000系や8590系が先に消えていくことになりそうだ。
その7)東急電鉄池上線・多摩川線7700系
絶滅危機度 ★★☆☆☆
東急電鉄の池上線・多摩川線では、大手私鉄としては珍しい車長18メートル(20メートル車が多い)の3扉3両編成の電車が走る。東急の他の線区の車両が利用できないことから、古い車両も多く残されてきた。
その代表格が7700系で、1987(昭和62)年の登場からすでに30年近く走り続けている。さらにこの7700系、日本の鉄道としては初のオールステンレス車として生まれた7000系(初代)を改造した車両でもある。前歴まで含めれば、かなりの年齢を重ねているわけだ。
すでに池上線・多摩川線では先輩格だった7600系は2014年に引退。新型の7000系(2代目)の増備が進めば、いまは安泰の7700系も徐々に減っていくものと見られる。
その8)西武鉄道2000系
絶滅危機度 ★★☆☆☆
1977(昭和52)年に登場した西武鉄道2000系。西武初の4扉オリジナル車として西武池袋線、西武新宿線の輸送力アップに貢献した車両でもある。2両×9編成、6両×12編成、8両×4編成の計122両が造られた。
2000系は1988(昭和63)年以降も増備されたが、こちらの車両は正面の天井部分が丸く、印象が大きくことなることから、初期に造られた2000系を旧2000系、後期に造られた2000系を新2000系と異なる呼ばれ方をされることが多い。
40年にわたり活躍してきた“旧2000系”。車体更新などの工事を受けてきたが老朽化は避けられず、2015年から廃車が始まった。2017年に新型40000系が2000系の入れ換え用として登場しただけに、40000系の増備が続けば車両数をさらに減らしていくものと見られている。
これらの私鉄車両は、鉄道会社からアナウンスされることなくある日、そっと消えていくことが多い。この機会に、あらためて走行する雄姿を確認しておくのも悪くないだろう。次回は首都圏のその他の私鉄と、関西、九州など他地域を走る私鉄の絶滅危惧車両の情報をお伝えしたい。