知名度・実力・歴史、その全ての面で数あるクロノグラフの中でも最高峰に君臨する名機「スピードマスター」。1957年の誕生以来、数多くの伝説とバリエを生み出してきたこのロングセラーコレクション“60周年”の足跡を改めて辿ってみましょう。先日、来日を果たしたオメガ社のインターナショナルブランドヘリテージマネージャー兼オメガミュージアム館長のペトロス・プロトパパス氏の解説も注目です。
宇宙服の上から剥き出しで装備! 苛酷を極めた空間で機能を発揮する超高性能クロノグラフ
独自の耐圧リューズや0リングにより、高深度潜水を可能にした「シーマスター300」。その技術を応用し、さらにインナーケースによって耐衝撃性や耐磁性を向上させた「スピードマスター」が誕生したのは1957年のこと。視認性に優れたダイアルや高い操作性を持つクロノグラフ機構などにより、このモデルは当初から評価の高かったのですが、1965年に一大転機を迎えます。
当時「宇宙空間での船外活動に耐える腕時計」を求めていたNASAは、用意した多くのクロノグラフに対して-18℃〜93℃の急激な温度変化、無重力、真空、40Gの耐衝撃性などの条件下で各種テストを実施。これらのテストをクリアしたのは、「スピードマスター」だけでした。
そうしてNASAの公式装備品に選出されて以降、アポロ11号での初の月面着陸、爆発事故による計器異常から搭乗員を救った13号でのミッションなど、NASAの全ての宇宙計画で「スピードマスター」はその実力を発揮します。
1970年代以降も72年と78年に再びクロノの選定テストが実施されましたが、いずれのテストでも合格したのはやはり「スピードマスター」のみ。〝宇宙空間に耐え得る〞と公式に認定された唯一のクロノグラフとして、誕生後60年を迎えた現在もNASAの公式装備品として活躍し続けています。
スピードマスターのココが凄い!
①ムーンウオッチと呼べるのはスピードマスターだけ
1969年のアポロ11号以降、人類は6度月面に降り立っています。その全てのミッションに携行されているのは腕時計として唯一のNASA公式装備品であるスピードマスターだけ!
②60年間、普遍のスタイルを継承し続ける
精悍なブラックの横目ダイアルに、タキメーターが刻まれたベゼル。ファーストモデルから既に“完成形”として高く評価された基本スタイルを現行機でもそのまま継承されています。
③店頭で普通に販売されているモデルを宇宙飛行士が使用
ストラップをNASAの宇宙服仕様に交換した以外は、市販品と全く同じスピードマスターがそのまま宇宙空間で活躍。そのポテンシャルの高さは、クロノグラフで最高峰を誇っています。
オメガミュージアム館長が語るスピードマスター
先日、スイス・ビエンヌにある「オメガ・ウオッチ ミュージアム」の館長も務めるペトロス・プロトパパス氏が、都内で行われたイベント「Lost in Space」に合わせて来日しました。
オメガの歴史や哲学、商品の魅力などを世界に広める役割を担うオメガ社のインターナショナルブランドヘリテージマネージャーでもある彼が語った、歴代スピードマスターの軌跡をご紹介します。
「スピードマスターという名前はカナダで行われたレースから来ています。「CK2915」は地球上で求められるスピードを意識してデザインされたもので、初めてタキメーターがベゼル上に取り付けられました。レーサーたちはこれを使って平均時速を計測していたのです。
その2年後には、宇宙に初めて行った初のオメガウオッチ「CK2998」が誕生します。宇宙飛行士たちの個人的なコミュニティーでも、話題になっていたそうですよ。
NASAは公式に使えるクロノグラフを探していました。オメガは使用目的も正確に明かされないまま「ST105.003」をNASAに渡し、その後当時の雑誌を見て、初めて宇宙に行ったことを知るのです。
最初のムーンウオッチとなる「ST105.012」は、オメガのプロフェッショナルラインの証明ともいえる“PROFESSIONAL”の文字を印字して発表しました。その後キャリバー321を搭載した「ST145.012」へと進化。6回に渡る月面着陸すべてを経験しています。
1968年には、オメガは新たなムーブメント「ST145.022」を発表しました。キャリバー861を搭載し、オメガの技術の進歩を示しています。
翌年には、スピードマスター最初の限定モデルとなる「BA145.022」を製造し、当時現役だった宇宙飛行士たちにこの記念モデルが贈られました。
記念というと、1973年には世界で初めてクロノメーターの認定を受けた「スピードマスター125」も、スピードマスターの歴史に欠かせない重要なピースですね。これはオメガの125周年を記念した人気モデルで、2000本限定で制作されたものでした。
90年代の終わりになると、最新の目的に合うよう設計した宇宙飛行士用の腕時計を作る決断が下されました。プロトタイプをNASAに渡し、フィードバックする作業をオメガは続けていったのです。宇宙は熱もあり日が強いのでデジタル表示が使えません。そのため宇宙船外では、アナログの針で時刻を表示し、船内ではスクリーンにデジタルの時刻を表示する。この2点が宇宙飛行士たちにとても重宝されました。それが「X-33」です。今も国際宇宙ステーションに携行されているんですよ。
その後もオメガは、NASAのために完璧なスペースウオッチを作るという使命を持ち、極秘にプロジェクトを続けてきました。取り外し可能な赤い耐熱シールドを取り付けた「アラスカプロジェクト」の名前は、オメガが定めたコードネーム。というのも、「アラスカ」と名付けることで競合他社に情報がもれてしまうのを防ぐためにつけられたのです。
そして2000年には、日本の皆さんにも馴染みが深いと思いますが「スピードマスター 999」が誕生しました。宇宙へのあくなき探求を続けてきたオメガと、宇宙への憧れと夢を持つ「銀河鉄道999」の作者・松本零士さんの夢のコラボレーションとなったのです。ケースの裏蓋、中央部にはキャラクターのメーテルが描かれ、999の文字と松本さんのサインを刻印。日本限定1999本で製造され、大きな話題を生みました」
スピードマスター名作アーカイブ
1957年「ブロードアロー」
大きなアローハンドが特徴的な記念すべきファーストモデル。“ダイアルではなくベゼルにタキメーターを刻む”というアイデアはレーシングドライバーの利便性のために考案されたデザインで、このモデルが世界初のタイムピースとなっています。
1965年「ザ・ムーンウオッチ」
リューズやボタンを保護するガードを装備し、左右非対称にデザインされたケースを初めて採用。1969年にアポロ11号のニール・アームストロング船長と、バズ・オルドリン宇宙飛行士が人類史上初めて月面に降り立った際に着用したモデルです。
1968年「ウルトラマン」
1968年から搭載ムーブは初代のCal.321(毎時1万8000振動)から、毎時2万1600振動のCal.861へ変更。オレンジカラーの秒針を備えたこのモデルは、1971年に放映された特撮TVドラマ「帰ってきたウルトラマン」にも登場した希少モデルです。
1991年「パーペチュアルカレンダー」
クロノグラフ機能に加え、2100年までプログラムされた永久カレンダー機構も装備(3時位置のインダイアルでムーンフェイズ、6時位置で曜日、9時位置で月&閏年、12時位置で日付けを表示)。スイス建国700周年を記念して50本のみ製造されました。
1992年「スケルトン」
スピードマスターに搭載された初代Cal.321の前身となる「Cal.27CHRO C12プロジェクト」50周年を記念して50本を限定製造。手作業で丹念にスケルトナイズされたダイアルに、シースルーバック仕様の裏蓋を備えたフルスケルトンウオッチ。
1996年「レーシング」
新たにオメガのアンバサダーに就任した、伝説のF1ドライバー、ミハエル・シューマッハとのコラボモデル。情熱的なレッドカラーに、1/5秒刻みのミニッツトラックが上下交互に配された、独特なレーシングスタイルのダイアルが特徴です。
2008年「アラスカ プロジェクト」
完璧なスペースウオッチを追求する「アラスカプロジェクト」で開発されたプロトタイプを実用化。アルミニウム製アウターケース(熱遮蔽体)などにより、-148℃~+260℃の環境にも耐える仕様となっています。
2015年「シルバー スヌーピー アワード」
アポロ13号計画の45周年を記念し、NASAから贈られた「シルバー スヌーピーアワード」にオマージュを捧げたモデル。9時位置のインダイアルにはスヌーピーが描かれ、ふき出しには映画「アポロ13号」で使われた象徴的なセリフも刻まれています。
2017年「レーシングマスター クロノメーター」
特徴的なレーシングダイアルを復活させた、2017年最新作。オレンジのマーキングが施されたハンドやタキメーターベゼルが、よりスタイリッシュで精悍な印象に。マスター クロノメーター認定の自動巻きモデルです。
2017年「38mm」
男女兼用のペアウオッチとしても人気が高い、新たに加わった38㎜径コレクション。SS+18Kセドナ™ゴールドのコンビケースに、バヴェダイヤのベゼルを備えた自動巻きモデル。その独特な風合いから「カプチーノ」という愛称も付けられています。