引越しをしたら、ご近所にご挨拶まわりに向かう。菓子折りやタオルなどを持って両隣と上の階と下の階に住む人のところを訪ねる。これは日本でよく見られる光景だが、アメリカでは逆だ。なんとアメリカでは、引越してきた人のところへ、近所の人から先に訪ねていくそうだ。しかも「ウェルカムバスケット」なるものを持っていくという。
ウェルカムバスケットとは?
ウェルカムバスケットとは何か。
『今すぐ使える! 魔法のえいご』(デイビッド・セイン・監修/学研プラス・刊)』によると、それは、便利なものを箱に詰めたものなのだという。例としてスポンジ・タオル・お菓子、それから近所の地図などを入れるのだという。そして「Welcome to our neighberhood!(この街にようこそ!)」という言葉と共に差し出すのだ。
なんと良い習慣だろうかと感心した。引越した側は、まだ周辺のことを良く知らない。私が受け取ったご挨拶の品も、遠く東京駅で売られているものだったことがある。引越しで忙しく、お金もかかるのに、わざわざ挨拶の品まで買って用意しなくてはならないのは大変だ。何をあげたらいいのかわからないので無難なものを選ぶしかない。しかしウェルカムバスケットなら違う。
街の情報を伝える
ウェルカムバスケットに近所の地図を入れるのも、とても素晴らしいアイデアだ。私もどこにクリーニング屋があるのか、オススメのパン屋はどこかなど、越してきてすぐにわからないことがいっぱいできて困った。けれど、ウェルカムバスケットに例えば近所の美味しいパン屋さんやお菓子屋さんの品を入れれば、それがそのままご近所案内にもなる。実際に食べて味が気に入ったら、地図に書かれている店に出向けばいいのだから、とても役立つ贈り物になる。
日本では、先方がご家族で挨拶に来られ、こちらも家族構成などを伝える。たまたま子どもたちが同年齢だったら学校の情報などで話も盛り上がるが、そうでなければ、形式だけのご挨拶で終わり、その後は顔を合わせれば会釈する程度の仲で終わってしまう場合も少なくない。けれどウェルカムバスケットがあれば「あのお菓子美味しかったので、また買いに行っちゃいました」などと、次に顔を合わせた時の話のタネにもなるのだ。
引っ越してきた人を歓迎する気持ち
以前テレビで、沖縄の離島に越した一家が、島の人たちに歓迎される様子を観たことがある。その島では引っ越してきた人たちのために、皆で宴会を催すのだという。最初は緊張していた越してきた一家が、宴の終わりには皆に溶け込み、一緒に歌って踊っている姿は感動的だった。
よそからきた者は、最初は孤立している。もともと住んでいる側から歓迎することは、どれほど有難いだろうか。ウェルカムボックスも、沖縄での宴も、現代の東京ではすぐに取り入れることは難しいかもしれない。けれど歓迎したいという気持ちは、なんらかの形で忘れずに持っていたいものだ。
経験に即した言葉
私はいま、英語を勉強している。40代からの英語学習は、覚えても覚えてもすぐ単語を忘れてしまうし、苦難の連続だ。それに紙の上で英語を読んでいるだけではわからないこともたくさんある。今回紹介した本では、このお引越しでの習慣のように、著者が外国人であるからこそ教えてもらえる実際の経験に基づいた生きた英語が満載で、とても役に立った。
それにしても、日本に越してきたアメリカの人は、今まで寂しい思いをしていたのではないだろうか。アメリカだったら楽しいウェルカムバスケットを携えて隣人が来てくれるのに、日本ではそれがないのだから。もし私の隣にアメリカ人が越してきた時は、私はウェルカムボックスを作って持って行くつもりだ。
ウェルカムバスケットは、泊まりに来た友人のためにも作ることができるという。タオルや歯ブラシ、パジャマなど、お泊りグッズを詰めて、ベッドサイドに置いておくのだ。これがあれば泊まりに来た友人にいちいち「タオルはここだよ」「歯ブラシはこれね」などと言わなくていいので、とても便利だ。今度誰かが泊まりに来たら、用意してみようと思っている。
(文・内藤みか)
【参考文献】
今すぐ使える! 魔法のえいご
監修者:デイビッド・セイン
出版社:学研プラス
日常からビジネスまで、英語で言いたくても言えなかったシーンをオールカラーのマンガで紹介。楽しみながら読むだけで、気持ちが伝わる英語フレーズが今すぐ使えるようになる。大人気の著者デイビッド・セインとマンガ家入江久絵による、画期的な語学書。