新潟県新潟市に本社を置くダイニチ工業は、暖房・空調機器で確たる地位を築いている会社。特に石油ファンヒーターでは10年連続販売台数シェアNo.1、加湿器の分野でも4年連続販売台数、金額シェアNo.1(※)と、堂々たる実績を残しています。同社はまた、ものづくりに当たって「新潟」という土地に強いこだわりを持っているのも特徴。今回は、そんなダイニチ工業の本社・北部工場がメディア向けに公開されるということで、一路新潟まで取材に行ってきました。
※それぞれ全国の主要家電量販店において
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石油ファンヒーターでシェア50%以上を誇るトップメーカー
新潟市南区に拠点を置く「ダイニチ工業」は一般ユーザーの認知度はまだ低いですが、実は石油ファンヒーターの分野ではNo.1シェアのメーカー。創業は1964年で、71年には業界初の気化式石油ストーブ「ブルーヒーター」を発売。その後、電気で点火する業界初の全自動石油ストーブ、着火スピードが業界最短の気化式石油ファンヒーターの開発などで着実にシェアを伸ばしてきました。近年はメーカー別販売台数シェアで50%以上を獲得する押しも押されもせぬ業界トップ企業です。
普及率52%の石油ファンヒーターは、いまも欠かせぬ暖房器具
ダイニチ工業工場見学に先立つ説明会では、まず石油ファンヒーターの現状についての解説が行われました。
最近はエアコンの普及で一見影が薄い石油ファンヒーターですが、なんといまも52%の普及率を誇っています。特に戸建住宅など、高断熱・高気密仕様でない住居では、いまも根強い人気があります。
そんな石油ファンヒーターの長所は、「高い暖房能力と即暖力」「暖房ムラが少ないこと」「加湿効果」が挙げられます。「加湿効果」というのは意外な気もしますが、実は灯油が1ℓ燃焼すると1ℓの水分が発生。つまり加湿器で1ℓ分加湿するのと同じ効果が得られるのだそうです。
一方弱点としてよく言われるのは、「着火に時間がかかること」と「着火時、消火時のニオイ」と「給油の面倒さ」。同社はこうした弱点の克服に日々取り組み、それらがそのまま顧客への訴求ポイントになる最新モデルの開発に至ったそうです。
燕三条の金属加工技術を活かし、石油ファンヒーターの一大産地に
ところで、読者の中には「そもそも石油ファンヒーターをなぜ新潟で?」と疑問に思う人もいるかもしれません。ですが、新潟市にダイニチ工業があるほか、隣の三条市には業界2位のコロナがあり、新潟県は石油ファンヒーターの一大生産地なのです。
ダイニチ工業の代表取締役社長・吉井久夫さんも、「石油ファンヒーターは新潟県の地場産業だ」と語ります。
「新潟は、昔から地場産業としてすぐれた金属加工技術を持っていて、自社工場がなくても工業製品が作れるくらいです。実際私たちの会社も、自社工場と協力工場と協力して製品を作っており、生産加工はほぼすべてこの地域で行っています」(吉井社長)
またダイニチ工業は、地元新潟で製品を作り続けることにも、大きなこだわりを見せています。
「この工場で働く社員に協力工場の社員、その家族を含めると数千人の生活をこの会社は支えている。私はこの会社について、『この地域で作って、社員の生活が成り立ってこそ価値がある』と考えているんです。ですから海外工場は作りません。我々は、ここに仕事があることの大切さを噛み締めて仕事をしています。儲けは極力社員に還元する。これがうちの信条なのです」(吉井社長)
時代の流れを見据えつつ、今後も石油ファンヒーターの技術向上に注力
主力である石油ファンヒーターを手掛けて37年経つダイニチ工業ですが、石油ファンヒーター市場の未来は、決して安泰というわけではありません。特に都市部では、灯油が使えない高断熱・高気密の建物が増えており、その需要は減少傾向にあります。ダイニチ工業も、時代の流れに合わせた製品の切り替えを課題と考え、エアコンとペアで使う加湿器や、セラミックファンヒーターのラインナップ拡充に力を入れ始めています。
とはいえ、そこは業界シェア50%を誇る同社。今後も石油ファンヒーターの技術向上には注力していくと言います。
「業界全体の生産数は減っていますが、その間にもうちの生産数は伸びています。いま、石油ファンヒーターの日本での世帯保有率は100世帯で95台。日本には現在約5500万世帯ありますから、単純計算で5300万台はあることになる。これを10年で交換するとなると、市場全体で1年に530万台、わが社の製品も平均で毎年270万台近く売れる計算になりますから、これは地道に作り続けていこうと。製品のバリエーションもまだまだ増やしていくつもりです」(吉井社長)
新モデルは、消火時のイヤなニオイを大幅に低減
今回の説明会では、ダイニチ工業の石油ファンヒーターと加湿器の最新モデルが登場。石油ファンヒーターでは、最上位モデルのSDRタイプと小型モデルのKEタイプの新型が披露されました。
SDRタイプは、同社の石油ファンヒーターの売りである「40秒着火」機能はもちろん搭載。速暖性が極めて高く、人が暖かいと感じる15℃に到達するのに、わずか7分で到達するそう。また、元々着火時、消火時のニオイが少ない「ブンゼン気化式」の採用に加え、消火時にファンが大風量で回転して気化ガスの燃え残りを焼き切る「秒速消臭システム」をグレードアップ(秒速消臭システムプレミアム)。新モデルでは、消火時のニオイを40%減少させることに成功しました。
一方KEタイプは、小型ボディに最上位SDRタイプに搭載の「秒速消臭システムプレミアム」を搭載し、消火時のニオイを25%減少。40秒着火にも対応し、速暖性も高いです。また、これまでSDRタイプなど大型モデルの9ℓタンクにのみ付いていた「Wとって」を同機の5ℓタンクにも装備。タンクの持ち運びや給油作業がよりラクになりました。つまり、SDRタイプ、KEタイプともに、先に述べた「着火に時間がかかる」「着火時、消火時のニオイ」「給油の面倒さ」という3つの弱点を、すべて克服・改善しているわけです。
そのほか、SDRタイプは暗い部屋での液晶部の眩しさを軽減できる「減光セレクト」機能を新搭載。運転延長の知らせを受けるまでの時間も従来の3時間固定でなく、「3時間・2時間・1時間」から選択可能になりました。灯油の残量を8段階表示する機能も便利。ファンフィルターは脱着が簡単で掃除しやすいうえ、フィルター網に抗菌剤入りステンレス材をコーティングするなど、メンテナンス性への配慮もなされています。
またKEタイプにも、文字表示が大きく見やすい「大型オレンジ液晶」や、お知らせメロディーなどの音量を3段階で切り替えられる機能を採用。着脱式のファンフィルターは抗菌ネット仕様で雑菌を抑えます。
加湿器ではターボ機能搭載の静音タイプと大型モデルに注目
同社は加湿器でもメーカー別シェアで4年連続No.1。この加湿器ジャンルでは、静音性の高さとインテリア性の高いデザインが特徴のRXシリーズがモデルを一新しました。最小運転音13dB(※)という運転音の静かさに加え、加湿量を約15%アップする「ターボ運転」機能を新搭載。さらに、HDパワフルモデル・シリーズからは、最大加湿量2400mℓ/hで67畳まで対応できるHD-242が登場。最小運転音はわずか17dBで、6ℓタンクを2個搭載するため、長時間の連続運転が行え、給水の頻度も少なくて済みます。
※dBは騒音の大きさを示す単位。20dBの目安は、1m先で木の葉の触れ合う音、置き時計の秒針の音など
ちなみに、同社の加湿器はすべて温風気化式と気化式の「ハイブリッド式」を採用。設定湿度に達するまで温風気化式で加湿するため素早く加湿できるうえ、設定湿度到達後は気化式に切り替えて省エネです。気化式や温風気化式の水の粒子は、スチーム式や超音波式に比べて粒子の大きさが細かいので、空間への浸透性が高く、小部屋からリビングまで幅広い部屋サイズに使えます。簡単で湿度が選べ、またセンサーで湿度を一定に保てるため、加湿を機械にお任せでき、加湿のしすぎも防げます。
説明会では、地元に根差し、地元への利益還元を第一に考えるダイニチ工業の「企業としてのあり方」が明確にうかがえました。石油ファンヒーターの需要が減少傾向にあるなか、消火時のニオイ抑制など、快適性や使いやすさにこだわった商品開発を精力的に続ける姿勢にも、「使用者にいつまでも愛される商品を作る」という企業理念が反映されています。真面目に、地道にものづくりに取り組む姿勢には、新潟の地で10年間石油ファンヒーターシェアNo.1の看板を守り続ける同社の矜持が垣間見えました。
次回はいよいよ、ダイニチ工業の工場内をレポートしたいと思います。
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