数ある一眼カメラ用交換レンズのなかでも、1本持っておくと便利なのが広角から望遠までを1本でカバーできる高倍率ズームレンズだ。特にAPS-Cサイズ用で300mm程度までカバーする製品は、比較的コンパクトで超望遠域(450mm相当前後)までカバーできるとあって人気が高く、レンズメーカー製のほか純正レンズも数多い。
ただ、APS-Cサイズ用高倍率ズームの多くは広角端が18mm(27mm相当前後)となっており、広角側が物足りないケースも少なくない。そうしたなか、広角端が16mm(24mm相当前後)と広角側に強いレンズも存在する。それが、タムロンの16-300mm F3.5-6.3 Di II VC PZD MACROだ。ここでは、この16-300mm F3.5-6.3の特徴を実写を交えて紹介する。また、後半では他社の300mmまでの高倍率ズームとのスペック比較も行う。
【特徴1】広角側が16mmで室内や記念撮影などに有利
18mmと16mmでは焦点距離は2mmしか違わないが、画角にすると対角線方向に7度近く違い、16mmのほうが数値の印象以上に広い範囲を写すことができる。そのため、狭い室内での撮影や壁などがあって後ろに下がれない状況で重宝する。また、記念写真で背景を広く入れたい場合や多人数での集合写真を撮るときなども有利だ。
超広角域ではないため、最短撮影距離(39cm)で撮影しても極端なデフォルメ効果は期待できないが、遠近感が適度に誇張されて広角らしい写りが得られるのも魅力だ。
【特徴2】300mmで約0.34倍の近接撮影が可能
35mm判換算で450mm相当前後となる望遠側では、超望遠レンズならではの引き寄せ効果(遠くのものを大きく撮れる効果)や圧縮効果(被写体の遠近感が目立たなくなる)を得ることができ、被写体に適度に近づいて絞りを開ければ、背景を大きくぼかすことも可能だ。
最短撮影距離は全域で39cmなので望遠でも被写体にかなり近づくことができ、300mmでの最大撮影倍率は約0.34倍。マクロレンズ的な使い方が可能なので、花や小物などを撮影する場合にも最適だ。
【特徴3】AFが高速かつ静かで動きモノに強い
動く被写体を撮る場合は、カメラ本体のAF性能や連写性能がポイントとなるが、いくらカメラ側の性能が高くてもレンズ側のAF速度が遅いと被写体を的確に捉えられない。その点、本レンズは超音波モーター「PZD(Piezo Drive)」が採用され、高速で静かなAFが可能。さらに、AF後に切り替えなしでMFでピント位置を微調整できる「フルタイムマニュアルフォーカス」にも対応する。AF作動中はピントリングが回転しないので、レンズがホールドしやすいというメリットもある。
【特徴4】手ブレ補正搭載で夜景撮影などにも向く
手ブレ補正機構「VC」を採用。これにより、開放絞りこそF3.5-6.3と暗めながらブレの少ない写真が撮影できる。ただし、動きのある被写体の場合には、高速なシャッター速度が必要なので基本的には補助的なものと捉えたい。とはいえ、フラッシュの使用できない室内撮影や夕景撮影など、手ブレによる失敗は大幅に緩和できる。
【他社比較】300mmをカバーするレンズとしては非常に小型・軽量
300mm程度の焦点距離をカバーするAPS-Cサイズ用交換レンズは、タムロン以外にもソニー DT 18-250mm F3.5-6.3(Aマウント用)、ニコン AF-S DX NIKKOR 18-300mm F3.5-5.6G ED VRとAF-S DX NIKKOR 18-300mm F3.5-6.3G ED VR、リコー smc PENTAX-DA 18-270mmF3.5-6.3ED SDM、シグマ 18-300mm F3.5-6.3 DC MACRO OS HSMの5本がある。
しかし、広角側がどれも18mmからとなっており、16mmまでカバーしているのは本機のみだ。大きさや重さは、焦点距離が異なるため単純比較はできないが、300mmまでカバーするレンズのなかでは最も小さく軽い。加えて、撮影倍率も最も高いのが魅力だ。
【まとめ】ハイ・コスパで使い勝手のいい1本
一眼レフの高画質を生かしつつ、できるだけ小型・軽量に機材をまとめる場合や、レンズ交換を行う手間を省きたい場合に高倍率ズームは便利。そうしたレンズのなかでも、タムロンの16-300mmは、広角や近接撮影、動きモノに強いと3拍子揃ったレンズだ。
単に焦点距離だけを見るとダブルズームでもいいようにも感じられるが、広角や近接撮影の面ではそれらのレンズを凌駕しており、1本持っておいて損のないレンズだ。また、集合写真から遠くの被写体まで1本で撮れるという点で、運動会などの撮影にも適していると言える。
最近発売され、そのカバー域の広さから大人気となっている同社の18-400mmレンズと比較しても、望遠側こそスペック的に物足りなく感じられるかもしれないが、大きさやコストの面でのアドバンテージは大きい。鳥や飛行機撮影など400mmクラスの望遠が有利となる被写体を撮ることが多いのでなければ、過不足のない手軽なレンズとして本機も有力な選択肢になるだろう。