グルメ
2017/12/13 17:00

スーパーの風景を一変させた「焼き芋機」という伏兵――小野食品機械、挑戦の18年

寒くなってくると食べたくなるのが焼き芋。街中を走る軽トラックの移動販売で購入するのが冬の風物詩とされていますが、最近はスーパーマーケットの店頭などで気軽に買えるようになった気がしませんか?

 

実はこの裏側には、さつまいもを焼く機械の進化がありました。従来のガス式では室内調理は安全上なかなか難しかったのですが、これを打破するために登場したのが「電気式焼き芋機」です。浸透するにつれてスーパーの店頭も変わっていきました。21世紀に入ってスーパーの風景を変えたといっても過言ではないでしょう。

 

今回はその機械の開発元で、高いシェア率を誇る小野食品機械に行き、機械の成り立ち、秘密を聞きました。

 

【この人に取材しました!】

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千葉県・東金市にある小野食品機械の横溝哲也さん。同社の電気式焼き芋機は業界最古と言われ、現在も1~2位のシェアを誇るそうです。

 

 

「電気式」の焼き芋機は18年前に誕生した!

――かつて焼き芋と言えば、トラックなどでの街頭販売が主流で、小野食品機械で開発されている「焼き芋機」のような電気式なものはなかったように記憶しています。

 

横溝哲也さん(以下:横溝) そうですね。ガス式の焼き芋機は以前からあったのですが、弊社では制作しておりませんでした。もちろん、この時点では、電気式の焼き芋機もありませんでした。もともと弊社では食品スライサーなどの機械を作っていたのですが、1999年に取引先のスーパーマーケットの方から「店内で使える焼き芋機がほしい」という相談が。

 

前述の通り、当時はガス式が主流で、安全面や操作性の難しさを考えると、屋外に設置できる店舗など限られていました。

 

ですので、実は当初は積極的ではなかったのですが、まずは安全を第一に最優先し、ガス式の仕組みを電気式にそのまま変える機械を開発したのです。例えば、万一何かの故障などで急激な温度上昇があったときは、自動的に電源が切れるというような安全装置を付けるといったことですね。

 

それで1999年に東京の駒込のスーパーに1号機を導入させていただいたのですが、夕方ともなるとお客さんの行列が出来るようになり、テレビでも放映されるなど、たちまち人気となりました。

 

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↑小野食品機械の現在の「焼き芋機」。釜が2つある2釜式には、パトランプが付属する。焼き上がるとパトランプがまわり、音楽(「エリーゼのために」「埴生の宿」など)と合わせて周囲に知らせてくれる仕組みだ。

 

簡単操作のタッチパネルと2釜式!

――では、始まりは自社発信というよりは、ユーザー側からのアイデアを実現したということでしょうか?

横溝 そうです。お客さんのご要望によって完成した製品だったのです。1999年の後も常にお客さんのご意見を聞き、改良を努めて来ました。先ほど言った安全面の充実は、さらに進化させ、いまでは二重安全装置というものを採用しています。

 

また、スーパーなどの焼き芋販売の現場では、パートさんなど様々な方が機械を操作します。ですので、使いやすさを求めて、操作盤をタッチパネル式に変更したほか、掃除のしやすさなども追求してきました。

 

なお、1釜式ですと、さつまいもが焼き上がって、売り切ってしまったら、次の焼き上がりが出来るまで、さらに時間がかかってしまいますよね。それを解消するために2釜式を採用。時差を使って交互にさつまいもを焼くことで、販売のチャンスロスを実現したんです。

 

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↑タッチパネル部

 

ネットリの「紅はるか」への対応も!

――そこから18年経った現在、市場で人気のさつまいも品種も変わってきていますか? また、それに伴う機械改良も行われているのでしょうか?

横溝 はい。従来好まれていたさつまいもは、「紅あずま」というもので、ホクホクとした食感が魅力でした。一方、現在人気のある「紅はるか」は、ネットリした美味しさがあり、冷やしてスプーンでも食べられるようなものです。天然のスイートポテトのような感じですが、紅はるかは焼いた際に蜜、芋カスが出るわけです。

 

まずこれに対応するように、掃除をしやすくなる構造に改良。さらに今年は、どんな品種で、どんな方が焼いても味にバラつきが出ないようにした最新機も開発しました。

 

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↑2釜タイプ。さつまいもを焼く釜が2つあるだけでなく、掃除するためのプレートも2つ用意

 

ついに完成した特許出願の自信作!

――本来、さつまいもを美味しく焼くにはどういった条件が必要なのでしょうか。

横溝 ゆっくり過熱することでさつまいもの甘みが増すことは旧来の常識です。例えば、かつてよく見かけた石焼き芋のトラックは、熱した小石をさつまいもの周囲に配して、さつまいもの全体をゆっくり、圴一に過熱していたわけです。

 

さつまいもに、石から発せられる遠赤外線の熱をゆっくり伝えることで、さつまいもに含まれる麦芽糖が大幅に増えるので、美味しく焼き上がるんですね。電子レンジで温めたものよりも、石焼き芋が格段に美味しい理由はここなんですね。弊社では、この遠赤外線に着目し、ヒーターの改良を重ねたのが、さきほど言った最新機「名人焼き」です。これは特許出願もした自信作です。

 

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↑今年発売された「名人焼き」。特許出願もしたという焼き芋機のパイオニア、小野食品機械の渾身作

 

一歩先を見据えた焼き芋機を!

――こういった機械を納品される際には、機械の扱い方やメンテナンスなども、現場の方に説明するのでしょうか?

 

横溝 もちろんです。機械を買ってくださった方に、単に機械を送りつけるのではなく、我々が自分たちで納品にうかがってご説明をさせていただいています。やはり弊社の機械を使っていただき、より美味しい焼き芋を作っていただきたいですから。

 

――現在の発注先はやはりスーパーが多いですか。

 

横溝 はい。あと、最近では道の駅や各種公共団体とのお取り引きも増えています。

さらにさつまいもを海外に輸出したい県の方から、販促の一環として、弊社の機械を10台くらい買ってくださり、マレーシア、シンガポールなどに持って行かれたという話もあります。

 

――小野食品機械の今後の新しい展望とはどんなことでしょうか。

横溝 さきほど言った「名人焼き」は、これまでの弊社のノウハウをつぎ込んだ最新機ですが、「焼き芋機」の製造パイオニアとして、常に一歩先を見て、さらに「誰もが簡単に美味しい焼き芋が焼けるプログラム」を開発し続けていきたいと思っています。

 

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↑出荷を控える焼き芋機。小野食品機械の焼き芋への挑戦は常に進化し続けている