レンタル家族、レンタル彼氏、レンタルおっさんなど、人間をレンタルできるサービスが最近増えている。ついには「レンタル友達」もできたという。私自身、レンタル彼氏を借りたことがあるけれど、一時的には楽しいし、心も満たされるが、結局のところまた寂しくなる。人をレンタルするとどんなメリットやデメリットがあるのだろうか。
夢がかなう
たとえば私は、特定の恋人がいない。なのでたまに、取材も兼ねてレンタル彼氏を使うことがある。2~3時間お茶をしながら身の上話を聞くだけなのだけれど、とても楽しい。彼氏がいないので、寄り添って一緒に歩いてくれる男性がいてくれるだけで、とても幸せな気持ちになるものなのだ。何日も「彼氏ほしいな〜」とボヤいていた夢が、一瞬だけでもかなえられると、頭がぼうっとなるほど嬉しい。たとえそれが有料であったとしてもである。
『レンタルロボット』(滝井幸代・著/学研プラス・刊)は、人間そっくりのロボットをレンタルするという児童文学だ。ずっとひとりっこで寂しかった主人公の健太は、弟を欲しがり、まるで本当の弟のように懐いてくれるロボットを借りた。その瞬間、健太の夢はかなえられ、心の中の隙間も埋められたのだ。こんな風に、レンタルしている期間だけでも幸福を味わえることができるのはとても素晴らしいことだと思う。
疑似体験できる
弟ロボットにより、兄弟ができるとこんな感じになる、ということを、健太は身をもって知ることになる。弟は可愛い。けれど、母親やおやつやチャンネルを取り合うライバルでもある。時にはケンカもして、本気で怒ることだってある。そうしたわずらわしさは、想像だけでは決して知ることはできない。弟をレンタルしたからこそ、知ることができたのだ。
実は私はレンタルペットも利用したことがある。犬を飼いたいと娘が願った時、実際に飼ったらどうだろうということを、知ることができた。犬はとても可愛い。けれど、生きているのだから、お散歩したり、餌をあげたりというお世話を欠かすことはできないし、時にはいたずらをして困らせることもある。娘はしばらく考えた末に、ペットを飼うのはもう少し大きくなってからにする、と言った。実際にそうなったらどんな生活が待っているかを疑似体験できたので、レンタルという機会は貴重だった。
見栄を張れる
レンタル彼氏は、パーティーの同伴として利用されることもあるという。例えばカップルで参加するイベントなどにはレンタル彼氏の助っ人が必要になるかもしれない。私もシングルマザーなので、夫婦同伴で参加するパーティーがあったらレンタル彼氏にお願いすることもあるだろう。なんでもレンタルで済ませてしまっていいのだろうかという気持ちもあるけれど、同伴イベントに行くために愛してもいない人との結婚を選ぶよりも、よっぽど健全な行動だと思う。
『レンタルロボット』でも、今までひとりっこだった健太ができなかった、友達に弟を紹介するということができた。そして友達を交えて遊んだり、弟の世話をする優しい一面を女友達にアピールすることができたりと、お兄ちゃん風を吹かすことができたのだ。
レンタルした人との別れはドライである。自分の事情でレンタルしたのだから、用が終われば返却することとなる。規定の時間が来たら、レンタル彼氏は料金を受け取り「ありがとうございました」とサッサと帰っていってしまう。けれど一緒に過ごした時間はかけがえのない宝物として私の心に残っている。私はそれでいいと思っている。なぜなら私にとって今一番大事なのは仕事であって、恋愛ではないからだ。
全てを完璧に得ることは難しいほどに現代人は忙しい。これからも、様々なレンタル人間が増えてくるのではないだろうか。私はそれでいいと思っている。疑似体験であったとしても、人生にエピソードやドラマが増えるのは、味わい深いものだからだ。何かひとつに集中するため、他のことをレンタルで補うことも選択肢としてあっていい。その分、思い切り集中できる環境が得られるはずだからだ。
【著書紹介】
レンタルロボット
著者:滝井幸代(作)、三木謙次(絵)
出版社:学研プラス
学校の帰り道、「ロボットかします」という店を見つけた健太は、自分のこづかいで弟ロボットを手に入れた。願いがかなって楽しい日々が続いたが、兄として我慢しなければならないことも出てきて、けんかすることも。第19回小川未明文学賞大賞受賞作品。
Kindleストアで詳しく見る
楽天Koboで詳しく見る
iBooksで詳しく見る
BookBeyondで詳しく見る
BookLive!で詳しく見る
hontoで詳しく見る
紀伊國屋書店ウェブストアで詳しく見る