AIが人間の代わりに働いてくれる時代に差し掛かり、人間の余裕時間はどんどん増えてくるだろうと考えられている。時間ができた人々の一部は、勉強をし始めるのではないだろうか。これからは学問がブームになる気がしてならない。
学びながら働く
私は先日、通信制の大学を卒業した。入学するまで、こういうところには退職した高齢者が多いのではと思っていたが、実はその大学で一番多い年齢層は私と同じ40代だった。彼らは仕事や子育てをしながら勉強し、相当ハードな日々を過ごしていた。なので私も影響されて、頑張りきることができたのだと思う。
人にも聞かれたけれど、なぜこの年代は、仕事をしていてただでさえ忙しいなかで、わざわざ勉強をしているのだろう。仕事に集中していればいいではないか。それは私自身もそう思った。けれど、締め切りを設定しないと、人は難しい本をなかなか読もうとはしない。読んでレポートを書かなくてはならないからこそ、読んだ古典名作が何冊もあった。
知的な遊び
そこまで自分を追い込んで欲しいものは何なのかというと、それは知的な興奮なのかもしれない。課題の問いを解釈し、自分の脳を使って深く考察し、論述する。レポートが完成した悦びは、謎が解けたときの快感に似ている。
そういえば、近ごろ謎解きもブームで、本も売れている。リアル謎解きゲームも人気のものはすぐに満員になってしまう。ボードゲームカフェも各地にどんどん増えている。人気の検定は受検人数もどんどん増えている。人々はお金を払ってでも頭を使いたがっているのだ。大学での学問も単位数を集めて卒業というゴールを目指すので、私にはとてもお金がかかる知的ゲームのような感覚だった。
読書の達人の学びかた
ベストセラーとなった新書『死ぬほど読書』(幻冬舎・刊)は、元伊藤忠商事会長・丹羽宇一郎さんの読書指南書だ。このかたは40年間、毎晩30分の就寝前の読書を一日たりとも怠らなかったという。習慣の積み重ねがあるからか、人を見ただけで読書をしている人かどうかが分かるそうだ。
「読書家の人は論理的な思考ができて、話す言葉が整理されている。この人は読書をしていないなという人と比べると、コミュニケーションに信頼感があります。ふとした振る舞いに人間的な幅や余裕が感じられる」と書かれている。どうやら読書をするかどうかで身の動きに差が出てしまうらしい。
知の筋トレ
私も、通信制大学に入った頃は、授業や周囲の人の会話が難解で、とても自分には無理だと逃げ帰りたくなった。それでも続けられたのは、何度も読んでやっとテキストの深い意味が理解できた時の達成感がたまらなく気持ちよかったからだった。そして気づくと最初ほどは勉強を難しく感じなくなっていた。
毎日本を読み、勉強を続けることは、知の筋トレをしているのと同じだ。筋肉はしばらく使わないと衰えるし、トレーニングをすれば引き締まる。読書もしばらくしないと知力が衰え、続けることで知力が増すのではないだろうか。読書も習慣化することで、大きな効果を得ることができるのだ。
読書が招く縁
丹羽さんは、読書を続けることで良い偶然の一致が起きやすくなるとも書いている。例えば歴史の本を読んでいた人が取引先に向かったところ、担当者が偶然にも歴史好きで、話が盛り上がり、ビジネスの成果も上がったという。
知識を持つということで、話題のレパートリーが増える。相手に合わせて話のネタを工夫することも可能になる。周囲の雑音に負けずに1冊の本を読むことで、集中力を鍛えることもできる。さらに読書をして、教養を身につけておくことで、ご縁がつながりやすくなるのだとしたら、ぜひ、習慣づけていきたい。
【著書紹介】
死ぬほど読書
著者:丹羽宇一郎
出版社:幻冬舎
もし、あなたがよりよく生きたいと望むなら、「世の中には知らないことが無数にある」と自覚することだ。すると知的好奇心が芽生え、人生は俄然、面白くなる。自分の無知に気づくには、本がうってつけだ。ただし、読み方にはコツがある。「これは重要だ」と思った箇所は、線を引くなり付箋を貼るなりして、最後にノートに書き写す。ここまで実践して、はじめて本が自分の血肉となる。伊藤忠商事前会長、元中国大使でビジネス界きっての読書家が、本の選び方、読み方、活かし方、楽しみ方を縦横無尽に語り尽くす。