風景や鳥、乗り物などの撮影で被写体を大きく撮りたい場合は、400mm以上の“超望遠レンズ”が必要になるケースが少なくない。従来、そうした超望遠レンズは、大きく重く、そして高価な大口径の(開放F値が小さな)高性能レンズが中心だった。そのため、撮影自体をあきらめてしまうユーザーも少なくなかった。
ところがここ数年、開放F値を欲張らずに、比較的軽量で描写性能も高めの超望遠ズームが増えてきて、気軽に超望遠撮影が楽しめるようになってきた。2017年11月に発売された、タムロンの「100-400mm F/4.5-6.3 Di VC USD(Model A035)/以下、タムロン100-400mm)」もそうした製品の1つだ。
このレンズはフルサイズ一眼に対応し、約4段という強力な手ブレ補正「VC」を搭載。独自の「eBANDコーティング」によりゴーストやフレアといった余計な光の像が効果的に抑えられ、レンズ表面の汚れに強い防汚コートや簡易防滴構造も採用している。軽量化などのため同社の高品質レンズ「SP」シリーズからは外れているものの、3枚のLD(異常低分散)レンズを用いるなど、画質面にも優れた1本だ。また、焦点距離を伸ばせる専用テレコンバーター(※)など、別売のアクセサリーも豊富で様々な撮影に対応できるのも魅力。今回は、このタムロン100-400mmの魅力を豊富な作例とともに紹介する。
※テレコンバーターとは、使用レンズに装着して焦点距離を伸ばすアクセサリーのこと。テレコンバーターには、レンズ先端に装着するフロントコンバーターとレンズとボディの間に装着するリアコンバーターがあるが、ここでは後者。“テレコン”と略して呼ばれることも多い
※本記事の作例は、キヤノン用レンズで撮影しています。APS-Cサイズ機使用時における35mm判換算の焦点距離もキヤノン用で表記
ライバル製品との違いは? 基本スペックをおさらい
タムロン100-400mmを手にして最初に驚くのが、1135g(キヤノン用)という軽さだ。このレンズと同等の焦点距離をもつ製品は、下記の表にあるようにキヤノン、ソニー、シグマなどから発売されているが、キヤノンとソニーの製品は1400~1600g程度で、シグマの製品が1160g。シグマ製とは僅差だが、それでもタムロン100-400mmが25g軽い。
開放F値はキヤノンとソニーがF4.5-5.6で望遠側のF値が明るい。とはいえ、わずか1/3段差で200g以上軽いのはタムロン100-400mmのメリットといえるだろう。最短撮影距離が1.5mとやや長め(キヤノンとソニーは0.98m、シグマは1.6m)なのは気になるところだが、最大撮影倍率が400mm時で約0.28倍と十分な大きさで撮れるので、不満を感じることはあまりないはずだ。加えて、実売価格が7万円台前半となっており、キヤノンやソニーの純正レンズに比べると非常にお買い得。ただし、キヤノンとソニーの製品は、キヤノンが「Lレンズ」、ソニーが「Gマスター」という高画質仕様になっており、価格帯を考えるとシグマの「100-400mm F5-6.3 DG OS HSM (Contemporary)」が、本レンズの直接的なライバル機種といえるだろう。
半年ほど先行して発売されたこのシグマ製品も、画質やコスパに定評のあるレンズ。それに対するタムロン100-400mmの優位点はというと、100mm時(広角端)の開放F値がわずかながら明るいほか、別売で三脚座が用意されている点が挙げられる。今回、実際にこの三脚座を使用して撮影してみたが、前後の重量バランスが適度にボディ側(後ろ側)になって操作しやすく、また、横位置と縦位置の変更が素早くできるのが便利であった。このほか、1.4倍と2倍の専用テレコンバーターが用意されている点はシグマも同様だが、2倍テレコン使用時にシグマはAF不可となるのに対し、タムロンは使用機種が限定され、かつ動作が遅めになるというしばりはあるもののライブビュー撮影にすることでAFが機能する。そのため、風景などの動かない被写体を撮る場合にはAFが使用できるぶん便利だ。
風景から鉄道まで、幅広いシーンで使いやすい焦点距離
100-400mmのズームレンズなのでズーム倍率は4倍と控えめだが、このくらいの焦点距離は遠くの風景を切り取る場合や鉄道などの乗り物撮影で使いやすい。また、APS-Cサイズの一眼カメラを使用すると160~640mm相当(キヤノン用の場合)となるので、野鳥撮影などでも活躍すする。次の作例は、フルサイズ機とAPS-Cサイズ機それぞれの広角端/望遠端を同じ場所から撮り比べたものだ。
広角端はフルサイズ機では100mmでAPS-Cサイズ機だと160mm相当。解像感が高く、建物の細かい部分までしっかりと描写されている。望遠端の400mmは、APS-Cサイズ機を使うと640mm相当。これだけ違うと、用途に応じてフルサイズ機とAPS-C機を使いわけるのも良さそうだ。400mmでの画質は、100mmに比べると柔らかめの写りだ。
強力な手ブレ補正で超望遠域でも手持ち撮影が可能
画質面では、余程の高画素機でなければ解像感は十分。400mmで絞り開放にして使用すると画面の四隅が多少暗く写るものの、そこまで気にはならず、F8~11程度まで絞ればそれも解消する。手ブレ補正も約4段分と強力で、超望遠域でも手持ち撮影が可能なのは大きな魅力だ。
実際にAPS-Cサイズ機を用いた640mm相当での撮影でも、1/60秒以上のシャッター速度を確保しつつ、しっかりと構えれば手ブレせずに撮れる印象。ただし、望遠端では画角が狭いため、1/60秒では手ブレよりも被写体ブレが気になるケースが多くなる。静物を撮るのでなければ、1/250秒程度は確保したほうがいいだろう。その意味で、日中の撮影でもISO400~1600程度を常用すれば、手持ちでも失敗なく撮影が楽しめるはずだ。ちなみに、この手ブレ補正は近接撮影時にも有効で、400mmでの最短撮影距離で撮影しても効果が高く、フレーミングも楽に行える。
本レンズの手ブレ補正は、多くの被写体に適していてファインダー上でも効果を確認できる「モード1」と、流し撮りを行う際に最適な「モード2」の2つのモードが用意されている。そのため、鉄道やクルマなどを流し撮りする際も安心して使用できる。また、この手ブレ補正はテレコンバーター使用時にも有効なので、800mm相当を超える超望遠での手持ち撮影の幅が広がる
1.4倍&2倍テレコン対応で驚くほど遠くのものを大写しにできる
焦点距離を伸ばせる専用テレコンバーターに対応している点も、本レンズの魅力の1つ。テレコンバーターを使用した場合は、画質的には多少解像感が低下するものの、それでも実用上は問題ないレベル。それ以上に500mmを超える画角が得られる魅力のほうが大きい。1.4倍テレコン使用時は開放絞りがF6.3-9、2倍テレコン使用時はF9-13になるので、できるだけ感度を上げて使用するのがポイントになる。
テレコンの使用でどれくらい画角が変わるのか、望遠端を比較した次の作例をご覧いただこう。
APS-Cサイズ機で2倍テレコンを使用すると、800mm×1.6倍(キヤノン用の場合)で1280mm相当という驚異的な焦点距離が得られる。これを利用すれば、通常は撮ることが困難な被写体も次の作例のように大きく写すことができる。
さらに、テレコンを付けても最短撮影距離は変わらないので、
テレコン使用時の注意点としては、開放F値が暗くなるため、1.4倍テレコン使用時はカメラがF8でのAFに対応している必要があり(※)、また、2倍テレコン使用時はファインダー撮影時ではMF専用となり、背面モニターを使用したライブビュー撮影時のみAFが機能する点。この場合も、最近のカメラのほうがピントが合いやすいようだ。とはいえ、2倍テレコン使用時のライブビューでのAFは、かなり動作がゆっくりとしているので、動いている被写体を撮る場合はMFでのピント合わせのほうが快適だろう。
※従来の一眼レフは開放F5.6や6.3よりも暗いレンズではAFが機能しない。キヤノンではEOS 6DマークIIやEOS 80D、ニコンではD750やD7500など、比較的新しい機種では開放F8でもAFが機能するようになってきている。タムロン100-400mmに1.4倍テレコンを装着すると400mmでF9となるが、こうしたカメラならAFが可能という
このような撮影上の制約や価格面を考えると、本レンズのためだけに2倍テレコンを購入するのはややもったいない。このテレコンは、同社の「SP 150-600mm F/5-6.3 Di VC USD G2」や「SP 70-200mm F/2.8 Di VC USD G2」にも対応しているので、これらのレンズを持っている場合や今後購入したいと考えている人におすすめだ。
【結論】軽量でアクセサリーも多く、様々な楽しみ方ができる
タムロン100-400mmは、フルサイズ機で手軽に超望遠撮影を楽しんでみたい人や、APS-Cサイズ機のダブルズームの望遠端に満足できない人、現時点で標準ズームしか持っておらず、望遠ズームを新たに購入したい人などにおすすめの1本。このクラスのズームとしては非常に軽量でアクセサリーも多く、様々な楽しみ方ができる。画質面での満足度も高いはずだ。
今回は2つあるテレコンバーターを両方とも試してみたが、どちらか一方を選ぶなら、1.4倍のものをおすすめしたい。倍率という意味では物足りなく感じるかもしれないが、使用上の制限が少なくAFスピードや画質面でも不満なく使用できる。
また、アクセサリーという意味では、三脚座はぜひ購入しておきたいアイテムだ。1kg強の軽めのレンズとはいえ、カメラのマウント部にかかる負荷を軽減できる点で安心感が高く、ハンドリングも格段に行いやすくなる。