ここ数年、車体色を大幅に変更する鉄道会社、また鮮やかなカラーの新車を投入する鉄道会社が増えている。鮮やか、そして明るいカラーの通勤電車に乗れば、朝のラッシュも少しは気持ちをまぎらすことができそうだ。本稿では、そんな変わりつつある電車の車体カラーについて考えたい。
新京成は明るいジェントルピンクに塗り替え
千葉県内を走る新京成電鉄。京成グループの一員ながら、やや地味な印象がぬぐえなかった。この新京成が2014年6月にコーポレートカラーをジェントルピンクに変更すると発表。その後、少しずつ電車の塗り替えを始めた。
すでに半分以上の車両の塗り替えが終わっているが、従来の車両に比べると、華やかなイメージだ。一方で、古い塗装を愛する乗客向けにリバイバル塗装車を走らせている。こうした車体カラーにこだわったサービスもなかなか楽しい。
伊予鉄“みかん色”塗装は、オレンジすぎて
愛媛県松山市を中心に郊外電車と市内電車(路面電車)を運行する伊予鉄道(以下、伊予鉄)。会社創立は1887(明治20)年という老舗企業だ。夏目漱石が松山に赴任した時にも乗っていただろう、会社の歴史は130年にも及ぶ。
そんな歴史を誇る企業が2015年に発表した「IYOTETSUチャレンジプロジェクト」。チャレンジその1として “乗ってみたくなるような電車・バス” というコンセプトが掲げられた。大きな変更点が車体色だ。愛媛県の特産品、みかんにちなみ、みかん色に車両が変更されたのだ。
変更されてみかん色一色に塗られた伊予鉄の電車。登場した当時は地元の人たちから「オレンジすぎる!」という声が上がり、否定的な声すらあった。
ところが、登場してからすでに3年。沿線では「華やかでいいと思うよ」という住民の声が聞かれた。最初は派手だと思われた車体カラーも、見続け、乗り続けることにより、違和感を感じる人が少なくなっているように思えた。
華やかさでは負けない大手私鉄の新型電車!
走る車両の塗装を全面変更して、成果を生み出した新京成や伊予鉄。関東を走る大手私鉄の新型車両にも、華やかな装いの車両が出現している。
まずは関東一の路線網を持つ東武鉄道から。これまで東武鉄道の電車といえば、エンジ色、ブルーのラインが車体横に入るか、もしくは前面がオレンジという車両が大半だった。そんな東武鉄道の車両カラーが変化しつつある。
まずは東武野田線に投入された60000系。2013年生まれでフューチャーブルーと呼ばれる明るい青色が正面や車体横の天井部に配された。東武アーバンパークラインという新しい路線の愛称が付けられたこともあり、路線のイメージアップにもつながる新車登場となった。
前述の60000系からラインカラーということを意識し始めた東武鉄道だが、2017年に登場した70000系はかなりセンセーショナルな車体カラーだった。東京メトロの日比谷線乗り入れ用に新製された電車で、正面と車体横に鮮やかな赤色と細い黒のラインが入る。東武鉄道ではこの赤を“イノベーションレッド”と呼ぶ。
まさにイノベーションになりそうな色使い。東武鉄道の車体カラー自体のイノベーションでもあり、今後の通勤電車の車体カラーに影響しそうな色使いだ。産業デザインの世界でも、かなり革命的と捉えられたようで、グッドデザイン賞に輝いた。
九州の雄も負けじと華やかな電車を走らせる
大手私鉄の中で、最も西側、福岡県内に路線網を持つ西日本鉄道(以下、西鉄)。この西鉄でも鮮やかな色使いの電車が2017年春から走り始めている。
これまで西鉄の電車は特急形の8000形(すでに全車が廃車)を除き、薄い緑色の車体に赤ラインの電車や薄い青ラインが入る3000形と、無難な色使いの車両が多かった。ところが9000形では普通や急行として走る車両でありながら、思い切った色使いに変更したのだ。
淡い色系の新車も続々と登場!
東武鉄道の70000系と対極を行くようなカラーの新車を登場させようとする鉄道会社もある。東京急行電鉄(以下、東急)と都営地下鉄の例を見てみよう。
まずは東急。東急では田園都市線用に2020系、そして大井町線用に6020系をそれぞれ2018年の春に導入の予定だ。東急の電車といえば、銀色の車体に赤ライン。一部の路線に赤とオレンジ、また緑ラインといった原色に近いカラー車両を多く走らせてきた。
そんな東急電車のイメージを一新するのが2020系と6020系。白を基調とした外観デザインで、この白は「INCUBATION WHITE」(新しい時代へ孵化していく色)とされる。これまでの電車のように角張ったデザインでなく、やや傾斜したカーブラインが特徴の前面デザイン。ブラックとホワイトの組み合わせに、田園都市線の2020系は淡い緑色のラインを、大井町線用の6020系はオレンジ色のラインが入る。
2017年から2018年にかけては鉄道車両の新車デビューラッシュが続くが、都営浅草線にも新型5500形が導入される。2017年の暮れ、馬込車両検修場で公開された車両はこれまでの浅草線の5300形とは異なり、淡いピンクライン。東急の新車と同じように、正面のやわらかなカーブラインが特徴となっている。
渋めの色使いや伝統へ回帰という鉄道会社も
鮮やかな色使いの電車が登場する一方で、渋めの色で勝負しようというのが相模鉄道(以下、相鉄)だ。2017年12月に創立100周年を迎えた相鉄。「デザインブランドアッププロジェクト」に取り組み始めた。
その一貫として行われたのが、車体色の変更。従来から走る9000系をリニューアルするのに合わせて、外装は「YOKOHAMA NAVYBLUE(ヨコハマネイビーブルー)」と名付けられた紺色塗装に変更された。横浜をイメージしたカラーだとされる。
濃い色使いながら、高級感あふれた印象を受ける。この9000系リニューアル車は2016年度グッドデザイン賞を受賞した。近日、公開予定の新車20000系もこのヨコハマネイビーブルーで登場の予定。 数年後にはJR東海道線と東急東横線との相互乗り入れが行われる予定の相鉄。その意気込みが感じられる車体カラーだ。
また、京浜急行電鉄(以下、京急)のように伝統色に回帰する動きも見られる。主力の1000形は2代目から車体のステンレス地の銀色が目立つ仕様だったが、新製車は元々の京急の電車の特徴である赤に窓回りを白く塗る塗装に改められている。この赤地に白というカラーは、京急の創業以来の伝統ということで長年、親しまれてきた。
元々、赤という古さを感じさせない色だったということもあり、改めて原点に戻ろうという意図なのだろう。ちなみにステンレス車体は腐食に強いのが特徴。そのため塗装を省くというのが一般的な傾向で、ステンレス車の全面塗装は関東の大手私鉄としては初めてのことになる。
時代を反映する車体カラー
流行色はその時代を反映するとされる。バブル崩壊で、経済状況が悪化した1990年代にはモノトーンが流行したのは、その典型的な例だった。
ここ数年の華やかな色使い、淡い色使いが車体カラーに増えているのは、好景気が影響しているのかも知れない。一方でヨコハマネイビーブルーといった渋めの色使いの電車が走り始めていることも面白い。車体のラッピング塗装の技術が向上したことも、車体カラーが多彩にしている1つの要因だろう。
電車の車体カラーにはこれが正解というものはない。色というのは、十人十色で好みが異なるもの。とはいえ各鉄道会社が競って、このような車体カラーを生み出す傾向は歓迎すべき現象だろう。今後、どのような車体カラーの電車が登場してくるのか、楽しみにしていきたい。