1960年に台湾で誕生し、2015年に日本でも販売をスタートした台湾の電気メーカー・大同電器による電鍋(以下、大同電鍋)。台湾では累計1500万台以上も販売され一家に1.7台という普及率で、なんと嫁入り道具にもよく挙げられるという国民的家電の一つです。
50年以上も基本構造が変わらず、デザイン的にも基本的にはほぼ同じであり続けたという、この大同電鍋は、スタイリッシュなデザインの電化製品が多いなか、かえって目立ちかわいく映ります。今回は、このデザインの秘密を大同日本の簡智賢さん、鄒宗佑さんに話を聞きました。
台湾人は変わらないことを好み、一つの物でいくつもの機能を持つことを好む
――台湾ではあちこちで目にする大同電鍋ですが、このデザインはマイナーチェンジを除いて、50年以上も基本が変わっていません。この理由はなんだったのでしょうか?
鄒宗佑さん(以下:鄒) まず、構造自体が50年前の発売当初から変わっていないことが挙げられます。鍋の中には加熱管があり、これで195度以上で加熱したり、水蒸気を蒸発させたりするのですが、この構造は実にシンプルです。シンプルだからこそ壊れにくく、台湾人の多くに愛されたという経緯があるわけですが、だからこそ、デザインもずっと変えないで今日まで販売し続けてきたというわけです。
――台湾の方は変化を好まないという国民性があるのでしょうか?
鄒 そうですね。台湾人は現状維持が好きで、変わらないことのほうを好みます。そういうことも、大同電鍋が50年間デザインを変えなかった理由とも言えます。
簡智賢さん(以下:簡) あと、台湾人は一つのもので、いくつもの効果があることを好みます。大同電鍋は当初は炊飯器としての開発でしたが、それだけだと台湾人の生活習慣には合わないのです。ご飯も炊けるし、カレーも作れるし、蒸し料理も出来る……一つの電鍋でいくつもの料理が出来るということが台湾人の間で受け入れられ、長期にわたるヒットに繋がりました。
50年間で大きくデザインが変わったのは、スイッチ部分のたった一度のみ
――この50年間のうち、大同電鍋のデザインのマイナーチェンジはこれまでに何度ありましたか?
鄒 鍋を支えるスタンドが、鍋の外側に付くようになったほかは、50年間で大きく変わったのはスイッチ部分のたった1回です。旧式タイプはスイッチがレバー式で、ここで火加減を見るだけでした。保温を止めたいときはコンセントから直接抜くというシンプルなものです。一方、新式タイプはレバーを排して、スイッチ部に保温のオン/オフと過熱(炊飯)を取り入れています。現在、日本で購入出来るのはこの新式のみです。
ただ、何故か日本人の間でもこの旧式を欲しがる方は多いんですよね。きっとレトロでかわいいからということだと思います。
購入する9割以上が日本人といううれしい誤算
――ただ、現在の日本の市場を考えると、レトロ風のデザインの商品もありますが、やはり年々機能と合わせてデザインも進化させた商品が多いです。このことで、日本の市場参入に躊躇されたところはありませんでしたか?
簡 もちろんありました。当初、日本の市場に我々が参入するにはハードルが高いだろうと考えていました。台湾人から見れば日本は家電王国で、台湾でも日本の家電は人気がありますし、デザインも最新の優れたものが多いからです。
ただし、我々の大同電鍋は、台湾人の生活に根付いていて、台湾人が海外に行くときは、台湾国内で購入して海外に持っていくケースがかなり多くありました。そこで「わざわざ台湾で買って行かなくても、日本でも購入出来るようにしよう」ということが当初の目的で、日本の市場での販売はむしろ考えていなかったことなのです。しかし、実際に販売を始めフタを開けてみたら、結局買ってくださっている方の9割以上が日本人でした。
――その理由はやはり、進化し過ぎるデザインに対して、シンプルで昔ながらの大同電鍋のデザインへの親しみやすさがあったのかもしれませんね。
簡 はい。あと、台湾人はすでに台湾国内から日本に持ち込んでいるわけですが、シンプルな構造なのでなかなか壊れないんですよ(笑)。
壊れないと新しい大同電鍋を買う必要がないわけですから、台湾人は日本では買ってくれず、逆に当初は難しいと思っていた日本人が買ってくださっているという状況です。
大同電鍋を現代に進化させた新商品、フュージョンクッカー
――これまでに大同電鍋をルーツにした、最新の商品を展開されることはなかったのですか?
簡 もちろんあります。特に近年、台湾国内での健康志向の高まりを受け開発し、ヒットしたものが無水調理の出来るグリル鍋、フュージョンクッカーという商品です。これはまさに大同電鍋の多機能を、現代版に転じた商品で、一つでIHクッキングヒーター、ホットプレート、土鍋、ホーロー鍋、オーブンといった各料理に適した調理機能を一つにまとめたものです。これが台湾国内でヒットしましたので、昨年の秋から日本でも販売をスタートしました。
――デザインは大同電鍋と比べると、随分進化していますね。
簡 はい。日本のグッドデザインでも賞を取ったほか、ドイツのiFデザイン賞では設計賞も取りました。デザイン、設計にはかなり力を入れましたので、これから未来の大同電鍋となって欲しいと思っています。
大同電鍋は台湾の変わらない風景の一つ
――大同電鍋そのものの天然レトロでかわいいデザインはこれからも変えない予定でしょうか?
鄒 そうですね。機能はもちろんデザインも基本構造は変えない予定です。大同電鍋は台湾の一つの風景になっていて、私の実家でも2台あります(笑)。家庭はもちろんですが、コンビニエンスストアの煮卵……台湾ならどこにでもあるものですから、これは変えずにずっとこのままになると思います。
簡 特に変わることと言えば、カラーリングの変更とかキャラクターとのコラボレーションで、電鍋の外側のグラフィックだけですね。
今年は本社の100周年にあたるので、台湾国内では、100周年記念のカラーリーングを施した電鍋も発売予定ですが、基本はそのままです。この「電鍋を変えない」こと自体をもって、他社とは違う弊社のブランド力を高めていければと思っています。
いかがでしたでしょうか? 本文中にもある通り、大同電鍋は当初、日本在住の台湾人向けだったため、量販店での流通はなく、ネット通販のみで購入が可能です。気になる方は、下記サイトをチェックしてみてください!
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