慣れている人なら何でもないのだろうが、筆者は多くの人たちを前に話をするとなると、ちょっと気が引ける。やるからにはウケてやるという気持ちがあって、その裏側にあるスベった場合の悪いイメージを思い浮かべてしまうからだ。
ウケる気満々の空気を感じ取られるのは嫌だし、持ち味以外のものを無理やり出して失敗し、イタいやつだと思われたくない。だからといって、そこそこのレベルで終わらせたくもない。
無難にこなすだけじゃ、いやなんだ
とある検索エンジンに〝話し方〟というワードを打ち込んだら、169万件のヒットがあった。このジャンルは、セミナーも書籍もすごく多い。需要があることは間違いないし、筆者のように悩んでいる人々が多数派だろう。
ところが、本もウェブサイトも何種類か見たけれど、最大公約数的なアドバイスが示されているだけで、訴えどころに大差はない。しかもどのアドバイスも、可能なら避けたい〝そこそこのレベル〟の仕上がりを約束する程度のものにしか感じられない。
プレゼンにしてもスピーチにしても、わかりやすく伝えることが一番大切だ。それに、長いとどうしてもダレる。伝えたいことをわかりやすく、かつテンポよく伝える手段。思いついたのは、しゃべくり漫才だ。
ライブ感あふれる文字情報
『しゃべくり漫才入門』(元祖爆笑王・著/リットーミュージック・刊)は、お笑い芸人養成学校の授業をまるごと、学生とのやりとりまで完全収録した一冊だ。芸人としてのベーシックな心構え(好奇心を旺盛にする、アンテナを張る、オリジナリティを追及する、健康管理を怠らない)から始まり、ネタの作り方の詳細からテレビに出るために取るべき手段までが網羅されている。
もちろん、プロのエンターテイナーとしてのテクニックについて細かく触れられているのだが、どんな形であれ人前で話すことをうまく乗り切りたい素人である筆者も、響くフレーズをたくさん見つけることができた。
スピーチにせよプレゼンにせよ、大切なのは構成だ。新聞記事のように、大見出し→中見出し→小見出しという順番で結論から各論という流れがハマる場合もあるだろうし、つかみから始まって各論に触れ、最後にまとめて結論に持っていくやり方がいいこともあるはずだ。
もちろん、ほかにもたくさん方法論があるだろうが、まず意識すべきなのは、よい流れを作ることだろう。そこで大切になるのは、〝つかみ〟の部分だ。
テキドニセイリシ
「本日はお日柄もよく…」
「お忙しい中お集まりいただき…」
「弊社製品のご愛用に感謝いたします…」
話し出しのひと言は、ある程度決まっているだろう。『しゃべくり漫才入門』では、聞き手の興味を引き出すためのふた言目の大切さが示されている。そして、ふた言目をスッと出すのに役立つ〝テキドニセイリシ〟というフレーズがある。
・テ→天気
・キ→気候
・ド→道楽(趣味)
・二→ニュース
・セ→セックス=異性、恋愛
・イ→田舎(出身地)
・リ→旅行
・シ→仕事
もちろん、8項目すべてを盛り込む必要はない。TPOに応じてふた言目をこの中から選び、それ以降さらにいくつか組み合わせて構成すれば、いい感じの流れが生まれる。筆者はいくつかシチュエーション(姪っ子の結婚式のスピーチとか、単行本新企画のプレゼンとか、初めて仕事をする出版社の担当さんとの顔合わせ)を妄想し、数パターンの構成を作ってみた。今まで最初のブレーキとなっていたふた言目が気にならず、無理なく次のトピックにつなげていける自然な流れが感じられた。
起承転結がはっきりした2分で終わる漫才
小学校時代はもちろん、中学でも、高校に入った後も朝礼で倒れた経験がある筆者は、長い話が大嫌いだ。傲慢に聞こえるかもしれないが、まとまらない話を聞かされるのも我慢できない。だからこそ、そういう行いは絶対にしたくない。そこで、コミュニケーションツールとして身に付けておきたいのが『しゃべくり漫才入門』で触れられている〝起承転結がはっきりした2分で終わる漫才を作る〟概念だ。
よほど忙しい人でない限り、2分くらいの話は聞いてくれるはずだ。その2分の中に伝えたいことを整理して――ということはきっちりと起承転結をつけて――組み込んでいけば、相手にとって聞き易い流れの話になる。
具体的にはどういうことなのか。それは、本書と連動したネタ見せ動画サイトをチェック。次にスピーチしなければならない時までに、役立つものが見つかるはず。
【参考リンク】
『しゃべくり漫才入門』ネタ見せ実況中継動画
http://rittorsha.jp/s-manzai/
(文:宇佐和通)
【文献紹介】
しゃべくり漫才入門
著者:元祖爆笑王
出版社:リットーミュージック
お笑い芸人養成学校の授業をまるごとパッケージ。あなたも漫才師になれる! 二人で話をするだけなのに、爆笑の渦を巻き起こす「漫才」。お笑い好きなら、どうやって漫才ネタが作られているのか興味があるのではないでしょうか? 本書は、2008年に発売した『漫才入門』のコンセプトを踏襲しつつ、新たに大阪・放送芸術専門学院のお笑いコースでの特別授業を収録した最新系の漫才HOW TO本。昨今主流のスタイルである「しゃべくり漫才」を作ることを主眼として、お笑いセンスの身に付け方から、漫才ネタの作り方、演技の仕方、売れるためのヒントまでを丁寧に解説します。