いま、グルメ業界で“街中華”が人気だ。TVで芸能人がその愛を熱弁したり、雑誌で特集されたりして盛り上がっている。その理由には安くておいしいという絶対条件のほかに、提供スピードの早さや飲めるという利便性、そして郷愁ともいえる温かな雰囲気にもあるだろう。
具だくさんだけどヘルシーで上品な酸辣湯麺
本サイトでは、首都圏を中心にこれらの大衆的な中華食堂を紹介していきたい。初回はザ・街中華といえる一軒を。エリアは、日本におけるラーメン店の元祖「来々軒」がかつてあった浅草から。すでに閉店している同店では「シナソバ(ラーメン)」のほかに「シウマイ(シュウマイ)」や「マンチウ(饅頭)」なども人気だったそうで、生ビールも提供。つまり来々軒はいま流行りの「街中華」の王道であった、というわけだ。
そんな浅草にいまも点在する街中華のなかから、今回レポートするのは1963年創業の「十八番」。店名もさることながら、外観はいかにも“街中華”と思える赤いファサードで目を引く。店内に入ると壁にはメニューやポスターが貼られ、一角に置かれたTVの放送も和やかな日常感を演出。聞けば、近所には出前もしているという。
名物は「酸辣湯麺」(サンラータンメン)。中国・四川~湖南地方の郷土食、酸辣湯をベースとした麺料理で、いまでは日本でも比較的ポピュラーだ。ただ「十八番」の場合は、一般的なそれよりも野菜が多くて具だくさん。また特有の辛さや酸味はありながら、やさしい甘みも感じられるのだ。
実はこの傑作ラーメンが誕生したのは、2010年ごろと比較的最近のこと。「何か新しいメニューを!」との思いから、食感の異なる野菜をふんだんに使った酸辣湯麺を先代チーフが生み出したのだ。それがタイミングよく有名なTV番組に取り上げられ、人気を決定づけたのだという。
ご飯系や晩酌メニューにも光る逸品があり!
酸辣湯麺以外にも注目のメニューは多い。たとえば、関東に多い甘酢あんではなく関西系のしょうゆあん(関西では塩味のあんもポピュラー)を用いた「カニ玉丼」だ。
この理由を5代目チーフの青山大介さんに聞くと「最初からこの味だったので詳しくはわからないのですが、初代が関西系のレシピを学んだからではないでしょうか」とのこと。
ドリンクにもここならではの逸品がある。それが「かっぱばしわり」というオリジナル酎ハイだ。同店は調理器具の街として有名な「かっぱ橋道具街」が近く、そのカッパにちなんだ酒を提供している。これも2010年ごろに誕生したということだが、サイドメニューとして好評の「ギョーザ」をアテに一杯ひっかけるのもいいだろう。
同店のルーツは蔵前方面の浅草寿町にあり、戦後すぐに「十八番」を創業。創業者の兄にあたる栗原栄治郎さんがそこで修業して、いまの西浅草にある「十八番」をオープンさせた。そしてかつて西浅草でチーフだった方は、浅草橋で1992年に「中国料理 十八番」を開業して独立している。
栄治郎さんは48歳という若さで亡くなってしまったが、以来は奥様の栗原さだ子さんが店主に。84歳になるというが現役で、雪の日でも休まない。下町の人情味あふれる街の雰囲気は、きっと栗原さんのような温かくて元気なお母さんが作っているのだろう。この2018年に街中華巡りをするなら、ぜひ浅草の「十八番」へ!
【SHOP DATA】
十八番
住所:東京都台東区西浅草2-18-7
アクセス:つくばエクスプレス「浅草駅」A2出口徒歩4分
営業時間:11:00~16:00/17:30~21:00
定休日:日